あさおん・オブ・ザ・デッド   作:夢野ベル子

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ハザードレベル142

 サロメって知ってるかな?

 オスカー・ワイルドって人が書いた戯曲なんだけど。

 

 ボクは当然知っています。なんにせよ『なろう小説』やら『ハーメルン』やらを読んでいる文明人たるボクからしてみれば、多かれ少なかれ文字フェチなところがあると思うから。

 

 楽しさを効率的に摂取するなら、アニメや漫画のほうが刺激的に決まってるのに、あえての文字媒体というのには理由がある。

 

 どんなに凄惨な状況を描写したところで、ゾンビ映画のモグモグゴアシーンの刺激以上にはなりえないし、えちえちなシーンも、単純にえちえちな動画を見たほうが早い。

 

 なのに文字を選ぶのは文字が好きだからだ。

 

 要は低刺激を長時間にわたって摂取することに無上の喜びを覚えるのが文字フェチ。

 

 ボクの趣味がそういうマイナー方向に向いているってことだと思う。

 例えばゲームの知識だったり、ゾンビ映画の知識だったり。

 それと、よくわからん人類文化の精箔部分。

 ボクの偏りが、そちらに向いていたってだけの話。

 ボクがサロメを知っていたのもそういうフェチ的な理由が大きい。

 

 それでサロメっていうのは実に官能的な御話で、サロメちゃんは今でいうところの悪役令嬢なんだ。具体的に言えば、惚れた男の首をゲットして、その生首にキスするぐらいの悪女です。

 

――ゾンビよりずっとコワーい!

 

 サロメちゃんはお姫様だけど、最期に弾劾されて殺されてしまうところも悪役令嬢そのものだと思います。まあ弾劾っつーよりは単純にヤンデレ具合が怖すぎて王様に殺されちゃった感あるけどね。いろんな人を誘惑しまくってる小悪魔度数の高さも悪女ポイントに貢献してしまったのかもしれない。

 

 なんでこんな話をしているかっていうと、当然ボクの文化的素養の高さでイキり倒すのが目的ではない。

 

 単純で端的な事実――。

 

 ボクが手にしているのは生首ゾンビさんだからだ。

 

 ボクと目があって、彼女はぱちくりしている。それでサロメを思い出した。それだけの理由だ。

 ボクがサロメのような悪女ってわけじゃないのであしからず。

 

 生首さんも惚れた男ってわけじゃなくて、たぶん高校生くらいの女の子。日本人だと思うけど、さすがに首だけじゃわからん。

 髪の毛は肩口くらいまではありそうなくらい長い。肩ないけどね。

 

 ゾンビだらけの世界だから、生首ゾンビさんもいないわけじゃないけど、閑静な高級マンションの一室で、なぜ首だけになってるのか。

 

 ついでに――冷蔵庫には彼女の身体だったもの。

 

 その身体はなぜかえぐられるようにして内臓がなく損壊している。

 

 ほとんど物的な攻撃ではダメージを受けない身体になったボクだけれども、その異常性にはさすがに戦慄をしていた。

 

 この異常な情景に、サロメの戯曲のような、あの生首がお皿に乗ったドラマ性を見出したせいもあるかもしれない。

 

 なぜ――こんなことになったのか、少しばかり回想してみよう。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 命ちゃんに指輪を渡したあと。

 

 あれからひと悶着ありました。

 

 乙葉ちゃんと命ちゃんに指輪をプレゼントしたという情報は、それはまあ秒速で広がりまくり、周知の事実となるところだった。

 

 その日の夜。たった数時間後。

 

 乙葉ちゃんが照れっ照れになりながら、ボクの指輪を見せびらかし配信をすれば、命ちゃんが対抗するように謎の金属でできた指輪を、これ見よがしに配信する。

 

 乙葉ちゃんが『初めて』を主張すれば、命ちゃんは『特別』を主張する。

 

 配信しながらお互いの配信を視聴している。

 

 とはいえ、相手の枠にまで入っていくことはしない。

 

 ゆえに、空中戦。

 

 さりげなさがさりげなさになっていない対抗心むき出しのほぼ同時配信だった。

 

 ボクは二人の仲を取り持つために、仲裁的な動画配信をした。

 

 必然的に――というべきなのか。

 

 正直、なんといっていいのかはわからないけど、ピンクちゃんと恵美ちゃんが『ズルい』と言い出した。そのあとは『ピンクにも/わたしにも』と続いた。

 

 いたいけな顔がたこやきのように膨らんでいく様をボクは見せられ続けることになりました。

 

 ヒロ友のみんなは当然誰も助けてはくれない。むしろ煽りまくる。

 

 おいこら百合ハーレム連呼すんな。

 

 まあ女の子のほうが好きだけどさぁ……。

 

 といったあれこれがあり。

 

 で――、まずは同じゾンビ荘に住んでいる恵美ちゃんのリアル襲来だ。

 

「ヒロちゃん」

 

 ドアを開けるや否や、ボクの腕にからみついてくる恵美ちゃん。

 

 空色の髪の毛がボクのプラチナ髪と混ざり合ったり。

 

「ひえ。なにかな。ちょっとくっつきすぎだと思うんだけど。それにもう夜の十時だよ」

 

 経験上、オナモミのようにくっついてくる小学生女児は危険だ。

 

「またまたうれしいくせにぃ。えへへ」

 

「うれしくないわけじゃないけどね。それで?」

 

「わたしもほしぃなぁ」

 

 恵美ちゃんの小悪魔度がいつのまにかあがってました。

 

「残念ながら指輪は売り切れなんだけど……、えっとこういうのならあるよ」

 

 数メートルくらいの距離なら、シュッとして手元にワープさせることができる。

 

 ボクが取り出したのは、いつぞやの王冠だ。ティアラとかそういうんじゃなくて、でかくてごつくて黄金色が光るすごく高そうなやつだ。残念ながら命ちゃんには不評だったけど、客観的に見れば、たぶん指輪よりも価値は高そう。ボクの創り出した謎金属の学術的価値は別として。

 

「うわぁすごくきれい。なにそれなにそれなにそれぇ」

 

 祈るように指を合わせて、歓喜の声をあげる恵美ちゃん。

 この子、もらう気まんまんだよね。

 

「どこかの国の――王冠かな」

 

 ボクは比較的淡々と事実を告げる。

 

「じー」

 

 と、いいながらボクを見つめてくる恵美ちゃん。

 とてもわかりやすいおねだりの視線。

 

「これでよかったらあげるけど……。でも、これ一個だけだよ」

 

「え、くれるの。ありがとうヒロちゃん」

 

 食い気味な答えだった。

 

 間髪入れず、

 

 す、と――、白くていたいけなうなじを見せる恵美ちゃん。

 輝くような肌に、空色の髪の毛がさらさらと落ちる。

 

 これくらいなら命ちゃんにも怒られないよね。

 恐る恐るボクは王冠を授与しました。

 王権神授説というワードがひそかに脳内をかすめたが、まあ大丈夫でしょ。

 

 後日、王冠をかぶった恵美ちゃんが豚さんたちをブヒブヒ言わせる姿が――。

 

 あったりなかったりするかもしれないけど、ボクのせいじゃないと思います。

 

 それから数時間後に現れたのはピンクちゃん。

 

 さすがに海の向こうにいるピンクちゃんが来るはずもないと思っていたら甘かった。ボクが明日福岡に旅立つことを知っていたピンクちゃんは、この機会を逃すとボクが帰ってきたあとになると思い、すかさずゾンビ荘にやってきたんだ。

 

 具体的には、音のないヘリからボクの窓辺に直接降下。

 

 空を浮けるピンクちゃんにとっては造作もないことだけど、若干特殊部隊に強襲される気分を味わいました。

 

 もう真夜中の零時を越えている。

 

 ピンクちゃんはおねむの時間なのに、気合と根性と精神力は眠気さえも凌駕するものだったらしい。

 

 恵美ちゃんが王冠を見せびらかして、豚さんたちに女王様宣言を出していたのが悪かったのかもしれない。

 

 コツコツと窓を叩くピンクちゃんを迎え入れると、ちょっぴりすねたような感じだ。

 

「ピンクも」

 

「え?」

 

「ピンクもほしいぞ」

 

「あっはい」

 

 ボクはほとんど間を置かずに応えた。

 

 それにしてもピンクちゃんも宝石類とかには興味がなさそうだったけど、幼いながらに女の子なんだなと思います。それか、人類が共通に持つ性質――嫉妬のせいかもしれないけど。

 

 自分だけもらえないっていうのは、八歳児だって悔しいだろうし、むしろ八歳児なのにピンクちゃんはよく我慢しているほうだと思います。

 

「えっと、ピンクちゃん。なにかほしいのある?」

 

「ピンクはヒロちゃんがくれるならなんでもいい」

 

 ちょっぴりすねちゃってるピンクちゃんがいじらしい。

 

 一瞬考えたのは、あの一番高そうな黄色いダイヤモンドがはまったネックレスだけど、いくらなんでも幼女なピンクちゃんにあのギラギラした重い宝石は似合わない。恵美ちゃんの王冠もたいがいだけど、あれはあれでかなり似合ってるんだよな。女王様だしな……。

 

 それで、ボクがシュッとして手元に引き寄せたのは、ボクがあの空母で装備していた髪飾りです。

 かんざしのように髪の毛にズブシュとさしこむタイプ。薄紅色の花のような形をしていて、ピンクちゃんの髪の毛と若干迷彩色になってしまうけど……。

 

「ヒロちゃんがつけていたやつか?」

 

 ピンクちゃんは星がまたたくような瞳をして、身をのりだしてきた。

 頭の大きな幼女体型なので、実際にはもう頭ごとすりすりするようなカタチだ。

 

「ボクのつけていたやつです」

 

「ピンクもヒロちゃんにつけてほしい」

 

 そう言って、いつも着ているふんわり帽子を脱ぎ、ピンクブロンドの髪の毛をさしだしてくる。

 うまく装備させることができるか不安だったけど、案外髪の量が多いピンクちゃん。スッとさしいれれば固定できた。

 

「はい。できたよ」

 

「ピンクはうれしい!」

 

 ボクの仮説なんだけど――。

 

 女の子=サメ説を提唱したい。命ちゃんも乙葉ちゃんもついでに女の子と言っていいかわからないけどマナさんも、みんなみんなボクに悪質タックルをかましてくる。

 

 しかしまあピンクちゃんのスキンシップは単純にかわいいんだよな。お兄ちゃん力を試されているというか、もはやこれは父性なのではと思ってしまうほどに。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 ん。いまのは回想としては巻き戻りすぎたな。

 後顧の憂いを断つという意味では、良い振り返りだったけど。

 

 あのあと――。

 さすがにピンクちゃんの後には誰も来ず、ようやくボクは眠りにつくことができた。

 

 そして、旅立ちの時。

 ゾンビ荘のみんなに見送られながら、ボクは命ちゃんといっしょにソロリと空に浮かび上がる。

 

 春の陽気があるとはいえ、まだ高度が高いところは若干寒い。

 まあこれはシールドを展開すればべつに寒くもなんともないけど。

 空を飛ぶとなると、下から下着が見えちゃうかもしれない。これが本命。

 

 ボクとしてはズボンか、あるいはせめてインナーっていうのか見せパンっていうか、あるいはスパッツみたいなのを履きたかったけど、全部マナさんに却下された。

 

「幼女たるもの、生足ミニスカートは基本です。わたしが毎日一ミリずつご主人様のスカートを短くしていってた努力がわかりますか?」

 

 知らねーよ。ていうか、ボクそのうちサザエさんちのわかめちゃんみたいに、常時パンもろのわいせつ女児になってたの?

 

 という抗議の声がでかかったけど……。

 

 いつもマナさんにお洋服を用意してもらってる身としては、このときだけ逆らうのも気が引けた。

 

 それで、結局は用意されたスカートで出発するボクでした。

 

 かわいい恰好をするのに抵抗感はないからね。

 のっけから、ボクかわいいヤッターしてたのを思い出してください。

 

「じゃあ、いってきまーす」

 

 最終目的地は門司港って決まってるけど、それ以外は案外自由な旅路だ。

 

 なんとなく、博多のほうに向かって、あわよくばラーメンおじさんをゲットしたいとか考えてるけど、我が町とは異なり、他県の情勢はわからない。

 

 ボクが住んでる町からちょうど真北が福岡県福岡市。

 

 電車とかを使うなら、いったん東の鳥栖方面に向かって、それから北上するというルートになるだろうけど、空を飛べるボクらには関係がない。

 

 ていうか――。

 

「山だねぇ……」

 

「山ですね」

 

 上空から眺める風景は代わり映えのしない緑一色って感じで、たいして面白みもない感じだった。

 

「下って、山道あるのかな」

 

「細い道ならもう少し北上すればあるかもしれませんね」

 

 しばらく進んでいくと、ダムがあった。

 四方を山に囲まれた、静かで神聖な場所って感じで、かすかに霧がかっている。

 

「先輩。福岡に到着しましたよ」

 

「え、もう? ていうか速すぎない?」

 

 旅の風情がまったく感じられないんだけど。

 

「あのダムは確か福岡県だったはずです」

 

「そっかぁ……。なんか新幹線よりはやくない? まだ15分くらいしか経ってないよ」

 

「わたしたちのスピードは時速でいったら40キロくらいは出てますからね。つまり10キロ程度しか離れていないというわけです」

 

「んー。なるほど」

 

 瞬間的に暗算できる命ちゃんすごいなくらいしか思い浮かばない。

 でも、案外佐賀と福岡って近いところにあるんだな。

 

「障害物を飛び越えているからそのように感じるだけですよ」

 

「んう。そうか」

 

「もう少し高度を落としてみますか?」

 

「そうしようかなー」

 

 山道らしきものを見つけ、ゆるゆると高度を落としていく。

 

 アスファルトの道路に着地すると、ザ・山道という感じだ。両側にはガードレールがあって、杉の木かなんかがずらりと立ち並び、森の奥は暗くてよく見えない。

 

 当然のことながら、人の気配はなかった。

 

 それどころか車の気配もない。

 

「ゾンビから逃れるために車で来てたりするパターンもあるかなって思ったけど」

 

「山道に入るところがふさがってるのかもしれませんね」

 

「ボクの町みたいにコミュニティを作ってる人たちがいるかな」

 

「いるかもしれませんね」

 

「もしかしてボクたちのような存在がいることに気づいてなかったりして」

 

「そういうこともあるかもしれませんね。情報には非等方性――偏りがあるものですから」

 

「ボクたち襲われちゃうかな」

 

 一般人程度では傷すらつけられないとは思うけど。

 

「可能性はありますね。ただこのあたりではそういう可能性も低いと思います」

 

「どうして?」

 

「人間が生存するエリアでは、ゾンビを避けるための障壁を作っているところが多いですからね」

 

 確かにこのあたりにはそういった人工の壁にあたるものがない。

 

 まだ未開拓エリアということなんだろう。

 

「都市部から解放していってるってこと?」

 

「そうなるでしょうね。だいたい都市があるのは平野部です。たくさんの人間が住むのに適しているのはどうしても平らな地面なんですよ」

 

 ふぅむ。

 

 さっきから気になってたけど、命ちゃんがなんか楽しそうだ。

 

「先輩とふたりっきりですし」

 

「えー、ちょくちょくお部屋でふたりっきりだったけど」

 

「しょっちゅう、他の人が来るじゃないですか」

 

「まあそうだけど」

 

「いまはふたりきりですよ」

 

「そうだね」

 

「これはもう結婚ですよね」

 

「結論が一足飛びすぎる!」

 

「……デートだという認識はしててもいいですか」

 

「否定はしないけど」

 

「わたしは昔みたいに先輩を独占できてうれしいです」

 

「雄大もいたでしょ」

 

「そうですね。雄兄ぃはわたしの中では家族なんです。先輩が家族より外側に置いてるってことじゃないですよ。雄兄ぃは恋愛対象にはならないって意味で――、なんていうか、いっしょに住んでてもおかしくないというか」

 

「ボクが命ちゃんに答えを返しても、雄大を避けるわけじゃないって言いたいの?」

 

「そうです」

 

 それは命ちゃんなりの妥協なのかもしれない。

 

 ボクが命ちゃんを選んだとしても、雄大が()()()()()というか、三人の関係を続けていくことに反対はしないという表明だ。

 

 けど、それは雄大の気持ちを考えてない気がするんだよな。

 

 いうまでもないけど、命ちゃんは自分の目的のためならなんでも犠牲にできるタイプだ。

 

 何かを選ぶことは何かを選ばないこと。

 

 リバーシブルに、裏と表がはっきりしていて、両取りなんて考えない。

 

 ボクを手に入れるために、ボクにとって都合のいい女にだってなるという思想は、正直ちょっとどうかなって思う。

 

 それだけボクに甘いってことでもあるし、想われてるなって思わないではないんだけどね。

 

「いま先輩、わたしのこと重い女だと思いました?」

 

「ひ、ひえっ。そんなことないよ」

 

 命ちゃんのテレパス能力が極まってきた感がすごい。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 あいもかわらず山道を歩き続けるのはさすがに飽きたので、再び浮上。

 それから三十分もしないうちに、ようやく都会っぽい雰囲気がでてきた。

 

「このあたりには人住んでるかな」

 

「人の支配領域という意味なら微妙でしょうね。このあたりも"壁"がありません」

 

「ヒイロゾンビによってゾンビさんたちをどっかに集めてるパターンは?」

 

「その可能性もありますが、政府主導の受け渡しは主要都市ほど速やかに行われたはずです。ここは福岡県内でいえば、いまだ郊外ですからゾンビの完全除去まで行われてはいないと思われます」

 

 命ちゃんの言葉どおり、すぐに道すがらゆらゆらと歩いているゾンビさんの姿を見かけた。

 あてどなくさまよってる姿がまばらにいる。

 

 アスファルトの道は、車が乱雑に止まってあり、動いている状態ならウルトラ大渋滞という感じ。もちろん、人の姿は見えず、動いている車もない。

 

 ゾンビのうなり声だけが遠く響いていて町そのものが廃墟のようだ。

 

「ヒイロゾンビが増えて、ゾンビは相対的に少なくなると思ったけど」

 

「少なくなってると思いますよ。というか――"壁"で囲うということは、当然のことながら内側から外側にゾンビを追い出すことになるわけですから、外側のゾンビは増えるわけです。ここはまだ内側ではないということなんでしょう」

 

「日本からゾンビがいなくなる日はまだ遠いのかな」

 

「壁でのセーフティエリアの確保から、積極的にゾンビをどこかで閉じ込めておくスタイルに切り替われば、野良ゾンビはすぐにいなくなりますよ」

 

 食料の問題があって、ノーマルゾンビから人間に治す数は少ない。

 ただ、そうやって封じ込めが完了すれば、あとは物流を復活させて、緩やかに調整しながら人間に戻していけばいい。

 

 ゾンビによる人類絶滅の危機は回避されたといえる。

 

「あとは時間の問題か」

 

「そうですね。あと数か月もすればほとんど元に戻るんじゃないですか。山とかに入って偶発的に野良ゾンビに襲われるぐらいのレベルになるでしょう。熊といっしょですよ」

 

「ゾンビが熊さんといっしょのレベルか」

 

 ある日森の中、ゾンビさんに出会った。そういう世界になるわけね。

 全員がヒイロゾンビにならない限りは、人間は死ねばゾンビになっちゃうわけだし、野良ゾンビはどうしてもでてくるだろう。

 

 人間が全員ヒイロウイルスに感染するかはわからない。

 ボクの印象だと、今のところわりと抑制的かなとも思うし、ボクのヒイロゾンビソナーだと、まだまだ数万人レベルだ。

 

 もちろん、感染という性質を持つヒイロウイルスは爆発的に数を増やす可能性は存在するけれど。

 

 いまはまだ人間のほうが優勢だ。

 

「ところで命ちゃん」

 

「はい、なんでしょうか」

 

「人間の支配領域に行くんだったら、当然、そこの長にご挨拶しないといけないよね」

 

「そうですね。したほうがいいでしょうね」

 

「市長さんなり町長さんなりに挨拶して、適当な泊まる場所を確保するって流れになるよね」

 

「そうなるでしょうね」

 

「じゃあ。今日は――、ひとまず人間の支配領域には踏み込まないで、自分たちだけで好き勝手に泊まる場所探さない?」

 

「先輩。それって結婚しようって意味ですか」

 

「違います!」

 

 ただ、命ちゃんと雄大の三人でキャンプ地にいって、お泊りしたことを思い出しただけ。

 監督役の大人もいたけど、ロッジにはボクたち子どもだけだった。

 

 そんな昔が懐かしくて、もう一度同じことをしたかっただけだ。

 

「先輩がなんだかかわいい気がします」

 

「命ちゃんに言われると、なんだかむずがゆいな」

 

 どうせならいい場所に寝床をしたいということになって周辺を探ったところ、佐賀にはありえへん高層マンションを見つけた。

 

 前にも言ったとおり、佐賀イズナット高層住宅だ。

 土地が柔らかくて高い建物を建てられない。

 福岡はいいよね。高い建物たてられてさぁ。

 空を飛べるから、結構慣れてきた高高度な風景だけど、やはり高層住宅に住めるというステータスになにかしら憧れのようなものを感じる。

 

 だから、寝泊りするなら上層階一択。

 マンションの屋上から、中に入る。鍵がかかっていたけどゾンビパワーでこじ開けた。

 

 ただ、さすがに中に住んでいたゾンビさんを追い出すのはやめといたほうがいいだろう。

 上層階に行くほど部屋の広さが大きくなって最上階はたった四部屋しかないみたいだ。

 

「誰かいるかな」

 

「中に誰もいませんよ?」

 

 命ちゃんがなんでもないように言った。

 

 ゾンビソナーを働かせてみる限り、四部屋ともゾンビの気配はなさげだ。

 

 とりあえず各部屋のドアノブをまわしてみると、四部屋中三部屋は閉まっていた。

 

 唯一鍵のかかっていない部屋。

 

 べつにどこだろうといいんだろうけど――、ここは放棄しているのかなって感覚が強かった。つまり、なんとなく不法侵入じゃないよって自分の中で言い訳するみたいに、ボクは開いている部屋へ足を進めた。

 

 靴を脱ぎ中に入る。廊下は暗かった。電気がきてないから高層階はいろいろ辛い。特にトイレとか水をくみ上げることができないから、必然的に――どこかにためるか、落とすかすることになる。

 

 篭城するなら電気が必須だよね。

 

 ただこの部屋は――そこまで臭くなかった。最初から放棄されていたのかもしれない。

 ゾンビハザードが始まって、最初から引きこもることを択ばず、避難場所へ向かうルートも存在する。ここに住んでいた人たちも、そうなのかもしれない。

 

 そう思っていたのは、命ちゃんが首を傾げ、疑問を口にした時までだった。

 

「先輩。なんかゾンビの気配がするようなしないような変な感じです」

 

「んー」

 

 確かに微弱ながらゾンビの気配を感じる。

 その微弱ながらっていうのが、けっこう珍しくて、ボクたちはゾンビを完全に捉えきれなかったらしい。

 

 ゾンビソナーによって、感覚的にゾンビのいる方向に近づいていくと、異世界にでも旅立てそうな壁と一体型のクローゼットがあった。

 

 恐る恐る中を覗いてみると――、黒い布のようなもので覆われているボウリングの玉と同じぐらいの大きさの物体があった。

 

 丁寧な包みを取り払ってみると、いました生首ゾンビさん。

 

 おめめぱちくり。

 

 目と目が合う瞬間。

 

 かくして、ボクは戯曲サロメを想起したのです。




クッソ脆弱なプロットから繰り出されるクッソ意味不明な物語をどうにかこうにか人様にお見せできるストーリーラインに乗せるため、小プロットを組み立ててました。

なんとかプロットが出来上がったっぽい気がするので、調子よく更新していきたいと思います。

もうあとは最後まで書ききるだけなんで、応援してください。
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