あさおん・オブ・ザ・デッド   作:夢野ベル子

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町役場編
ハザードレベル64


 

 あれから――

 

 九州全域ほぼまっくら状態になってから、ボクはみんなの待つゾンビ荘に帰ってきていた。乙葉ちゃんはボクをぎゅうぎゅう抱きしめながら絶対ついていく宣言をしたのだけれども、それはそれで問題があるので辞退した。

 

 ゾンビ荘のみんなの存在がバレるのもちょっと困る。

 

 乙葉ちゃんを信頼できないうんぬんの問題じゃなくて、なんというか……みんながボクと同じアパートに暮らしているなら、自分もいっしょじゃないと嫌だとかいいそうな感じがしたんで。つまりそれは乙葉ちゃんのヒイロゾンビ化の危機でもあるので(バッチこいとか本人はいいそうだけど)丁重にお断りした。

 

 だから乙葉ちゃんについては、一度は帰ってもらうことにしたんだ。けっして、命ちゃんの突き刺さるような視線が怖かったのが理由じゃない。

 

 泣きながらボクにすがりつくる乙葉ちゃん。もう駄々をこねるってレベルじゃねーぞって感じで、なりふり構わず、ボクにべったりだった。

 

 結局最後は命ちゃんに引き離されて、必ず会いにいくということでしぶしぶながらも帰ったという感じだ。

 

 その際に、電話番号の連絡交換をした。

 

 ……けど、ネット回線自体も電気に依存するから、佐賀周辺では電話が通じない。

 

 配信も当然できないし、ボクのほうは乙葉ちゃんのいるところを教えてもらったけど、福岡のあたりまで行かなきゃならないから、ちょっと足が伸びにくい。また、飯田さんに護衛になってもらうっていうのも手だけど……原付でいくと、車だらけの高速道路を抜けていくのはきっと時間がかかるかもしれない。

 

 ピンクさんもといピンクちゃんの話だと、今回の停電の黒幕はアメリカって話で、そのアメリカの人たちがマッチポンプ的にボクのところに来るらしいけど、今のところはそんな気配もない。もうあれから一週間くらい経つのにね。

 

 つまり――暇だ。

 

 アイスが溶けちゃうみたいに、ボクは溶けてる。なにもすることがない。

 ていうか、無情にもアイス全滅。アイス一個もくえねえ!!

 9月もそろそろ終わりかけ。抜けるような秋の空が迫ってきてて、そこまで過ごしにくい季節ではないけれど、冬になったら寒いだろうな。北海道みたいに凍死する人っていうのはそこまでいないだろうけどさ。やっぱり、人間電気が必要だよ。

 

 電気が無ければ――。

 

 漫画や小説を読んで、昔ながらのポータブルCDプレイヤーで電池交換しながら音楽を聴くとか、バッテリーをつないだDVDプレイヤーで映画みるとか、そんな感じの娯楽しかない。

 

 暇だ。

 

 暇……。暇。暇。暇!

 

 ああッ!!

 

「ねえ。マナさん。なにかないの?」

 

 ボクはお部屋の中で、なぜかボクを膝上に乗せているマナさんに聞いた。

 マナさんはゾンビなお姉さんで、ボクの食事とか身の回りのお世話をしてくれる奇特な人だ。

 ロリコンで美少女好きな……危篤な人だ。

 まあ、そうはいってもマナさんのことは嫌いではないボクである。

 いまはちょっと暑苦しいけど。

 

「衛星インターネットとかならできなくもないですけど、残念ながら誰がそういう契約をしているのかわかりませんしねー。しかもそういう契約している人の回線を奪ってもバレバレになっちゃうのでマズイでしょうね」

 

「んむー」

 

 やっぱりネットは無理なのか。

 やるなら、九州を越えて山口県に行かなきゃいけない。

 

「はぁ……。いま、わたしは最高に楽しいですけどね」

 

 ホクホク顔のマナさんである。

 

「それはマナさんが楽しいだけで、ボクは全然楽しくないんですけど」

 

「ご主人様は、確か男の子さんだったんですよね」

 

「え? うん。そうだけど」

 

「男の子さんだったということは、今の状況に多少なりとも楽しさを感じているのでは?」

 

「ん? なんで」

 

「なんでって、少し傷ついちゃいます~。わたしってそんなに魅力ないですか」

 

「マナさんは普通に美人なお姉さんだと思ってるけど?」

 

「ああ、いつのまにやらご主人様の精神に男の子っぽさがなくなってしまったのですね。ほろり」

 

「え?」

 

「え? まさかお気づきでない?」

 

「そ、そんなことないよ」

 

 そうだよね。ボクって普通に男だったって意識あるし。

 

 でも、冷静に考えたら――。

 

 ほんの少し前までは、20代半ばのお姉さんの膝の上に乗るという異常事態に対して、もっとあわてふためいていたはずだ。

 

 ボクって、精神が幼女化してる?

 

 ま、まさかね。はは。そんなはずがないよ。

 

「ボク男だし」

 

「棒読みさんですね」

 

「ゆっくりしていってね」

 

「かわいすぎますね」

 

「でもさ、ゾンビか人間かという問題のほうが大きくて、男とか女とかそういう枠組がすごく小さいことに思えちゃうんだけど。男でも女でもたいして違わなくない? ゾンビにモグモグされたら肉塊という意味でいっしょだし」

 

「なるほど、男でも女でもイケちゃう口なんですね」

 

「なんでそんな話になるのさ」

 

「ご主人様が順調にご主人様と化している今、男も女も関係なく愛してくださるというのは、下々の者にとっては非常に重要だと思います」

 

「だから、そういうふうに下々の者とか考えたことないって」

 

 上級国民か。

 

「アイドルって、みんなに崇め奉られてるように思うんですけどね。ヒロちゃんの人気はとどまることを知らず、いまでは数百万人規模のファンがいます。もしもヒロ友のみんなにひざまずいて椅子になってと言えば、佐賀から福岡くらいまでは地面に下りないで歩けるかもしれませんよ」

 

「ボク浮けるもん。人間椅子なんていらないよ」

 

「ふ、ふぐっ。わたしのご主人様がかわいすぎる件」

 

「そんな、なろう小説のタイトルみたいなこと言わないでよ」

 

「でもまあ、なんにせよ。ご主人様はちょっと駆け抜けて気が抜けちゃったんじゃないでしょうか~。最近はちょっとスライムみたいに溶けちゃってますしね」

 

「アイスも食べられない生活だとツライです」

 

 マナさんはそのあたりすごくよくしてくれてると思う。

 電気が使えない生活でも、ガスコンロとかを使って、おいしい料理をいつも作ってくれるし。

 ただ、物の腐り方がヤバい。

 小型の発電機とかをあれから探してきて、なんとか設置したんだけど、防音でもなんでもないこのアパートでは、ものすごい騒音が周りに響き渡ってしまい、違和感あることこの上なかった。

 

 つまり、このアパートで発電機を使うことは、ボクはここにいるよとみんなに伝えてるようなもので断念するしかなかった。

 

 かといって、どこか他のアパートに住む気にもならないんだよねぇ。

 

「ご主人様。しかたありませんね」

 

 うん?

 

 ボクを宝物みたいにそっとソファに置くマナさん。

 

 それから、ごそごそとバックから取り出したのは、白いモヤを放ってるハーゲンダッツだ。冷気でひんやりしている。やべえぞ。バニラだ。ボクがさりげに一番好きって言ってたのを覚えておいてくれたのかな。

 

「え、どうしたのこれ」

 

「すぐそばに置いてあるトラックの中をですね。氷室のような状態にして、そこでアイスを保存してるんです。小型の発電機も少々使ってますんで、だいぶん持ちますよ」

 

「ありがとう! マナさん」

 

「お礼にチューでもいいですよ」

 

「えー」

 

「アイスいらないんですか?」

 

「マナさんはそんなこと言わないよね」

 

「さてどうでしょうか~。大人は目的のためならなんでもしちゃいますからね」

 

 あー。アイスを高々と掲げてしまうマナさん。

 ボクはぴょんぴょんした。

 

「うぐふっ。ご主人様はわたしを萌え殺そうとしてるんですか」

 

「えー。そんなことしないけど」

 

「じゃあ、キス以外なら何をしてくださるんです?」

 

「んー」

 

 ボクはしばし考える。

 

 マナさんって基本、ボクがすることならなんでも嬉しそうなんだよな。

 

「じゃあ、あの……温泉にでも入りにいこうか」

 

 ちょっと前に、マナさんといっしょにお風呂に入るという約束をした。

 ボクは毎日、お風呂に入らないと気持ち悪くてしょうがないし、今の状態だと断水状態だから困るんだよね。

 そのうち五右衛門風呂に挑戦しようかなと思ってるんだけど、それも準備が必要だ。

 いまは水で濡らしたタオルで全身を拭いたりしてるけど、一度、命ちゃんに見つかってひどいことになったから、普通にお風呂入りたい……。いや、もっとひどいことになるか?

 でも、お風呂ならさわいじゃダメっていいやすいし、命ちゃんも根は素直な子だから聞いてくれると思う。

 

 温泉はいいかもしれない。

 

 ボクたちが温泉に入るなら、やっぱり天然のに限るよね。

 

 どこか電気が通ってるところまで行ったほうがいいかなぁ。

 九州全域停電だと本州に渡らないとダメかな。

 

「温泉……ご主人様の入った温泉……ふへへ」

 

「マナさん。できれば九州内で入りたいんだけど」

 

「温泉に入るだけなら、どこか適当に作れますよ。でも、できるなら温泉施設でゆっくりしたいですよね」

 

 ボクもそう思う。

 でも、温泉施設ということになると電気は必須だ。

 

「九州内だと厳しいのかな」

 

「そうですねぇ……水力発電があるところならもしかするとってところでしょうか」

 

「九州は全部停電しているんじゃないの?」

 

「水力発電は川の流れとかでタービンを回すわけですから、べつに急に電気が生まれなくなるわけじゃありませんよ。ただ余剰がないから周りにまで電気をいきわたらせることができないだけです」

 

 つまり、いままで電気が来てたのは、あくまで余剰エネルギーだったってわけね。

 火力とか原子力とかに比べると、得られるエネルギーは少ないだろうし、水力だってやっぱり人の手を加えなきゃいけない。

 

 九州内から自衛隊とか人が完全にいなくなってるんだと、結局水力発電だろうと厳しいと思うんだけど。

 

「逆にいえば~。適当に水力発電の管理能力がある人をゾンビにでもしてしまって、永遠に管理してもらえれば一発で問題解決です~」

 

 マナさんの案が、思ったよりもエグイ。

 

 確かにゾンビさんから生前の記憶というか、技術というか、そういうものをひっぱってこれるボクなら、水力発電の知識に長けた人を適当にひっぱってくるだけで、そのあたりは自動的にできたりするだろうけど。

 

 あんまりといえばあんまりだよね。

 

 それに、同じような感じで原子力とか火力とかも可能なのかな。

 問題は、やっぱり燃料か。

 

「温泉に入りたいだけなら、ホテルや旅館についている天然由来のってやつがいいですよ。いくつかピックアップしておきますね♪」

 

「うん。おねがいしまーす」

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 やってきました温泉施設。

 

 いやー、温泉大国だけあって、べつに佐賀でも普通に温泉あるね。

 とはいえ、今はほとんどの設備が停まってる状態だろうけど。

 

 いくら天然温泉だとはいえ、ポンプによる配管設備が動かないと、お湯の流動性がなくなるから、温泉としての機能が働かない。

 

 そのせいで、熱かったりぬるかったり、適温にならない可能性が高い。

 

 否!

 

 断じて否!

 

 そんなことでどうする。

 

 日本人なら温泉に入らなくてどうする。

 

 そう思ったボクは、やっぱりここでもご都合主義的にヒイロウイルスパワーを使うことにしました。ピンクさんが言っていたとおり、ヒイロウイルスは物体の特性を上書きできる。

 

 つまり、お湯を適温にするくらいたやすい。

 ボクがちょっと疲れるぐらいで、特にデメリットもない。

 

 あえて言えば、ヒイロ温泉はもれなくヒイロゾンビ化しちゃう可能性があるってことかな。

 まあいいよね。いまはもう温泉に入る人なんていないし。それに血液に比べたら感染性能はそれほど高くない。そうじゃないと、ヒイロウイルス駄々漏れ状態になるたびに周りが感染しちゃうからね。ヒイロまみれな温泉入りたいですか?

 

 まあいいさ。ともかくいまは温泉だ!

 

「先輩がニヤニヤしてますね。私の裸でも想像してたんですか」

 

「しないよ!」

 

 そもそも、妹分である命ちゃんに性的な興奮を覚えることはない。

 

 そこんところははっきりさせてもらおう。

 

「まあいいですけどね。今日は三人ですし、のんびりしましょう」

 

「わりとご主人様は律儀ですよね。まさかあのときのフラグがいまになって成立するとは」

 

 まあ特に約束の履行ということを考えてたわけじゃない。

 

 ただ、他のみんなも誘ったんだけど、今日ついてきたのは命ちゃんとマナさんだけだった。恵美ちゃんは温泉好きかなと思ってたら、外が怖いとか言い出してるし、人が多くいるところが苦手なのかな。恵美ちゃんがいかなければ恭治くんもいかないし、飯田さんは男ひとりがついていくというのもちょっとって感じで、今回は辞退した。姫野さんも言うに及ばず。

 

 結果、三人で来ることになったよ。

 

 温泉施設は、マナさんの運転する軽自動車でわずか二十分くらいのところにある。

 わりとボクん家からも近かった。

 いままで行ったことすらなかったけどね。引きこもりがひとりで温泉とかありえないし。

 雄大から誘われたことあるけど、家でゲームするほうが好きだったからべつにいいって思ってた。

 

 宗旨替えしたのは、もしかすると配信のおかげかもしれない。

 たくさんの人間と、バーチャルな空間とはいえ交流したおかげで、積極性がでてきたとか。

 

 あるいは――。

 

 女の子になって温泉に入るのが好きになっちゃったとか?

 長風呂するしねー。

 

 なんて、思ったり。

 

 温泉施設の駐車場は車が数十台は停車できそうな大きな平地で、田舎あるあるな土地を贅沢に使っている作り。べつにそこに停める必要はないだろうけど、マナさんは律儀に停めた。

 

 温泉設備はホテルと温泉が別棟になっていて、ホテルのほうが背が高い。

 温泉そのものは和風なたたずまいをしていて、ちょうど旅館みたいな雰囲気だ。

 たぶん、温泉に浸かったあとは、ホテルで休むみたいな使い方をすることになってたんじゃないかな。

 

 まばらにいるゾンビさんたち。

 人間の気配はとりあえずのところないけど、ボクの人間認識能力はさほど高くないからね。

 まだ油断はできないよ。

 

「先輩。温泉施設ですが、中に人間がいる可能性は?」

 

「うーん。中にはゾンビはいないね。人間はわからないよ」

 

 温泉設備は普通の横開きする扉だ。

 重々しくもなく、普通に力でこじ開けることができそうな感じ。

 

「鍵かかってますね」

 

 マナさんが扉に手をかけた。まあゾンビハザードから逃れるときに、普通に閉めたとも考えられるけど、人間が中に残ってる可能性とかもあるからな。

 

「どうしようか」

 

「ご主人様が近くにいれば、負ける気がしない♪」

 

「いや、それは敗北フラグだから」

 

「真面目に考えれば、わたしたちが一番楽でかつ安全な方法って、まずは適当にゾンビさんたちを何十人か連れてきて"お掃除"させればいいんじゃないかと思います」

 

 そして、中に人がいてもゾンビになるから大丈夫ってわけね。

 

 あいかわらずエグイ。

 

「マナさんがすごく効率重視なのはわかったけど、中の人にとってはひどくない?」

 

「中の人などいない♪」

 

「いや……はい、まあいいや。ともかく、ボクが先に行くからね」

 

 扉はただの鍵がかかってるだけだ。握力がゾンビパワーでえぐえぐなことになってるボクは、あっさりと鍵を破壊できた。不法侵入してごめんなさい。

 

 で、扉を抜けると、鉄製のロッカーとかが斜めに倒してあって、いくつかの机とかがバリケードのように廊下への道をふさいでいた。当然、中は電気が通ってなくて暗いけど、ボクは夜目が利くから問題ない。

 机のくみ上げ方を見るに、どうやら上部が五十センチくらい空いていて、人が通れるようになっている。

 

 これってやっぱり、中に人いるかなぁ。

 でも、いまはもういないってことも考えられるし、微妙どころかな。あれから二カ月くらい経過しているわけだし、二カ月間も持つような食糧があるのかって話。

 

 それに、もしも人間がいたところで――。

 

 ボクはもう普通の人間には負けない気がする。ミサイルでも降ってきたらわからないけどね。

 

 そんなわけで、二段重ねになっていた机に脚をかけて、ボクは匍匐するように上のところを通る。

 

 ストっと降りたところで、突きつけられたのは、モップをやりみたいに改造したやつだった。

 

 手がふさがるのを恐れたのか、懐中電灯を安全ヘルメットにガムテープで貼って、何かのスポーツで使うようなプロテクターで固めた女の子たち三人。

 

 まだ小さい。中学生くらいかな。着てる服はよれよれになっているけどセーラー服で、

 

 ひとりはよくも悪くも普通というかちょっと不良っぽい感じの子。ひとりはメガネをかけた委員長タイプ。ひとりは気弱そうなおどおどしているタイプの子だった。

 

 まあよくあることだよね……。

 

 表情についていえば、暗闇の中でライトを下から照らすと、どんな美少女も恐怖顔になったりするじゃない。あんな感じ。

 

 みんなたぶん素の状態ではかわいらしい感じなんだろうけど、ボクという異物が侵入してきたことにいら立ってるのか、あるいは長らく続いてきたゾンビライフに疲れてるのか、心の余裕みたいなものが感じられなかった。

 

 当然――、そんな精神状態だと、ボクに対して安易に攻撃するという選択もありうるところだと思う。中学生くらいの女の子に対して暴力をふるうなんて、ボクにとってはありえないことだけど、攻撃してきたらさすがに無抵抗というわけにもいかないし、どうしよう。

 

 いちおう、見た目小学生なボクだけど、扉を破壊して不法侵入してきたのはこちらのほうだ。

 つまり、悪いのはこっち。

 

 無言のまま、しばしの間、時間が経過する。

 

「扉こわしちゃってごめんなさい」

 

 ボクはおずおずと切り出した。罪深い子羊ムーブです。でも、正直なところ扉を壊してもたいした問題じゃないと思ってるけどね。ゾンビは遠ざけることできるし、ここの人たちがもっとちゃんとした避難場所に行きたいっていうならつれていってもいいし。

 

「どうして侵入してきたの? ゾンビから逃げてきたの?」

 

 委員長タイプがようやく口を開く。

 

「えっと、温泉に入りたくて」

 

「は?」

 

 三人の女の子はポカンとしていた。

 温泉に入りたいなんて、このご時世じゃ気が狂ってると思われてもしかたない。

 

 もちろん、ゾンビ避けできる終末配信者でなければの話で、この三人はボクのことを知らないんだと思った。中学生くらいになれば、スマホぐらい持ってそうだけど、ユーチューブは見ない系の女子なのかもしれない。

 

 いろいろと考えてたら、JCズたちの後ろから、まだ三十代くらいかな。

 美人な着物を着た女の人がこちらにやってきた。

 

 誰だろう。

 

「どうやら強盗ではなかったみたいですね。かわいらしいお客様? お名前をおうかがいしてもよろしいでしょうか」

 

 優雅といってもよい所作。

 

 この温泉施設の女将さんなのかな。

 

 とりあえず温泉入れそうならそれでいいや。

 

「緋色です」

 

「おひとり様ですか」

 

 う、心に来る言葉はやめてほしい。

 

「あとふたりくらい後ろにいます」

 

「なるほど……、おまえたち、お客様をお通ししてください」

 

 後ろからついてきた命ちゃんとマナさんも合流し、ボクたちは客間へと通された。




しばらくの間は、第一章と第二章の復習編みたいな感じです。
投稿スピードはしばらくは2、3日に一回ぐらいを維持したいです。

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