あさおん・オブ・ザ・デッド   作:夢野ベル子

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ハザードレベル139

「ヒロちゃん。わたし無理デース」

 

「わわっ。乙葉ちゃん?」

 

 町役場に説明しにいったら、なんかいきなり乙葉ちゃんに泣きつかれた。

 

 スーパーアイドル乙葉ちゃんは、いまやボクのファンクラブの会長の座にも収まっている。

 

 いつもキラキラしてて笑顔ふりまく美少女ってイメージだったんだけど、ボクの前ではけっこう素を出すようになってきた感じだ。

 

 つまり、メソメソ陰キャ。それが彼女の本質だと気づいてしまった。

 

――うーん、わずかばかり共感が。

 

 長いまつげに涙が乗ると、美少女だなーって、しみじみしてくるのは何故だろう。

 

 ともかく、今はボクの腰まわりにくっついている乙葉ちゃんをはずして、

 

「なにが無理なのかな」

 

 と、素に近い聞き方をした。

 

 乙葉ちゃんの柔らかな身体が、ドッキングするようにボクの柔らかなボディに当たって、ぷにぷにと吸いつくようになるのは、悪くない感触だったけど。

 

 乙葉ちゃんみたいなかわいい子が泣いていると、ドキドキするより先に、なんとかしなきゃって思っちゃうんだよね。

 

 わずかばかり残ったお兄ちゃんごころだろうか。

 

「ヒロちゃんが福岡に行くという話があったじゃないデスか」

 

「うん。したけど?」

 

「信者……もとい、ファンクラブの皆さんもついていくって聞かないデース」

 

「えー」

 

 それは困る。

 

 どちらかというと、地雷的な『男』に会いに行くっていう案件だからな。

 ファンのみんなをひきつれてとか、意味わかんないし。

 地雷原から自分でつっこんでいくようなものだ。

 

 ボクの自意識では、まだまだ男としての精神は死んでないと思うけど、客観的に見て、ボクがかわいらしさメインのアイドル的な見方をされていることを知っている。

 

 男はあかんやろってバカでもわかる。

 

 まあ、ボクが男とくっつくとかありえんけどね。そりゃ幼女先輩みたいに渋い男の人をみると、かっこいいって感じるけど、それは憧れであって恋愛感情なんてものはない。

 

 飯田さんみたいなおじさんに、なんかかわいらしさを感じているのも同じく。

 人としての親愛の情は湧くけれど、やっぱり恋愛とは違うような気がするのです。

 

 ただ――、

 

 言葉にしちゃったら、その瞬間にデジタル化されて、イチかゼロかに分類されちゃうと思うから、本音のところはよくわからないって部分もあるんだけどね。

 

「乙葉ちゃん教祖でしょ。なんとかできないの?」

 

「それが無理だから無理と言ってるんデース」

 

 ううーむ。これはどうすれば。

 

「信者の皆さんに説明してくだサーイ」

 

「えー、ボクから」

 

「ヒロちゃんの直々の言葉じゃないと、わたしじゃ統制とれまセーン」

 

「んー。ちょっと面倒そうな」

 

 じわっ。

 

 乙葉ちゃんの美人顔に涙の泉が湧いてくる。

 

 うう。罪悪感がチクチクと。

 

「ヒロちゃんに見捨てられたデース。わたしがんばったんデスヨ! 突然、教祖にされて、右も左もわからないままがんばったんデスヨ! ヒロちゃんは全然助けてくれマセン……」

 

 見捨たってそんなおおげさな。

 乙葉ちゃんのボクに対する依存度がどんどん高まっていってるような気がする。

 もしかして、乙葉ちゃんが一番ヤバい信者さんだったりして……。

 

 ち、違うよね。

 

「えっと、あ、そうだ。ボク町長に福岡遠征の説明しにきたんだった」

 

 ボクは思い出したかのように、町長室に向けて歩き出した。

 

「待ってヒロちゃん」

 

「ぐえっ」

 

 リアルで後ろ髪を引っ張られるとは思わなかった。

 首のあたりがカクンってなったよ。ゾンビでなければ危なかった。

 

「あ、ごめんデース」

 

 髪の毛をよしよししてくれてるところを見ると、偶然そうなっちゃったみたいだ。

 そのあとに、おもむろに髪の毛をすんすんしだす乙葉ちゃん。

 

「なんかあまーいデス」

 

 ボクの髪の毛には沈静作用でもあるんでしょうか。

 

「わかったよ。その幹部さんたちに説明すればいいんでしょ」

 

「お願いしますデース。ほんとにほんとにわたしが会長になってから、大変だったんデスから~」

 

「く、苦しいから。いろいろ当たっちゃいけないところが、ぷよってるから! やめて!」

 

「やめないデース! そもそもヒロちゃんはわたしの苦労をゼンゼンわかってマセン」

 

「えー、わかってる、つもりだけどー……」

 

 ジト目。

 

 翠色の瞳が綺麗だなーっ。

 

「ヒロちゃん。わたしの日記を読んでください」

 

 ものすごく流暢な日本語でお願いされました。

 

「あっはい」と素直に答えるボク。

 

 いまどきの子らしく、ブログに書かれているみたいです。

 

 スマホで指示されたURLに飛んで、パスワードを一時的に解除してもらいます。

 

 どうやら鍵付きみたいです。

 

 

 

 ★=

 

 

 

〇月×日

 

 なんか教祖になってしまいました。

 

 正確にはヒロちゃんファンクラブの会長なんですけど、元が元だけに、宗教色を払拭できてません。周りの幹部さんたちは怪しい人たち、もといディープなファンなので不安がいっぱいです。

 

 特にアヤシイのがお父さんなのが目下のところ、一番の悩みだったりします。

 

 今日、お父さんは、魔瑠魔瑠教が正式に『神聖緋色ちゃんファンクラブ』として認められたことに、狂喜乱舞してました。

 

 幹部の人たちと飲めや歌えの大騒ぎ。

 

 清貧を旨とする厳粛な宗教だったはずなんですが、いいんでしょうか。

 

「乙葉。おまえも飲むといいぞ~。わはは」

 

「お父さん。わたし未成年デース」

 

「よいではないかよいではないか。ヒロちゃんもストゼロ飲んでただろうに」

 

「あれって本当にお酒だったのかはわかりませんデスよ」

 

「神聖緋色教では酒は問題ないということが示されたのだ。未成年でも問題ないぞ!」

 

 お酒の力って怖いなって思いました。

 

 

 

〇月×日

 

 今日は、お父さんに神妙な顔つきで呼ばれました。

 

「信者をふやさねばならない」

 

「ファンですよ」

 

「ファンでも信者でもいい。ともかく緋色様のファンを増やさねばならない。何かいいアイディアはないだろうか」

 

 お父さんは布教に必死みたいでした。

 ファンクラブと言えば、わたしもヒロちゃんほどではないにしろ結構な数がいます。

 わたしのファンクラブの会長さんは、何人かのファンを引き連れていつもライブ会場にきてもらったりしてました。でも、今の世の中そういうリアルの活動はできません。

 

 できるとしたら、テレワーク的なやつです。

 

「切り抜き動画を作ったりして推しの魅力を語るとかでしょうか」

 

「なるほど。それはいいアイディアだ! 早速、そういうのに詳しいやつにやらせよう」

 

 

 

〇月×日

 

 

 

 モリさんという人が、そういうのに詳しい人みたいでした。

 

 その人は、おなかがぽっこり出ていて、縁のある眼鏡をかけてて、なにもしないでも汗をかいてるような人です。偏見かもしれませんが、確かにそういうのに詳しそうでした。

 

「よろしくなんだな。さ、さっそくつくってきたんだな」

 

 すでにDVDに焼いてきてるみたいです。

 動きは鈍そうですけど、仕事は早い人みたいでした。

 さっそく、幹部の皆さんといっしょに視聴してみます。

 

――ヒロちゃんのセンシティブ声を集めてみました――

 

 わたしもアイドルの端くれだから、なんとなく理解はできました。

 

 けれど、見もしないうちに止めるわけにもいきません。

 

 無情にも時間は流れ、映像も流れるに任せるほかないのです。

 

 誤解とか、勘違いとか、そういう甘えた幻想などは一切なく、繰り出される声は、ヒロちゃんのセンシティブな声が集められたボイス集でした。

 

「あっ」「ダメダメ」「やだー!」「んぅ~~~~」「ううっ」「やだやだやだやだ」「ああっ」「熱っ」「んんんんっ」「でるっ!」「いく!」「きます!」「あ~~~~~」「べとべとぉ」「濡れるっ!」「はやくぅ。はやくきてよぉ」「ハァハァ」「中はダメだってばっ(怒)」「もう~怒るよ!」「いっしょにいこっ」「うわーい」「気持ちよかったー」「もう一回しよ」

 

 

「拙者も抜かねば不作法というもの」「使えるものができてしまいましたな」「これは再生数爆上がりですな」「モリ氏の情熱には拙者感服いたしました」

 

「なに言ってるんデスか~!! 没収デス!」

 

「乙葉よ。これくらい良いではないか。表現の自由だ」

 

「相手は11歳の女の子デスヨ。お父さん本気で言ってるデスか」

 

「あ、いや、モリくんの努力がだな」

 

「破門にしますよ」

 

「ひっ」「ひえっ」「われわれにはご褒美です」

 

 センシティブ動画の流出はなんとか阻止できました。

 

 ヒロちゃん。わたしの努力をほめてください。

 

 

 

〇月×日

 

 

 

 お父さんたちが、ファンを増やしに町役場の人たちを勧誘してました。

 

 とりあえず、十人くらいで気弱そうな人をひとり取り囲んでいます。

 

「ヒロちゃん様の庇護にあるにも関わらず、そのご寵愛を受けずにいるとは何事か」

 

「信心が足りん」

 

「ヒロちゃん最高っ! ほら、あなたもいっしょに」

 

 クルクルと、かごめかごめをしながら周りをまわる恐怖映像でした。

 

「お父さん、なにやってんですか」

 

「わたしはべつに何もしてないぞ。ただ、ヒイロゾンビはいいぞぉと説き伏せてるだけだ」

 

「無理やりはダメだっていいましたよね」

 

「うむ。それはな、ステージが足りないのだな。我々の言葉を理解できないのだ」

 

「お父さんが、ヒロちゃんの話を理解していないのを、いま理解しました」

 

「ステージの問題だな。ともかく、我々も無理に誘ってるわけではないぞ。彼は――、おそらくだが緋色様のことが大好きでたまらないのだ。しかしながら、彼の欲望は若さゆえかよろしくない方向に向いておる。ありていにいえばヒロちゃんの細くしなやかな足に接吻したいという欲望だ」

 

「ちが、ちがう。オレはロリコンじゃねえっ」

 

「ほら、彼もそう言っている」

 

「言ってないように思うデスが……。ともかく、解散デス。無理やり加入させるとかダメ絶対!」

 

「乙葉よ。心の眼で見るのだ」

 

 ぴきぴきっ。

 念動力を使って、コンクリの地面をひび割れさせ、その日は無理やり解散させました。

 

 ヒロちゃん。わたしの努力を褒めてください。

 

 

 

〇月×日

 

 

 

 ヒイロゾンビが増えました。

 ヒロちゃんがヒイロウイルスを解禁したからです。

 比較的マイルドなファンができて、既存の濃いファンと中和できればいいなって思います。

 

 …………結論から言えば無理でした。

 

「ヒロちゃんの足でなでなでされてぇよぉ」

 

 その日の宴では、あの日かごめかごめをされていた人が、人目もはばからず、そんなことをのたまっていました。

 

 人って……生きてていいのかな。

 

 ヒロちゃん。教えてください。

 

 

 

〇月×日

 

 

 

 ファンクラブ会員がじわりじわりと増えてきており、当初の目標であるファンの増加という目標は達成されつつあります。それとともに、もう最初の課題である自分たちの立ち位置をはっきりさせる必要が出てきたみたいです。

 

「要するに、公式ファンクラブということを明らかにさせたい」

 

「お父さんが何を求めてるのかよくわからなくなってきました」

 

「つまり、わたしたちだけが可能な、そんなインセンティブだ。ファンクラブ会員になったら、こういう特典があります的なやつだ」

 

「ヒロちゃんにお願いするしかないと思いますが……」

 

「頼めるか?」

 

「頼んでみます」

 

 ヒロちゃんも知ってると思いますが、わたしがヒロちゃんとコラボ配信をお願いしたり、そのときにお歌をうたってもらったりしたのは、そういう理由からでした。

 

 いっしょに歌をうたうのは本当に楽しかったです。

 ヒロちゃんの一生懸命な歌声を聞いていると元気がでます。

 励まされてる気がするんです。

 

 問題はそのあとでした。

 

「よーし。ペットボトル回収OKです」

 

 信者さんの一人がそんなことをのたまってました。

 あれはヒロちゃんが飲みかけのスポドリです。

 ゴミの回収はこちらがするということで、捨て置かれたはずの飲み物。

 

「超緋色神水としてとっておくのだ。ファンを増やし、ファンクラブの存続に貢献したものに下賜しよう」

 

「やったぜ!(30代男)」「ヒロちゃん様と間接キスしたい(十代女)」「蓋だけでいい。蓋だけでいいから頼む(20代男)」

 

「こちら。D班。おみぐしを。おみぐしを発見しました」

 

「おお……絹のように美しい」

 

「超緋色素麺として下賜しよう……」

 

「うおおおおおお」

 

 この人たち。もうダメかもしれません。

 

 助けてヒロちゃん様。

 

 

 

〇月×日

 

 

 

 なんとか超緋色神水と超緋色素麺を回収し破毀し終わったあと。

 へとへとになった私に次なる試練が投げかけられました。

 

「やはり仲良しなのが一番だと思うのだ」

 

「お父さんが何を言いたいのかさっぱりわかりません……」

 

「つまり、教祖であるおまえとヒロちゃん様が仲良しであれば、おのずと公式ファンクラブとして認められ、我々の布教も必ずや成功する」

 

「すでに仲良くさせてもらってマス」

 

「もっと。もっとだ。もっと百合百合するのだ」

 

「お父さん。娘に百合百合するのを求めるのはどうかと思うデス……」

 

 

 

〇月×日

 

 

 

 チャンスはすぐにやってきました。

 

 経緯はよくわからないのですが、ヒイロゾンビの中では人間が怖いという空気がありました。

 それでヒロちゃんがラーメンを食べたいと言い出して、作ったのが人間のままだった中学生くらいの女の子でした。

 みんなが怖がって食べないので、町役場の空気が最悪なことになって、ヒロちゃんは哀しそうな表情で、食べてってお願いしにきたのでした。

 

「うおおおおこれ実質、ヒロちゃんのラーメンだよな」「人間さんありがとう」「ナチュラルに差別発言すんなw」「あ、おまえもヒイロゾンビにしてやろうか」「ざんねーん。すでにヒイロゾンビでした」「きゃっきゃ」「うふふ」

 

 おそらくですが――。

 わたしたちはそもそもがマイナーな側だったので、人間を差別したりすることはなかったのだと思います。差別される側は、差別される痛みを知っていますから。

 

 今日だけは、ファンクラブの教祖でよかったと思えました。

 

 

 

〇月×日

 

 

 

 ヒロちゃんが日本の首相と握手しています。

 

 感覚的には変なんですが、わたしたちのヒロちゃんが巣立っていくような気分で、なんだか温かさとさみしさがごちゃまぜになった変な気分になりました。

 

「うおおおおおおおっ。首相ぉぉぉぉぉ。日本の国教は神聖緋色ちゃんファンクラブでえええええええ、お願いしゃすっ!」

 

 隣で、お父さんが暴れ狂いながらコメントを打ってました。

 

 やっぱり宗教は人を狂わせる悪い文化です。

 

 

 

〇月×日

 

 

 

 テロ怖い。

 

 

 

〇月×日

 

 

 

 ヒロちゃんが配信を休んでて心配です。

 

 わたしも画面越しでも怖かったから、ヒロちゃんもわたしより小さな女の子だし、いくら超人的な力を持ってても怖かったんだろうなって思います。

 

 信者の人たちは、ヒロちゃんの公式ファンクラブとして、この機会に海外進出を果たしたみたいです。わたしとヒロちゃんの配信してないコラボボイス集。歌謡集。非公式できわどいながらもギリギリセーフな写真などを、ここぞとばかりに放出しています。

 

 物体的なものは物流の関係で出せませんが、ファンになれば、いろいろなデータがもらえるようになってるみたいです。

 

「ひ、ヒロちゃんの隣ですやすや寝息動画。ダウンロードされまくりなんだな。乙葉ちゃんの寝息と、はじけて混ざって、さ、最高なんだな……」

 

『フォレスト氏神』『ASMR動画のレベルがとても高く丁寧な仕上がり』『ここ数か月で最高の出来』『ボジョレーかよww』『偶然、ふたりの寝息がユニゾンする瞬間が神』

 

「ぐふふ……ど、どんどんヒイロちからが、な、流れこんでくるんだな。すごいんだな」

 

 魂のやりとりをする悪魔の所業でした。

 

 ヒロちゃん。早く帰ってきてください。

 

 

 

〇月×日

 

 

 

 今日はヒロちゃんと落ちものゲームを楽しみました。

 四色のぷよぷよしたスライム状のものを集めて異次元に消し飛ばすという鬼畜ゲームです。

 

 ヒロちゃんに大丈夫ですかと優しく声をかけて、いっしょにゲームをしようと深夜に連れ出す鬼畜の所業です。悪魔はわたしでした。

 

 深夜の放送室は寝静まっていて、人通りは少ないです。

 ただし、信者の皆さんが本当のゾンビみたいに窓にべったりと張りついていて軽くホラーでした。

 

 けれど、ヒロちゃんはお父さんたちを背にしているので、そんなホラー的な様子に気づいてもいません。

 

「乙葉ちゃん。ありがとう」

 

 はにかみながら、感謝の言葉を述べるヒロちゃん。

 

「え、どうしてですか」

 

「ボクがおちこんでるって思って呼んでくれたんだよね」

 

「はい」

 

 ヒロちゃんの笑顔を見ると、わたしの顔が熱くなってくるのを感じます。

 

『チャンスだ!』『いまだ。チュウしろ』『ハグするのだ!』

 

 後ろでテロップを掲げるお父さんたちを見て、すっと冷めるのを感じます。

 

「えっと、そっちの席にいっていいですか」

 

「ん? うん」

 

 向かい側に行く途中で、カーテンを閉めました。

 これで余計なノイズは届きません。

 

 わたしは隣に座りました。

 

「お、乙葉ちゃん近いよ」

 

「ぷよです」

 

「ぷよ?」

 

「肌色と肌色でくっつくデス」

 

 ぴとっ。

 

 ほっぺたどうしをくっつけました。

 

 画面では百合だなんだとうるさかったですが、ヒロちゃんが元気になったみたいで、わたしも癒されました。あたふたするヒロちゃんがかわいくて、ギュっとハグしてしまいました。

 

 わたし、悪魔になっちゃったのかもしれません。

 

 

 

〇月×日

 

 

 

「聖書を作るのだ」

 

 お父さんが上機嫌に話をもちかけてきました。

 

「聖書って、そもそもファンクラブだからありまセンよね?」

 

「もともと、某宗教の聖書も、救世主のファンが持ち寄った同人誌みたいなものだぞ。つまり、緋色様の敬虔なファンであるわたしが筆頭の一文を載せても何も問題あるまい」

 

「まあ好きにすればいいと思うデスが……」

 

「実はもう作っておる」

 

 ズンとテーブルの上に置かれたのは、辞書みたいな厚さの薄い本でした。

 

 めくってみました。

 

 原作、お父さん。そして絵がついてました。

 

 漫画でした。

 

 お父さんがやたら美形に描かれていて、ヒロちゃんがヒロインポジで。

 

 ゾンビの群れに無双するお父さん。

 

「聖女様お助けしましょう(ニコっ)」

 

「ありがとうございます。かっこいい神父さま(ポ)」

 

 うああああああああああっ。

 

 育ての親が中二病ライトノベルの原作で、11歳の女の子にニコポをかましていた時の気持ちがわかっちゃいました。

 

 わかりたくもなかったですが……。

 

 ヒロちゃん。お願いです。

 

 わたしに焚書の許可をください。

 

 

 

〇月×日

 

 

 

 わたしはお父さんをお父様と呼ぶ超美麗なアマゾネス的な美少女として描かれてました。

 いっそ殺して……。

 

 

 

〇月×日

 

 

 

 さすがお父様! たった一撃でゾンビの群れを!

 

 

 

〇月×日

 

 

 

 お父様は創造神を越えたアインソフアウルの分身体だったのね!

 

 

 

〇月×日

 

 

 

 燃やそう。

 わーい焼きいも作れるぞー。

 

 

 

〇月×日

 

 

 

 いつのまにかアップロードされてた。

 ぽきん。

 わたしは自分のこころが骨折する音を聞きました。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 思った以上に過酷な内容に思わず戦慄してしまった。

 

「あの……、なんというか、丸なげしてごめんなさい」

 

「本当デスよ~~~」

 

「でも、乙葉ちゃん。あんまり言わないタイプだよね。だからわからなかったんだ」

 

「わたし、ためこむタイプデース」

 

「そうなんだね」

 

「それで、どうですか?」

 

「どうって?」

 

「正直なところ、かなり邪教の類だと思うデース」

 

「邪教って、まあ……マイナー宗教なんてこんなもんじゃないかな」

 

「マイナーって、今のファンクラブ会員数は、3500万人くらいいるデスよ」

 

 登録者数5億人にしちゃ、少ないな。

 そんなもんか。

 

「あ、いま、少ないって思ったデス? ちがいますよ。登録者数が多すぎて、ランク分けしてるんデス。3500万人はいま読んだような濃い人たち――精鋭の数だと思ってクダサイ」

 

「総数は?」

 

「2億人くらいデース」

 

「マイナーじゃないっていうのはわかったよ。ただ、まあボクが知らなかったくらいなんだから、それぐらいはいいんじゃないかなー」

 

「ヒロちゃんといっしょの部屋の空気を、缶詰に詰めて配っててもデスか」

 

「う、うん。まあそれはちょっとどうかなと思うけど。乙葉ちゃんには申し訳ないんだけど、常識的な範囲でお願いできるかな」

 

「常識ってなんデスか」

 

「乙葉ちゃんの考えるアイドル活動での普通かな。普通のアイドルだと缶詰でエアヒロちゃんしないでしょ」

 

「わかりましたデース。善処しマス。でもそれには――ともかく、わたしの言うことをもっと聞いてもらわないと無理デース」

 

「隣で乙葉ちゃんのいうことを聞いてねってだけじゃ難しいかな」

 

「足りないのデース。いまのわたしはヒロちゃんのファンクラブの会長デスが、ヒロちゃんと時々コラボするぐらいしか能がないただの女デース。ヒロちゃんと一番仲がいいのは後輩ちゃんデスし、政治や科学はピンクちゃんのほうが強いデス。雑魚女なのデース」

 

 卑下しちゃってるなぁ。

 

「つまり、なんらかの権威が必要だってこと?」

 

「そういうことになりマース」

 

 権威っていってもなぁ……。

 

 ともかく、幹部さんたちがいるところに連れていってもらおう。




福岡に旅立たねぇ!
次々回ぐらいにはたぶん。
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