あさおん・オブ・ザ・デッド   作:夢野ベル子

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ハザードレベル81

 町役場の前は一種異様な雰囲気に包まれている。

 

 ボクたちを出迎えてくれたのは、笑顔に包まれたぼっちさんでも、ナルシストな町長さんでもなく、血染めの文字だった。その文字を多数の人が見つめている。意味をなさないざわつき。

 

 でも、その文字のことについて話し合ってるのはまちがいない。

 

 縦書きでカエレと書いている。

 

 カタカナだよね。実はカではなくて、漢字の『力』ですなんてことはないと思う。ミステリでは常套といってもいい読み間違いだけど、このようなシンプルな文字に間違いようはない。

 

 帰れってことだよね。

 

 誰のことかというというまでもない。ボクのことに違いない。

 

「えーっと……これって?」

 

 ボクとしては困惑でしかなかった。

 

 だって、ボクってゾンビ避けできる唯一の超能力少女で、自分でいうのもなんだけど、みんなの希望の星とか思ってたから。メシア様なんていわれて、若干うれしさもあったのは事実。ほめられるとうれしいっていう単純な理由だけどね。

 

 でも、そうじゃなかった。

 あるいは、そうじゃない人もいたということか。

 

 人間のこころって本当にミステリーだなぁとしか思えないよ。

 

「なるほどなるほど、世界一かわいい美少女配信者に対してカエレとかある意味、わたしにはできそうにないことですね~。すごいです~。本当に帰っちゃったらどうするつもりなんでしょうね~」

 

 マナさんの暢気な声。ちなみに今日もここに来たメンバーは昨日といっしょだ。

 マナさんと命ちゃんのふたり。

 ゾンビ荘の他のみんなもひとりひとり連れ出していって、町役場になじませるのがいいんだろうけど、まあゆっくりやっていけばいいと思ってる。

 

「これってどういう意味かなぁ。わざわざ血染めの文字ってところに凄みを感じるんだけど」

 

「血染めですか? ああ、なるほど……確かにそんな感じですけど、本当の血じゃないですよ。ご主人様ならわかるはずですよね」

 

「あ……うん。そうかも」

 

 ボクもマナさんに指摘されて気づく。

 

 血染めっていうのは、なんというか粘度とか、色合いとかがそれっぽいからそう感じただけで、はっきり言うと人間とかそれ以外の生き物とかの血の気配はしない。ヒイロウイルスを浸透させやすいのは圧倒的に人間の血で、そうじゃないのはすぐにわかっちゃう。

 

 ゾンビって人間の血の臭いに敏感だからね。

 それって感染させたいからかもしれないけど。

 

 だから、この血染めの文字は、本当の血で書かれたわけじゃないのはわかる。

 

「オーソドックスなペンキでしょうね」

 

 今度は命ちゃんの指摘。

 少し不快そうに文字を見ている。また敵認定してないよね。

 セーフティにいきたいんだけど。

 

 ただ、ペンキだとしてもわざわざ血に似せた色を使ったのには意味があると思う。人間にとって、赤は特別な色なんだ。赤は血を連想させて、危険だと知らせる効果がある。信号の止まれが赤い色なのも、そういった理由があるんじゃないかな。色の波長的に遠くからでも見えるというのも理由らしいけど。

 

「でも、この場合――、ボクってどうすればいいのかな」

 

 犯人探しをする?

 それとも、犯人の言うとおりにいったん帰ってみる?

 無視して、町長のもとに向かう?

 

「そもそも、ここに書かれている意味ってなんなんだろう」

 

 カエレの文字は、わりと大きい。

 ボクとしては見上げる必要がある高さ。

 書いてる場所は庁舎の横にあるちょっと小さめの別棟。

 その真っ白い壁。

 ちょうどボクたちが来るとき、門側のほうの最初に目につく建物だ。

 つまりいの一番に目の中にとびこんでくる配置。

 

 大きさはそれなり――。

 ちょうど平均的な身長の大人の人が手を伸ばしたときぐらいの大きさで書かれている。

 高さは少し高めか?

 大人だったら腕を伸ばせばギリギリ届く高さの位置で書かれている。脚立とかも要らなさそう。

 おそらく書くこと自体は一分もかからないだろう。

 

「俺じゃねえよ!」

 

 ざわつきの中から聞こえてきたのは、昨日と同じ男の人の声だった。

 辺田さんだ。

 何人かの男の人が取り囲むようにしていて、辺田さんをにらみつけている。

 

 辺田さんは昨日、ボクに犬を捨てろって言った人だ。

 

 正確にはおばあさんが飼っているポメラニアンを捨てるように促してくれと言ったひと。

 生存的にギリギリな今の状況で、犬なんか飼ってる余裕はないという意見の人だった。

 

 ボクとしては――、あくまで個人的にはだけど、その意見に同調するほどでもなかったので、犬は飼ったままでもいいんじゃないかということを町長に伝えて帰ったわけだけど。

 

 それは、辺田さんにとっては否定的意見であることはまちがいない。

 

 つまり――、ボクと意見の対立があったということになる。

 辺田さんの意見をあえて否定したいわけじゃないし、あえて対立したいわけでもないけどね。

 命ちゃんみたいに敵味方をはっきりと区別していく戦略は、わかりやすいけど疲れるんだよ。

 

 で、いまのこの状況って――。

 

 もしかして、犯人は辺田さんだと思われてるの?

 

 動機はあるって――さすがに短絡的すぎるような気がする。

 

「あの……、どういう状況なのかな?」

 

 ボクは適当に辺田さんを囲ってる男の人のひとりに聞いた。

 そろそろ秋なのに、いまだにタンクトップを着ている浅黒細マッチョの人。

 全身がバネみたいで、身のこなしが素早そう。

 確かぼっちさんには湯崎さんって言われてた人だ。直接話してはいないけど、ゲンさんやぼっちさんと同じく、外に探索に行く数少ない人。

 

 つまり、ここ町役場でそれなりの地位というか役職というか――。

 影響力がある人だろう。

 その人が率先して辺田さんを激しく攻め立てている。

 

 昨日はボクに対しては優しげな視線だったけど、今日の辺田さんに対するソレは激しく糾弾するものだった。

 

「ああ、ヒロちゃん……。昨日の今日でこんな状況だからね。確認だよ。確認」

 

「辺田さんが書いたかの確認?」

 

「そうだよ」

 

 ふぅん。確認というよりはなんというか魔女裁判的な圧力を感じるんだけど。

 ボクのためなんだろうか。

 あるいは、ボクというゾンビ利権を得られなくなる可能性に対する恐れ?

 

「だから俺じゃねえって。昨日は確かに犬のことをどうにかしてくれって言ったけどよ。それは臭くてうるせぇって誰もいわねえからじゃねえか! あの婆さんに忖度しまくってよ」

 

「だからやったのか?」

 

「違ぇよ。だいたいそんなことしたら、みんなに攻められてヘタすりゃここから追放になるのは目に見えてるだろうが。そんな考えたら一秒でわかるようなことしねえよ!」

 

「バレなきゃいいと思ってたんじゃないか?」

 

「アホか! 話になんねえよ。オレがやったって言うんなら証拠だせよ!」

 

 辺田さんの昏くかげった視線が、湯崎さんの視線と交差する。

 湯崎さんは無言のままにらみつけている。

 証拠は――ないんだろうな。

 目撃証言とかもないんだろう。

 

 昨日の様子だと、町役場のみんなはゾンビをこわがって外にはあまり出たがらない感じだったから。庁舎の敷地内とはいえ、外に出る人はそんなにいないのかもしれない。

 

「証拠はないが――、これを書いたやつがどこかにいるのは確かだ。いま動機の面でいえばオマエが一番怪しいのも確かだろう」

 

「あやしいってだけで犯人扱いかよ」

 

「ああそうだ。他にあやしいやつが出てこない限り、暫定的にはオマエが犯人なんだよ」

 

 つまり――、それは。

 オレたちには犯人が必要だといってるようなものだった。

 ボクのために。ボクは望んでないけど。

 

「あの、ボクってべつにこんなの気にしてないよ。辺田さんに限らず――犯人探しをするつもりもないよ」

 

 どうして書いたのかっていうのは知りたくはあるけどね。

 人のこころはミステリだといっても、わけもわからず拒絶されるのは嫌だし。

 みえない悪意にさらされるのは怖い。

 ボクがゾンビだから嫌だっていうんならそれでもいいけど、それならそうはっきりと言ってほしい。

 

 でも、ふと思うことがある。

 ボクが流れ的に"政治的な権力”を帯びてきているような状況だと、いいたくてもいえないみたいなこともあるかもしれないってこと。

 例えば、多数の人がボクを待ち望んでいる状況で、自分は違うっていうのは勇気がいる。

 辺田さんが言うように排斥されてしまうという恐怖もあるだろう。

 だから、こういうふうに不可視のかたちをとったのだと考えることもできる。

 

 いまはともかく――犯人探しならぬ犯人作りをやめさせないと。

 

「オレたちの総意は、ヒロちゃんを全力でサポートしたいと考えてるんだよ。それに水を差すような行為には、正直怒りを覚える」

 

「その気持ちはうれしいけど、ボク大丈夫だから」

 

 辺田さんを囲っている男の人たち。

 そして、ざわつく周りのみんな。

 どちらも軽い興奮状態にあるみたいだった。

 ボクの言葉で少しは鎮静しているみたいだけど、人間はゾンビと違って自我があるから、簡単に言うことを聞いてはくれない。

 

 辺田さんがこのままゾンビルーム行きという線も考えられる。

 とりあえず、秩序が乱されそうだからみたいな理由で。とりあえず、そんな軽さで。

 そっちのほうが怖い。

 

「なんの騒ぎですかねぇ」

 

 救世主としてあらわれたのは、やっぱり町長だった。

 ボクみたいなニワカとちがって、人心をつかむのがうまい町長さん。

 いつもの余裕たっぷりな様子に、みんな少しざわつきを抑えて町長がこちらにやってくるのを見つめている。

 

「町長! オレはやってねえ!」

 

 辺田さんの気合の入った声。

 それには応えず、壁の文字を見つめる町長。

 しばしの間、奇妙な沈黙。

 顎に手をあてて、なにやら考えている。

 そして細目がわずかに開かれ、ボクのほうに向いた。

 開眼怖いです。強キャラ感ある。

 

「とりあえず、町長室にご足労ねがいますか」

 

 アッハイ。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 町長室の扉が閉められると、ボクは一息ついた。

 

 みんなの目。怖かったな。ボク自身が悪意にさらされたわけじゃないけど、誰かの悪意の対象になっているのは間違いないし、方向性が違うだけで、悪意自体の存在は認証されてしまっている。

 

 つまり、人は人を拒絶する。それが怖かった。

 

 葛井町長はソファに座るように促され、ヤカンのお湯をカセットコンロで沸かしている。

 部屋の中にはゲンさんがいて、黙ってなにやら考えこんでるようだ。

 

「コーヒーでいいかな」

 

「ん。はい。命ちゃんもマナさんもそれでいーい?」

 

「わたしはなんでも」「口移しでのませてください」

 

「なんでもいいみたいです」

 

 マナさんの言葉は無視だ。無視。

 

「災難だったね」

 

 カタカタと鳴り始めたヤカンをBGMに葛井町長はそう言い添えた。

 災難――というほどなにか明確な不利益を受けたわけじゃないけど。

 なんというか、人付き合いの面倒くささを思い出した感じはする。

 配信してるときには、そういう面倒くささはあまり感じない。

 配信というシステムは、ここちよいコミュニケーションだけを選別するシステムだからかもしれない。本当の生のコミュニケーションはもっと複雑でわずらわしい。

 

 ボクは黙ったままだ。

 そして、目の前のローテーブルにコーヒーが置かれる。

 

「砂糖とミルクはいるかな?」

 

「いりません」

 

 男は黙ってブラックコーヒー。

 

 という、前時代めいた思想を持ってるわけじゃないけど、現実と心情を一致させるとすれば、今のボクにはブラックが似合ってる。

 

 なんとなくかっこいいというイメージもあります。

 

 で、一口。

 

「にがッ! うえッ」

 

 ダメでした。

 

「すっかり幼女舌なご主人様がかわいい。はい。お砂糖とミルクをたっぷりいれましょうねぇ」

 

 マナさんがボクのコーヒーにミルクと砂糖をたっぷりと入れてかき混ぜてくれた。

 これはもはやカフェオレなのでは?

 あるいは、牛乳コーヒー……。

 でも、ちょうどよかったです。

 やっぱり、幼女舌になってるのかもしれない。

 

「さて、今回の件ですが、どうしましょうかねぇ……」

 

「ボクとしては放っておいていいと思ってます」

 

 理由はわずらわしさ。

 その一点に尽きる。

 どうせならみんなと配信してワイワイ楽しみたい。

 生存領域も広げるし、ゾンビ的な恐怖はとりさるように努力する。

 せっかくあさおんして、かわいくチートな女の子になったんだから、そういう人間の負の面とか見つめたくないよ。人生楽しくエンジョイしたいよ(重複表現)。

 

「放っておくというのも確かにひとつの手だね。僕としてもできる限りみんなを刺激したくない。みんな疲れてるし精神的に不安定だしね。ただ――」

 

「ただ?」

 

「これだけで終わるのかなとも思う」

 

「また同じようなことが続くの?」

 

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。なにしろ犯人の動機はわからないからね。ミステリ小説なら、誰が犯人かのほうが重要で、どうしてそうしたのかはあまり取りざたされないものだけど、動機がわからないというのは怖いものだよ。対策のたてようがない」

 

「対策のたてようがないなら結局放っておくしかないんじゃ?」

 

「もちろんそのとおりなんだけど、政治的にはなにかしら対策をうったというモーションが必要なんだ。被害がでるかもしれないのに放っておいたら、なにも対策しなかったという批判がでるのは当然だからね」

 

「それはそうかも」

 

 甘々になったコーヒーをすすりながらボクは考える。

 対策――見回りの強化とかかな。

 

「ボクはどうすればいいですか?」

 

「ヒロちゃんになにかしてもらうつもりはないよ。強いてあげれば、何事もなかったかのようにふるまってほしいな。これから太陽光パネルとか拾っていってもらうわけだけど、今朝の文字の件はまったく関係なく、淡々と集めてほしい」

 

「それは大丈夫です。町長さんたちはどうするの? その"対策"って」

 

「そうですね。ゲンさんに見回ってもらうくらいしか思いつかないな」

 

「それはかまわんが、ワシらだって四六時中見張ってるなんて無理だぞ」

 

 ゲンさんは厳格な声を出した。

 ぼっちさんとゲンさんと湯崎さん、ついでに言えば未宇ちゃんもいれてわずか四人しかいない探索班。狭い町役場とはいえ、そこまでみんなに対しての目が行き届かないのは当然といえた。

 

「それこそ建前ですよ。とりあえずのところ我々としてはやるべきことはやったという建前です。実効性はなくても、しょうがないですよ」

 

「同じことが起これば、信頼を失うかもしれんぞ」

 

「そうですね。しかし、同じことが起きるということは、それだけ犯人につながる情報も増えるということです。犯人を捜す手がかりも得られるかもしれません。逆に同じことが起こらなければそれはそれでいいんです。ヒロちゃんは認められ、みんなに受け入れられたということですから」

 

「同じような事件が起こらなくても、その犯人がこの子を受け入れたかどうかはわからんぞ。野放しにするつもりか?」

 

「それでもいいんです。問題が起こらなければ、その問題は存在しないのと同じですから」

 

 そうなのかな。

 

 世の中の不満が噴出しなければ、その不満は存在しないといっていいのだろうか。

 人はいろいろな考え方をしているものだし、不満を言わないという無言の批判もありうると思うから、表にでなきゃそれでいいって考え方は違うと思う。

 

 とはいえ――。ボクがここでしゃしゃりでても、事態は混乱するばかり。

 実務にたずさわっている葛井町長の意見に同調してたほうがいいのかな。

 悩みどころさん。

 

「先輩――、面倒くさくなったらお部屋にこもって私とイチャイチャしましょう」

 

 命ちゃんが小声でボクに伝えてくる。

 

 それもまた魅力的な提案に思えてしまった。

 

 結局のところ、ボクは町長の言葉どおり、何もしないことを選択しました。

 

 それが次の事件の引き金になるとも知らずに――。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 あー、今のなしなし。

 ともかく、ボクはあまり考えないようにした。

 人のこころを想像して、こう思うだろうって考えるのもある種の傲慢だからね。

 与えられた仕事を淡々とこなすことも重要なんですよ。

 

 いま、ボクはゾンビ避けマシーンと化している。

 レーダーのように探知領域を広げて、できる限りの祈祷力でもって、探索班の人たちがゾンビに襲われないように気をつけている。

 

 マーカー代わりのボクの血が入ったお守りを渡せば完璧なんだろうけど、それはそれでヒイロゾンビ化の可能性もでてくるので、今回は祈祷のみに頼ることにした。

 

 びっくりしたのはなんと齢10歳の未宇ちゃんもついてきたことだ。

 ボク視点では危険はないとはいえ、どうしてもついてきたいとのことだった。

 なぜって、ワンちゃんを散歩させたいらしい。

 

 ポメラニアンって室内犬のイメージがあるから散歩させる必要があるのか謎だったけど、どうやら犬について一家言ある未宇ちゃんが言うには(正確には手話だったが)ずっと同じところに閉じ込められているとストレスで剥げるらしい。

 

 ボクに噛みついたのもストレスのせいではないかとのこと。

 

 それに――、たぶん、ぼっちさんもついてきているからかな。

 未宇ちゃんにとってはコミュニケーションの窓口みたいなものだからね。

 申し訳ないけど手話はさっぱりなんだ。

 だから、ぼっちさんに翻訳してもらわないと、未宇ちゃんがなにを思っているかはわからない。

 

「はい。みんな離れないでくださーい」

 

 手旗信号の旗を手に持ち、交通安全の引率役みたいになってるボク。

 

 町役場から離れるときは、やっぱりみんなそれなりに緊張しているみたい。

 

 ぼっちさんも、湯崎さんも、ゲンさんも周りを油断なく見渡している。いくらゾンビを避けられるからって、染み付いた生存本能は振り払えるものじゃない。ボクのことを信頼しているいないとは別に、ゾンビのうなり声を聞いたら身がすくんでしまうのと同じことなんだろう。

 

 ただ未宇ちゃんだけはふんわり眠たそうだ。

 

 静まり返った町並みをボクたちは進む。

 

 まわりにゾンビはそれなりにいる。人間を感染させようとする攻撃本能だけスイッチオフにしていて、ほかの行動制御はしていないからか、遠巻きにこちらを見ているような感じになっている。

 

 小さめの建物から自然とこんにちわするゾンビさん。

 ああーううーとうなり声をあげるものの、こちらに迫ってくる様子はない。

 当然だ。ボクが操ってるからね。

 

 みんな複雑な表情になっている。

 こちらに攻撃してこないことは知っていてもやっぱりそれなりに怖いのかもしれない。

 

「ヒロちゃん。探索班がみんな抜けちゃったら、犯人の監視役もいなくなっちゃうね」

 

 ぼっちさんが話しかけてきた。

 それは確かにそうかもしれない。

 

「でも、町役場の中だと相互監視状態みたいなものでしょ。夜にこっそり外に抜け出すとかはできるかもしれないけど、昼間に誰にも見られずに外に出たりとかはできないんじゃないかな」

 

 町長さんに聞いた話だと、町役場内から町役場の外にでるには正規ルートでも四箇所。職員用も合わせると六箇所あって、誰でも通過可能らしい。

 

 つまり、誰にも見られずに事を成すのは可能だった。アリバイとかで犯人が割り出されるような類じゃない。それに究極的にはだけど、みんながみんな犯人で、全員一致でボクを追い出そうとしたってことだって考えられなくはないわけだし。

 

 そこまではないにしろ、複数犯だってありえるんだ。

 

 昼間にもし犯行があったら、複数犯の可能性は高まる。

 でも、それも確率の問題かな。

 

 結局、犯人を追及するにしろ、動機を探るにしろ情報が少なすぎるよ。

 

「僕としては、ヒロちゃんに嫌われないかが心配だよ」

 

「嫌うはずがないよ。みんなヒロ友なんでしょ」

 

「そうだね。でも、ヒロ友のふりをした悪意のある者がいるってことも考えられるんだ。僕としては信じられないんだけど、これだけヒロちゃんにいろいろ頼んでおきながら、そんなの当然だって考える人だっている。みんな自分のことばっかりだし……」

 

「多少余裕がでてくれば考え方も変わるんじゃないかな」

 

 そう信じるしかないよね。

 でも、みんなの不安を受けとめる形になったボクもそれなりに不安だ。

 嫌われてるんじゃないかって不安。

 陰キャあるある。

 

 そんなことを思っているせいか、今日はゾンビの数がすこし多いような気がする。

 ゾンビはボクの負の感情に反応しているのかもしれない。あのホームセンターのときも人間に軽く絶望してたときにはゾンビの数が自然と増えていったし、気をつけないと町役場が大量のゾンビに飲み込まれるってことも考えられる。それでもしっかりとコントロールしておけば問題はないんだけどね。

 

 もっと散らさないと――。

 

 そして、ふと後ろを見てみる。

 

 ぞっとした。

 

 未宇ちゃんは猫みたいに静かでおとなしくて気配のない子だ。

 

 だから――なんて言い訳をするつもりはないけれど。周りはゾンビのうなり声が響き始めていて、多少の音はかき消される状況だった。

 

 だったんだけど――。

 

 未宇ちゃんがいなかった。

 

 ポメラニアンのワンちゃんとともに姿が掻き消えていた。




ミステリ小説を書く場合は、全部書いてから投稿したほうがいいんだけど、全部書いてから投稿していないこの小説は破綻する可能性がありますので、なんちゃってミステリになる可能性が高いです。

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