あさおん・オブ・ザ・デッド   作:夢野ベル子

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ハザードレベル50

 引き続き。

 

 ボクは命ちゃんといっしょに、とある診療所の屋上に来ている。

 地上はゾンビだらけで、人間の気配はない。

 

「さて、次は何を試そうかな」

 

 実を言えば、今日はいろいろなものを持ってきている。

 ギターはわりと重かったけど、小さいところでは、小学生が吹くようなリコーダーとか、ハーモニカとか、オカリナなんかもある。

 

 ふと手に取ったリコーダーは、余計な装飾がついておらず肌色一色のシンプルなやつだ。ボクはそれを手に取り――、少し覚えていたドの音を出してみる。

 

 あむってくわえて。唇を添えて吹いてみた。

 うむ。さすがにボクもリコーダーくらいは吹けるよ。

 命ちゃんがボクにカメラを向けたので、吹いたままの姿勢で小首を傾げた。

 

「先輩。それって誘ってますよね?」

 

「え。なにが?」

 

 意味がよくわかんない。

 

『小学生なヒロちゃんがいつもより小学生』『リコーダーと幼女』『小学校の時に好きな子のリコーダー舐めたことあるわ』『は?』『後輩ちゃんこいつです』『おまわりさん。変態がいます』『はよBANしろ。間に合わなくなっても知らんぞ』『ヤダ。BANはやめて許して。出来心だったんです』『ジャパニーズは、やはり変態だな』

 

「少しは気持ちわかりますから執行猶予をあげます。先輩がわたしに笛を渡してくれればの話ですけど」

 

「え。どうしてそんな話になってるの?」

 

 なんで命ちゃんにボクが吹いた笛を渡すの?

 間接キスとか狙ってるの?

 なんできょとんとした顔してるんだろう。

 

「実験は多角的かつ多面的におこなわなければなりません」

 

 命ちゃんは真面目な顔をして言った。

 

「ボクが一番ゾンビ避けできると思うんだけど……」

 

「ヒロ友のひとりがBANされちゃいますよ。どうするんですか」

 

 命ちゃんはやるといったらやるタイプ。

 ボクとしてはヒロ友を人質にとられたらやむをえない。

 しかたなしにリコーダーをわたす。

 

「やった」

 

 途端にうれしさのはじけるような顔になる命ちゃん。

 

「いや……。うん。まあいいけどあまり変なことしないでね」

 

「しませんよ。ちょっと眺めすがめつするだけです。私は好きな女の子のリコーダーを舐めるような変態じゃありませんので」

 

「それはいいけどさぁ……」

 

 ちなみに、リコーダーのゾンビ避け効力はそこそこといった感じだ。歌のように強力には効かない。歌は録音したものでもそこそこ効いているから、やっぱりボクの吐息が重要なのかなって思う。

 

 ギターのようにボクの吐息がまったく関係ない系統の楽器はほとんどゾンビ避けに意味をなさないみたい。ハーモニカもオカリナもリコーダーと同じぐらいで、タンバリンみたいな楽器はギターと同じぐらいで、あまり効き目がよくない。

 

「先輩のかわいらしい唇から漏れでてる音というのが重要なのかも?」

 

「うん。なんか変態っぽいよ。後輩ちゃん」

 

『でもヒーローちゃんの唇に吸い寄せられてる感はあるよな』『オレがゾンビでもそうなるわ』『弦楽器も打楽器もダメなのか』『口をつけるような楽器がいいってことだな』『でもそもそも歌が効果あるんだから、べつに楽器とか試さなくてもよくね?』『違うだろ。一番知りたいのは距離だよ』『いつも歌ばかりじゃ飽きるというのもあるんじゃ?』『寝る前にはヒロちゃんずララバイをかかさず聞いてますが何か?』『ヘビロテしてますが何か?』『ヒロ友にも多少は目端がきくものがいるようだな。ピンクも感心した』『毒ピンにほめられちった』

 

 ドクターピンクは毒ピンとも略されているのでした。

 

 でもなんとなくわかるよ。

 

 距離というのは大事だ。

 

 ボクの歌唱力というか声量ってそこまででもないから、距離範囲が低いんだよね。大音量で流すと音が割れちゃうし、もしも楽器でOKなら、もっと広範囲に効力が及ぶことになる。

 

 ピンクさんはたぶんそれを狙っているんじゃないかな。

 

「続きましては、えっとトランペットです。ボク、これも演奏したことないんだけど、吹けるかわかんないなぁ」

 

 金属質のそれは、黄金色に輝いていて、とてもキレイ。

 湾曲した部分と直線的な組み合わせが人間的でボクは好き。

 でも、トランペットって、実をいうと素人を寄せ付けないところがあるように思う。まともに音を出すだけでも習熟が必要だっていうし、人生で一回も触ったことのないボクがうまく吹けるのかは謎だ。

 

 すぅっと息を吸って。

 気合をこめて吹いてみます!

 

 鳴らない。ふしゅーっていう変な音がするだけで全然鳴らないよ!

 

『顔真っ赤にしながらがんばってるヒロちゃんがかわいい』『OH……ジーザス』『滅びの天使』『いなごが湧いてこないか心配です』『いなご?』『某宗教の第五のラッパですね』『日本人は無宗教なのではないか?』『わりと雑食なのは認める』『終末だし、かわいい天使にすがりたいのは認める』『死にたいと思っても死ぬことができず……切に死を望んでも死のほうが逃げていく』『それってゾンビじゃん』『天使様……我らをお助けください』『最後のラッパが鳴ると死者は復活して朽ちない者とされ、わたしたちは変えられる。予言のとおりだ』『外人さんのこたぁオラわかんねぇ』

 

 ヒロ友がなにやらよくわからないことで灼熱した議論に突入している。

 でもボクはそれどころじゃない。

 

 鳴 ら な い ん だ け ど !

 

「あまり力まないほうがいいですよ。ふにゅってして、しゅわっと吹けば、簡単に音はでます」

 

「そんな感覚的な話じゃ全然わかんないよ!」

 

「先輩……」

 

 命ちゃんはすごく理不尽だと思います。

 そんな感覚的な話で伝わるわけないじゃん。まったくもう。

 

 ふぅ。プオー。

 

 気が抜けたのがよかったのか、なぜか音が出た。

 OH……ジーザス。

 結果はリコーダーとそれほど変わらないみたいだけど、リコーダーよりは大きな音がでる。

 

 でも、できれば――。

 

 そう、できればなんだけど、おそらくピンクさんが望んでいるのは生活になじむような音源なんだと思う。

 

 例えばの話で想像できるんだけど、四六時中ボクの子守唄とかが流れてると、いくらなんでもわずらわしく感じるんじゃないかな。

 

 いくつかバリエーションを作って、それでゾンビ避けができれば、人間にとっては有利なんだと思う。

 

 トランペットはどこかの宗教にとってなじみが深かったのか、一部の人に興味を引いたみたいだけど、一番いいのは聞こえない音だ。

 

 今回、ピンクさんから強く要望されたのは、人間には聞こえず、しかし長距離・広範囲で影響を及ぼせるような可能性のある、そんな『楽器』だった。

 

 正確にいえば楽器じゃない。

 

 小さな指先程度の長さしかないそれは『犬笛』と呼ばれている。

 

 ボクの持っている犬笛はスライドみたいなのがついていて、周波数をある程度変えられるみたいだけど、可聴域ギリギリの按配が難しい。

 

 聞こえる音だとかなり遠くまで届くみたい。

 

 そして人間の可聴域外にすると、モスキート音のように人間には聞こえなくなる。

 

 ただ問題があって、高周波の音は、音の波のいったりきたりが激しいから、エネルギーがすぐに減衰しちゃうんだって。つまり遠くまで聞こえない。

 

 おそらくピンクさんの意図としては放送設備とかを使ったものになるから、距離的にはそこまでいらないのかな。出力をあげれば届く距離は長くなるはずだし。あんまりやりすぎると振動になりそうだけど……。

 

 そのあたりはピンクさんにお任せです。

 

 犬笛には演奏技術は必要ない。息を吸って吐くだけだ。

 

 キーンという音が鳴っているのがわかる。ボクの強化された聴力だと犬笛の音も感知できるみたい。

 

「後輩ちゃん。聞こえる?」

 

「聞こえませんね。先輩がかわいいということしかわかりません」

 

「ボクには聞こえるんだけどな」

 

「わたしのレベルが低いからだと思います」

 

「じゃあ、後輩ちゃんのレベルがあがればいずれ聞こえるようになる?」

 

「かと思います。しかし、残念ですね。本命の犬笛はどうやらゾンビにも聞こえないようです」

 

 ビルの下にいるゾンビたちを見てみると、確かにまったく動きがないようだった。

 

『なるほど犬笛か』『ピンクの思惑が当たれば拠点確保は簡単だったろうな』『ヒロちゃんずララバイでよくね?』『だから距離が足りねえって言ってるだろうが』『ヘビロテでも限界はあるよな』『幼女の歌声が世界にとどろく』『夜中昼間問わず流し続けてますがなにか?』『マジかよ。こいつはすげえ』『え、ヒロ友だったら余裕だろ?』

 

「んー。ごめんなさい。犬笛が効力ありなら、もう少しみんなの生活圏を確保できたんだろうけど、いまのところは、いくつかバリエーションを持たせるくらいしかできないみたい」

 

『ピンクはヒロちゃんに多大な感謝を寄せている』『オレたちのためにいろいろやってくれているのは知ってる。マジでありがとう』『好き(直球)』『希望があるだけで違うわ』『ゾンビに噛まれても大丈夫』『いや実際、人間に戻せるという話が本当だとして、噛まれそうになったらどうすればいいんだ?』『黙って噛まれればいいんじゃね?』『さすがにそれは怖いぞ』

 

 ボクとしては何も言えないな。

 確かにボクはゾンビから人間に回復する手段を持っているけれども、だれでもかれでも人間に戻せばいいとは思っていないから。

 

 人間が勝手に助かる分にはいいと思うけど、いつか人間とゾンビの利益が相反することが考えられる。

 

 そのとき、ボクはどうすればいいんだろう。

 

『何も楽器に縛られる必要はない』『サイレン@全部ヒロちゃんとかも』『ゴルフのボールが飛んでいったときのファーでもいいんじゃね?』『ヒロちゃんのえちえちな声が聞きたいです』『は?(マジぎれ)』『後輩ちゃん奴です』

 

「ん。矯正が必要ならわたしがしてあげましょうか」

 

 とてもにこやかな命ちゃんだった。

 

『すみません。ゆるしてください』『BANされてもお前のことは二秒くらいは忘れないよ』『小学生のえちえちな声を求めるとか……オレも嫌なんでもないです』『ともかく、遠くまで届く声ならファーがいいぞ』『ふぁ?』

 

「ふぁー?」

 

 犬笛が効かないのは、可聴域がどうこうというよりはボク自身が犬笛を人間には聞こえないものだと認識しているからかもしれない。

 

 本当はヒイロウイルスの浸透作用によってゾンビを操ってるわけだから、犬笛だろうがなんだろうが関係ないと思うんだよね。

 

 ギターだっていつかは効くようになるかもしれない。

 

 でも、ボクはボクの喉というか肉体以上には楽器も犬笛も使えていないってことだと思う。

 

 だから、今のところは声だけでなんとかするほかない。

 

 ボクは屋上の縁に立った。

 

 ゾンビ的パワーで喉をきゅっと締めて、できるだけ高い音を出すようにする。

 

 山彦みたいに両の手で傘をつくって。

 

「ファー!」

 

「――っ!」

 

「――――――!」

 

「!」

 

 キィンと音が響いている。

 たぶん、人間の可聴域を超えた音がでているみたい。

 命ちゃんはうるさそうにはしていないから、人間の可聴域を超えた音になっている。

 

 伝えたプログラムは、どこか行けというもの。

 できるだけシンプルなほうが伝わりやすいからね。

 

『いま超能力を使ったのか?』『ん。毒ピンが何か言ってる』『音の分析でもしてるんじゃね?』『見ろよゾンビが去っていってる』

 

 命ちゃんが建物の下を撮影していた。

 ゾンビたちはみんな建物から離れて、道路の向こう側へ歩き出している。

 うまくいったかな。

 

『ヒロちゃんから人間の可聴域を超える音が出ていた』『当然だろ。みんなヒロちゃんヒロちゃん言ってるけど、英雄だぞ』『ヒーローちゃんだからな』『天使だからそれぐらいできるに決まってるだろ』『ヒロちゃんでボイスロイドつくろうぜ』

 

 みんなわりと無茶言ってるけど、なんだかコメントがうれしそう。

 これで、少なくとも放送設備があるところは、だいぶん安全になったかな。

 

 ボクの"お仕事"も果たせたようでなにより。

 

 とりあえず……。

 

「ブイ」

 

「あ、先輩がかわいい」

 

 すかさずハンディカメラを向ける命ちゃん。

 ちょっとだけ恥ずかしいので、ちょきちょきしてしまった。

 

『ブイサインするヒロちゃんがかわいすぎる件』『ブイブイ言わせてるな』『審議』『アウト』『アウト』『セーフだろ』『これで人間の勝利がまた一歩近づく。ヒロちゃんの献身にピンクは感謝の意を表する』

 

 ピンクさんも喜んでるみたいだし、ボクとしてもうれしいよ。

 

 実をいうと、半分くらいは自分のためだったりもするんだけどね。どうせ顔バレしてるし、ゾンビ避けできる超能力少女だとバレてる今の状況だと、人間と協調路線でいたほうがいい。

 

 人間に肩入れしすぎて、いずれボクが排斥されるということも考えられるけど、配信しているなかで、ヒロ友はボクを甘やかしてくれたから、できるなら仲良くしたいんだ。

 

 それとすっごく即物的なんだけど、これで発電所とか護ってください。お願いしますという気持ちもこめてる。配信がしたいし、ゾンビ映画はみたいし、つまるところ電気大事。電気様がないと生きていけないのです。

 

 ゾンビや人間よりも、ボクは退屈のほうが恐ろしいのでした。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 しばらくは適当な楽器を練習してみたんだけど、ボクは自分で思っている以上に不器用なようでした。まったく弾ける気配がない。対して命ちゃんはなんでもかんでも即座にプロ並に弾きこなす。

 練習量とかの問題じゃない。

 

 ボクはついには楽器を放り出して、ビルの縁で足をプラプラさせている。

 

 そしたら、命ちゃんがノートパソコン片手に近づいてきた。

 

「先輩のボイスでゾンビ難民を救出するスレとかができたみたいですね」

 

「え、どういうこと?」

 

「あくまで民間なのでどこまでうまくいくかはわかりませんが……」

 

 命ちゃんが見せてくれたのはパソコンの画面だ。

 

 あれから一時間くらいしか経ってないのに、ヒロ友の誰かがスレッドを立てたみたいだ。仕事が速いね。生存にかかわりが深いから当然だとも言えるけど。

 

 

1 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

ゾンビ避けできる美少女小学生ヒロちゃんのボイスで救出したい。ゾンビ難民になってるやついるか? ちなオレは埼玉県民なんで首都圏限定な。

 

2 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

ヒロちゃんって誰?

 

3 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

厚生労働省のHP覗いてみろ

 

4 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

おい。厚生労働省のページ。ハッキングされてんの?

ゾンビ対策ページに、なんか小学生くらいのかわいい女の子が写真つきで解説されてるんだがwwwww日本は炉理魂国家だとは思っていたがさすがに草生えるwwwwwww

 

5 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

国家が推奨してる対ゾンビ兵器、それが終末配信者ヒーローちゃんだ

 

6 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

ヒーローちゃんとかギャグで言ってるのでござるかwwwwww

 

7 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

いやマジだって。空飛んで、超能力使って、歌を歌ったらゾンビは沈静化する。

別におまえが信じなくてゾンビになろうが知ったこっちゃないがな。

ちなみにゾンビウイルスから回復することもできるから、オマエがゾンビになっても運がよけりゃ助かるかもしれん。

 

8 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

エイプリルフールは遠いでござるよwwwwwwww

 

9 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

こいつマジであかんやつや。触らんどこ。

 

10 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

1だが、ヒロ友ならわかってると思うが、ヒロちゃんの声は本当に効く。で、場合によってはポータブルな音を流せる機械がなくて脱出できないやつもいると思ったんだが、助けが必要なやつはいるか?

 

11 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

オレ、デスクトップだけだわ。家の周辺はヒロちゃんずララバイでゾンビ避けできてるんだが、食糧調達のときに毎回死にそうになってる。でも、オレんち福岡なんだよなぁ。ヒロちゃんが福岡に来てくれることを毎日祈ってる。

 

12 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

福岡ならオレと同じ県だな。どのへん?

 

13 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

宇美町

 

14 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

近いじゃん。こっちのメールアドレスに住所送ってくれれば行くぜ。

 

15 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

助かるわ。でも食糧もないし、いくらヒロちゃんボイス集あっても危険だぞ。ある程度動きは緩慢になるが、人間が近づいたら襲ってこないってほど無効化できてるわけじゃないしな。

 

16 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

オレんところの避難所では、さっき話しあいで、朝はヒロちゃんのラジオ体操から始まって、昼はサイレン@全部ヒロちゃんを適度に流して、夕方はヒロちゃんの蛍の光で終わることが決定したわ。これで安眠確定。

 

17 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

あ、おまえらマジで言ってるのw

ほんとに?

 

18 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

>>17

嘘を嘘と見抜けないやつは……死ぬ

逆に言えば、真実を真実と見抜けないやつも……ゾンビになるほかない。

 

19 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

草ボウボウだったやつが、急に単芝になってて笑える

 

20 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

あの……すみませんでした。

みんな冗談言ってると思って。

この子すごくかわいいですね。アーカイブ見ようと思います。

 

21 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

ヒロちゃんが天使すぎて速攻で荒らしが改心するの図

 

22 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

めっちゃ早口で言ってそう。

 

23 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

で、>>20は救出はいらんのか?

 

24 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

あ、大丈夫です。ありがとうございます。自分、シェルターみたいなところにいるんで、一年くらいは問題ないです。そんな事態になってるとは露知らず……。お恥ずかしい限り。

 

25 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

ゾンビ避け効果はヒロちゃん曰く50パーセントくらいの確率らしいから油断はできないが、何人かで徒党を組んでいけばほぼ大丈夫だ。避難所の誰かを誘ってそっち行ってみるよ。

 

26 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

本当にありがとう。やべえ。マジで涙出てきた。

 

27 :名無しのヒロ友:20XX(土)XX:XX

 

やべえな。オレたちマジでヒーローの友達みたいなことしてるんじゃね?

 

 

「なんかうれしいな」

 

 ボクを基点にして、なんとかゾンビだらけの世界を生き残ろうとしている。

 

 ピンクさんも言ってたけど、こころの連帯はゾンビにはできない。

 ボクはボクのノードを自分の生存に有利なように動かしているだけで、ゾンビさんたちと友達なわけではないから。

 

「いろいろと危険なことも増えますが、先輩がうれしそうでなによりです」

 

「後輩ちゃんもありがとうね。さっきは顔バレしなくてもよかったのに」

 

「ふ」

 

「ふ?」

 

「ふへへ。先輩に褒められました」

 

「だらしない顔になってる」

 

「今日は先輩のお口のついたリコーダーももらえたし、良い一日でした」

 

「うん。まあ……あげたのは本当だから何もいわないけどね」

 

 あとで練習と称して舐められそうな気がするけど、それも何も言わないことにする。自分のお部屋でやるぶんには自由だしね。ちょっとゾワンってするけど。

 

「じゃあ、そろそろ配信を終わろうかなと思います」

 

『待って』『やめないで』『ヒロちゃん様ぁ』『いかないで』『待ってくれ! ヒロちゃん』

 

 みんな名残惜しそうにしてくれてる。

 

 うれしいな。

 

 って、あれ? 今のピンクさんかな。ピンクさんもめっちゃ高速でヒロ友になじんでるけど、さすがに待ってくれの重みが違う。ボクのことはゾンビ対策のパートナーとして捉えてる節があるからね。

 

「どうしたの? ピンクさん」

 

『ヒロちゃんの声を分析していると、可聴域にかすかに異音が聞こえる』

 

 ん?

 

 ボクの聴力は既に人間の域を超えている。

 でも、ボクの意識は人間のときのままだ。つまり、教室の先生の声みたいに、聞こえてはいるけれども、意識の外に置いてる音も多い。

 

 そうじゃないと聞こえすぎてしまってわずらわしいから。

 意識すると――、確かに聞こえてきた。

 羽音みたいな小さな音。

 

『おそらく光学迷彩と消音機能を搭載した軍用の――』

 

 ドローン。

 

 いつのまにか、ボクたちは多数のドローンに囲まれているみたいだった。




高周波は遠くまで届かない。


衝撃の事実に衝撃を受けているのはわたしでした。はい……。
コメいただきまして、修正しました。

じゃあ、低周波な音だしたらいいんじゃねとも思ったんですが、超低周波は人間じゃ出せないみたいです。楽器も無理。

それとTSしている主人公は高い音を出せるほうがなんというかロマンがあるような。

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