あさおん・オブ・ザ・デッド   作:夢野ベル子

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ハザードレベル37

 前回までのあらすじ。

 まあなんやかんやあって、視聴者さんのひとり【ぼっち】さんの下に向かうボクでした。

 

 ちなみにドアの前でかわいらしく「お兄ちゃん♪」と呼んだのには理由がある。

 ゾンビだらけの世界で、ボクも体験したことだけど、ドアベルを鳴らす存在は思ったよりも怖い。

 まずはゾンビがまちがって押した可能性があるし、そうでなくても襲撃してきた人間が油断させるために、呼び鈴を鳴らした可能性があるからだ。

 

 いや、誰も来るはずのないひとりぼっちな存在なら……、そもそも誰かが来るという可能性自体が低く、だから本能的に怖いということが考えられる。ボクがそうでした。

 

 だから、あえての「お兄ちゃん♪」

 こんなにもかわいらしい妹声で呼ばれたら、ほいほいドアを開けること必至。

 ボクは相手を油断させるために擬態したのである。

 

 恥ずかしくなんかない。

 

 でも――。

 

「あれ? 反応なくない?」

 

 ボクはおかしいなと思って振り返る。

 

 そこには、フルフェイスヘルメットをかぶり、黒いライダースーツに身を包み、やたらとハァハァと息の荒い飯田さんがいた。夏の陽光で蒸れてるんだろうなぁ。

 

 なぜそんな恰好になっているのかというと、物理的に人に会うんだし、とりあえずボクを守るためらしい。確かに威圧感がすさまじい。

 

 そんな飯田さんが小首をかしげる。

 まるで化け物がボクというか弱い生物を品定めしているようだ。

 

「ハァハァ……」

 

「開けてみようかなー?」

 

「ハァハァ……もうここまできたんだし、緋色ちゃんの好きにするといいよ」

 

 んー。

 とりあえず、鍵開けちゃおうか。

 もし鍵をぶっこわしたところで、ゾンビが入ってくることはない。

 コミュニケーション(物理)を敢行しよう。

 

「お兄ちゃん♪」

 

 ばきっ。

 そんな感じで、ドアを無理やり開けてボクは中に入った。

 とたんに感じる異様な臭気。

 

「くさっ」

 

 なにこれ?

 変なにおい……。

 

 そして畳につっぷしている男の人。

 

「緋色ちゃん。ガスだ!」

 

 ボクと飯田さんはあわてて部屋の窓を開け放った。

 幸いなことに男の人の意識は若干混濁しているものの、脈のほうはまだはっきりしていて命に別状はなさそうだった。

 もしも一分でも遅れていたら大変なことになっていただろう。

 

 うーん。

 やっぱり見えないところで、こうやってゾンビになってしまう例もあるのかもしれないな。

 それはそれでボクとしてはいいんだけど、やっぱり人間じゃないとボクの視聴者にはなれないから困る。

 

 普通のゾンビだとキーボード打ちこめないし。

 

 とりあえず、ボクは男の人をひざまくらして回復するのを待つことにした。こういうときって頭を少し上げたほうがいいんだよね?

 

「緋色ちゃんのひざまくら。ハァハァ……ふともも」

 

 飯田さんが何か言ってる。

 

 確かにいまのボクはふとももが見えるくらいのミニを履いている。

 それが飯田さん的には何かを刺激したらしい。

 

「されたい?」

 

「されたいです」

 

「考えときます……」

 

「ハァハァ……」

 

 

 

 ★=

 

 

 

 柔らかなマシュマロというか、弾力のあるコンニャクというか、そんな得体のしれない、しかしまったく不快ではないなにかフワリとしたものに頭が乗せられている。

 

 なんだろう――。

 

 ガス中毒になっている僕は意識が混濁していて、手探りでそれをまさぐった。あたまのうえに手をもっていくようなイメージだ。柔らかな曲線。つるつるの吸いつくような手触り。

 

「ひゃ。ひゃん」

 

 なにかすさまじくかわいらしい声が頭上から聞こえる。

 

 仰向け状態だった僕は、ころりと転がりうつぶせに。

 

 冷たくてすべすべしている。クセになる手触り。無限に触っていたい。

 

「あ、あのぉ……なにしてんの?」

 

「ん?」

 

 そして覚醒。

 

 僕が目を見開くと、そこには天使がいた。

 いや――、そう形容せざるをえないほど現実離れした美少女がいた。

 

 髪の毛は月夜に輝く絹糸のようであったし、瞳は宝石のように輝いている。すべての顔のパーツがあるべきところにおさまり、いままで見てきたどんな女の子よりもかわいい。

 

 小さくてかわいい十歳くらいの女の子。

 

 外国人みたいな配色だけど不思議と日本人みたいな顔つきもしている。平均的――というべきなのだろうか。人類の完全平均値。黄金配率がそこにある。

 

 こんなことを言うと、世の女子を敵にまわすだろうが。

 この子が高級フランス料理だとすれば、周りにいた女子はイモの煮っ転がしだわ。

 容姿差別?

 うっせー。思想信条の自由だ。ばかやろう!

 

 それと神様ごめん。

 さっきロリコンじゃないとか独白してきたけど、僕ロリコンだったわ。

 思想信条を変えてロリコンになるわ。

 

 かわいすぎるだろこの子。ああ、かわいい。抱きしめたい。

 でも触れると壊れそうで触れない。

 禁じられた愛だわ。ボンジョヴィだわ。

 

 ってかなんだ? なんでこんな子が僕の部屋にいるんだ。

 確か僕はガス自殺を図り――。

 

 ああなるほど。

 

「ここは天国ですか。異世界転生の準備室ですね」

 

「異世界転生?」

 

「皆までおっしゃられなくてもわかっております。えっと……容姿はオッドアイの超イケメンで、ステータスはとりま全マックス。不老はいいけど不死は逆にコワイしなしの方向で。能力は王の財宝と東方のキャラがもっている程度の能力を創造する程度の能力でお願いします」

 

「……あー」

 

 なんだろう。美少女がジト目になっている。

 そのなまあったかい視線もまた心地よい。

 

「あとできれば、美少女だらけの世界がいいから、艦これとかの世界にいきたいな」

 

「あのね。ぼっちさんはまだ死んでないよ」

 

「え?」

 

「え?」

 

「もしかして、モニタリングですか?」

 

「ちがうって」

 

「それかドッキリ? もしかしてゾンビだらけになったのもドッキリで……」

 

 ほのかな期待感。ひとりぼっちどころかトゥルーマンショウだったというオチ。

 つまり視聴者のみんなに僕の生活は覗きみられていたという話。

 もちろん人権侵害はなはだしいが、それでも僕が心の底から思い知った、畳をかきむしりたくなるような孤独感よりはマシに思えた。

 

 しかし、それはすぐに裏切られた。

 

「それも違います。普通にゾンビはうごめいているよ」

 

「そうですか……。あなたは誰ですか?」

 

「ボク?」

 

 くるりと回転して、かわいい。世界が滅んでもかわいい。

 にこっと笑って、かわいい。ゾンビだらけでもかわいい。

 

「ボクは終末配信者ヒーローちゃんだよ」

 

 速攻で信者になりました。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 ボクは飯田さんに持ってもらっていたピザを受け取り、それを電子レンジにかけた。

 はっきり言おう。ボクの料理スキルはクソ雑魚なめくじだ。ミジンコ並みだ。

 世の配信者が女子力を発揮しておいしい料理を作っていたとしても、ボクにはそれはできない。

 

 だけどさ。

 

 視聴者さんの前で、美少女なボクが作るんならいいでしょ?

 

 ぼっちさんはさっきから畳の上で正座をして神妙にしている。

 もしかして隣りに座ったフルフェイスな飯田さんが怖いのかも。

 

「この人なんですか」と聞いてきたから、護衛って答えたけど、それで納得してくれたかな。

 

 ボクは一見すればかよわい小学生にしか見えないから、ゾンビだらけの世界を闊歩するだけの能力がないように思われる。

 

 そうすると、ぼっちさんに変に思われてしまうかもしれない。威圧感すさまじい仮面ライダー状態の飯田さんがいれば、ああこの人がゾンビを追い払ったんだなって推測が成り立つから、それで相殺しようって考えです。

 

 はい。そもそも会わないほうがいいって話ですね。

 でもいいじゃん。お父さんそれは言わない約束でしょ。

 

 チン♪ と小気味よい音をたてて、電子レンジが鳴る。

 どうやら終わったみたい。

 

「はい。ぼっちさんが食べたがってたピザだよ」

 

 まあそこらのコンビニで冷凍されていたなんの変哲もないピザだけど、乾パンばっかり食べてる状況じゃ、アツアツのピザはそれなりにおいしく感じるはず……。感じるよね?

 

「えっとこれを僕のために」

 

「うん」

 

「どうして?」

 

「えっと、ボクのフォロワーになってくれたでしょ」

 

「あ、うん。そういえば……したような」

 

「ピザ食べたいって呟いてたでしょ」

 

「それだけのことで……」

 

「ボクうれしかったんだ。はじめてフォローしてくれて。はじめて動画配信見てくれて」

 

「だからピザを? こんな危険な世界を僕のために運んできてくれたのか」

 

「ん。まあそんなに危険でもないんだけどね。飯田さんもいるし」

 

「ハァハァ……」と飯田さん。

 

 先ほどから部屋の隅っこで腕を組んで、一言もしゃべっていない。

 

「そういうわけです」

 

 ぼっちさんは愕然としているみたいだった。ピザを食べたいだなんて、そんなことを呟いたのがよほど黒歴史だったのか、顔を伏せて夏なのに冬みたいに震えている。

 

「……まだ冷凍状態だよ。ヒーローちゃん……」

 

「え。嘘? マジで?」

 

 そんな馬鹿な……。ボクの料理レベルはマイナス方向に振り切れてないか?

 ま、まあいいや。通常時の料理は命ちゃんやマナさんにしてもらえばいいし。

 

 ボクが料理を作る必要はない。

 

「ご。ごめん。ぼっちさん。ボク料理がへたくそで……」

 

「はは……固いな……歯がたたないわ……」

 

 すみません。泣くほどまずかったですか。いたたまれないんだけど。

 

 とりあえず、残りのピザをあたためなおした。うーん。ピザつんつんするわけにもいかないし、あそうだ、ちょっと切り分けて食べてみるか。

 

 ちょっとはしたないけど、少し端っこを切り分けて食べてみる。

 うん。おいしい!

 さすがに温めるだけならボクでも余裕だね。さっきはちょっと失敗したけど。

 

「はい。大丈夫だよ」

 

「ありがとう」

 

 

 

 ☆=

 

 ピザを食べてもらったあと。

 

 ボクは畳の上で、あぐらをかいている。まあ、いつもいつもぺたんこ座りだと疲れるんだよ。女の子だからかわいい姿勢ってあるかもしれないけどさ。

 

 ちなみにスカートの構造上、あぐら状態でも案外パンツは見えません。

 

 なんとなく視線を感じるけど、この頃はそれもしょうがないかなーなんて思い始めています。

 はい。

 

「えっと、ぼっちさん。今日は満足してくれた?」

 

「うん。ありがとう」

 

「でさ。こんなんじゃ足りないのはボクだってわかってるんだ。ぼっちさんにはいくつか選択肢があると思う。ボクはそれを全力でサポートするからね」

 

「どうしてここまでしてくれるの? ただヒーローちゃんの動画を見ただけで?」

 

「ヒロ友だし」

 

「いつのまにかぼっちじゃなくなってたんだな……僕は」

 

 また泣くし。

 もしかしてボクって傷をえぐるのがうまいフレンズ?

 ぼっちさん、その名のとおり人付き合いが下手そうだからな。

 

「どうすればいいか教えてほしい」

 

「あのね。選択肢としては二つかな。ぼっちさんはこのままこのアパートに住み続けるという方法があるよ。飯田さんにアパートの目の前にトラックをとめてもらったんだけど、なかには食糧がたくさん入ってる。たぶん、ぼっちさんだけだったら数カ月は持つんじゃないかな。たまには遊びにくるし……」

 

「もうひとつの選択は?」

 

「ぼっちさんがぼっちさんじゃなくなっちゃうけど、どこか人間がたくさんいるコミュニティに向かうのがいいんじゃないかな。大きなところでは町役場とかに集まってるみたい。ボクが安全かつスピーディーに連れて行ってあげるよ」

 

 ボクとしてはどっちでもいい。

 正直なところ数カ月に一回食糧を供給するのはちょっと面倒くさいかもしれないけれど。

 ボクの貴重な視聴者さんを失うわけにはいかないし。

 そもそもゾンビだらけでまともな視聴者さんの母数が少ないし……。

 

 町役場に行って、結局コミュニティが崩壊してゾンビになっちゃうという結末も考えられなくはないけど、そのときはそのときでしかたないとも思ってる。

 

 こう考えてしまうのも、ボクにとってはぼっちさんがゾンビになるのはべつにたいしたことじゃないと思ってるからかもしれない。

 

 だって、ゾンビになっても最悪、ヒイロウイルスをぶちこめば復活できるんだし。

 

 いやもちろん、その人にとってはゾンビになるのは嫌だろうなと思うよ?

 

 そのくらいはいくらボクでもわかります。

 

 マグロはおいしいけどマグロ自身にとってはべつにおいしくもなんともないというのと同じ論理だ。土屋先生もそう言ってる。

 

 でも、ゾンビになればちょっと死んじゃうだけで、耐久性抜群だし、パワーアップできるし、たぶん不死性をある程度は獲得するし、それになによりゾンビにこれ以上襲われることはなくなる。

 

 いいことづくめじゃん。

 

 そんな感じで、どっちでもいいかなと考えていた。

 

 ぼっちさんは少しの間考え、告解する信徒のように口を開いた。

 

「僕はひとりぼっちだったんだ」

 

「うん。それはハンドルネームからそうだろうなとは思っていたよ」

 

「だから人は独りで生きられると思ってた」

 

「今でもボクってわりとそう考えてるけど」

 

「でも、ヒーローちゃんが来てくれて考え方が変わったよ。人は独りで生きられるかもしれないけど、独りよりは誰かといっしょにいたほうが楽しい……こともあるって」

 

 そうだね。

 

 そのくらいのふわっとした結論がボクたちにはふさわしいかもしれない。

 

 ゾンビになってしまうほどみんなに迎合しているわけでもなく。

 本当の英雄のように独り孤独に戦うほどでもない。

 

 ボクたちはゆるく連帯している。

 

 それでいいんじゃないかなと思った。

 

「じゃあ、とりあえず町役場の傍まで送るね」

 

「お願いします」

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 そんなわけで町役場までぼっちさんを送り届けました。

 もちろん、ゾンビに襲われることもない安全安心な旅路です。

 

 去り際に、運転を飯田さんからぼっちさんに代わってもらって、それからボクと飯田さんはトラックを降りた。

 

 いっしょに来ないかって誘われたけど、正直なところボクはまだ怖いんだ。

 あのホームセンターみたいに、ボクはゾンビよりも人間が怖い。

 

 そんなところに送りこむボクもボクだけど、いまの距離感ぐらいがボクにはちょうど心地いい。

 それが許されているのはボクがゾンビだからだ。

 ボクにはぼっちさんほどの勇気もない。

 

 ただ、ぼっちさんにはトラックの物資をあげたから、それをコミュニティに配ればそれなりの評価してもらえるんじゃないかと思う。

 

 しきりに感謝されていたけど、ちょっと恥ずかしい。

 

 さて、今日も配信しますか。

 

「にゃはろー。今日も始まりました。終末配信者のヒーローちゃんだよ!」

 

『にゃはろー』『にゃんぱすー』『ヒロちゃんが今日もかわいい』『おまえのことが好きだったんだよ!』『オレはオレくんのことが好きだぞ』『アッー!』

 

「今日するゲームはこれ。【ゾンビあなた】。いちおうFPSゲーではあるんだけど、対戦とかそういうんじゃなくて、ひたすらゾンビを撲殺しながら、ミッションをクリアしていくアクションゲームみたいな感じかな。銃も使うけどメイン武器は棍棒ね」

 

『またゾンビゲーかよ』『おまえがゾンビになるんだよ』『ゾンビゲーでハードゲー』『ハード……ゲイ?』『いつからホモの巣だと勘違いしていた?』『一発噛まれたら終わりのオワタ式ゲーです』

 

「さあ。始まりました。開幕ダッシュで研究者のもとに向かいます」

 

 ヒロ友の一人が言っていたけど、このゲームはある意味オワタ式だ。

 オワタ式というのは、一発でもダメージを食らうと死ぬゲームのことで、このゲームもそれにあたる。だってゾンビだしね。ゾンビに噛まれたら死ぬ。

 どうあがいても絶望。

 

 そんなの常識だ。だがそれが良い。ディモールト良い。

 一発でも噛まれたら殺されるという緊張感は手に汗握る展開になるし、集中していないとすぐに落ちる。もちろん、再スタートはできるけど、死んだキャラは二度と生き返ることはない。

 

 むしろ、リスタートしたときにゾンビとなって襲ってくるんだ。

 

「撲殺。撲殺ぅ」

 

 ゾンビの頭を陥没させながら、慎重かつ大胆に突き進む。

 

『ヒーローちゃんのエイム力関係ない系?』『撲殺天使ヒーローちゃん』『引きつつ攻撃するときのマウス操作はうまいな』『小学生のおててに握られるマウスが羨ましい』『なんていうか……その下品なんですが……』『吉良がいるぞ』『おてて民は処せ』

 

 おてて見られても問題ないよ。

 ゲームは滞りなく進み、ひとまず研究者のところまで到達。

 ガラスで隔てた安全なところにいて、プレイヤーはお使いを頼まれる。

 

「ゾンビものではこういうすべてをわかってます的な研究者っているよね」

 

『いるいる』『おるわー』『ウイルスの生みの親だったりするよね』『むしろ、ヒロちゃんを生みたいわ』『ヒロちゃんから生まれたいわ』『こんなかわいい女の子に生まれたかったわ』『現実のゾンビには黒幕がいなかったよ』『くろまくー』

 

「ボク、ゾンビじゃないよ!」

 

 いやゾンビだけどね。

 まあ、黒幕がわかりやすい人間じゃないのは確かだよね。さすがに彗星をどうこうするような科学力はいまの人間にはないだろうし、たぶん自然現象というかそんなのに近いんじゃないかな。

 

「ねえ。みんなはゾンビってなんだと思う?」

 

『腐った死体』『あなたの妄想ではないでしょうか?』『彗星に乗ってきたバイオモンスター』『ジーザス』『地獄の釜が開いたせいで現世に押し寄せてきた死者』『ホモ』

 

「彗星が流れた日にゾンビハザードが始まったのは確かだよね。パンスペルミア仮説っていうんだけど、彗星が地球生命の起源とする考えもあるみたい」

 

『頭よしよしヒロちゃん?』『やっぱりジーザスじゃねーか』『ジーザス?』『恐怖のバイオモンスター』『ドレミファミレドミ?』『おっさんだらけの配信好き』『なんのこと言ってるのか全然わからん』『ゾンビも彗星由来の生命?』『つまりどういうことだってばよ』

 

「つまり、ゾンビとはエイリアンであるという説だよ」

 

『宇宙ゴキブリ?』『エイドリアーン』『宇宙卵生みつけられちゃう?』『ヒーローちゃん。卵。ひらめいた』『無理無理無理産めない』『すぐ下ネタに走っちゃう子はしまっちゃおうねぇ』『やめろ。やめてくれ……』

 

「まあ、あの名作映画とはちょっと違うかもしれないけど、ゾンビが地球外生命体だとすれば、人間は初めてこの宇宙に独りきりじゃないと証明されたわけだよね」

 

『侵略されちゃってますよ』『イカ娘みたいにかわいかったらよかったんだけどな』『やっぱり幼女になるウイルスだったらよかった』『ふぅむ。ゾンビに対してのシンパシーを感じる』『ヒロちゃんゾンビ説』

 

「あ、あーっと。えっと。なんというかゾンビにはゾンビの考えがあってさ。それがうまく人間に伝わってないというか、そんな感じなんだけど」

 

『βみたいな感じか?』『意思疎通できない系?』『ゾンビコミュ症説?』『ヒーローちゃんぼっち説』『僕もぼっち……』『仲良くしようね』『うん』『おまえらコメ欄でいちゃいちゃすんな』

 

「えっと、あ、ぼっちさんこんにちわ。今日もありがとう」

 

『やっぱおまえいらねえわ』『名前覚えられてて羨ましい』『おまえはゾンビになってこい』『はは……』

 

「もう喧嘩しないでね。あと、ぼっちさん」

 

 ボクは人差し指を口元に持って行って、

 

「あのことは、しぃーだよ」

 

『なんだかわいすぎか』『え、なにがあったの?』『夏休み明けのちょっと大人になったヒロちゃんなの?』

 

「フフ。秘密です!」

 

『ぼっちマジで頃=suあああ』『うあああああっ』『パルパルパルパルパルパルパル』『妬まし』『ぼっち何があった!?』『えっと秘密です。ヒロちゃんがそう言うなら墓場まで抱えて』

『ヒロちゃんに何かされたい』『ヒーローちゃんの秘密を知りたい』

 

 まあ、ぼっちさんについては、ボクがゾンビだっていう秘密がバレたわけじゃないから。

 単なる超強い幼女が護衛を引きつれて、会いにいったってだけだから、それがバレても問題ないと思う。

 

 ただ、ぼっちさんだけ特別扱いすぎたかなって気もするし、ここはちょっとお手当てをという考えです。

 

 配信を終えたあとも、ぼっちさんがコメントでぼこぼこにされてたけど――。

 

 ボクしーらない。フフ。




ボクしーらないを再び

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