あさおん・オブ・ザ・デッド   作:夢野ベル子

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ハザードレベル144

 生首少女あらため春日居嘉穂ちゃん。

 

 彼女は記憶のあらかたを失ってしまっていた。

 頭部だけの状態になってから長かったせいなのか、理由はよくわかわらない。

 

 飯田さんが銃弾を受けていたせいか、ゾンビになったあたりの経緯が曖昧になっていたのと同様に、嘉穂ちゃんも身体にダメージを受けたせいか、記憶を損壊したのだろう。

 

「ヒイロゾンビでありますか?」

 

 それで、いまヒイロゾンビの説明を終えたところだ。

 

「そう。ゾンビに襲われずゾンビを操れる。ボクと同じような能力持ちの存在だよ」

 

「わたしもヒイロゾンビでありますか?」

 

「うん。だから、最低保証で嘉穂ちゃんはゾンビに襲われることはなくなりました」

 

 そう……()()()()()ね。

 

「緋色殿と同じ存在になったということは、さっき見たような魔法も使えるのでありますか?」

 

「魔法とは違うかもしれないけど使えるよ」

 

「わたし、実は魔法少女にあこがれていたであります!」

 

 掌を突き出して、むぅぅぅぅと力をこめる嘉穂ちゃん。

 

 ものすごく真剣な表情だ。

 

 しかし、なにもおこらなかった!

 

「ヒャド。ケアル。ホスピ! かめはめ波ぁぁぁ! 水の呼吸ぅぅぅ」

 

 なにもおこらなかった!

 

「なんでできないでありますか……」

 

「アニメ好きって言ってたもんね。プリキュアとか好きな感じかな」

 

 なんのきなしに言ったら、

 

「違うであります」

 

 と、冷たい声が返ってきた。

 

「え?」

 

「違うであります」

 

 唐突な否定にボクは面食らう。

 

「プリキュアは魔法少女の類型とは違うと考えるであります」

 

「ああ……ふぅん。そうなんだ?」

 

 にわかなのでよくわからないです。

 

「わかっておられないようですな。そもそも、プリキュアとは女の子も戦ってみたいというコンセプトであり、ある意味では格闘系魔法少女ともいえるのでありますが、そもそもの成り立ちからして女の子がご近所の平和を守るという魔法少女とは異なるのであります。魔法少女の魔法は世界を救ったりはせず、身の回りのこまごまとしたものに向けられるもの。つまり、わたしはご近所さんとのおつきあいの中で空を飛んだり、子猫さんが車に轢かれそうになるのを助けたりしたいだけであって、大規模な世界を救う使命を果たしたいわけではないのであります」

 

「うん? うん」

 

 ものすごい早口だった。嘉穂ちゃんなりのこだわりがあるのだろう。

 

 ボクは所詮、日曜の朝にたまたまた早起きしたときぐらいしか見てないし、魔法少女の歴史を語られてもよくわからないからな。

 

「でも」と、ボクは思い出す。「そういや魔法を使うプリキュアもいたよね」

 

「そこなんでありますなぁ」

 

 腕を組み、しみじみと語る嘉穂ちゃん。

 

 あれ、なんか変なスイッチを押しちゃった?

 

 やべって思った時には遅かった。

 

 嘉穂ちゃんは腕を組み、ひと呼吸で一気に話し出す。

 

「プリキュアは基本的には女の子も戦いたいというスーパー戦隊シリーズや仮面ライダーのような系譜をとりいれた作品だったわけでありますが、世の中の幼女さんたちからしてみれば、まだ未分化な受け入れ方しかできないであります。世の中のパパさんたちは幼女さんたちに言われるがままオモチャなどを買い与えるわけでありますが、正直なところコンセプトなんかどうでもいいんでありますな。そもそもプリキュアの初代の変身服は黒と白だったわけありますが、これも最終的には主人公はピンク色におちついてしまったのであります。幼女さんたちは圧倒的にピンク色が好きだというアンケート結果がありますからな。同じように魔法的な力に対するあこがれも世の中のニーズにこたえた結果でありまして当初のコンセプトを置き去りにして、魔法少女的な欲望を果たしたのでありましょう。要するに魔法を使うプリキュアとは妥協の産物であって、プリキュアの中で異端。それが魔法使いプリキュアということになるでありましょうな。これではプリキュアの尊厳が穢され、逆に魔法少女という概念もクリシュと化してしまう。両者は異なるがゆえに並び立てるのに、混ぜて同一化してしまっては称賛すべき他者ではなくなってしまうのであります。嘆かわしいのであります」

 

 なげぇよ。

 

 まあともかくそれはいい。

 

「あのね。嘉穂ちゃんが言うところの魔法を使うには"人気"が必要なんだ」

 

「人気、でありますか?」

 

「そう、人気」

 

「たくさんの人から好かれているという意味の人気でありますか?」

 

「うん。その人気だね。ボクはみんなの人気を集める存在だからちょっと違うんだけど、普通のヒイロゾンビは"人気"によって力が左右されるみたい」

 

「緋色殿は普通のヒイロゾンビとは違うでありますか?」

 

「たぶんね。誤解を与えるかもしれないけど、みんなはボクというインフラを通して力を行使しているみたいな感じというか」

 

「緋色殿がご主人様でありますか?」

 

「ひえ。その言い方はちょっと怖い気がするからやめて」

 

「緋色殿に支配されているような感覚はないでありますが」

 

「支配してないもん」

 

「信じるであります」

 

 まあボクが洗脳系の能力を常時使っていたとしたら、もはや気づきようもないんだけどね。

 

 ボク自身の視点で考えても、他人がどう考えているかなんて外形的な行動から類推するしかないんだから、他者のこころや魂を信じるしかない。

 

 独我論の解法は、信じることです。

 

「ヒイロゾンビは世界にどれくらいいるのでありますか?」

 

「どれくらいだろう。命ちゃん」

 

 ボクは離れて、じっと座っていた命ちゃんに聞いた。

 

「50万人から数100万人くらいでしょうか」

 

「え、そんなにいるの?」

 

 思ったよりも多いな。ボクのヒイロゾンビソナーだと、1、2、いっぱいって感じで、もう追いきれなくなってたけど、考えてみれば一国2000人が基本とか言ってたから、そんなもんか。

 

 2000人×200国で40万人はいるわけだし。

 

 多いのか少ないのかよくわからないな。

 

「わたしも人気者になれば魔法が使えるのでありますね」

 

 嘉穂ちゃんは納得した様子。

 

「そういうことだね」

 

「けわしい道な気がするであります。わたしはこんなでありますから、クラスのみんなには腫物を触るかのように応対されていたであります。正直、ぼっちだったであります」

 

 ずぅんと落ちこむ嘉穂ちゃん。

 ここにもぼっちさんがいたよ。

 

「いまは個性の時代だから大丈夫だよ」

 

「そうでありますか?」

 

 すがってくるような視線だ。

 小動物系でかわいらしい顔立ちをしているんだけどな。

 ちょっと濃いけど……。

 

「配信者になったら人気でるんじゃない? アイドルは個性が命っていうし」

 

「個性でありますか。確かに自分はちょっと個性的かなぁと思ったことはあるであります」

 

 めっちゃ個性的だと思うけどね。

 アニメ口調は、わざとだとしても。

 

「ちなみに人気者だったヒイロゾンビが炎上とか起こしたらどうなるでありますか?」

 

「うーん……。命ちゃんどうなるの?」

 

「力を失うのではないかと思いますが、人気が急落した例がないのでわかりません」

 

 確かにね。

 

 ヒロチューバーの皆さん方を見る限り、やっぱり先行組が強い。

 あの空母に乗っていた子どもたちは、尊貴な方々のご子息ご息女なので、それはそれは炎上などしないように周りも気を配ってるに違いない。

 

 あとは、町の何人かが人気が出てるみたい。

 でも、超能力を使うほどにはいたっていない。そもそも急落するほどの人気の絶対量が足りない。

 一気にヒロチューバーが増えすぎたせいで、人気が分散してしまってるような印象。

 数名のヒロチューバーだけに人気が集中してしまって、その他がほとんど人気を得られなくなってしまう。世の中ではよくあることだ。

 

「ところで、ゾンビハザードが起こったのが去年というのはどういうことでありますか」

 

「嘉穂ちゃんがヒイロゾンビになったということにも関係するんだけどね。本題はそこなんだ」

 

「本題でありますか」

 

「うん。言葉にすれば簡単なことなんだけどね。嘉穂ちゃんはゾンビになっていたんだよね」

 

「記憶にないのでなんとも。ただ、話を聞く限りではそうなのでありましょうな。感謝の言葉しかないのであります」

 

「うん。それはいいんだけど――、嘉穂ちゃんはちょっと特殊な状態でゾンビになっていたんだ」

 

「特殊な状態でありますか?」

 

「うん……」

 

「それはいったい?」

 

 得体のしれない緊張感が高まっていく。

 

 ずももももも。

 

 ぷは。限界。

 

「生首です」

 

「生首でありますか?」

 

「うん。嘉穂ちゃんは生首状態で発見されました」

 

「そんなバカな! で、あります……」

 

 驚いて大きな声を出す嘉穂ちゃんだけど、徐々に声のトーンが下がってきた。

 

「本当だよ。ゾンビになった後かなる前かなった後かはわからないけど、嘉穂ちゃんは誰かに首を切断されたんだと思う」

 

「わたし誰かに殺されたのでありますか?」

 

「可能性は高いかな。いまのうちにびっくりするかもしれないから言っておくけど、冷蔵庫の中に嘉穂ちゃんっぽいものが少し残ってるよ」

 

 大きな肉の固まりは浅黒く腐っていても、ちょっとは残っていた。

 腐って落ちた肉は液体化して下にたまっていた。

 

 もう男か女かもわからないほどよくない状態だったけど、状況的にはたぶん嘉穂ちゃんだろう。

 他人の身体との入れ替えトリックとか考えられなくもないけど、そうする意味がわからないしね。

 

「みてもいいでありますか」

 

「どうぞお好きに。でもグロ注意です」

 

「緋色殿の言葉を信じないわけではないのでありますが、どうにもわたしの意識では、ついこの間まで夏休みにどんなアニメを視聴しようとか、聖地巡礼をどうしようか考えていたワクワク感しか残ってないのであります」

 

「うーん。記憶が残ってないのは困るね」

 

 記憶というのはパーソナリティの大きな部分を占めるからな。

 

 嘉穂ちゃんと連れ立ってキッチンに向かい、例のお肉を見せる。

 

「うわぁ……うわぁ……ダメでしょこれ……」

 

 素っぽい言い方になってるのは、さすがに衝撃的だったからだろう。

 ハエとかの虫がたかってないのがせめてもの救いだ。

 

「わたし、殺されるようなことをしたのでありましょうか」

 

「それはわからないな。何か覚えてない?」

 

「いえ、なにも……」

 

 息詰まる捜査。行き詰る捜査。

 とりあえず、ボクは探偵役にはなりえないので、命ちゃんをじっと見る。

 

 命ちゃんはそっとため息をついた。

 

「パンタ・レイですね」

 

「パンダ? なにそれ」

 

 パンダが光線を撃つイメージが脳内で展開された。

 

「万物は流転するという意味です。聞いたことありますよね。先輩」

 

「おお、確かに聞いたことがあるよ!」

 

 ギリシャかどこかの哲学者がそんなことを言ってた気がする。

 

 万物流転か。

 

 変わらないものはないって思想だよね。

 

 世の中のあらゆるものは移り変わっていく。ボクらもそうだ。

 変わらないのはノーマルゾンビくらいかもしれない。

 

 しかし、命ちゃんの思考はあいかわらず速いな。

 

 つまり、どういうことだってばよ。

 

「つまり、春日居さんが殺されたのは、この家の住人がいないことから考えて、ゾンビハザード後だと考えられます。そうすると人間の日常的思考も変わっていたと考えられるわけです」

 

「万物って人間の常識とかそういうのも含むってことか」

 

「そうです。春日居嘉穂さんが誰かに殺されたという前提を飲みこむとして、ふたつの仮説が成り立ちます。犯人が殺すような性格に変わった。あるいは嘉穂さんが殺されるような性格に変わった。ホームセンターでの出来事を経験している先輩ならおわかりですよね」

 

「おわかりです」

 

 普通の人っぽい人が、ゾンビハザードの恐怖にタガがはずれて、凶行に及ぶさまをボクは何度か見てきた。わかりやすい暴力が幅を利かせ、殺人をしてでも自分が生き残る道を探る。

 

 例えばの話、ゾンビに追いかけられるときに友人を転ばしてでも自分が逃げるなんて選択もありえるかもしれない。

 

 非日常の中でどんな選択をするかはそのときになってみないとわからないんだ。

 

「命殿は頭がいいのでありますな。さしつかえなければ、わたしのことは嘉穂と呼んでもらえれば幸いであります」

 

「わたしはあなたがゾンビ禍のあと狂人になった可能性を提示してるんですよ?」

 

 命ちゃん、超クール。

 でも、その可能性もあるかもしれない。

 いまは天真爛漫って感じで、妙に人懐っこい嘉穂ちゃんも、ゾンビハザードが起こったあとに、ヒトが変わったようになって――、それで誰かに反撃されて殺されたなんてことも考えられる。

 

「ん。そうでありますな。記憶がないからなんとも言えないでありますが、人間いざとなったらどうなるかわからないというのは確かにそのとおりだと思うであります。だから命殿の考えはまちがってるとは思わないであります」

 

 当たり前のように嘉穂ちゃんは頷き応えた。

 

「……まあ、嘉穂さんの場合は、狂人になった線は薄いと考えられます」

 

 おう。てぇてぇな。

 さりげに嘉穂ちゃん呼びになってるよ。

 命ちゃんはクールだけど、敵認定しない子には基本やさしい。

 

「どうしてそう思うのでありますか?」

 

 少し不安げに嘉穂ちゃんが聞いた。

 

「やはり綺麗に嘉穂さんが包まれていたからですね。嘉穂さんが狂人化して人を襲い、反撃されて殺されたのなら、綺麗にしまわれているということはあまりないように思います。もちろん、愛憎相半ばという線もなくはないですけどね」

 

「なるほど……、つまり犯人のほうが狂っていた線が強いと考えられるわけですな」

 

「冷蔵庫に入っていたことから考えても、食人された可能性は強い。相手を食べるというのは執着の最たるもの。つまり所有欲の極限であるから――、嘉穂さんは誰かに偏執的な愛情を向けられていたのではないかと考えられます」

 

「執着でありますか」

 

 嘉穂ちゃんがアワアワしている。

 殺された恐怖を今になって実感してきたんだろう。

 いや、正確には殺されて食べられるほどの執着に恐怖したんだ。

 それはさながらストーカー被害にあったものの何倍も怖いだろう。

 

「その嘉穂ちゃんを食べちゃった人がいるとして、どうしたらいいかな、命ちゃん」

 

「これもまた万物流転といえるのですが、今の世の中は先輩のおかげで秩序を取り戻しつつあります。このまま宛てどころなくさまよっても、いつかは元の日本のように本人確認がされる時代に戻るでしょう。長くて数年短くて数か月といったところでしょうか」

 

「ふむふむ。どこかのコミュニティにヒイロゾンビですって言って登録しなおしてもらったほうがいいってことだね」

 

「そうですね。ただ――、秩序が回復してきているとはいえ、嘉穂さんが殺された理由はわかりません。例えば歪んだ食欲のようなものが理由だとすれば、こちらは犯人がわからないのに、犯人は嘉穂さんを"おかわり"できる可能性がでてくるわけです」

 

「ひええええ、であります」

 

 嘉穂ちゃんがふるえてる。当たり前だ。

 

「命ちゃん言い方」

 

「すみません。適切な言い方がわかりませんでした」

 

「でも、命ちゃんの言うとおりか。単に人間のコミュニティに戻るだけだと、嘉穂ちゃんが危ないかもしれないってことだね」

 

 嘉穂ちゃんのこれからを考えると、このままだと危険だ。

 警察機能もいずれは回復するだろうけど、ゾンビハザードから時間が経過した後のことだ。

 当然、証拠も散逸してしまっているだろうし――。

 このマンションをあらかじめ保全しておくぐらいが関の山か。

 

「ボクたち、このマンションをでたほうがいいかな」

 

「指紋とか残ってる可能性はありますね。元の住民のものとわたしたちのものを差し引けば、おそらく犯人の可能性が高いでしょう。犯人が複数犯という可能性もありますが」

 

「いろいろ考えると難しいな……」

 

「わたしとしてはお姉ちゃんが生きているかが気にかかるであります」

 

「もともとお姉さんといっしょに暮していたの?」

 

「そうであります。お姉ちゃんとわたしは年が離れておりまして、親がいなくなってからは、お姉ちゃんは仕事をしながらわたしを育ててくれたであります。生きているなら会いたいであります」

 

「それは危険かもしれませんよ」と命ちゃん。

 

「どうして?」とボク。

 

 命ちゃんが、ボクを見つめ口を開きかける前に、嘉穂ちゃんがニコリとほほ笑んだ。

 

「命殿は、姉が犯人である可能性もあると言っておられるのですな。ですが、それはないと思うであります。それにお姉ちゃんに食べられるのなら、それでもいいと考えるであります」

 

 な、なるほど……。

 

 冷静に考えれば、いっしょに暮していたお姉さんが犯人である可能性もあるのか。

 でも、その可能性を嘉穂ちゃんは一顧だにしなかった。

 

 姉妹愛てぇてぇ……ってやつなのか。

 家族なんだよな。家族愛を信じる子は強い。

 

「じゃあ、お姉さんを探しに、ここの場所から近くのコミュニティに行くってことでいいかな」

 

「そうですなぁ……」

 

 嘉穂ちゃんは立ち上がり遠く眼下を望む。

 

 嘉穂ちゃんとしてはお姉さんが犯人ではないという確信はあるけれども、それ以外の誰かに殺されたということになるわけだから、姉を探しに行くのは犯人に見つかる危険な行為なわけだ。

 

 お姉さんがすでにこの世にいない可能性もある。

 

 そんな恐れから、嘉穂ちゃんは疲れたような表情になっていた。

 

 ボクには探偵役は向いてない。

 それどころか、せいぜい小学生配信者くらいが限界という悲しみ。

 宗教とか政治とか探偵とかについては、正直なところクソ雑魚なめくじだった感は否めない。

 ただ配信だけはそれなりにレベルアップしてきたと自信があります。

 

 配信、だけなら――。

 

「あ」

 

「どうしたでありますか」

 

「いい手があったよ。嘉穂ちゃんも配信すればいいんじゃない?」

 

「でありますか?」

 

「そうだよ。いまの時代、てっとりばやく人気をとる方法は配信だからね。嘉穂ちゃんが人気者になれば、魔法みたいな力も使えるようになるし、並みの人間では勝てなくなるから」

 

「しかし、それでは人気者になる前に犯人にみつかってしまう可能性があるのでは?」

 

「ふっふっふ。バーチャルな存在になればバレないよ」

 

 ボクの配信は最初バーチャルなほうで始まっている。

 アニメ風に投影されたアバターはもともとの容姿を隠してしまう。

 

「声はどうするでありますか?」

 

「アニメ声を出せばいいと思うよ。なんならボイスチェンジャーを使うという手もあるし。ただ、ボイスチェンジャーはどうしても音質が悪くなるからお勧めできません」

 

 なんてすばらしい考えなんだろう。

 天才の命ちゃんを凌駕した優越感。

 そんな視線を飛ばしてみると――。

 

「でも先輩。バーチャルな存在で身バレましたよね」

 

「でありますか?」

 

 あ、嘉穂ちゃんの口調が移っちゃった。

 

「バーチャルな存在で、ある程度シールドできるのは確かですが、絶対ではありません」

 

「そうだね。でも、このままだと嘉穂ちゃんが危ないし」

 

「そうですね。バーチャルヒロチューバーになるのは、悪くない手だと思います。ただ、隣で先輩が嘉穂さんをご紹介するわけですよね?」

 

「うん。ボクが紹介すれば、とりあえず見てみようかなってなる人多いと思うし」

 

「わずかばかり公平性に不満を感じる人がでてくるかもしれません」

 

「いいよ。それでボクがちょっと嫌われるくらい」

 

「嘉穂さんにも嫉妬する輩がでてくるかもしれませんよ」

 

「敵を作る可能性はあるにしろ――、ボクが庇護すれば大丈夫」

 

「わたしも嫉妬で気が狂いそうです」

 

「そっちかよ!」

 

 命ちゃんが言わなかったのって、もしかしてそれが理由なの?

 

「先輩が考えてるとおりです」

 

 人の命がかかってるんだけど。

 

「正直なところ、先輩とイチャイチャするほうが何倍も大事です」

 

 ボクの脳内と会話するのやめてほしい。

 

「命殿は緋色殿のことが好きなんでありますな」

 

 嘉穂ちゃんのほうが年下だけど、余裕があるみたいだ。

 

 クスっと笑ってる。

 

 見た目、女の子どうしで、ボクは小学生みたいだから、オママゴトみたいに思われてるのかもしれない。

 

「心配しないでも、命殿から緋色殿をとったりはしないでありますよ」

 

「その言葉、信じますよ」

 

「命殿はかわいいでありますなぁ」

 

 まあ確かに。

 拗ねて目を伏せながら髪をいじいじしてる様子はかわいらしい。

 いつだって命ちゃんがかわいくなかったときなんてないけどね。

 

「で、嘉穂ちゃんとしてもそれでいい?」

 

「もちろん、わたしとしては否はないであります。しかし、わたしはさっきも言ったとおり、クラスの人気者とはいいがたい存在だったのであります。うまく配信できるか自信がないであります」

 

「それは大丈夫。さっきも言った通りボクが守るからね」

 

「おお。見た目小学生の美少女に守られるとか、役得でありますな」

 

「守るって言っても、たいしたことじゃないけどね」

 

 つまり、ボクは初のプロデューサーになるのだ。

 Pになって、嘉穂ちゃんを人気ヒロチューバ―に育てあげるのだ。

 配信にはすっかり慣れ切ってしまったボクだけど、他人をプロデュースするのは初めてだ。

 どんなふうにすればいいかわからないけど――。

 犯人とかそっちのけで、オラ、ワクワクしてきた。

 よーし、がんばるぞ。




遅くなりました。

理由としてはシヴィライゼーションというゲームが無料でダウンロードできるようになっていたので、ダウンロードしたところ、時間という時間をあっという間にザンギエフの投げ技並みに吸い取られたためであります。

あれは本当に恐ろしいゲームです。

ひとまず一週目をクリアしたので、しばらくはゲームは封印して書くほうに力を入れるつもりです。

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