あさおん・オブ・ザ・デッド   作:夢野ベル子

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ハザードレベル75

 町役場のホールはわりとにぎやかだった。

 小学生低学年とか幼稚園くらいの子どもたちに囲まれるし。

 もみくちゃにされるし。

 髪の毛触られるし。

 胸も触られるし。

 まちがっても傷つけるわけにもいかないから、わりと困っていた。

 そんな中、救世主として現れたのが、ボクが図書館であった女子高生だった。

 命ちゃんも女子高生だけど、彼女達は低学年くらいかな。

 まだ中学生っぽい雰囲気をまとってて、カワイイなと思える年頃です。

 

「ヒロちゃん本当にきたんだ。ちょっと前に噂になっていたよ」

 

 ふわふわ髪にほんわか雰囲気なのが平岡鏡子ちゃん。

 人当りがよくて、みんなに好かれそうなタイプだ。

 

「どうやって知ったの? 手旗信号?」

 

「うん。そうだよ。重要性の高い情報はすぐに館内放送が流れるの」

 

「電気来てるの?」

 

「発電機はあるけどそこまではしてないよ。単純に人力」

 

「人力?」

 

 人力の館内放送ってなんだろう。

 答えはすぐに出た。

 

「メガホン使ってるだけだよ。ヒロちゃんがきたぞおって興奮してた。わたしもだけど、みんな興奮してると思うよ。だって、みんなヒロ友だし」

 

 みんなヒロ友なんだ。ホワッとうれしい気持ちが湧く。

 

 もちろん、額面どおりに受け取るわけにはいかないと思う。

 鏡子ちゃんにとって、ボクはゾンビ化を防いだまさしく救世主的なポジションだし、いわばヒロ友の中でも特に関係性が深いだろうから。ボクのシンパというか。ボクの味方な感じ。本当に全員がボクの動画を心の底から楽しんで見ていたってわけでもないだろうと思う。

 

 それでも、みんながボクのことを歓迎してくれてると思うと安心するな。

 いままでここに来なかったことに罪悪感が湧くくらい。

 

「この子たちもヒロ友?」

 

「そうだよ。みんなヒロちゃんのこと大好きなんだよね」

 

 鏡子ちゃんが子どもたちに聞いた。

 花が咲くように笑う子どもたち。

 

「うん好きー」「いい匂いするし」「生ヒロちゃん!」「好き好き大好き超あいしてる!」

「おまえのことが好きだったんだよ!」「ヒロちゃんずっとここにいて!」「ママー」

 

 なんか妙にませてますね。

 子どもたちは全部で七人くらい。背格好はボクよりも小さい。

 幼女化著しいと言われているボクだけど、さすがにこの子たちに対しては庇護欲が湧く。

 ちょっと怪しい言動な子もいるけど、ほほえましいことこのうえないよ。

 みんなが寄ってくる、そして。

 

――おしくらまんじゅう。

 

 ともかく密着したいというか、ボクに触りたいのか。

 未分化な欲望をそのまま受けるかたちになるボクは、ほほえましくはあるけど暑苦しいです。

 

「ほらぁ。みんな。ヒロちゃんから離れなさい」

 

 ほんわか声でいわれても、みんなに効果は薄い。

 命ちゃんもマナさんも、ほほえましく見てるだけで助けてくれない。

 むぐぐ。

 

「みんな」

 

 すっと透明な声が差し込んできた。子どもたちの顔がそちらに一斉に向いた。

 声の主は、太宰こころちゃん。

 長い黒髪が綺麗で、なんというかロボットみたいに綺麗な印象の女の子だ。

 図書館ではうろたえたり泣いてたりと人間味があった彼女だけど、どうやら標準的にはあんまり表情筋が動かないタイプなんだな。

 冷静沈着というか。

 身体は本でできている、とか言い出しそうなタイプ。

 

 なんというか命ちゃんにそのあたりは似ている。

 

「こっちにおいで」

 

 声のトーンがいっしょなので、感情の揺らぎがほとんど感じられない。

 受け取り方によっては怒ってるとも思われかねない言葉だけど、そうじゃなかった。

 みんなダッシュでこころちゃんに寄っていく。

 

「抱いてっ」「こころせんせー」「ころせんせー」「それ違う」「せんせーなでてー」「きゅうん」「せんせーがいちばんおちつく」「こころちゃんが一番おちつくよね!」

 

 子どもたちが離れたことで、うれしいやらちょっとさみしいやら。

 ていうか、なんで鏡子ちゃんも抱きついていくんだろう。

 

「鏡子は許可してない」

 

「もう。そんなこと言わないで! わたしとこころちゃんの仲じゃない」

 

「どんな仲よ」

 

「それ言わせちゃうかー。あつあつカップルでしょ」

 

「誰がよ」

 

 こころちゃん、鏡子ちゃんにでこぴんする。

 誰がどう見てもイチャイチャしているようにしか見えない。

 子どもたちも無邪気にはしゃいでいる。

 

「百合だー」「アリだー!」「えるじーびーてぃーってママが言ってたよ!」「おまえのことが好きだったんだよ!」「鏡子×こころが鉄板だけど、もしかしたら逆もありかもしれない」

 

 百合の英才教育という言葉が脳内に浮かんだけど、ダイバーシティだ。多様性だ。

 そもそもゾンビだらけの世界なので、みんな助け合いの精神が大事だと思います。

 百合だろうがホモだろうが、そんなのは些事というか。

 気にしてるだけの余裕がないんだろうとも思うし、こころちゃんも半分くらいは受け入れちゃってると思うんだよな。

 

「というか、なんとなくみんなの言葉でわかったけど、こころちゃんたちって先生やってるの?」

 

「そうだよ」と、鏡子ちゃん。

 

「わたしたちにできることはなにかって考えたの」と、こころちゃん。

 

 自分たちでできること――。

 

 この小さな町役場で、できることは限られてると思う。

 

 みんな、ねっころがってじっと耐え忍ぶというのがデフォで、なにかを積極的にしようとするのはそれだけでエラい。

 

 ゾンビハザードが起こってから、ボクがやってきたことって配信くらいで、それ以外はダラダラ過ごしてきたんで、なんとなく心が痛くもあります。

 

「あ、そうだ。ヒロちゃんも授業受ける? 小学生くらいまでならなんとかなるよ!」

 

「え?」

 

「え、だって、ヒロちゃんも小学生なんだよね?」

 

 確かに自己申告では小学生の年齢を言ってたような気がする。

 でも、ボクは大学生。大学生なんです!

 ピンクさんに中学生くらいの知識とか知力とか言われた気がするけど、それでも大学生なの!

 

 いまさら、小学生の授業なんて楽勝に決まってる。

 

 算数で四則計算ができたからって、なんの自慢にもならないし、ボクがすごい天才とかいわれても悲しい気分になるだけだ。

 

「えーっと、ボクはいいかな」

 

「あー、ヒロちゃん、勉強嫌いなんだ! 将来困るよ。わたしも苦労したんだから」

 

 しみじみと言う鏡子ちゃん。

 ある意味、未来に希望を抱いているからこそ言える発言だ。

 この世はゾンビだらけなわけだし、教育機関が復活するかはわからない。

 それどころか、人類は存亡の危機に立っているから。

 

 でも――、ボクの内心では大学生の知識を否定されるのは、男だったときのボクが否定されるようでおもしろくない。

 

「ボクはこう見えて大学生くらいの知識はあるんだよ。鏡子ちゃんたちって高校生でしょ。ボクのほうがいろいろ知ってるし」

 

 イキってしまうボクでした。

 ニヤっと笑う鏡子ちゃん。

 

「へえ。じゃあ問題です。てろんっ」

 

「む……」

 

 いきなりのクイズ番組か。

 ボクは身構える。

 でも、小学生に見えるボクにいきなり全力の問題を出すはずがないだろう(震え声)。

 そこは手加減してくれるよね。

 

「わたしの大好きな太宰こころちゃんですが――」

 

「おい」とこころちゃん。さりげなくツッコミが丁寧だ。

 

「太宰といえば、大宰府。大宰府と言えば誰が祀られているでしょう」

 

「菅原道真だよね。楽勝すぎるよ!」

 

「おおう。すごい。じゃあ、菅原道真は何をした人か知ってる?」

 

「確かめっちゃ頭がよかったから嫉妬を買って左遷されて、歌とか詠んでしょんぼりしてたんだよね。大事にしてた梅の花にボクのこと忘れないでねって言ってる今でいう陰キャです。それで道真が死んだときに、流行り病とかが起こったから、道真のたたりとか言われて、大宰府に神様として祀られました。めっちゃ頭がよかったから、学問の神様とか言われてたりもしてます」

 

 どうでしょうか。

 完璧じゃないでしょうか。

 正直、これ以上は知らないので勘弁してください。

 目に力をいれて、ぐっと鏡子ちゃんを見るボク。

 鏡子ちゃんもボクを見つめ返す。

 

「祀りたい」

 

「ほへ?」

 

「ヒロちゃんを祀りたい。かわいいし。天使だし」

 

「うえ?」

 

「ヒロちゃんって天使なんだよね?」

 

「どうなんだろう。そういう説もありますね」

 

「有力説だよね」

 

「いや、有力説とかよくわかんないけど。それよりさっきの答えはどうなの?」

 

「正解なんじゃないかな。こころちゃんどう?」

 

 知らんのかい。まあ大宰府って佐賀県民からしてみれば微妙に遠いからね。

 まず福岡に特急でいってローカル線で行くのがいいのかな。

 こころちゃんは少しだけ頭を傾げて、ボクの答えを吟味している模様。

 

「まあ小学生としては十分正解かな」

 

 こころちゃんの裁定はいちおうオーケーだったみたいだ。

 小学生としてはという留保が気にかかるが、これ以上つっこんでも泥沼だ。

 

「まあ、祀るという行為はまちがってないと思う。わたしにとって、ヒロちゃんは――デウスエクスマキナ――ご都合主義の神様みたいなものだし、人間にはできないことをしている時点で、"神"であることは間違いない。なぜなら、"神"とは上という言葉からきていて、人間より上の存在であるのなら、神様であるといえるから」

 

 ついにボク、神様説まで飛び出しましたよ。

 こころちゃんがスラスラと自説を述べると、とんでも説でもなんとなく本当のように思えてくるから不思議だ。子どもたちからの視線が熱い。

 先生の言葉をうのみにする年頃だ。否定しておかないと。

 

「あのね。ボクって基本は人間だと思ってるんだけど」

 

「評価っていうのは他人の評価だから」

 

「そりゃそうだけど……」

 

「それに――」

 

 そこで、こころちゃんは言葉を切った。

 

「それに?」

 

「あのとき、鏡子を助けてもらって、わたしには神様みたいに見えたから」

 

 うわー。鏡子ちゃんが恥ずかしさとうれしさのあまり、顔を覆ってるんですけど。

 耳まで真っ赤なんですけど。

 こころちゃんの天然たらしっぷりがすごい。

 

 そんなこんなでボクの話は曖昧なまま、ふたりとはいったんお別れしたのでした。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

「待たせちゃってごめんなさい」

 

 ボクは、初老の男の人――ゲンさんに向かって謝った。

 こころちゃんたちと話してる間、なにも言わずに待っててくれたからね。

 

「いい。みんな疲れてるからな。おまえさんが声をかけるだけでもだいぶん違うさ」

 

「だったらいいけど」

 

 内心では――。

 

 やっぱりみんなちょっと疲れてるのかなって思った。

 いつ終わるともしれないゾンビとの戦い。ちょっとまちがえば自分がゾンビになってしまう恐怖。

 食糧の問題とか。将来の展望とか。

 端的にいえば、みんなちょっと汚れてるっていうのも問題かな。

 お風呂はどうしているのか、そういう問題もあるわけで。

 

 臭覚って一番慣れやすい感覚だといわれているから、自分の臭いとかあまり気づかなくなっていくものだけど、温泉入ったりして身ぎれいにしているボクからすれば、どうやらそのあたりはけっこう気づくみたい。

 

 ぼっちさんがボクのこと、いい匂いって言ってくれたけど。

 それはそういう裏事情があるって話。

 

 役場の中を上がっていくにつれ、ホールと違って多少は生活感があった。ちらほらと廊下のソファにねっころがったり、じっと座っている人がいる。みんなボクのことをチラっと見たり、まじまじと見つめてきたりしたけど、声をかけてくる人はいなかった。

 

 町役場の当然の機能として、いくつかの部屋がある。おそらくはナニナニ課みたいな感じで結構広い部屋。資料室とかみたいなわりと狭い部屋。いくつかあるみたい。

 各部屋の入口は、白色をした普通のドアだ。

 しかも、ちょうど頭のところあたりが透明なアクリル板みたいになっていて中がのぞけるようになっている。

 ちらっと中を覗いてみたら、洪水の避難とかの時みたいに、ブルーシートを敷いて数人ごとにまとまっていた。ある程度時間がたっているからか、パーテーションで仕切ってるみたい。

 

「ついたぞ」

 

 到着したのは、町役場の三階。その奥まったところ。

 

 町長室だ。

 

 他の部屋に比べて重厚そうな木の扉がドンと鎮座している感じ。二つのドアが観音開きするようになっていて、扉というよりは門というような威圧感がある。小さな町役場のちょっとした見栄という感じかな。

 

 ゲンさんが扉を開けてくれる。

 

 そこにいたのは大きな机に座っていた三十代くらいのまだ若い男の人だった。

 わりとびっしりと七三分けされた髪の毛に、細身の長身。そして、ボク基準だとこうなんというかわりとイケメンな感じ?

 

 町長ってこんな感じの人だったっけ。

 

 彼はにこやかな笑顔のまま立ち上がり、こちらのほうにすたすたと歩いてきた。

 そして、ボクに向かって握手の体勢。

 ボクも応じる。

 うん、べつに小学生女児に合法的に触りたいというような変態的感触は受けないな。

 ただの挨拶みたい。

 

「わたしが町長です」

 

 お。おう。

 その言い方はまるで某ロマンシングなサガを思い出させるからやめろ。

 

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 ロマンシング・サガ

 

 いまではわりと当たり前なフリーシナリオをおそらく国産では始めて採用したと思われる国民的RPG。サガは佐賀のことではないが、語感が一致していることから佐賀県とコラボしたこともある。冗談のような真の話である。

 そして、ロマサガ3では、町長にモンスターのイケニエとして閉じこめられてしまうシナリオがあるのだが、モンスターを倒したあとに町に戻ってくると、町長は何事もなかったように「わたしが町長です」とのたまうのである。お、おうとしか反応できない微妙な空気感を今に伝えたい。ちなみに、町長が変わってる説、損害賠償をされても困るので知らないふりをしている説などいろいろと解釈はある模様。このたびシナリオライターによってしらばっくれてる説が正当であるという説明がなされ、長年の疑問に終止符が打たれた形になる。

 

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 それがボクとこの町役場の主――葛井明彦さんとの初めての出逢いでした。

 とか言うと、なんか恋愛モノっぽいですけど、べつにそういうふうになる予定はありません。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

「ヒロちゃんってゲーマーだと思ってるが違うかい?」

 

「うん。そうです。ゲーマーですよ」

 

 町長は気安そうな人でした。

 

 ボクたちはソファに座っている。正確に言えば、ボク、命ちゃん、マナさんとついでに未宇ちゃんがソファに座り、対面に町長が座ってる形だ。ぼっちさんとゲンさんは立ちっぱなしです。

 

 それにしても、ゲーマーとは……。

 ふふっ。

 確かにそのとおりですとも。

 

 ボクは大学生活のありあまる時間を、勉学にではなくゲームとかにつぎこんできたからね。ゲームには造詣が深い、と自負している。

 

 あまり褒められたものではないけど、勉強をしてなかったわけじゃないし、なにごとにおいても、それなりに深く知るということは悪いことではないと思う。

 

 たとえ、ゲームだとしてもね。

 

「ゲーマーのヒロちゃんならわかるんじゃないかな」

 

「うん。わかるけど。ロマンシングなサガだよね」

 

 うなづく町長。

 しかし、町長ってもっとまじめな仕事だと思ってたよ。

 そうでもないのかな。

 それに、この人はたぶん本当の町長じゃないよね。

 リーダーとも呼ばれてるみたいだし。

 あらためて見てみると、やっぱり若い。町長さんっていったら少なくとも60歳くらいは越えてるイメージあるし、どっちかというとゲンさんのほうがそれっぽいかな。ちょっと粗野な感じだけど、見た目的にはね。

 

「それにしても――、やっぱりヒロちゃんはアイドルを超えたかわいさがあるね」

 

 ボクのことを町長さんが観察しているように感じる。

 かわいいと言われると、いまだに照れてしまうけど、そこには不思議とロリコンのようないやらしさは感じない。

 

「ありがとうございます」

 

「神秘的な瞳も、紅葉を思わせる手の平も、精巧な陶器のような貌つきも、桃の花を思わせる唇も、大変すばらしく思えるよ。人間離れした美しさだね」

 

「ふへへ……」

 

 まあ外貌には自信ありますし?

 世界一かわいいゾン美少女かもしれませんし?

 褒められたら人並みにはうれしいです。

 

「僕の次に美しいよ」

 

 うん。僕の次に――って。うん?

 どういうこと?

 

「うん。つまり、君は美しい。確かに美しいがそれはまだ未完成の美しさだ。対してボクは十分に成熟しているし、完成された美しさを持っている。立ってるステージが既に違うんだよ」

 

「ステージ……」

 

 イケメンだとは思うけど、正直、男の人の美しさってよくわからない。

 

「ああ……いいんだ。答えは聞かなくてもいいんだよ。僕のなかでは純然たる事実としてそうなのだし、誰がなんといおうとそうなのだから。だって、僕は美しすぎる……っ!」

 

 キャラ濃すぎませんかね。

 

 なんとなくわかったけど、この人っていわゆるナルシストなんだね。

 よく見たら部屋の隅っこ、机の隣りに大きな鏡が設置してあって、なんだろうって思ってたけど、そういうことか。実害がないなら放っておこう。

 

「おい明彦。嬢ちゃんが戸惑ってるだろうが」とゲンさん。

 

「おっと、失礼……。僕は僕の趣味として僕自身のことが大好きなだけであって、他人に評価を無理強いするつもりはないから、そこは安心してくれたまえ」

 

「あっ。はい」

 

 としか答えようがない。

 

「僕は葛井明彦。ここの町長をやってる」

 

 どういう経緯で町長になったんだろう。このゾンビハザードなご時世にリーダーシップを発揮したんだろうか。ある種のカリスマはあるかもしれないけど、ナルシーだしな。

 

 ボクがジト目で見ていたら、葛井町長もフッとさわやかに笑う。

 

「やれやれ。僕に惚れてしまったかな」

 

「あ、いや、どうして町長やってるんですか?」

 

「僕のパパが町長だったんだよ。本当はゲンさんにやってもらいたかったんだけどね――」

 

「ああ、ワシはそういう柄じゃないから辞退した」

 

「なるほど……」

 

 葛井町長は本当の町長の息子さんだったのか。

 で、ゲンさんは町長の知り合いだったのかな?

 ボクが視線を投げかける。

 

「ああ……。こいつの親父とは古い付き合いでな」

 

 ゲンさんは腕を組みながら答えてくれた。

 

「僕のパパは残念ながらゾンビになってしまったからね。いろいろと失敗して子供部屋おじさんだった僕にお株がまわってきたというわけだよ」

 

「誰かはリーダーを立てないと組織が崩壊するからな。こいつでも町長の息子という肩書はつかえたってわけだ」

 

 強いてやりたいわけじゃないけど、周りに担ぎ上げられたナルシストな町長。

 少しだけど、共感するかもしれない。

 

「で、ヒロちゃん」

 

 笑うと町長は糸目になる。

 糸目って強キャラの特権だから、ちょっとだけ怖いです。

 

「なにかなー……」

 

「僕たちにお願いがあるんだよね?」

 

「そ、そうですけど」

 

「じゃあ、取引だ」

 

 曲りなりにも政府との交渉が始まった。




ちなみにわれらが主人公の交渉能力はクソ雑魚なめくじです。

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