コラボ配信については、すぐに掲示板とかツブヤイターのリツイート機能で、めちゃくちゃバズりました。
全てのヒロ友たちが見守っているのは言うまでもないところだけど、それ以外にもいろいろと見守られている感じがします。世界中からアクセスされているみたいです。
それはべつにいいんだけど、怖いのは配信中に襲われることかな。
誰が襲ってくるかなんてわからないけど、予測するとすれば過激派な政府や得体のしれない科学者や怪しい宗教団体や、特に危険なのは暴徒化した一般市民かな。
もしもだけど、ボクと乙葉ちゃんがコラボ配信しているところに徒党を組んで乗り込んできたらどうなるだろう。
ボクを排除すればゾンビがみんなおとなしくなるとか考えてる人も中にはいるだろうし、そうでもなくても拉致って実験材料にしたいと考えてる怪しい科学者とかもいるはずだ。
勝てるとは思うんだけど、ゾンビがのろくても人間に勝てちゃったりするように、数は力になりうる。知恵を働かせるというのも人間の特性だ。結集した集合知はボクなんか及びもつかないほど巨大だ。
配信していて気づいたんだ。
ヒロ友という小さなコミュニティでさえも、ボクが知らないことをたくさん知ってる。
すごくマイナーで誰も知らないだろうなってことでも知っている人がいて、人間という集合体はどれだけ知識と知恵を集積しているんだろうって。
ネットはその集合知を目に見える力に変える。
例えば、ボクの弱点とかを議論したりするかもしれない。
もちろん、ボクが住んでる場所がバレたりするのもまずい。
ゾンビ荘に住んでいるみんなの居場所がなくなっちゃう。
まあみんなは顔バレしているわけではないし、こっそりとどこかに避難すればどうとでもなるとは思う。例えばボクと命ちゃんは他県に出て行って、マナさんあたりに留守をお願いすれば、雄大の回収もなんとかなるかなと思っている。
いざとなったら逃げるしかないよね。
そんなわけで、あと一週間とちょっとでコラボ配信。
それまでの間に、忙しくしていたのはボクではなく――。
大変申し訳ないんだけど、マナさんと命ちゃんだった。
「まさかご主人様が、ここまでお子様的なかわいらしい理想主義者だとは思いませんでした~」
「え、そうかな。マナさんから見て、ボクって子どもっぽいかな」
「ご主人様の幼女指数が高くて、わたし的には大満足です」
「なに、その幼女指数って……」
あいかわらず楽しそうにロリコンしてるなこの人。
でも、ボクを守るためにいろいろと奔走してくれているみたい。ボクにはパソコンの深淵はわからないし、できることといったらワードで論文もどきを書いたりとか、エクセルで升目を作って、お絵描きするくらいだ。いまもマナさんはカタカタと高速でノートパソコンのキーボードを打っている。見た目だけならできるビジネスウーマンって感じで、少しあこがれちゃう。
それに比べてボクは――。
「も……もしかしてだけど、マナさん的にボクってポンコツなんですか?」
マナさんは一瞬こちらを振り返り、そっと目をそらした。
ねえ。それって。ねえ!
「お姉さん。ボクの目を見てください!」
「す、すがるような目で見てくる幼女! ここが桃源郷か!」
「ボクの問いに答えてくださいよ」
「えっと……、その、ご主人様は人間味にあふれてると思いますよ」
「人間味って言葉、ほんと便利だよね」
「ミスも愛嬌♪」
「かわいければなんでも許されるなんて思ってないよね」
「いいじゃないですか。ポンコツも個性です」
「やっぱり、ポンコツなんだ……」
面と向かって言われるとわりときつい。
ふんわりしているけど、マナさんも命ちゃんと同じで頭がいいんだよね。
「でも、ボク……コラボ配信したかったんだもん」
「ハァハァ……だもんって……だもんって……かわいすぎるでしょお」
「ボクも確かに警戒心が足らなかったって思ってるよ。でも、歩み寄りたいんだよ。ボクといっしょに何かしたいって言うのなら答えてあげたいだけなんだよ。わかって、マナお姉さん」
「わかっていますよ」
すべてを包みこむような慈愛の視線だった。
でもよく見ると、ボクの顔、胸、足をあますことなく見てくる変態の視線だった。
うー。もじもじしちゃう。素足をこすりあわせて、ちょっともじもじ。
「由々しき事態です。ご主人様を飼いたいと思う変態がでてくるかもしれません。幼女のことが大好きで大好きでたまらない変態さんですよっ!」
それはもしかしてあなたのことではないでしょうか。
「そうならないためにいろいろしてくれてるんだよね」
わりと丸投げなボク。
乙葉ちゃんが所属している組織との直接的な交渉はマナさんと命ちゃんのふたりでおこなってくれている。
まず速攻で却下されたのは単独でのこのこ出かけていくことだ。
「かもねぎですよね」
「まあ……それはわかるけど」
つまり、ゾンビ対策兵器扱されているボクが手に入るということは、ゾンビだらけのこの世界では、とても価値があるってこと。価値があるものを奪いたいと思うのが人間だ。
相手の陣地深くに入れば、当然、そういった危険も伴う。
「最低でもふたりでしょうね。あ、わたしのことも連れていってもいいですよ」
「マナさんは顔バレしてないし、わざわざヒロ友たちに知られる必要はないよ」
「飯田さんみたいにフルフェイスヘルメットを装着すればいいんじゃないでしょうか~」
「あやしすぎるでしょ」
「なんなら鉄仮面でもいいですよ」
「あやしさに磨きがかかると思うんだけど」
ゾンビなハザードでもそんな敵がいたような。
マナさんって、女性らしい体格をしているし、フルフェイスが似合わないのは確かだ。
「抑止力的に考えれば、飯田さんに頼むのがいいのかなぁ」
「まあ男の人もいたほうがいいでしょうね。ヒロ友たちにはどう思われるのかという問題がありそうですけど」
うーむ。
そうなんだよな。いまのボクの位置づけがいつのまにやらアイドルっぽい感じになっているのは否めない。そこに男の人の気配があると、こう……いろいろと問題があるように思わなくもない。飯田さんがネット上でボコボコにされる未来が見える。
が――、そこは映さないようにお願いすればいいかな。
飯田さんがいいよって言ってくれたらの話だけど。
☆=
「いいよ」
飯田さんがいい人すぎてボクは怖い。
考える間もなく即答だった。
でもホームセンターでは飯田さんはいい人すぎて死んじゃったわけで、そう考えると、今回のボクの行動は飯田さんを再び危険にさらすものだと思う。
ほんとにいいの?
少し心配になって、ボクは上目遣いに飯田さんを見る。
のっそりと動き出し、ボクの頭をなでる飯田さん。
むうん。むうん。
今日もいい感じです。
飯田さんはマナさんと同じくロリコンなんだけど、男の人だから、少しボクに対する遠慮があるんだよね。その塩梅がとてもいい。
それと、父性というか――なんというか性欲もないわけじゃないんだけど、それ以外の優しさがあるというか。
ボクも男だったときがあるからわかるんだけど、男の人の優しさと女の人の優しさには違いがあるように思うんだよね。
それは何って言われると困るんだけど。
「あんた。飯田さんの善意につけこんで、ひどくない?」
非難の声が耳に届いた。
最近、飯田さんの部屋に入り浸っているらしい姫野さんだった。
少しはボクに対する恐怖心も薄らいできたのか、気安い態度になっている。
そのほうがボクは好きだけどね。
「姫野さんの言うとおりなんだけど……、このままだとボクだけじゃなくて命ちゃんも危険になっちゃうんだ」
ボクが単独でいくのはマナさんと命ちゃんに却下されている。
そうなると、命ちゃんは絶対になにがなんでもついてくる。
ボクとしては命ちゃんの危険を少しでも減らしたかった。
ボディガードがついているという事実が是非とも必要だった。
「飯田さんには関係ないでしょう」
「まあ確かに……、ボクの都合だね」
「あんたは、私達より強いんだから、ひとりでなんとかしなさいよ」
姫野さんの言葉は正しい。
ボクは飯田さんに甘えてる。飯田さんはボクの中では無限に優しい人って感じだから、ついつい甘えちゃうんだけど、きっと、どこかでお父さんっぽいところを感じてるからかな。
ぺたーって大きな背中にくっつくと、あったかくて安心するのは確かです。
「まあまあまあ、姫野さん。落ち着いて」
話に割って入ったのは飯田さんだ。
「人吉さん……。あなたは優しい人だから」
姫野さんがうるうるとした瞳で飯田さんの肩にそっと手をかける。
なんだかドラマのワンシーンみたい。
ていうかいつのまに名前呼び!?
飯田さんも姫野さんのことはべつに嫌いではないらしく、肩に置かれた姫野さんに手にそっと手を添える。
見つめあうふたり。
ボクはどうすれば。
そんなボクの気持ちを察してくれたのか、三秒後には、飯田さんはボクのほうに向き直ってくれた。
「私は私の意思で緋色ちゃんを助けたいと思っているわけだから、緋色ちゃんがそこに罪悪感を覚えたりする必要はないよ」
「うん……」
「それに姫野さん。これは緋色ちゃんだけの問題でもないよ。同じゾンビ仲間として助け合うほうがいいに決まってる」
「お目付け役ってことなのね?」と姫野さん。
飯田さんのことを本気で心配しているみたい。
姫野さんはいわゆる普通の人だから、普通に他人のことが心配にもなったりする。むしろ、飯田さんのほうが極端なのかもしれない。
「そうじゃなくて……、仲間として助け合うべきじゃないかって言ってるんだ」
飯田さんにいわれて、胸の奥がきゅーって掴まれるような気持ちになる。
年齢が倍ぐらい離れてるし、ボクは飯田さんにとって庇護対象なのかもしれないけれど、はじめて雄大や命ちゃん以外と友達になれたのは飯田さんだったから。
飯田さんが仲間だって言ってくれて、本当にうれしい。
「ありがとう。おじさん」
「いやだから、例えば、この子が死んだら私達も死ぬとかそういう感じなわけ? 巷で噂のボスゾンビらしいじゃないの」
姫野さんの反応のほうが標準的かなと思う。
マナさんも命ちゃんもボクにべったりで、頭はいいけど極端なように思うんだよね。ここでは慎重で普通な姫野さんのほうが参考になる。
「ボクはボスゾンビじゃないけどね……」
「まぎれもなくゾンビでしょうが」
反証のしようがない。
「うーん。ゾンビは群体だけど、吸血鬼みたいに階級はないから、真祖が倒れたら下位は全滅するみたいな設定はないと思うんだけどな」
群れているけど、ただ集まっているだけ的な?
ただ、飯田さんは友達だし仲間だって言ってくれたし、ボクの一人遊びじゃなければ、つまり飯田さんを無意識に操ってそう言わせたのでなければ、ボクたちはゾンビだけどゾンビじゃない。
少なくとも群れることができるというか……。
ボクが万が一撃破されたらどうなるのかな。
ヒイロウイルスが消える? そしたら飯田さんや姫野さんはどうなるんだろう。体内のヒイロウイルスが消える? それとも残存する?
ヒイロウイルスが消えたら死んじゃう? それとも人間として生き返る?
まったく予想がつかないな。
ひとつだけ確かなのは、命ちゃんを除いて、みんな一度死んでるってことだ。死んでゾンビになってから、ヒイロウイルスによって復活している。
おさらいのために一度復習するよ。
飯田さん――銃弾にて胸を撃たれて死亡。
恵美ちゃん――姫野さんにて胸を刺され死亡。
恭治くん――銃弾にて出血多量にて死亡。
姫野さん――ゾンビに噛まれて死亡。
マナさん――最初からゾンビ。
命ちゃん――ゾンビに噛まれているけど、死亡する前にヒイロウイルスに感染。
こうして考えてみると、命ちゃんだけ死んでないよね。ゾンビになる前にヒイロゾンビになっちゃった感じか。いまの命ちゃんがゾンビを操れるのはまちがないないし、人間のままではないのは確かだ。
それにゾンビウイルスもどうなるかわかんない。みんなゾンビウイルスが消え去ってくれれば人間側としてはいいんだろうけど、こっちも予測がつかない。
うーん。わからん!
ボクは考えるのを諦めた。
「あんたが死んだらこっちも死ぬとかじゃなきゃいいのよ。わたしと飯田さんは人知れずこっそり暮らしていくだけだから」
「うん。ボクとしてもそうしてくれると助かります」
「あんたって、他の人が危険になるかもしれないのに、そうまでして、あのアイドルとコラボ配信したいの? アイドルに憧れてる系なわけ?」
「アイドルに憧れてるってわけじゃないよ。乙葉ちゃんのことはかわいいなって思うけど」
「アイドルに憧れる女の子ってなんかいいな……」
飯田さんの感想はわからなくもないけど、今のボクってそうか、そういうふうに見られるのか。命ちゃんはボクの男だったときのことを知っているから、乙葉ちゃんがかわいいとか言ったら、水を吐くフグみたいにほっぺたがふくらむけど、知らない人が見たら『自分がアイドルになりたい系女子』に見られちゃうんだ。
うーん。複雑。
ボクとしては配信してアイドルになるっていうのは、みんなからちやほやされたいというのはあったかもしれないけど、女の子としてというより、ボクはボクとしてそう思われたいって感じだった。あれ。でも容姿を褒められるのは嫌いじゃないし。えっと。えっと……。どういうことなんだろう。
ともかく姫野さんの警戒する『ボクが死んだらみんな死ぬかもしれない問題』について考えよう。
考え方はあまりブレているわけじゃない。ガバガバではあるけれど、ボクの考えは最初のときから変わっていない。
みんなと仲良くなりたい。ただこれだけだ。
つまり愛だよ。愛。
乙葉ちゃんがかわいすぎて、いっしょに配信したら楽しいなとか、乙葉ちゃんめちゃんこかわいくて近くで持ち歌うたってくれないかなとか、そんな安易な考えでホイホイうなずいたわけではない!
仮にそのような軽挙妄動な幼女に見られたら噴飯ものだ。
切腹だよ。切腹。
今のボクなら切腹芸も可能かもしれない。ゾンビだけに。
「配信にしろアイドルにしろ……、ボクとしては人間との関係を考えないといけないといつも常々考えてるんです」
「ふうん。それで?」
姫野さんは視線も声色も冷たい。
くっ。気おされたらダメだ。
ただのアイドルにホイホイされちゃった系幼女になってしまう。
「このままいくとゾンビが勝利するか人間が勝利するかはわからないけど、ボクとしては人間に滅んでほしくないし、かといってボクたちが実験動物みたいな扱いをされるのも避けたいんだ」
「あんた、既にあれ歌えだのこれ弾いてだの、実験動物扱いじゃないの」
「違うよ。それはそれ。これはこれってやつ。ボクはきちんとみんなの要望を聞いて叶えられるお願いを聞いてあげただけ」
「うまい具合に共存する道を見極めたいってことなのね?」
「そうです。そうです」
「人間が滅ぶまで待ってたほうがあんたとしては楽だったんじゃないの?」
「え、嫌だよ」
「なにが嫌なのよ。配信できなくなるのが嫌なの? みんなに褒めてもらって、カワイイって言ってもらえなくなるのが嫌なの?」
自分がかわいいって言ってもらえないってことで、精神的に追い詰められていた姫野さんだからこその質問だな。
正直なところ、みんなにカワイイといわれるのはたまらなく気持ちいいです。
それは否定しない。
でも、ボクとしてはみんなのクオリアの集合体である人類文化自体を滅ぼしたくないんだ。
「みんなが褒めてくれなくてもいいよ。だれかはボクを否定してもいいよ」
「褒められたほうがうれしいでしょうに」
「まあ、そうだね。総体的には肯定されたほうがいいけど、否定的な意見も少しは出るだろうし、そこはまあしょうがない感じ。でも引きこもってたら誰にも会えないし、ボクは誰かと会いたかったんだよ」
姫野さんはじっとボクを見ていた。
いろいろと衝突も多かった姫野さんだし、ボクもこの人のことは嫌いな部分もある。でも、この人はこの人なりの価値観で考えているのだろうなというのがわかる。ボクは姫野さんの心も信じてるから。
「まあいいんじゃないの……」
それが姫野さんの最終的な判断だった。
「ありがとう姫野さん」
「ただし! 飯田さんのことを連れていくというのなら、あんたが全力で守りなさいよ」
「うん。わかったよ」
「小学生の緋色ちゃんに守られるとか。おじさん困っちゃうな……まるでラノベの主人公みたいで」
頭をかいて照れた様子の飯田さん。
そんな飯田さんを少しかわいいと思ったのは内緒だ。
☆=
外部の意見も取り入れてみた。
筆頭はピンクさんだ。やっぱりこの人は政府の機関の人だけあって、政治的な能力が高いように思う。
ゾンビ荘のみんなはわりと個人的能力が高いせいか、ごり押ししようとする傾向があって政治的な能力は低いんだよねぇ。マナさんだけは例外だけど。
繊細さがほしいです。
『それでマイシスター。相談とはコラボ配信についてであっているだろうか?』
「うん。そのとおり。ボクとしてはどんな危険があるのかよくわからなくて、とりあえずひとりでは行かないし、後輩ちゃん以外に男の人も連れていこうかなと思ってるんだけど」
『おとああj』
ん? なんだろう。誤字かな。
『失礼。とりみあしあ』
んん?
『失礼。いや、キーボードの調子が少しおかしいようだ。男の人を書かれてあるが、この方はマイシスターにとってどういう方なのか、情報を求む。あ、もちろん、書き込みたくなければそれでもかまわない。個人情報の流出には気をつけるべきである』
「家族かな?」
そんな感じです。
仲間でもいいかもしれないけど。
『なるほど。家族か。家族。マイシスターにも家族がいたのか。ふうむ家族。実に興味深い概念だ。家族なのだね?』
念押しするように聞いてくるピンクさん。
ボクのことを謎なゾン美少女と思ってるだろうから、家族がいるかどうかって結構な大事な情報なのかもしれないね。ゾンビ半分。超能力少女半分って感じかな。
「血はつながってないけどね」
『cfgcfgcfgccccfxdf』
なんだろう。この意味不明な羅列は。
英語の単語かと思ったけど、キーボードを力いっぱい拳で殴りつけたみたいな感じだ。両手をつかってクラッシュするみたいに。
それから三十秒後くらいは無言だった。
ピンクさんってキーボード打つのいつもは速いのになんでだろ?
家族ゾンビがいると思ったら、単なる義理だと知ってガッカリしたのかな。
あ、またピンクさんからだ。
『つかぬことを聞くが』
「はいどうぞー?」
『血がつながってないのに家族ということは、ヒロちゃんはその年で結婚とかしてるわわああっけえではないですよね? まいしすた?』
なんかまたキーボードの調子がおかしいみたい。
いつもは誤字ひとつないキレイなタイピングを彷彿とさせる文字使いなのに。
さすがに政府関係者もいいキーボードを用意できなくなってきてるのかな。
で、意味は、っと。
ふむふむ。見た目小学生のボクが誰かと結婚していると思ったというわけか。
これはあれだな。ピンクさんとしてはボクという未知の生物が増えるかもしれないって思って恐れてるんだろうな。
さすがピンク。そこに気づくとはやりよる。
あー、でもあれだよな。人類的に言えば、種の増加であることは確かかも。
飯田さんもボクの血を与えてヒイロゾンビになっているわけだし。
結婚という言い方だと、確かにボクは誰ともしていない。
でも、そこを言いたいわけじゃないだろう。
ピンクさんとしては、人類にとって脅威といってもいい新種のゾンビが増えないかが心配なんじゃなかろうか。
素直に言うべきなのか。
うーん。どっちにしろ男の人がボクといっしょに住んでるって時点で、めちゃくちゃ怪しいだろうし、ここは素直に言うべきかな。
「ボクは誰とも結婚してませんよ。でも、その男の人はある意味ボクと交わっちゃったかな。ピンクさんが恐れてるとおり、ボクの子どもが増えちゃったみたいなものかも」
あれ?
返事がこないな。ショックだったのかな。まあそうだよね。ボクが見境なく人類以外の種族を増やしていると知ったら、人類科学者としては絶望もするだろう。でもボクは見境なく増やしたつもりはない。みんなゾンビ化してて心が見えなくなってたから、みんなのことが好きだったから回復させただけだ。
あ、きたきた。
『誤解をなくすためにいま一度確認したいのだが、具体的にどのようにして交わったのだ? そのつまり暗喩というか。ある種のメタファ的な物言いであって、精神的な交わりとかそういうことを言ってるのだろう?」
義理の家族というかそういうことをいいたいのかな。
でも文脈からは明らかなとおり、ボクという種族がどうやって増えているのかが知りたいことに違いない。
だとすれば答えはひとつ。
ボクの血でも涙でも唾でもいいんだけど、おそらくは体液を摂取したらヒイロゾンビになるのだと思う。
「交わるという言い方だとわかりにくいよね。まあ、わりとノーマルなやり方だけど、体液を体の中にとりこめばいいんだよ」
『マイシスター。それはよくない』
え?
『このような世界で倫理を問うのはまったくもってあほらしい行為だと思うが、だからこそ人間は人間らしくあるべきだと思う。マイシスターのやったことはあまり褒められたものではない。やってしまったことはしょうがないが、その身を穢すようなことはやめてほしい。頼む。お願いだ。後生だから。お願いやめてマジで』
すごく人類愛に溢れてるなピンクさん。
倫理。確かに人類側の倫理感からすれば、ヒイロゾンビを量産するのはよくないことだ。ボクが人類側に立って協調路線を貫くなら、絶対にやめておいたほうがいいことの一つ。
でも……。ボクも反論のひとつも言いたい。
「同意があればいいんじゃないかなぁ」
『同意など無効に決まってる』
即答だった。うーん。ここは引いておいたほうがよさそうだ。ピンクさんと喧嘩はしたくないし、人類ともそうだ。ボクは人類協調路線型ゾンビなのだから。
『マイシスター。自傷はよくないことだ』
ボクが少し迷っていたのを感じたのか、ピンクさんはさらなる追撃の言葉を書きこむ。
自傷……?
って思ったけど、なるほどそうか。ピンクさんは類稀なる観察眼で、ボクが血を与えるときに手を薄く引き裂いたりしてることも察したに違いない。
お見事としか言いようが無い。
「たしかに血が出るし、ちょっと痛いし、あまりしないようにするね」
『ああ……頼む。ちなみに愛してるのか?』
「愛といえば愛だけど……うーん。たぶん好きくらいかな? 友達感覚だよ」
飯田さんには悪いけど、家族愛みたいな感じ。友愛に近いけど、友愛よりはちょっと深い感覚。でも恋愛ではないのは確かだと思う。
『友達感覚でそういうことをするのはピンクとしては非常に遺憾の想いが強い』
遺憾砲が出てしまいましたか。
日本のお家芸だと思っていたよ。
でも、どういうことだろうな。恋愛感情がないのにヒイロゾンビを増やすのがよくないって。逆に考えれば、恋愛感情があればヒイロゾンビが増えてもいいのか? ピンクさんの倫理感覚がよくわからなくなってきた。
とりあえず、ピンクさんの意見を最大限取り入れよう。
「ピンクさんの言いたいことわかったよ。ともかくボクはあまり家族を増やさないほうがいいってことだよね」
『ああ、あと五年は少なくとも待ったほうがいい』
五年待てばヒイロゾンビ増やしてもいいの?
ピンクさんってわりとゾンビに理解があるなぁ。人類の敵になるかもしれない存在を増やしてもいいなんて、なかなか人類側からはいえない発言だよ。どういう基準でいいのかよくわかんなかったけど。同意があってもダメらしいし……。うーん。頭のいい人が考えてることってやっぱりわからん。
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そのあと、ボクのツブヤイターの記録を確認していた命ちゃんにより、めちゃくちゃ訂正文を書かされました。
勘違い系を書いてみたくなりまして・・・はい。
簡易的なやつです・・・はい。