あさおん・オブ・ザ・デッド   作:夢野ベル子

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ハザードレベル141

「あー、皆さんに発表があります」

 

 ボクの突然の言葉に、みんなは聞き入っていた。

 

――発表。

 

 と言われても、ピンとこなかったのもあると思う。

 

 ボクはいまのいままで、コアなファンに対して、直接言葉を投げかけたことはないから。話としては全部、荒神神父さんや乙葉ちゃんを通じてのみおこなってきたからだ。

 

 どうしてそうなってしまったのかというと、海よりも深く空よりも青い理由があるのだけれども、要するにボクが陰キャだったからです。

 

 人と話すのは基本的に苦手だし、ボクを神様扱いする人たちと話すのも正直なところつらみ成分ありありという、ただそれだけの話。けれど、そうやって放置プレイをしてきた歪みのようなものがいろんなところで噴出していると思われるわけで……。

 

 乙葉ちゃんの不安そうな顔を見ると、ボクも気合を入れなくてはと思います。

 

「えーっと、乙葉ちゃんの立ち位置なんだけど……」

 

「はい」と荒神神父さん。

 

「いまはみんなの会長というか教祖様的な立ち位置にいるよね?」

 

「ええ、そのとおりですが」

 

「ボクはこれを追認します」

 

「追認ですか?」

 

「そうです。追認です。つまり、乙葉ちゃんが正式な会長さんだということを、ボクはこの場で正式正統なものとして認めます」

 

「おお、つまりそれは…………、今までと何が異なるのでしょうか?」

 

 ん?

 

 荒神神父さんが困ったような顔になっている。

 

 ボク、なにか変なこと言いました?

 

「わたし、ヒロちゃんから正式に認められてることになってたはずですが、違うのデスカ?」

 

 し、しまった!

 

 そうでした。あんまり興味ないから放っておいたけど、ボクは乙葉ちゃんが会長をやることを認めていたわ。

 

 やべっ。乙葉ちゃんがすでに泣きそうになってやがる。

 

「ち、違うよ。そういう意味ではなくてですね……。なんといえばいいか。今までは、そう仮免許。試験期間みたいな感じだったわけです」

 

「試験期間?」と、乙葉ちゃんが訝しげに聞いた。

 

「そうテストをしていたのです」

 

「わたし、ヒロちゃんに信頼されてなかったのデスカ」

 

「ち、違うよ。そうじゃなくてね。ヒイロゾンビっていうのは車の運転免許みたいなものなんだ。人間よりもパワーがあるし、不思議な力が使えたりもするよね。だから、乙葉ちゃんを信頼するとかしないとかじゃなくて、一定の技量を持っているかどうかを見極める期間が必要だったのです!」

 

「なるほど……そうだったのデスね」

 

「そうだったのです!」

 

 ふぅ。とりあえず乙葉ちゃんの涙が決壊することは防げたようだ。

 

「ともかくそういうわけで、今から乙葉ちゃんは正式なボクのファンクラブの会長さんだよ。乙葉ちゃんの言葉はボクの言葉だと思ってください」

 

 そう、これがボクの言いたかったこと。

 

 乙葉ちゃんの権威づけだ。

 

 いわゆる乙葉ちゃんはボクのこころを知っているというやつだ。

 

「緋色様。衆生にはわかりやすい"証"が必要です。なにかしら乙葉に賜れればと思います」

 

 荒神神父さんがかしこまりながら言った。

 

 本来なら、自分の発言力や権威が落ちる"証"は、荒神神父さんにとっては首輪のようなものだ。乙葉ちゃんが絶対的なナンバーワンとして君臨すれば、当然ナンバーツーの存在感はかすんでいく。ボクが望んだことではあるけれど、あえて、そういった発言をするのはなぜだろう。

 

 ボクの好感度は確かに上がったけれど……。

 娘に対する無償の愛情なのかな。

 そうだったらいいな、なんて思ってしまう。

 

 それにしても"証"ね。

 

 なんらかのカタチが必要なのは人間としては当然かなと思う。

 節目とか儀式とか式典を求めるのはヒトの常だからね。

 

 で―――、なぜかちょうどボクのポケットの中にはあるんだよなこれが。

 

 コンビニのお兄さんにつきかえされてしまったシルバーだかプラチナだかの指輪だ。

 余計な装飾とか宝石とかはついておらず、下手したら百均とかで売ってるなんちゃって装飾品と同じに見える。でもこれって、たぶんそれなりに価値はあるんだろうな……。

 

「乙葉ちゃん」

 

「はい」

 

「ちょうど、ここにそれっぽいのがあるんだけど」

 

 ボクは指輪をとりだした。

 

 瞬間、乙葉ちゃんの目つきが変わった。

 

「指輪ですか?」

 

「うん。いま持ってるのはこれぐらいしかないけど、いいかな」

 

「むしろそれがいいデス! ください!」

 

 うわ。すごい食いつき。

 アイドルに対する表現としてはどうかと思うけど、エサに食いつくワンちゃんみたいだ。

 

 やっぱり女の子だから、シンプルだろうがなんだろうが、装飾品に惹かれるのかもしれないな。

 

 正直ボクとしてはちっとも興味がわかなかったから、きらきらした王冠とか、メチャクチャ高価そうなネックレスを見ても『ふーん綺麗だね』くらいの感想だったけど。

 

 女の子ってやっぱりそういうの好きなんだなぁ。

 

 もちろんもらったプレゼントを誰かに贈るというのも、ちょっとどうかなと思ったりもするけど、ドラえもんの寝床で腐らせとくよりはいいだろうという判断です。

 

「じゃあ、これを"証"にするね」

 

 信者のみなさんはなんかざわついていた。

 

「これって……教祖様」「ヒロちゃんの……」「えっと、教祖様がやっぱりネコなんですかね」「王権神授説!」「いまわれわれはあの空母よりも歴史的瞬間にたちあってるのではないか」

 

 歴史的瞬間ってなんだろう。

 

 まあ、信者の人たちにしてみれば、自分の信仰が認められたようなものだろうから、うれしいのかな。

 

「ハァハァ……ヒロちゃん。はやくクダサーイ」

 

 乙葉ちゃんは鼻息荒く、辛抱たまらんという感じでした。

 そして、すっと差し出される左手。

 

 えっと――これって。

 

 じっと見つめるファンのみんな。

 

 傍らには神父さん。なんだかおもむろに頷いている。

 優し気な父親のまなざしになってるんですけど。

 

 そして、ボクを熱い視線で見つめる乙葉ちゃん。

 

 えーっと。

 

 と、とりあえず中指あたりでどうかな。

 

 ボクは右手で乙葉ちゃんの綺麗な指先に触れ、高度な政治的判断を持って中指という妥協点に差し入れようと試みた。

 

 が、ダメ!

 

 ものすごい斥力が中指の関節あたりから生まれていて、差しこめようとする力に対して反抗している。磁力の反作用のようなすさまじい力だ。なにかものすごい執念を感じる。

 

「あ、あの。乙葉ちゃん?」

 

 ボクは乙葉ちゃんの顔を確認してみた。

 鬼のような形相だったのは一瞬、すぐに仏の顔になる。

 にっこり笑えばやはりアイドル。すさまじくかわいらしい。

 

「だめみたいデース。サイズがちょっと指にあわないデスね」

 

「じゃあ、人差し指で」

 

 同じように差し入れようした。

 これにも反発。

 

「無理デース」

 

「小指なら入るよね?」

 

「今度はガバガバで落してしまいそうデース」

 

 試しにやってみたら、今度は指輪が反発力でぶっとんでいった。

 いや、落とすとかそういうんじゃないよね……。

 

 部屋の反対側までふっとんだところで、念動力によって補足。

 手元に引き寄せる。

 

「……」

 

「……」

 

 独特の間。

 

 緊張とも弛緩ともつかない奇妙な空間が生じた。

 

 一歩も引かない決意の瞳。

 

「わかったよ……」

 

 いろんな言葉や言い訳がうずまいたけど、それを言ってみたところで意味はないだろう。

 

 観念して、薬指に近づけたら、今度はブラックホールみたいな勢いで吸いこまれた。

 

 ぴたりと吸いつくように指輪ははまり、まるで呪いの装備のようにガッチリ固定されている。

 

「うむ。これでふたりは永遠の絆で結ばれたわけですな」

 

 神父さんがにこやかに言い、乙葉ちゃんは顔を赤らめる。

 

「ゆ、友情だよね」

 

「友愛デース」

 

 指輪にキスする乙葉ちゃん。

 年齢に似合わない魔性な視線で、うっとりと指輪を眺めすがめつしている。

 

 みんなのざわつきがひどくなった。

 

「教祖様が花嫁になられた」「緋色の花嫁」「ああ素晴らしい。信仰心があふれる!」「天使様ぁ。尊い。尊すぎますっ!」「美少女の友愛はふつくしい」「我々もこれで救われる……」

 

「えっと"証"です。会長の証! 他意はありません!」

 

 ボクは絶叫に近い勢いでみんなに言い聞かせる。

 

 でも――、ダメでした。

 

「我々の教義にも新たな1ページが必要なのでは?」「新約聖書……」「百合の章を作ろう」「おお素晴らしい」「教祖様があんなにうれしそうに笑ってらっしゃる」「お幸せに教祖様」

 

 宗教って本当に恐ろしい。

 

 ボクは心の底からそう思ったのでした。

 

 しかし、ボクがそのあとに感じた恐怖に比べれば……。

 

 いや、これ以上はやめておこう。

 

 深淵を覗きこむ者はまた、深淵にのぞきこまれるうんぬん。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 それは本当の恐怖でした。

 

 出来の良いホラー映画は、実は昼の明るさをコントラストとして利用する。

 

 夜が悪いわけではない。夜の暗がりは人であれば確かに怖いし、ある意味安パイといえる。

 

 しかし、そういったところで幽霊や異形を見たところで、昏さに怖がっているのか、見てはいけないものに怖がっているのかわからない。安パイゆえに面白みがない。

 

 一流のホラー映画を見ると、わかる。

 

 見てはいけないものはお昼に出現したりすることも多い。

 

 お昼は人間的な時間。そして日常的な空間。

 

 そこに突如あらわれる異形。

 

 それが痛烈に――徹底的なまでに――ボクたちの恐怖を惹起するんだ。

 

――閑話休題。

 

 ボクが乙葉ちゃんたちのところから抜け出して、町長にも説明を終えて、探索班のみんなにも軽く話終えたところで、アパートに帰ってきたのは、ちょうど太陽が天頂近くにかかるお昼の二時ごろだった。

 

 春とはいえ、日が長くなってきたこの時分。

 

 峻烈なまでの陽光がゾンビ荘の壁面にあたっている。

 

 ボクのお部屋に通じるドアにもちょうど光線がさしこんでいた。

 

「ただいまー」

 

 違和。

 

 なぜか、お部屋の中がとても昏く感じた。

 

 いやそれは変なことじゃない。なぜならボクの部屋ってわりとカーテンを閉め切ってることも多くて、部屋の中に足を一歩でも踏み入れれば、夜目が効くとはいえ、暗順応自体を感じないわけではないからだ。

 

 けれど、なぜか心臓がドクドクと急ぎ足になっている。

 

 これ以上進んではいけないというプレッシャーを感じる。

 

 けれど、このまま突っ立っていてもしょうがない。

 

 部屋の中に足を進めた。

 

 それで――ボクは本能的に身を凍らせた。

 

 命ちゃんがいた。

 

 命ちゃんがボクの部屋にいるのは普通だ。でも普通ってなんだ。

 

 なぜかボクが恐ろしさを感じている理由は、見てはいけないものを見ている感覚なのは――。

 

 姿勢。

 

 姿勢か。

 

 命ちゃんは正座していた。

 

 命ちゃんは、不自然なほど気配を殺して、居間にあたるところで正座をして待っていた。

 座布団も何も敷いてない床の上での正座。

 

 リラックスのリの字もない完全な戦闘態勢。

 

 鞘から抜き放たれた日本刀みたいなカタチ。

 

 もし本当の刀でも持っていたら、居合抜きでもしそうな冷徹なオーラを身にまとっていた。

 

「おかえりなさい。緋色先輩」

 

「ひ、ひえ。み、命ちゃん。どうしてボクの部屋にいるの」

 

「わたしがいてはダメなんですか?」

 

「そんなことないけど、ただいまって言ったのに無言だったからさ」

 

「わたしが無言でいちゃダメなんですか」

 

「ダメじゃないけど……」

 

「ところで、どうしてそんなところでつったってるんですか」

 

「う、うん。いま座ろうかなって思ってたよ」

 

 ボクはソファの上に、座る。

 命ちゃんが床の上に座ってる関係上、ボクのほうが視線が高い。

 突き上げるような視線に、背中に汗がすべりおちる。

 

「あの……み、命ちゃん。なんか怒ってる?」

 

「なにかですか? 先輩はなにか怒られることをしたと思ってるんですか?」

 

「い、いやべつに」

 

「では、怒られないことをしたと思ってるわけですね」

 

「あ、あの、もしかして乙葉ちゃんとぷよってたことかな?」

 

「――」

 

 絶対零度の視線。

 

 ゴミを睥睨するような無慈悲な視線だ。

 

「それぐらいならべつにいいですよ。今となっては」

 

 今を強調する命ちゃん。

 

 さすがにボクも気づいた。気づいてしまった。

 

 命ちゃんが手に持っていたスマホをボクに差し出す。

 

「動画のアーカイブ……」

 

 そこには先ほどの乙葉ちゃんとのやりとりがバッチリ放送されていた。

 投稿時間を見ると、誰かがリアルタイムで配信していたようだ。気づかなかったけど、歴史的瞬間とか言ってるくらいだ、撮影してても不思議じゃない。

 

 ボクが撮影対象になることは、ずいぶん前から包括的に許可してしまってるし――信者さんたちに罪はないだろう。

 

 むしろ、罪があるのはボク!?

 

『てぇてぇ』『ヒロちゃんの花嫁?』『後輩ちゃんガチギレ案件じゃね?』『一時間後、そこには後輩ちゃんに必死に謝ってるヒロちゃんが?』『言い訳できないよな』『もういっそ逆ハーレムというかハーレムというか、よくわからんが両方ゲットすればいいじゃん』『百合△』

 

 流れるコメントが、ボクの今の状況を言い表していた。

 

「ご説明していただけますでしょうか」

 

「あのね。これは乙葉ちゃんの権威づけであって、べつに他意はないんだよ」

 

「わたしに対しては待ってと言っておきながら、他の女にはホイホイ指輪を渡しちゃうんですね」

 

「だからそういう意味じゃないって!」

 

「ならどんな意味なんですか?」

 

「ただの――"証"だよ」

 

「自分の所有物だっていう証ですか?」

 

「違うよ。友情の証だよ。乙葉ちゃんにはボクのファンクラブから脱宗教化してもらってるし、感謝の気持ちをあらわしただけ。さっき言ったみたいにファンのみんなが乙葉ちゃんの言うことをより聞いてもらえるように権威づけしただけなんだよ」

 

「先輩は自分勝手です」

 

「乙葉ちゃんを利用したという意味ではそうかもしれないね。でも乙葉ちゃんも求めたから」

 

「そうじゃなくて、わたしに対して先輩は扱いが雑だと思います」

 

 目をあわせると、命ちゃんはぽろぽろと泣いていた。

 

 研ぎ澄まされた刃と思っていた。

 

 けれど、本当は張り詰めた弓の弦だったんだ。

 

 罪悪感に押しつぶされそう。

 

 ボクだって、あれがそういう意味を持つことぐらいはわかっていた。

 

 自分の中では、そんな意図はなかったとしても、命ちゃんを傷つける可能性は考えないわけではなかった。

 

 つまり、ボクが悪い。

 

「命ちゃん泣かないで」

 

「先輩が泣かせたくせに」

 

「ごめん。ボクが悪かったから。えっと。えと」

 

 押し入れの中から、段ボールに詰めこんだ宝石類をあさる。

 

 ネックレス。どうでもいい。

 

 儀仗も洗濯もの干しにしか使ってない。

 

 ちくしょう。指輪の類がないぞ。みんな小物な指輪はあまり贈ってこなかったから、もしかしたらアレだけだったかもしれない。

 

 やむなくボクは一番それっぽい王冠を、そっと命ちゃんの頭に乗せた。

 

「ご、ごめんこれしかなくて……」

 

「先輩の馬鹿。甲斐性なし。ただの美少女~~~~!」

 

 ぎゃん泣きだった。

 

 いつもはクールな命ちゃんの幼女のような全力の泣きっぷり。

 

 ボクはもうおろおろすることしかできない。

 

 どうやらボクは命ちゃんのお兄ちゃん失格のようです。

 

 いや、それ以前に男として失格なのでは?

 

 薄暗い部屋の中で、女の子が泣いている。

 

 ボクの後輩で、幼馴染で、大事な女の子が泣いている。

 

 控え目に言って最低な気分。

 

 最大級に言って死んだほうがいいレベル。

 

 これじゃあ雄大にも叱られちゃうな……。

 

 あわせる顔がない。

 

「ボクにとって命ちゃんは大事な子だよ」

 

「先輩は、アイドルのほうがいいんでしょう」

 

「そんなことないよ。乙葉ちゃんはあくまでアイドルの関係で一番仲が良いってだけで、命ちゃんはボクの幼馴染でしょ。比べられないよ」

 

「でも、アイドルには"証"をあげて……わたしにはこんなハリボテみたいな王冠です」

 

 王冠をガシっとつかみ、そこらに投げ捨てる命ちゃん。

 

 光のない部屋では王冠もネックレスも、まったく輝きがない。

 

 命ちゃんの顔も曇っている。

 

 証――か。

 

 困ったときのなんとやらだけど、結局ボクはなにげなく得たチートに頼るしか能がない。

 

 自分のことは自分が一番よく知ってる。

 

 ただの平凡以下の意気地なしなんだよな。

 

 でも、ボクは。

 

 それでもボクは。

 

 チートだろうがなんだろうが、持ちえた全力で命ちゃんを守るって決めてるんだ。

 

 ずーっと、ずーっと前から。それほど昔でもない昔から。

 

「命ちゃん。証明するよ」

 

 緋色の翼を出現させ、プラチナブロンドの髪の毛を一本引き抜いた。

 

 念動力操作。リング状に。物質変換。精製。原始固定。

 既存の原子番号を百番ほど飛び越えて、超重元素どうしを無理やり結合させる。

 

 つまりこれは、ファンタジーでよくある、

 

「錬金」

 

 というやつだ。

 

 髪の毛を媒体にしたのは、なんとなくそうしたほうが錬金成功率が高まると思ったから。

 

 実際にうまくいったらしい。

 

 ボクの言語にしたがって、手元には暗闇の中でも薄く黄金色に光る謎の金属体があった。

 

 たぶん地球上には今まで存在しなかった物質。

 いや、もしかすると伝説上では存在したかもしれない金属。

 

 ボク由来のものだから当然――。

 

 日緋色金(ヒヒイロカネ)あたりが妥当な名称だろう。

 

 なにやら揺らめいているような存在感があるんだけど、正直なところ、どんな効用があるかわからない。もしかしたら刃物を作ったら、めっちゃ切れ味がよくなるかもしれないけど試すわけにもいかないしね。

 

「先輩これは……?」

 

 当惑が半分ほど混ざったような声だった。

 既存のものとはまったく違う金属のカタマリに、吸いつけられるように視線を向けている。

 

 命ちゃんも女の子――。

 とはいえ、本来ならあまり興味を向けない子のはずだ。

 だからこれはボクが創ったというところに興味をひかれていると思いたい。

 

「ボクの気持ちなんだけど受け取ってもらえるかな」

 

「はいっ」

 

 雲間からお日様が顔を出すような笑顔だった。

 

 恥ずかしいことに、命ちゃんが泣き止んでボクはほっとしてました。

 

 モノで釣るみたいで申し訳ない気持ちを抱きながら、ボクは命ちゃんの手をとる。

 

「あの、先輩……。モノで釣るみたいで申しわけないとか思ってませんよね」

 

「なんでわかるの?」

 

「先輩らしい考えだからです。でも、それってわたしがモノで釣られる女ってことですよね」

 

「そ、そんなことないよ」

 

「いいんですよ。わたしはモノで釣られる女でいいです。だからください」

 

「うん……」

 

 恐る恐るといった感じに、ボクは指輪を命ちゃんに装着させました。

 どこの指にかは――まあ空気を読んだとだけ。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 その後の命ちゃんは、一転してウキウキ顔でした。

 

 クールないつもの表情はどこへやら、スキップでもして、お花さんに語り掛けそうなくらい。

 

「なんだか先輩に守られてる感じがします。先輩の髪の毛から作られてるからでしょうか」

 

 祈るように手と手を重ねる命ちゃん。

 

 なんだか聖女のような動作だ。

 

 でもなんだかその言い方だと、ボクが自分の髪の毛をストーカーみたく命ちゃんに巻き付けた感じがして、そこはかとなく変態臭がする。

 

 原子レベルで変換してるからボク由来の成分だけど、まったく違う物質のはずだ。

 

 指輪にキスの嵐をふらせて、ちらちらしてくる命ちゃん。

 

 幸せの絶頂にいるようで、その笑顔を見るのは悪くない気分だったけど。

 

「命ちゃん。はっきり言っておくけど――」

 

「わかってます。これもまだ"答え"ではないのですよね」

 

「……ごめんね」

 

 結局――。

 

 ボクは三人だったあの時から、一歩も動いていないのかもしれない。

 

 乙葉ちゃんもピンクちゃんも町のみんなもボクの友達だけど。

 

 振り返れば、ボクたちが三人で遊んでいたあの頃に立ち返ってしまう。

 

 ボクにとっては5億のヒロ友に匹敵するほど大事なふたり。

 

「だいたいわかりましたよ。先輩がどうして答えてくれないのか。雄兄ぃに会うまでかたくなに拒む理由。でも先輩がそこから一歩も動かないでも、わたしのほうから近づきますから」

 

 命ちゃんは宣言通りボクに近づいてきた。

 

 そして宣戦布告するようにすれ違いざまにキスをして、自分の部屋に帰って行った。

 

「真珠湾より強烈かも」

 

 と、ボクは意味不明なことを言った。

 




ようやく次話から福岡へ。
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