あさおん・オブ・ザ・デッド   作:夢野ベル子

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ハザードレベル36

「ご、ご主人様が男の方を拾ってくるなんて……ガーン」

 

 すごい勢いで飛び出したから、さすがにバレてるかなと思ったけど、案の定、飯田さんと戻ってきたら、マナさんと命ちゃんはボクの部屋で待っていた。

 

「マナさん。この人は飯田さんっていって、ボクの友達なの」

 

「おうふ。ご主人様の瞳がキラキラしてて、本当に友達だと思っているのが伝わる」

 

「いやはや、失礼いたします。あ、命ちゃんも久しぶり」と飯田さん。

 

「お久しぶりです。飯田さん」

 

 命ちゃんは飯田さんに対する警戒というか緊張が少しだけはあるみたい。

 この子はそもそも男の人が苦手だからしょうがない。

 でもこれでも飯田さんに対する態度は軟らかいほうだ。きっと、ゾンビ的な連帯感が支えているのかもしれない。一通り互いの紹介を済ませて、ボクはおもむろに口を開く。

 

 議題は当然、飯田さんに住んでもらっていいか。

 同棲じゃないよ。同じアパートにね。飯田さんの家はご近所なので、ゾンビに襲われなくなった飯田さんはべつにそのまま元の家に住んでもらってもいいとは思う。

 

 でも、ちょっとでも近くに住んでもらいたいなー的な?

 ごく普通の感情だよ。恋愛とかそういうんじゃないからね。世界がゾンビだらけになったせいで、経済的負担はゼロだし、ボクたちは無限に物資を調達できるから、人間のようにせっぱつまった状況じゃない。ただ、ボクはわがままにもボクが好ましいと感じる人に近くにいてほしいだけ。

 

 それだけなんだ。

 飯田さんもいいって言ってくれたし。

 

「えーっと。マナさんも命ちゃんもいいかな。飯田さんにはこのアパートに住んでもらおうと思うんだけど」

 

「ご主人様が求めておられるのでしたら、それでいいと思いますよ」

 

 わりとあっさりなマナさん。

 ボクのことをご主人様というだけあって、強く言えば大丈夫だと思っていたけど、本当にあっさりだ。大丈夫なのかな。内心は嫌だってことないかな?

 

「本当にいいんだね。飯田さんは実際には男の人に見えるけど実は女の子だったとか、そういうことじゃないんだよ」

 

「あのですね。さすがのわたしも雄んなの子は厳しいものがあります~」

 

「おんなのこ?」

 

「男の娘の逆で、姿かたちは男の方に見えるけれども実は性別女性という属性のキャラです」

 

「聞いたことないな」

 

 男の娘っていうのはわりと有名だよね。

 

 美少女という外貌に男という属性を付加したのが男の娘。

 その逆が雄んなの子ってことか。それってボーイッシュとかそういうこと?

 

「わたしが思うに、美少女というのは性別ではないのです」

 

「え、少女って言うからには女の子限定なんじゃ?」

 

「違います。美少女っていうのは妖精さんなんですよ。性別なんて凌駕してます。ご主人様みたいな容貌の方を美少女っていうんです。つまり、もしも仮にご主人様の性別が男の子さんであって、男の娘であっても美少女です。わたしは美少女が好きなのであって女の子が好きなわけじゃないんですよ」

 

 うーむ。美少女美少女と連呼されると、むずがゆいような気分になってしまう。

 

「つまり外見重視ってこと?」

 

「ルッキズムなんて、みんなそうですよ。わたしはただ……、ご主人様の愛くるしいおめめとか、ほっそりした腕のラインとか、ちっちゃくてぺろぺろしたくなるあんよとかが大好きなだけの変態さんです」

 

「それって一般的に言うところのロリコンなのでは?」

 

「そうとも言う」

 

「実をいうと、飯田さんもロリコンなんだよね」

 

「恐縮です」

 

 いや恐縮されても意味がわからんような。

 

「私も緋色ちゃんの神秘的な髪の毛とか、月の女神様が小さくなったような貌つきとか、父性を刺激するような愛くるしさとか、そういうのが好きでたまらないですね」

 

 飯田さんもロリコンらしく、ボクの容貌を褒めてくれた。

 とてつもなく恥ずかしいような。

 

「ご主人様の爪ってかわいいですよね。ネイルアートをしているわけでもないのに貝殻みたいにちょこんって指に載ってるみたいで。写真で指先だけ見せられても、あ、この子美少女だってわかる自信があります」

 

 ボクは猫みたいに手を握って爪を隠した。

 マナさんってそんなところまで見ていたんだね……。

 

「緋色ちゃんって、なんというかとてもバランスがとれていると思う。黄金の比率というか、成長しきっていない未成熟な身体なのに、とてつもなく均整がとれていて、総合的に勘案しなければ到底推し量れないような、さりとて印象批評で収まらない芸術的な価値があるように感じる」

 

「ご主人様のおみみとかすごくかわいらしいです。いつかおみみの垢をとってさしあげたいなーと常々思っているんですけど、特に外耳の部分を優しく綿棒でなぞってあげたい」

 

「目に見える少女という形だけにとどまらず、それが生命ある存在として躍動するときに、とてつもない感動を覚える。例えば、なにげなく伸びをするときに見える脇とか、白く軟らかい平面体がゆらゆらと動くときに、私はとてつもない戦慄を覚えたものだ」

 

「ご主人様の鎖骨がエロい」

 

「緋色ちゃんがときどき自分の髪の毛を持って、自前でツインテールを作ったりする様子が、とてもほほえましい」

 

「猫耳パーカー着てたときには死にそうになりました。感動しすぎて」

 

「私もそうなりました。緋色ちゃんが画面内にいるという感動もありましたが……」

 

「わたしたちとても仲よくなれそうですね」

 

「いやはや恐縮です」

 

 ボクをつまみに、謎のロリコン談義を始めるふたり。

 なんだろう。とてつもなく恥ずかしいんだけど。

 

「あの先輩」命ちゃんにフレアスカートをつかまれた。「私は先輩が好きなのであって、この人たちみたいにロリコンじゃありませんからね。いわばヒロコンです」

 

「それも意味わかんないんだけど」

 

 とりあえず、飯田さんがアパートに住むことになりました。

 場所は一階です。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 引越しというほどのこともなかった。

 

 飯田さんの家はべつにそのままにしておいてもよくて、そのお家からパソコンとか愛用品を車に乗っけてきて適当に配置しただけ。

 

 飯田さんのお家にも一応ついていったけど、ボクと同じような安アパートだったよ。

 案の定というかなんというか、みんないなくなっていたけど……。

 

 人にも会わなかった。

 行きかうはゾンビばかりってね。

 

 さてお引越し完了ということで、ひと段落ついたあと。

 

 ボクは飯田さんと話したいことがあるって言って、命ちゃんとマナさんには部屋に帰ってもらった。

 

 ふたりきり。

 

 ボク自身は飯田さんがいくらロリコンだとはいえ襲われる心配とかは考えてないけど。命ちゃんとマナさんが素直に帰ったのは、ヒイロウイルス感染者はボクに本質的には所有されていると考えているからかもしれない。

 

 そんな気はないけど、そうなってしまっているというか。

 

「飯田さーん」

 

 椅子に座って、ノートパソコンの設定をしていた飯田さんの背中にべったりとのっかかるボク。

 なんというか大きくて安心感あるよ。

 ロリコンだけどね。

 

「おうふ。緋色ちゃん。私はロリコンなのだから、その技は効く……」

 

「あのね。いくつか聞きたいことあるんだけど」

 

「ん。なにかな?」

 

 くるりと椅子を回転させ、ボクに向きなおる飯田さん。

 

 ボクは適当にベッドに腰掛けた。

 

「えっと……、まず飯田さんの精神状態なんだけど、ボクに逆らえないとか、ボクの言うことはなんでも聞かなきゃとか思ってないよね?」

 

「うーん。特にそういうのは感じないな。しかしそれは確かめようもないと思うんだが。例えば、君は私の腕をあやつって自らの首を絞めるということはできるだろうが……、それは物理的にコントロールできるということを示すだけで、私の精神の自由とはなんら関係がない」

 

 そう、そのとおり。

 ボクが何を言ったって、そういうふうにボクの無意識が言わせている可能性があるんだ。

 でも、飯田さんのクオリアをボクは感じてるけどね。信じてるとも言う。

 

「ただ――」

 

「ただ?」

 

「君の動画を見つけたのはたまたまだとは思うんだが、ほんの少しなんとなく導かれるようにクリックした感じはしたかな」

 

「飯田さんに会いたかったからね」

 

「おもはゆいな。私も君に会いたかったよ」

 

 かぁぁぁぁっ。って顔が赤くなる感じ。

 くそう。ボクも照れくさいよ。

 

「あとね。もうひとつ聞きたかったことがあったんだけど……」

 

「ん。なんだい」

 

「その、ボクの配信を見てどう思った?」

 

「どうとは? 普通に面白かったよ」

 

「ボクは、あのホームセンターで人間ってなんて自分勝手なんだろうって思ったんだ。でも、だからってみんながゾンビになれなんて思わない。それは雑すぎる意見だし……人間には人間の論理があるだろうから。人間の気持ち。感じ方。今のゾンビがあふれた世界をどう思ってるのか。そういうのが聞きたくて配信を始めたんだ」

 

「うーむ。緋色ちゃんがかなり人外マインドしてるな」

 

「え? そうなの?」

 

 自分ではそうは思ってなかったんだけど。むしろ、すごく人間よりな考えというか。

 だって、人間って、自分のことを棚にあげて、『人類滅べ』とか『人間なんて所詮そんなもの』とか言うじゃん。

 それと何が違うの?

 

「まあ、緋色ちゃんの考えは置いておいて、ホームセンターでのみんなの行動は確かにエゴが強くあらわれてたかな。生死がかかってるから当然だろうと思う。おそらくみんなゾンビだらけの世界じゃなければ、ああいう結果にはならなかっただろう」

 

「そうだね。ボクもそれは思った。あのホームセンターでの出来事は、あまりにも特殊すぎて、それが人間だって言い切るのちょっとどうかなって思ったんだ。もっと、人間らしい人間に触れたかったというか。だから配信をしてみたの」

 

「ネットも物理も陸続きの世界ではあるわけだから、私はどちらも同じ人間だと思うよ」

 

 銃を握った人間の顔。

 憎しみや怒りでゆがんだ顔。

 それらを思い浮かべると、配信でワイワイやってるみんなと同じ存在だとは思えない。

 

 肉体的な接触がそういうふうにゆがめてしまうのかな。

 つまり、暴力でどうにかできてしまうという距離感が人間をいびつにするのか?

 

「どれだけ手を伸ばしても触れられないという距離感は逆に救いなのかもしれないな」

 

 飯田さんが手を伸ばす。

 ベッドに座っているボクには手が届かない。

 ボクも手を伸ばしてみたけど。やっぱり届かない。それはそれで寂しい。

 マナさんが言うように、ボクはみんなとの摩擦もほしい。みんなとのつながりを感じたい。

 だからボクは思っていたことを素直に告げることにした。

 

「あのね。おじさん……」

 

 飯田さんは優しくうなずいてくれる。

 

「ボク、ピザーラお届けしたいんだけど」

 

「は?」

 

 

 

 ☆=

 

 

 

「つまり緋色ちゃんは視聴者のぼっちさんに対してピザをお届けしたいと」

 

「う、うん。そういうこと。もちろん、ただの自己満足だってことはわかってるんだ。でも、ボクのことを好きだって言ってくれる人がおなかすいているかもって考えると、なにかしてあげたいなって思ったんだ。しないほうがいいかな?」

 

「触れられる距離に近づくというのは、それだけ危険も増すということだよ」

 

「それはわかってる」

 

 あのホームセンターのように、暴力が届く範囲に近づくということは、同じように人間の見たくない部分も見てしまうかもしれない。

 

 薄く引き伸ばされた繋がりくらいが、一番洗練されていて人間の理性を感じ取れる絶妙な距離なのかもしれない。

 

「ボクは人間にベタベタ触りたいだけのビッチなのかな」

 

「ロリビッチとか最高か」

 

「え?」

 

「あ、いや。真面目な話をすると……、君が好かれようと思ってそうするのなら、それは偽善だけれども、偽善も心のうちを見せずに一生抱えていけば善だというのが私の信条だな。飢えた人に対して、エサをやるような気分で食事を与えても、廃棄処分予定の弁当をただ与えてるだけに過ぎなくても、その内心を見せずにただ施しを続けたら、その人は聖人と呼ばれるようになるだろうし、誰も傷つかないならそれでよいと思う」

 

「うん。ありがとう。飯田さんはやっぱりいい人だね」

 

「それぐらいしかとりえがないと言われたこともあるよ……」

 

 いたたまれない。

 

 でも、飯田さんの言葉でボクの意思はかたまった。

 

 やっぱり、ぼっちさんにピザをお届けするんだ。完全な自己満足だけどね。それに、ボク自身の人外ムーブも結構極まってきてる感じがするから、ちょっと危険な感じもするけど。

 

 ゾイの構えで。

 

「やるぞ」

 

「わたしも手伝おう」

 

「え? 手伝ってくれるの」

 

 飯田さんはニヤリと笑った。

 

「こう見えて、仮面ライダーにはあこがれていたんだ」

 

 

 

 ★=

 

 

 

 ぽんぽん減った。

 ああー、腹減った……。減ったよ……。

 腹が減ると人間みじめになる。そのことを骨の髄まで痛感した。僕の自尊心はすりきれてミイラみたいにひからびている。

 

 もう乾パンも食い尽くしたし、他の食糧も食べつくした。

 水だけで既に二日過ごしている。糖分が足りなくてもともとガリガリだった身体はスカスカの寒天のようになってしまった。

 水で空腹をごまかそうとした結果、下痢になった。

 それでまた体力を奪われた。

 

 六畳一間の小さな部屋には、僕以外の誰もいない。

 こんなことなら、誰か友人を作るべきだったかもしれない。でも無理だっただろう。隣人と話をしたことすらない僕だ。小学生のころから陰キャで、高校生のときから便所飯を極めていた。そんな僕が誰かと友人になるなんてできたとも思えない。

 

 つまり――、結末はいつだって因果応報で。

 自業自得としかいいようがない。

 

 わかっている。わかっていた。いままでは仲間とつるんだり、友人と馬鹿騒ぎやってるやつらを横目に見ながら、あいつらのようになりたくはないと思っていたから。

 

 僕はあいつらとは違うという言葉を魔法のように唱えて、ちっぽけな自尊心を満足させていた。

 

 中学生のころ、近所のツタヤで魔法少女のアニメを借りていたのをクラスメイトに見つかって、僕はさらしあげの対象にあった。あいつ変態なんだぜ。マジキモイんですけど。

 

 近づくなよロリコン。

 

 へらへらと笑いながらクラスメイトの誰かが言った。みんなが同じように僕を嘲笑の対象とした。

 

 べつにロリコンというわけじゃなかった。僕が見ていたのは魔法少女の中でも結構ハードなもので、ストーリーは練りに練られていて、夢見る少女の物語というわけじゃなくて、普通の女児が見ているようなアニメじゃなかった。

 

 それはたぶんクラスメイトのうち幾人かは知っていたと思う。でも、あのときの僕はみんなで弄るには最適で、誰もかばうほどの価値が僕にはなくて、わかりやすい攻撃してもいい対象として『ロリコン』という言葉は共有しやすいラベルだったのだろうと思う。

 

 おまえたちが見ている人気のドラマと、僕の見ているアニメの何がそんなに違うんだ。

 

 そういう憤りもあったけれども、数の暴力にはかなわない。僕の口がいくらうまくてもきっと、大多数を納得させることはできなかっただろうし、そんなものを中学生男子が見るのは変だというみんな視線に僕は打ちのめされた。

 

 僕は変態ロリコンになった。

 だから、誰とも口を利かなくなった。

 

 幸いなことに人間は、年を経るごとに、少しずつ独りでいることを許される。

 小学生のころは集団下校が当たり前だったけれど、中学生からは独りで帰れるようになるし、大学生になればもっと孤独でいることができる。

 

 僕はみんながくだらないコミュニケーションに時間を費やしている間に勉強に時間を割いていたから、それなりにいい大学に合格した。

 

 素晴らしいことに大学生活では友達を作らなくても誰も何も言わない。先生が三人で組をつくってなんて言ってきたりもしないし、どうしてあなたは友達を作らないんですかなんてことも言わない。親とも離れて暮らしたから、人付き合いについてもやかましく言われることもなくなった。

 

 人間は本質的に独りじゃないかと思う。

 だって、人は独りで生まれて、独りで生きて、独りで死ぬじゃないか。

 人は独りでは生きられないなんて言う人がいるけど、ここで僕は現に、現実的に、厳密な意味で

 

――独りで生きている。

 

 そのリアルに裏打ちされている以上、僕の論理は絶対的に正しい。

 

 僕は独りで生きて、誰とも結婚せずに、老いて好きなアニメを見ながら死んでいくのだろう。そう思っていた。

 

 でも僕の死は思っていたよりも早いらしい。避難場所に行くだけの体力は残っているとは思えない。

 

 ふと、僕はあの殺してしまいたいほど憎悪したクラスメイトたちのことを思い出す。

 僕のなかで捨象した級友どもを思い出す。

 あのときのクラスメイトはどこでなにをしているのだろう。

 みんなゾンビになってしまったんだろうか。

 

 誰でもいいから人に会いたかった。

 

 僕はひとりぼっちのまま死んでいく。

 ひとりで終わっていく恐怖に心が引き裂かれそうになる。

 僕は畳に爪をたてた。寂しくて心が痛い。

 

 動画の配信で顔も知らない人とワイワイ騒ぐのは、きっと誰かと会いたかったからだ。

 

 いままで要らないと決めつけてきたもの。

 人は誰かが傍にいないと生きていけないんじゃないかと思ったからだ。

 

 終末配信者のヒーローちゃんは、僕にとっては本当に救世主みたいなものだった。

 誰とも繋がれなかった僕が、みんなといっしょになって馬鹿騒ぎしてるみたいで。

 終わっていく世界が、廃園する遊園地みたいで。

 最後に光りかがやいている観覧車みたいで。

 

 寂しくて痛いほど寂しくて綺麗に思った。

 

 

 

 

 

 おなかすいた。

 

 

 

 

 

 畳の上をさながらゾンビのように這いずり、僕は最後の力を振り絞って立ち上がる。

 

「あーあ、これで終わりか……」

 

 きっと、餓死は僕には耐えられないだろう。僕の精神がその前に崩壊してしまう。

 ゾンビになるのとどっちが苦しいかなんて、馬鹿な考えが思いついてしまう。

 

 だから――、

 僕がガスの元栓を開けても、しかたないと思ってください。

 

 ある意味、これは最後の賭けなのかもしれない。

 

 人生最後の賭け。

 

 次第に充満していく一酸化炭素。

 空気よりも軽いそれは畳につっぷしている僕の身体にゆっくりと染みわたり意識を混濁させる。

 

 つまり僕は。

 

 僕が死ぬ前に――。

 

 一酸化炭素が部屋に充満する前に、見知らぬ愛らしい女の子が「お兄ちゃん♪」って 玄関からお邪魔してくることに、生死を賭したのだ。

 

 ・

 

 ・

 

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 マジで来ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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