あさおん・オブ・ザ・デッド   作:夢野ベル子

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ハザードレベル73

 町役場にはいったいどれくらいの人がいるんだろう。

 その正確なところはわからないけど、ボクのフォロワーであり、ヒロ友でもあるぼっちさんによれば、百人規模ではあるらしかった。正確な数値は大きな建物であることもあって、ぼっちさん視点ではわからない。

 

 ぼっちさん。

 ひとり暮らしをしていた男子大学生で、ボクと同じ大学に通っていたかもしれない人だ。

 でも、相手視点では、ボクは完全に小学生アイドルの立ち位置だったので、ダイレクトメッセージにおいても、なんというか子どもをあやすような、そんな優しさにくるまれた言葉が多かったかなと思う。

 

 要するに、なにか嫌なことがあったとしても弱音を吐かないで、自分のなかにためこんでいる可能性があるわけで、町役場が凄惨なことになっていたとしてもおかしくはない。

 

 ただ、他にもボクが町役場に連れて行った人はいる。

 

 例えば、自分たちの赤ちゃんを生き残るために捨てようとした夫婦。

 例えば、図書館でブンガクしてた女の子たち。

 例えば、マッチョな兄と男の娘な弟。

 

 みんななんとなくだけど、ボクの配信を見ているような気配がする。謎の美少女スレもエゴサーチの一環としてみてたけど、少しそんなニュアンスが感じられた。まあ匿名なんでなんともいえないけどね。

 

 そんな複数人の視点によってみれば、まあ多少は余裕があるんじゃないか、なんて思っている。

 

「ご主人様。町役場が見えてきましたけどどうましょうか?」

 

「周りにゾンビさんたちはいないよね?」

 

「視認する限りではいませんね~~」

 

 ボクの影響力はさりげに少しずつ拡大していて、事前にエリアを指定していれば、そこからゾンビを遠ざけることなんてたやすい。

 

 脳内レーダーでゾンビを光点であらわすと、まわりにはいない状況――。

 

 あれ?

 

 でも、これは……。

 

 町役場の中にゾンビがいるような感じがする。

 

 最近は地下にいた令子ちゃんゾンビを見つけられなかった反省を活かし、建物の高低差にも気をつけるようにしているけど、どうやらゾンビさんが数人はいるような気がする。

 

「なんか町役場のなかにゾンビがいそうなんだけど」

 

「全滅してますかねぇ~」

 

「そんなこと言わないでよマナさん」

 

 全滅とか……、ボクのひそかな努力が全部無駄だったみたいで嫌だ。

 もちろん、ゾンビになった本人たちも嫌だろうけど。

 ぼっちさんたち大丈夫かな?

 

「先輩にとっては、ゾンビだろうとそうでなかろうとあんまり変わりはないのでは? そもそも、ゾンビから回復させたり、町役場に送ったりするのも気まぐれの一種でしょう」

 

 ボクを膝に乗せている命ちゃんが、わりと冷たいことを言う。

 腰のあたりには命ちゃんの腕がシートベルトになっている。

 トラックって人を乗せるための車じゃないからね。スペース的にしかたなかったのです。

 

「気まぐれといえばそうかもしれないけど、ボクにはボクの哲学があってそうしたんだよ」

 

 けっして、チート持ち少女のガバプレイではないと思っていただこう。

 

「ご主人様の行動理念で救われたひとも多いわけですし、気まぐれだろうがなんだろうが、ご主人様を信望している人は多いと思いますよ~」

 

 マナさんは時々厳しいけど、時々優しい。

 変態でなければ、お姉さん認定してもいいんだけど。

 

「む。ご主人様がわたしのことをお姉ちゃん的に見てる気がします。辛抱たまらん。命ちゃん。ご主人様を渡してください」

 

「いやです」

 

 おう。ボクは命ちゃんにひっぱられる。マナさんから少しでも距離をとろうと、左側に寄って運転席側から離れた。

 

「まあ、ご主人様の心配するほどではないと思いますよ」

 

「え? どうして」

 

「ほら、町役場の哨戒エリアといいますか。あのあたりの道路を見てください」

 

 町役場は見た目は普通だけど、ところどころは要塞化している。ここ二ヶ月ほどの間に少しずつゾンビを駆逐したり、周りからボクがゾンビを遠ざけた隙を見つけては改造を施していたらしく、例えば、町役場の周りのエリアは四車線くらいの結構大きめな道路になっているんだけど、そこを竹束っていってわかるかな? 塩化ビニルでできた棒をいくつも連ねたバリケードで防いでいるんだ。

 

「バリケードがどうかしたの?」

 

「少しずつ前進しているんですよ。前に来たときにはもう少し町役場に近い道だったはずです」

 

 うちのゾンビさんたちは力持ちだけど、人間を視認しなければ比較的おとなしいから、あのバリケードで人間が見えなければ、たぶん襲ってはこない。つまり、バリケードも破壊されない。

 

 ということは中にいる人たちもきっと大丈夫ってことか。

 

「中の人などいない♪」

 

「不吉なフラグをたてないでよ。マナさん」

 

 とりあえず、ボクは降車して、バリケードに近づくことにした。わりと異様だ。水道管とかでよく見かける灰色の塩化ビニルを利用して作られた竹束状のバリケードは斜め方向に迫ってくるように突き出されていて、しかもかなりの高さがある。一言で言えば斜めの壁――、としかいいようがない。

 

 仮にゾンビが迫ってきても斜め方向になっているせいで、ゾンビが手を突き出していると体重をかけて押しつぶすってことができないから、バリケードが破れにくくなってるんだ。

 

 でも、きっと塩化ビニルで出来ているだけあって、たぶん大人数人で移動できるぐらいには軽いのかもしれない。

 

「どこから出入りしてるのかな?」

 

 ボクはさらにバリケードに近づいた。命ちゃんたちも降車していっしょに近づいてきている。

 

 よくある一手としては、ゾンビさんたちは脚立を組み立てたりするのができないから、そのあたりの特性を利用して、建物の塀の上を歩いて脱出というのが考えられるけど、このあたりはそういう塀がない。あるにはあるんだけど、それぞれの家で違う塀の高さだし、塀が平坦ではなくてとがってたりといろいろと適さない。

 

「あちらの畑をつっきれば、金網フェンスですからよじ登っているのでは?」

 

「あー、なるほどね」

 

 畑のほうを見れば、高低差があって、畑側から迫るとするとゾンビとしては絶対によじ登れない。逆に人間のほうは当然よじ登ったりはできる。脚立でも置いていればさらに楽なんだろうけど、畑のどこかにあるのかな。

 

 町役場に行くにはあっちから近づいたほうがいいのかな。

 

「どちらにせよ。侵入者が近づいたらわかるようになっているはずです」

 

 確かにそのとおりだ。

 

 命ちゃんがちょうど離れた途端。

 

 ぴぽんぱんぽん。ぱんぽんぽんぽん。

 なんだか懐かしい音が鳴った。

 

『ゆう~~~~やけ~~~~こやけ~~~~のあかとーんぼ~~~~』

 

 ボクの歌だった。

 バリケードに近づくと、ボクの歌が流れる仕組みになっているのかもしれない。どこかに電池式の動体センサーがとりつけてあって、ボクの歌が流れる仕組み。

 

 結構な大音量で流れるから、ちょっとだけ恥ずかしい気持ちもあるにはあるけど、ユーチューバーをして、全世界に配信しているからいまさらって感じだ。

 

『良い子のみなさん。五時になりました。おうちに帰りましょう』

 

 ボクの声だった。

 ゾンビ避けの一環で、結構な回避性能を誇った五時のチャイム音声。

 ゾンビには生前の記憶に応じて行動する性質があるから、五時のチャイムは効果が高かったらしい。

 

 当然のことながら、今は五時ではないし、まだ朝の時間帯といっていい。でもゾンビってボクと同じでわりとガバガバだからね。夕方とか朝とかそういう状況はどうでもいいらしく、五時になったとボクがいえばゾンビさん的にはそうなんだろう。

 

 要はボクがどんな気持ちで歌ったかというのが大きいのかな。

 おうちに帰りたいなって気持ちで歌いました。

 ボクと連帯しているゾンビさんもおうちに帰りたい気分になるんだと思います。

 

「先輩。そろそろ……」

 

「ん。そうだね。誰か来そうな雰囲気」

 

 と、そのとき。

 

 塩化ビニルで出来たバリケードの一部、正確には端っこのほうの幅一メートルくらいのところが、すすっと引くように動いた。

 

 よく見ると、バリケードの下にはゴロゴロするための小さなタイヤがついてたみたい。でもバリケード的には大丈夫なのかな。

 

「おそらくですが、バリケードの向こう側には土嚢とかをつめるようになってるんでしょうね」

 

 なるほど……よくわからん。

 

「まあ実際に見てみればわかりますよ」

 

 人が通れるくらいずらされてようやく構造がわかった。ちょうど"L"みたいなかたちなんだね。Lというよりはもうすこし縦の線が左側に傾いているんだけど、そのLの字の横棒のところとか、横棒の端の部分に土嚢とかを設置するようになってるみたい。これでゾンビに押されてもそう簡単には壊れないのかもしれないね。

 

 あらわれた人影は数人。みんな思い思いの武装をしているけれど、こちらに敵意はなさそうだ。

 その中のひとりはボクもよく見知っている人。

 ぼっちさんだった。

 喜色満面。ものすごい勢いで手を振ってボクに近づいてくる。

 

「ヒロちゃん! うわー。本当にヒロちゃんだ」

 

「ぼっちさん。こんにちわ。無事でよかったよ」

 

 なんとはなしに、手を出して握手を求めてみる。友好的なゾンビですから。

 ぼっちさんは上着の裾の部分で何度も手をふいて、それから手を伸ばしてきた。

 はい。握手。

 

「うわあああああ。握手しちゃったよ。柔らかくてすべすべでマシュマロみたいな……生きててよかった」

 

「いやまぁ……ふへへ」

 

 握手程度でそこまで喜ばれてもと思うけど、本当にうれしそうなんでこちらもうれしくなってくる。ボクってわりとアイドルしてるなぁ。

 

「ヒロちゃんがきてくれてうれしいな……いや、マジでうれしい。なんだかすごくいい匂いするし、ヒロちゃん成分で頭おかしくなりそ……」

 

 昨日死ぬほど温泉に入りまくってるしね。命ちゃんたちには念入りにピカピカになるまで磨きまくられたし、もっさもっさの髪の毛がシャンプーのいい匂いになってるのは確かだ。

 ちょっと言い方が変態チックなのはご愛嬌かな。

 

 よく見ると、少し瞳がうるんでらっしゃる。

 

 そこまで感動せんでも……と思うけど、よくよく考えれば、ボクって救世主的な側面もあるんだよね。ゾンビ的な問題はボクがいる限りでは解決するし、物資的な側面もボクは調達するのがかなり楽だから、要するに現世利益があるってことです。

 

 ただ、ぼっちさんの場合は、ボクのファンだからね。

 ふふん。ファンだからね! 大事なことなので二度いいましたが、こころの連帯を感じます。ヒロ友特有の連帯感です。

 

「今日はね。ちょっとお願いがあってきたんだけど。中入っていい?」

 

「もちろん。いいにきまってるよ。あ、でも、いちおうリーダーにかけあってみるから、ちょっとだけ待ってもらってもいいかな?」

 

「うん」

 

 後ろのほうから、令子ちゃんたちも追いついて、ボクたちが通されたのはバリケードの横っちょにあるなんの変哲もない家だった。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 家の中は普通――というか。普通で当然だ。

 

 ここはたぶん、ゾンビハザードが起こる前はただの家だったのだろうと思う。二階建てのよくあるお家。ゾンビに見つからないようにするためか、カーテンは締め切っていて暗い。

 

 でも、ボクがいるからかぼっちさんはすぐにカーテンを開けてくれた。

 朝日がさっと差し込んで、部屋の中は明るくなる。

 ボクも晴れやかな気持ちになる。ゾンビ避け能力については確かにさんざん見せつけてきたけれども、ボクのことを信じてくれているってことだから。

 

 通されたのはリビングだ。大きめのソファの真ん中にボクが座り、その隣に命ちゃん。そしてマナさん。マナさんってボクの関係者であることを隠す気ないよね……。まあいいけど。令子ちゃんたちはぼっちさんの仲間が持ってきたパイプ椅子に座ってもらった。これだけたくさんの人が来るのは想定していなかったんだろう。

 

「いま、本部と連絡とってるから待ってね」

 

 対面に座ってるのはぼっちさんひとり。向こうの壁のほうに背中を預けているのはもう少し年のいった若い男の人。あとひとりは60歳くらいの初老のおじさんって感じの人だったけどどっかいっちゃった。

 

「どうやって連絡とってるの?」

 

「ほんとはトランシーバーでもあったらよかったんだけどね。町役場の中になかったからやむなく手旗信号をつかってるんだよね」

 

「OH……手旗信号」

 

 ヨ ウ カ ン ヲ ク レ

 

 ってやつですな。

 

 古式ゆかしい伝達方法だけど、だからひとり二階に向かったのか。

 ちなみに人間を超えてる聴覚を持ってるボクなので、トランシーバーの音なら拾えたかもしれないけど、手旗信号だと何を伝えてるかはわからない。

 まあ、そんなに悪い印象はないんじゃないかなと思うけど。

 

 と、唐突に。

 

 ドン、ドンというぶしつけなほどに大きなドアをノックしている音が部屋内に響いた。

 

 ちょっとだけビクってなっちゃった。

 それぐらい大きな音だった。

 ぼっちさんは立ち上がって、それからドアを開けた。

 

 そこにいたのは小さな女の子だった。

 ボクよりはちょっと小さめ。ピンクさんよりは大きめ。

 10歳ジャストぐらいかな。なんだかぼーっとしたというか冬眠明けでまだ眠たそうな子熊って感じで、垂れ目ぎみの顔立ちをしている。

 そして驚くほど静かな印象。部屋の中はその子の一挙手一投足に集中していて、奇妙なほど沈黙している。みんな息を殺している。

 その子はちいさな手にお盆をもっていた。

 湯気たつお茶がその上に乗っていた。手がぷるぷると震えてる。

 

 うーむ。つまり、さっきの音はドアを蹴り上げたのか。

 ワンピースの裾から見える細い足。両手が塞がってるから、お行儀が悪いけどしょうがないよねって感じだ。

 

 ぼっちさんはお盆ごと受け取ろうとしたけど、女の子は首をふるふると振って、やわらかく拒絶した。

 

 うむん。自分で配りたかったのか。

 それとも自分の仕事だという認識があるエライ子なのかもしれない。

 ほほえまーです。うん。

 

 こぼさないように慎重にって感じで、ソファの真ん中に置かれたローテーブルにお盆を置いて、それから湯のみをひとつずつ丁寧に両手で持って、まずはボクに。

 

 無言のまま。

 

 ぬぼーっとした眠そうな瞳がボクを見ている。

 

「ありがとう」

 

 そのあと、女の子はみんなにきちんとお茶を配り終わったよ。

 そして――、最後にぼっちさんの隣に座った。

 ちょっと身体を傾けて、ぼっちさんに身体を預けてるような感じ。

 ぼっちさんは困ったようなうれしいような微妙な顔つきになっていた。

 

「えっと……ごめんね。ヒロちゃん。この子は杵島未宇ちゃんっていって、ヒロちゃんのファンなんだ」

 

「へー。女の子のヒロ友……」

 

 やったぜ。

 ボクにも女の子のファンがいたんだ!

 まあピンクさんという幼女がいたんだけど、あの子の場合は、半分くらいは政府関係者でもあるからなぁ。

 純粋なヒロ友という意味では初めてではなかろうか。

 ぐっとうれしさを噛み締める。油断するとニマニマしてしまいそう。

 

「はじめまして未宇ちゃん。ボクのファンになってくれてありがとう」

 

「……」

 

「あれ?」

 

 無言なんですけど。

 未宇ちゃんは眠たそうにしてるけど、本当に眠ってるわけじゃない。

 ボクをリラックスした瞳で見てる感じ。

 

「ああ……、ヒロちゃん。この子は耳が聞こえないんだ」

 

「え、そうなの? 耳が聞こえないのに――」

 

 ボクのファン?

 というのは、少し変かなって思っちゃった。

 それは健常である者のある種の傲慢的な考えなのかもしれない。

 

「ヒロちゃん動画は字幕入りで各種翻訳されてますよ~」

 

 隣で補足してくれたのはマナさんだった。

 へえそうなんだ。ボクってアーカイブにあげるだけで関連動画を全部見てるわけじゃないから知らなかった。

 

 ぼっちさんはぴとってくっついていた未宇ちゃんを離して、少しだけ距離をあけて、それから流暢にっていったらいいのか、手話をしていた。

 

「ヒロちゃんはファンになってくれてありがとうって言ってるよ」

 

 未宇ちゃんもそれに対して手話を返す。

 

「いつも楽しい動画ありがとうだって」

 

 そして花がほころぶような笑顔。

 

 やべえ。かわいすぎる。隣にいるマナさんの鼻息が荒いけど、これにはボクも賛同できる。とてつもない幼女指数だ。

 

「がいがぁかうんたーで調べたらめちゃくちゃガリガリ言ってる気がします~」

 

 マナさんが何いってるのかいまだによくわからない。

 

「ぼっちさんとはどんな関係なの?」

 

「なんかよくわからないうちに懐かれちゃって……、たぶん僕が手話できるからかもしれない」

 

 意思疎通できる人ってことか。

 耳が聞こえないってことは、自分が何を言ってるのかも確認する方法がないってことだから、言葉を発することがなかなかできない。

 

 スマホのメモ帳とかミニ黒板を使って意思伝達することは可能かもしれないけど煩雑で時間がかかる。

 

 こういう生きるか死ぬかという状況だと、子どもと会話するというリソースもとりにくいってことなのかもしれない。

 

 しかしそれにしても――。

 幼女にべったりとくっつかれている男子大学生(21)。

 傍から見たら事案ですね。

 うらやま――もとい、なにか腑に落ちない。

 だからボクは言った。

 

「ぼっちさんがぼっちじゃなくなったら、ぼっちさんじゃないよね」

 

「ええっ!?」

 

「これからはあんぼっちを名乗るといいよ」

 

「あんぼっちとは」

 

「否定の接頭語の"あん"をつけて、あんぼっちだよ。それとも幼女スキーぼっちのほうがいい?」

 

「あの、僕はロリコンじゃないよ」

 

 慌てたように否定するぼっちさん。

 

「ボクも十分に幼女だし、ボクのこと嫌いだったの?」

 

「そ、そんなことないよ! 僕はロリコンでした!」

 

「そうでしょ。だったら、これからはあんぼっちを名乗るといいよ」

 

「それは勘弁してもらえないかな……」

 

 壁際の男の人がこらえきれなくなったのか、プっと噴出していた。

 

 まあ、ぼっちさんをいじるのもこのくらいにしておこう。

 

 それにしても、耳が聞こえないってどのくらいのハンデなんだろうな。

 はっきり言って、健常者というのは障害者のことなんてまったくといいほどわからないと思う。

 健常者どうしですら、他人のことはわからないし、何を考えているかわからないし、争いは無限に起こってるわけで。

 

 ただ――、例えばの話。

 

 ゾンビだらけになった世界で、ゾンビのうなり声が聞こえないというのは、かなりのハンデなのは想像に難くない。

 

 そんな中で、未宇ちゃんがこの町役場にたどり着いたというのは奇跡に近い。

 親とか知り合いはどうしたのかなと思うけど、たぶんダメだったのだろう。

 だからこそ、ぼっちさんに懐いているんだろうし。

 

 だから、彼女はひとりきりで寂しかったのだろうと思う。

 

 そんなふうにこころの中を想像したところで、まったく検討はずれかもしれないけどね。ともかく、未宇ちゃんがヒロ友であることは間違いないところであろうし、ボクってファンサービスは結構こころがけているほうなので、あまり見かけない女の子のヒロ友には優しくしたいと思います。

 

 ふっと思いつくのは――ヒイロゾンビ化による再生能力をつかって、未宇ちゃんの聴力を回復させることだけど、ヒイロゾンビ化することの弊害もあるかもしれないから、いまはまだ黙っておいたほうがいいかな。

 

 そんなことを思うのでした。




ゾンビというのは大衆です。
したがって、『正常』と『非正常』の対立軸も描いているといえます。
わりと文学できる。それがゾンビ小説なのかもしれないとか思いながら書いてます。

うーん。
もっとインスタントに面白いことを書き連ねるべきなのかは迷いどころさんです。

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