軽いインタビューが終わって、ゾンビを操れる謎の美少女としての役割はいったんは終了。いまは休憩室にこもっている。
乙葉ちゃんはお父さんに報告ということで離席し、ここにいるのは命ちゃんと飯田さんだ。お化粧台に座って身体を休めている。本来だったらお化粧なおしとかするんだろうけど、ボクも命ちゃんもお化粧しない派だから、ただ水分補給して身体を休めるくらいだった。
一番は気疲れかな。
やっぱり百万人が見ていると思うと、緊張感が半端ない。
精神的に疲れちゃう。思わず周辺のゾンビも騒がしくなっちゃうほど。
飯田さんなんかハァハァ息をしてつらそうだ。たちっぱなしだったからね。
配信は、三十分後に再開の予定。
もちろん、まだまだ聞きたいことはあるだろうけど、いまさら焦ってもしょうがないんじゃないかな。
結局、人間側の聞きたいことは、ゾンビをどうにかできるかということ、人間がそのためにどう動けばいいかを探ることだと思う。
要するに、人間側が勝利するためにはどうすればいいかという問い。
人間がこの先生きのこるためにはどうするかという方法論だ。
正直、ボクにもよくわからないよ。どうすれば一番いいのかなんて。
文明は――どうなんだろう。
時間切れはどのくらいで起こるんだろう。
一ヶ月ほど経過して、正直なところ文明は"壊死"しつつある。
ゾンビで殺される恐怖が、人間同士のいさかいを生んだり、ゾンビにかまれて殺されたり、そういうのも文明に直接的なダメージを与えたのはまちがいない。
でも、そんなことより、ゾンビから隠れるためにお金や人や物の流れが止まっているのがヤバイ。
佐賀と福岡をつなぐ国道はことごとく大量の車で塞がってしまっているし、行く先々ではゾンビシールドで覆われている。
いくら自衛隊とかががんばったところで、原子力エネルギーの素であるウランは外国から入ってくるとは思えない。
ボクはそこまで超広範囲にわたってゾンビを操ることはできないから。
つまり、きっといつか電気が止まる。ネットが停まる。
ボクの歌声で多少のゾンビ避けができても、根本的なところでの限界値がある。
食糧についても、同じく厳しい状況じゃないかな。
人間はゾンビと違って食べないと生きていけない。
日本の食糧自給率は、そもそものところたいしたことないし、文明力が落ちている状況では当然さらに落ちこんでいるに違いない。
例えばのんびり農家でもやろうと思って、トラクターとか動かしたら、ゾンビがわらわら寄ってくるから農業どころではないって話。あるいはトラクターを動かすための燃料が手に入らなくなってくる。
であるとすると、一割から三割くらいの人間がゾンビになったとして、残りの人間にいきわたるだけのパイがないんじゃないかな。食べ物の総量が絶対的に足りなくなってくるんじゃないかな。缶詰とかレーションとか、そういう保存食糧を食べつくしたら、少ない物資をめぐって争いが起こる。
行き着く先は餓死か、戦争か、ゾンビにかまれておしまい。
その前に文明が壊死する。
歌を聞けるような状況じゃなくなる。
ボクや命ちゃんのようなヒイロゾンビは、なんか謎パワーによってそこまで食べなくても大丈夫なんだけど、それでも人間的習慣が残存しているから、まったく何も食べないでいるのは辛い。
歌を聞けなくなったり、人間の文明を享受できないのも辛い。
歌、聞けないの嫌だなぁ。
配信できないの嫌だなぁ。
人間側からしたらめちゃくちゃ緊迫感ないだろうけど、ボクの本心はそこにある。そのためだったら多少危険でも、人間に文明を取り戻したい。
「ねえ。命ちゃん。電気とネットってまだ持つのかな」
「わかりません。九州内の電気はおそらく佐賀に集中するぐらいのことはしているかもしれませんね。けど、根本的なところで、原子力や火力発電には燃料がいるわけですから、外国からの輸入に頼ってる以上、限界はあります」
「自衛隊とかが、ボクの歌を使って……」
「無理ですね。タンカーがそもそも来ません」
「じゃあ、いずれは?」
「いずれは配信できなくなります。それがいつのことはわかりませんが、もうまもなくでしょうね」
「ずっと続ける方法はないの?」
「太陽光発電や水力、風力発電なら永続性が見こめます。しかし、ヒロ友のほとんどは接続ができなくなるでしょう」
「そうなんだ……」
せっかく、ボクの配信を見てくれてるのに、物理的に遮断されちゃどうしようもない。
寂しいなって思った。
「緋色ちゃん。気落ちすることはないよ。きっといままでやってきたことは無駄にはならないさ」
飯田さんが優しげな声をかけてくれた。
フルフェイスにジャンパー姿の飯田さんは、おそらく汗ダラダラで、水分がなければ干からびてしまうだろう。
「ありがとう。はいおじさん。お水」
ペットボトルの水に、ストローを突き刺して渡した。
フルフェイスの前面を開けて、猛烈な勢いで吸いこむ飯田さん。
蒸し焼き状態だったんだね。
「ありがとう。緋色ちゃん」
「おじさん。ずっと立ちっぱなしで辛くない? 座って見ててもいいよ」
そもそも、自衛隊な服を着ている人たちも、最初は飯田さんの姿にビビッてたみたいだけど、配信が始まったら、みんな喰らいつくみたいにボクのほうばっかり見てたしね。
実は隠れヒロ友なのって思ったくらいだ。
あるいはロリコンだったりしないよね。
「わたしとしては、緋色ちゃんを守るためにここに来たからね。今日は配信が終わるまで油断しないつもりでいるよ」
「うん」
わずか十名程度とはいえ、みんながみんな同じ考えを持ってるとは限らないからね。あの中にボクを狩ってしまおうという人がいないとも限らない。
ボクの情報がないうちにそんなことをしても無意味かどうかわからないから、普通の人だったらそんなことはしないとも思えるけど、気まぐれなのが人間だし、すべての来歴を見れるわけでもないから――そこは油断しちゃいけないんだと思う。
――アイドルホイホイされてる時点で説得力ないかもしれないけど。
★=
「お父さん。疲れました」
お父さんに対してはわりと素直なわたしです。
階段の隅っこ。スマホ。誰もいない。
鬱になるなら今のうち。鬱になるなら今のうち。
はぁ……鬱になると落ち着く。
わたしって躁鬱病の気があるような気がする。
『お、おい。乙葉。大丈夫か? しっかりしろ』
お父さんが慌てた様子で応答してくれるけど、焦った声を聞くのもすごく落ち着く。
そもそもの話。
わたしの本質はダウナー系。
光属性じゃないのは、わかりきってる。どっちかというと闇属性。でも闇というほどかっこよくもないから影属性かな。日陰者だ。パツキンの美少女してるけど、こんな目立つ色嫌だ。
はぁ……消えたい。
100万人もの前で配信する経験はさすがになかった。
もりもり増えて、いまではたぶん200万人。
数でどうこうというわけではないけれど、全人類が天使な少女からなんらかの譲歩を引き出そうとしている。
その人類代表としてわたしが立っている。
15歳のただのアイドルが、大統領よりすごい立場に立ってしまっている。
ゲロ吐きそう。
失敗したら、全人類の敵。裏切り者。いらない子扱い。
お父さんにも嫌われちゃう。
「荷が重いです」
『そんなことはない。乙葉は立派にやれている!』
「わたし、やらかしてないですか?」
『問題ない。あの天使様をお姫様抱っこするアドリブは素晴らしかった。まるで宗教的絵画が顕現したかのようだった! ああ……歓喜。歓喜。歓喜っ! またヒロちゃん様コレクションが増えたのだ。こんなに嬉しいことはないっ!』
「よかったですね。お父さん……」
確かに、ヒロちゃんの近くだと、少しだけ自分らしく振舞えるような気がする。ヒロちゃんもおそらく本質的にはわたしと同じく陰キャだと思うからだ。小学生だけど、どこかしら人間を信じきれない部分がある。
信じたい――というまっすぐな光のような視線も感じるけど。
たぶん、不思議な力を持っているがゆえに、人間から隠れて生きてきたのかもしれない。あの彗星が降り注いだ審判の日に、ヒロちゃんは自分の力が覚醒したと言っていたけれど、人間であるという自己申告が正しいとすれば――、ひとりの普通の女の子だとすれば、生きるために闇を抱えて生きてきたとしてもおかしくはない。
例えば、どこかの超能力研究所で虐待まがいの研究に従事させられてきたとか。
そんな可能性もなくはない。
ヒロちゃんは、私達人間と同じく、ある程度の嘘をつけるのだ。
『ともかく――、我々の住む教会までいらしていただくのだ。そのほかは些事。ゾンビなどあとでどうとでもなる』
「後輩ちゃんがいるので、なかなか説得する機会もありません。銃を持っている男の人もいますし……」
『うむ……使徒である後輩ちゃん様のご不興も買うべきではないな。しかし、ヒロちゃん様にとって、我々が有益であることを訴えるしかない。預言もそう言ってる』
「それってお父さんが書いた本ですよね」
『ああそうだ。預言には、我々の訴えが認められ、ヒロちゃん様はお傍に仕えることをお赦しになるのだ。乙葉よ。すべてはおまえの働きにかかってる!』
ゲロ吐きそう。
お父さんの期待が重過ぎる。
「ゾンビ避けできるヒロちゃんに差し上げられるものは何もないと思うのですが。食糧だってその気になればどこかから調達するのは可能でしょうし……、むしろ人間なんか滅びたほうがヒロちゃんにとっては有用なのでは?」
『なにを言ってる乙葉。ヒロちゃん様はおまえのことが相当お気に召したようじゃないか。気づかなかったのか?』
「え?」
それは――、確かにそうかもしれない。
でも、それは天使の気まぐれのようなもので、一時の奇跡で、すぐに失われる可能性があるもの。
それでも、嬉しかった。
かわいいと言ってもらえて、いっしょに配信できて嬉しいと言ってもらえて、こころの中が暖かくなったのは確かだ。
『ヒロちゃん様はお気に召した者を使徒とされる。おまえは今、使徒候補ぐらいにはなっているだろうな』
「そう、なんでしょうか……」
『うむ。まちがいない。預言書にはそう書いてある』
「お父さんが書いたものですよね……」
『そうだが?』
お父さんがワナビ時代に書いた預言書。ワナビとは、小説家になりたくてもなれないそんな素人のことを言う。
お父さんはワナビだった。小説家になりたくてもなれない人だった。
書いた小説は、ありきたりな救世小説。
今の状況に非常に近似しているけれど、偶然じゃないだろうか。
そんなことを言ったらお父さんに嫌われるから言わないけれど、わたしがヒロちゃんに嫌われて、目的を達成できなくてもお父さんは絶望しそうだ。
きっと、自分が書いた預言書を心の底から信じているのだろうし――。
実際にゾンビはうごめいているのだから。
☆=
「さて、二時間目が始まりました。みんなバテてない? 大丈夫?」
『大丈夫だ。問題ない』『一番いい配信を頼む』『ヒロちゃん成分を吸ってむしろ元気になりました』『ヒロちゃんウィキが充実した一時間だった』『三十分で編集し終わってるのな』『厚労省のページも更新されました』『マ?』『マ』『ママ?』『なぜかヒロちゃんの好きなものが書かれてる件』『パンケーキ』『アイドル』『仮面ライダー』『ごちゃ混ぜだな』『ていうか男の子っぽい感じ?』『厚労省もマメだな』『ゾンビ対策は更新されていないわけだが』
「あいかわらず元気でよかった。じゃあ、二時間目なんだけど、そろそろみんなと楽しむために……」
ざわつくコメント欄。
最近はほとんどやってこなかったからね。
「ゲーム配信をするよ」
『キター!』『ゾンビ避けよりも大事なこと』『それがゲーム』『世界が滅んでもゲームやめられないよな』『できればもっとゾンビについて語ってほしいのだが』『黙れ政府関係者』『ゾンビよりもゲームが大事』『にわかがいるな』『ピンクとしては、政府関係者には黙ってろと言いたい』『ピンク偉いぞ』『毒ピンもたまにはいいこと言うな』『本音は?』『ピンクもヒロちゃんと遊びたい』『おい……』『わかる』『わかりみが深い』『それな』
「うん。いいよ。みんなで遊ぼうね。今回するゲームは――、『ゾン日』。もともとバトロワ系のさきがけとなったゲームで、その後スタンドアロン化されたんだけど、ピユビジやらが人気になってオンラインで帰ってきたゲームなんだ」
どんなゲームかといえば、簡単に言えば、ゾンビという動く障害物があるバトロワなんだけどね。孤島で100人でバトロワといえば、だいたいの人がイメージできるんじゃないかな。
でもこのゲームの特徴的なところは、やっぱりゾンビだ。
ゾンビは銃に寄ってくる。でもプレイヤーキャラは銃じゃないと倒せない。
ゾンビも倒さないと危ない。でもプレイヤーに居場所がバレちゃうし、弾も尽きる可能性がでてくる。
その絶妙な塩梅がこのゲームを面白くしてる。
四人までのチームプレイも可能で、今回は命ちゃんと乙葉ちゃんの3人チームを作る予定だ。本当はあとひとり誰か入れたほうがチーム力はあがるんだけど、これだけ視聴者さんがいるとなかなかひとりは決められないかも。
『やっぱりゾンビゲーが好きなのね』『このゲームもゾンビゲーか』『ちょっと待て、これって百人が参加できるゲームだよね』『参加したい』『百万人中の百人か。余裕だな』『ヒロちゃんとゲームできるチャンス』『ピンクもヒロちゃんのチームになりたい』『私もヒロちゃんのチームになりたいんだが』『うお……幼女先輩じゃないか。生きていたのか』『最近復職していてね。忙しかったんだよ』
幼女先輩、またきてくれたんだ。うれしいな。最初の頃に、FPS系のゲームをやったときに助けてくれた偉大なる配信の先輩。
無駄のない動きで、ゾンビをバタバタとなぎ倒していく技量は、まぎれもなくゲームのプロだった。
人間離れした動体視力でエイム力を高めたボクよりも、よっぽどゲームに精通している。もちろん、味方になってくれれば心強いことこの上ない。
ピンクさんのほうは、アメリカと日本の共同事業的な何かの研究者。政府組織に片足つっこんでいる特務機関みたいな感じらしい。めちゃくちゃ頭がよくて、いろんな戦略を考えてくれると思う。きっと心強いアドバイザーになってくれるはず。
ボクが直接DMして呼べば、どちらかは選べるけど、どうしよう。
あまり迷ってる暇もなくて、ボクは一瞬だけ躊躇する。
前にホームセンターで恵美ちゃんのもとに駆けつけるか、命ちゃんのもとに駆けつけるか迷ったことがある。迷った結果のあの出来事。
凄惨な結果に終わってしまったあの時のことを思い出してしまった。
でも、あの時みたいに深刻なことじゃないんだ。
ゲームだもん。気楽にいこう。
「えっと……、じゃあ、ピンクさんにチームになってもらおうかな」
『やった。やった! ピンクは勝った! うれしくて泣きそう』『よかったなピンク』『ピンクの日頃の努力が報われたのか』『幼女先輩の敗北』『はは。嫌われてしまいましたか』
「幼女先輩を嫌ったわけじゃないからね。ボク、幼女先輩と戦ってみたいんだ」
『ほう……プロゲーマーに対してイキるか』『マイシスターはやくはやく』『ピンクが嬉しさにぴょんぴょん跳ねてる感じがほほえましい』『三十代のおっさんだぞ』『外国人は感情がダイレクトだよなぁ』『なるほど。ヒロちゃんは私と戦ってみたいですか。腕がなりますね』『幼女先輩はいつもソロ勝ちしてるだろ』『四人チームプレイでソロ勝ちって……』『幼女先輩が本気になったらいくらヒロちゃんでも厳しくない?』『これは観戦だけでも楽しみ。ゾンビ感染だけに』『審議不要』『ヒロちゃん負けないで!』
もちろん負けるつもりなんてない。
ボクも楽しみだ。
幼女先輩が弾き飛ばされちゃう可能性もあるけど、百万人が一斉にゲームに接続するわけじゃないと思う。単純に配信を見ているだけの人もいるだろうし、ゲームをプレイしながら配信も見るというのは、なかなか至難の技だ。
それといざとなったら、ボクがみんなに声かけして、幼女先輩が接続するまで、ちょっと待ってって言ってみようと思う。それでどれだけの人が待ってくれるかはわからないけど、やらないよりはマシかな。
そんなわけで、最初は普通に接続――。
☆=
ぶわん、ぱっ。
真っ白いパラシュートが膨らんだ音。
わわっ。みんなよりかなり早く開いちゃった。
なんというミス。
素敵すぎる遊覧浮遊。パラシュート開いた状態だとどんなにがんばっても、落下スピードはあがらない。
「先輩。このゲーム。パラシュートは自動で開かれるみたいですよ」
「え。ほんと? どうしよう」
「流れに身を任せるしかありまセーン」
『ピンクはヒロちゃんにくっついてる』
みんな、ボクがパラシュートを開くと同時に、ほぼ同じタイミングで開いてくれた。でもこれって、地面に落ちるのが遅くなってアイテムをとれなくなっちゃわないかな。
「ごめんみんな。いきなりハンデになっちゃった」
『やっぱり……ヒロちゃんを……ポンコツ……最高やな』『ポンコツじゃないよ。ただのかわいい小学生だよ』『ピンクが羨ましい。ピンクになりたい』『オマエはせいぜいドドメ色だよ』『わりと僻地だし、武器もないが敵も少ないぞ。悪くない選択じゃね?』『そもそも超絶姫プレイになりゃせんか』
地面に尽くまでにコメントを眺めていると、なんだか気になる言葉が目についた。
――超絶姫プレイ。
つまり、みんな一丸となって、ボクがトップになるために尽くしてくれるという接待プレイだ。
そんなの楽しくない。
「ボクとしてはみんなちゃんとバトロワしてくれるほうが楽しいかな」
「先輩がどうこう言っても、インセンティブないと始まりませんよ」
「えー、じゃあ、ボクを倒した人は、なんでも好きな言葉を言わせることができるっていうのはどうかな?」
『ざわ……』『ざわざわ……』『オレ、ヒロちゃんにお兄ちゃんおっきしてって』『あ、相棒が突然ヘッドショ喰らって、相棒。相棒っ!』『おいおい死んだわ。あいつ』『ヒロちゃんに好きな言葉を言ってもらうのもいいが幼女先輩を打倒したくもあるな』『キルレシオがえぐえぐな幼女先輩。今日も独りで殺しまくりなんだろうなぁ……』
幼女先輩。参加できたみたいだね。
やっぱりソロで倒しまくりなのかな。
すごいなぁ。
と、横を見ると、乙葉ちゃんが真面目な顔でこちらを覗いていた。
画面の中のアバターではなくて、リアルなボクをまじまじと見ている。
「ん。いまなんでもスルってイイマシタヨネ?」
「お、乙葉ちゃん、笑顔がなんだか怖いんだけど」
ついでに言えば、
ゲームの中の乙葉ちゃんが飛びながら、こすりつけるようにボクに重なってくるんだけど。
この人、地面に降り立った瞬間を狙ってませんかね。
対するピンクさんが乙葉ちゃんを押しやる。さながら姫を守る騎士のような動き。うーん。ピンクさんも普通にゲームうまいな。
『なんでもするじゃない。なんでも言うだ。アイドル』
「む。ピンクさんに叱られマシタ」
「同じチームの人は無効です!」
ボクは声を張り上げる。
もう少しで地面に落ちる。その前に言っておかないと、命ちゃんや乙葉ちゃんに瞬殺されそうだ。
まだ武器も拾ってないのにフレンドリィファイアで殺されるなんて嫌だよ。
「先輩がチキンでガッカリです」
「まったくデース。同じチームとしてやる気が失せマース」
『ピンクは……ピンクも……なにかご褒美』
「じゃあ、トップチームになったら、ボクができることならなんでもするよ」
『ん。いまなんでもするって』
「今度はピンクが天丼してマース」
「先輩。本気ですか?」
命ちゃんが驚いている。
そんなにおかしなこと言ったかな。
「先輩の一日モルモット券を要求されたらそれに応えるつもりですか?」
「モルモットはさすがにいやかな。でも、みんなとなら一日中いっしょにいるぐらいならいいよ」
「その言葉に二言はないですね」
「ないよ」
命ちゃんの瞳がキラリンと光ったような気がした。
「わたしのいる場所に招待してもいいデス?」
「もちろん」
『ピンクもマイシスターに会いにいってもいいか』
「いいよ」
乙葉ちゃんも。画面の向こうにいるからわからないけどピンクさんも。
みんなの気迫というのかな。気配が変わった。
だらけた雰囲気から、一瞬で歴戦の勇者になった。
――ような気がする。
ただ、みんなと会うぐらいならいつでもいいけどね。
もう知らない仲じゃないんだし。モルモットだけは勘弁だけど。
地面に降り立ったあと、ボクは状況確認をおこなうために、キーボードをカチカチしていた。マルチプレイは正直なところ苦手で、ボクはあまりやったことはない。このゲームもそれほど精通しているわけじゃないんだ。
一応、がんばって一週間くらいは練習したけど。
そんなわけで、ひとり悪戦苦闘していると、いつのまにやらぽつんと独りになっていた。みんな地面に降り立つまではすぐ近くにいたのに、さっそくどこかにアイテム収集しにいったのかな。
ちらりとリアルで横を見てみると、命ちゃんからはちょっと待ってくださいとのこと。
ボク何もしないでいいの?
そして気づくと、ボクの前に銃とか、バックパックとか、ヘルメットレベル3、防弾チョッキレベル3、最強と名高いアサルトライフル。赤ブルに包帯などなど。やたらめったら装備が置かれていた。みんなもそれなりの装備にはなってるけど、ピンクさんとかクロスボウしかないんだけど。
どう考えても、最弱のボクに最強のアイテムが集められているんだけど。
あれ?
これって姫プなんじゃ。
『姫。私も貢ぎとうござる』『ハーレム状態なわけで』『でもヒロちゃんも女の子だからハーレムじゃないだろ』『じゃあ、逆ハーか?』『百合ハーじゃね?』『姫プしてーなオレもなぁ』『つーか、ヒロちゃんズのほのぼのプレイの横で、幼女先輩が独りで既に十人くらいキルしてて草』『やばすぎるだろ。あの人』『さすがプロゲーマー』
独りで10キル!? 開始から十分も経ってないよ。
やっぱり幼女先輩は別格の強さだ。
いまのガチガチの装備でも勝てるかはわからない。そもそも動体視力ぐらいしかリアルでの有利な要素はないし、幼女先輩のほうが経験値は高いんだし。
最強の敵、幼女先輩を倒すにはこれぐらいの装備じゃないとね。ボクは用意してもらった装備をいそいそと着込み、用意してもらった四駆に乗りこむ。
途中でようやくでてきたゾンビたちをひき殺し、ピンクさんは無言でクロスボウでヘッドショットする。無音で殺しまくるのうまいね。
そして、やっぱり姫プレイだよね!?
そんなことを思いながら、やる気に満ち満ちた鼻息荒い連中を引き連れて、ボクは幼女先輩を打倒しに向かうのでした。
次回VS幼女先輩