久しぶりの配信はやっぱり楽しかったな。
いつかのときに考えたんだけど、配信は楽しいことだけが純化されるんだと思う。
現実はそう甘くないよっていうのはボクだって知ってる。
でも、たまには夢ぐらい見たっていいじゃない。
いっぱい遊んだっていいじゃない。
ボクたちは――人類は、まだまだ遊べるよね。
というのがボクの基本スタンス。
なので、ゾンビだらけのときに配信なんて不謹慎とか思われるかもしれないけど、配信はやめられない。とまらない。カッパ海老――。
「ヒロちゃん」
あいかわらず愛くるしいピンクちゃんは配信の興奮冷めやらぬのか、ハァハァと息を継ぎながら話しかけてきた。小学生女児らしい興奮して息継ぎがうまくできなくて、真っ白いほっぺたがトマトみたいにリコピン多めの色合いになっていくのがかわいらしい。
「なぁに」とボクは聞く。
「ピンクはまだ日本文化をよくしらない」
「ん。まあそうだよね。日本文化に触れて一ヶ月とちょっとだっけ?」
日本語自体を話せるようになったのもそれぐらいらしいし、ボクと話すために一週間足らずで覚えたたらしい超スペックなピンクちゃん。
でも、圧倒的ボリュームを誇る日本のサブカルチャーが、たとえピンクちゃんが超天才児であったとしても、そんなに突き崩せるものではないと思う。
知らないことがあっても普通だ。
「ピンクは今後もヒロちゃんと配信を続けたいぞ」
「うん。ボクもそう思ってるよ」
「だから、いろいろと教えてくれると助かるぞ」
「もちろん、ボクが知ってることなら教えるよ」
「じゃあ、これ……」
ピンクちゃんが指差したのはノートパソコンの画面だ。
さっきの配信がアーカイブデータとして再生されている。
そのコメントの一幕。
ピンクちゃんがボクに頭をすりすりしている状況だ。
変態性欲者マナさんと違って、この子はスキンシップとるのが好きなんだなぁとしか思ってなかったけど……。甘えん坊な感じだし。本当に幼いから変な遠慮がない。
「ここで何人ものヒロ友がコメントしているキマシタワーってなんだ?」
「えーっと……」
ボクは命ちゃんをチラ見する。
正直なところ八歳児に教えるべき内容なのか。
ピンクちゃんは天才だし、精神年齢も大人に近いと思うけど、やっぱりまだ未発達なこころの部分もあるんじゃなかろうか。
ちなみに、キマシタワーについてなんだけど、知らない人はいないよね?
一応、説明すると――。
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キマシタワー
ストロベリー・パニックという女の子どうしが唇合わせまでしちゃう系のアニメにおいて、登場人物のひとりが世に放った祝福の言葉。正確にはキマシタワーと叫んだわけではなく、たまりませんわーが正しいのだが、匿名掲示板でAAが張られるうちに勘違いされて広まった。だがそんなことはどうでもよく、要するにガールズラブ・百合サイコーということを端的に表現した始原/至言の一言である。ちなみにキマシタワーはストパニが元ネタだが、百合アニメとして最初に有名なったのはおそらくマリア様がみてる通称マリみてである。
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最近は少しだけ自重するようになったみたいだけど、命ちゃんも容赦なくボクにちゅーちゅーしちゃう系女子だしな。ガールズラブなのか。それともボクが元男ということを知っているからノーマルなのかはわかんないけど、非常にセンシティブな問題に違いない。
じっと黙ったままのボクをピンクちゃんが期待のまなざしで見つめている。
「女の子どうしが仲良くすることだよ」
と、ボクはしどろもどろになりながら言った。
ウソじゃないよね?
「そうか。じゃあ、ピンクとヒロちゃんは仲良しだからキマシタワーだな!」
くっ。
純粋すぎる眼が痛い。ちくちく刺さるような気がする。
「うん。まあ間違ってはないけど、自分たちどうしではあんまり言わないかな。第三者が評価するときだけに使うというか」
「なるほどわかった。じゃあ、ピンクからすれば、ヒロちゃんと後輩ちゃんがキマシタワーといえばいいのか?」
「う、うん。たぶんそんな感じ……」
ピンクちゃん知ってて聞いてないよね?
八歳児の知識にはやはり偏りがあるようです。
「あ、あとこれも聞きたかった」
「なにかなー」
たらりと汗が流れるのを止められない。
嫌な予感がする。
「この"ピンクは淫乱"ってなんだ」
あばばばばばばば。
八歳児に向かってなに言ってるんだヒロ友!
見逃してたけどそんなことを言ってた人がいるのか。
絶対にゆるさんからな。
ロリコンは死すべし。慈悲はない。
「えっと、ピンクちゃんの髪の色ってピンク色だよね。染めてるのかな?」
「ん。これか。べつに染めてるわけじゃないぞ。ストロベリー・ブロンドっていって、薄い赤色なんだと思うぞ。生まれたときからこの色だ」
マジでアニメキャラみたいな女の子がいたよ。
自分のショートの髪をいじいじするピンクちゃん。
まだまだ幼いけど女の子なかわいらしさ十分に持ってます。
「ピンクちゃんの髪の色かわいいね」
「ん。ヒロちゃんの髪もお月様みたいできれいだぞ」
「キマシタワーっていわれそうだな」ボソ。
「ん。なにか言ったか?」
「なにも言ってないよ。みんながピンクちゃんのことをかわいいって言ってたんだよ」
「淫乱ってかわいいって意味なのか?」
うえ。
そうなるか……そうなるよな。
この子は日本語を形態素解析してそうだ。
変な逃げ口上は事態をややこしくさせそうだ。
「う……うん。ちょっとニュアンスの問題があるけど、そんな傾向分析といいますか、そういう方面の意味もあるといいますか」
「じゃあ、ヒロちゃんは淫乱だな」
「ぐほっ」
「すごく淫乱だと思うぞ! 女の子どうしだけど、最初びっくりしたくらいだ。ピンクが見たなかで一番淫乱な女の子だといってもいい」
こいつはいけねえ。
このままだとピンクちゃんが淫乱の意味を誤解したまま使って大恥をかく恐れがある。
「あ、あのね……、ピンクちゃんが八歳児だから黙っていようと思ったんだけど、実をいうと、淫乱っていうのは、少し……そのなんというか……えちえちな感じなんだ」
「えちえち?」
えちえちの木。なぜかそんな用語は思い浮かぶ。もちもちの木を思い出した。
ほっぺたがなんだか熱くなってきた気がする。
ピンクちゃんがどんぐりのようなまなこがボクを見ている。
あまりに純粋で……、純心で……。
キャベツ畑やコウノトリを信じている可愛い女の子に無修正のポルノを突き付ける時を想像する時のような下卑た快感さ。
――感じちゃいました。
正直ちょっとだけゾクっとしちゃいました。
「えっち?」
「そう……えっち」
「えっちというのは確かHENTAIの頭文字でよかったか?」
「うん……まぁ」
「つまり、淫乱という言葉は、情欲やセクシャリティにまつわる言葉ということか?」
「はい、そうです」
なんだろう。
この詰将棋のような言葉の配置は。
ボクの逃げ場が失われていく感じ。
まるで、ゾンビに少しずつ追い詰められていくようなそんな気持ちだ。
「しかし、よくわからない。ピンクはべつにヒロちゃんに対して変態的な行動をとった覚えはないぞ。ピンクは淫乱な行為をしたのか? ヒロちゃんにくっつきすぎたのがよくなかったのか? 言語レベルでのインターテクスチュアリティか?」
「い、インタ?」
「間テクスト性によるコンテクストの生成か? ミームの一種か?」
やべえ。なにいってんのか全然わかんないんだけど……。
「ピンクが何かしたせいか?」
あ、すごくレベルが落ちた気がする。
落としてくれたんだろうな。魔王城前から旅立ちの地くらいまで落ちた気がするけど。
「べつにそういうわけじゃないと思うよ。ピンクは淫乱というのは、ネットスラングの一種で、ピンク色の髪をしたキャラクターは淫乱であるという先入観があるんだ。ピンクちゃんは髪の色がピンクだからさ、みんなはしゃいでそんなことを言ったんだと思う」
「だから、さっき髪のことを言ったのか……」
髪の毛をいじるピンクちゃん。
変なことをいうヒロ友のことを嫌いになっちゃったかな。
最初の頃は、ヒロ友のことを愚劣なる大衆というか、そんなふうに見てたようにも思うし、実際悪ノリしちゃう面はあるからな。ボクとしてはピンクちゃんに傷つかないでほしいけど、ヒロ友のフォローもしときたいという微妙な気分です。
「ヒロちゃんから見てピンクは淫乱か?」
八歳児から淫乱かどうかを問われる展開が、ボクの人生で訪れるとは思ってもみなかった。
いったい何を思い、そんなセリフを口にしたのだろう。
ピンクちゃんの表情筋はわりと動くほうだと思うけど、真剣なまなざし以外は特に何も感じない。
「えっと……」
命ちゃんに助けを求める。
じーっとこっちを見つめている命ちゃん。
ダメだ。完全に待ちの姿勢だ。命ちゃんのピンクちゃんに対する悪感情はないと思うけど、ボクがとられるとか本気で思ってそうなところが怖い。八歳時にとられるとか意味わかんないし。
「ピンクちゃんは淫乱じゃないよ」
「でもピンクはヒロちゃんにもっとくっついていたいぞ!」
「うん。ボクとしてもうれしいけどね。でも、スキンシップは親愛の情だから、ほら淫乱とはちょっと違うよね? 普通に仲良しなだけだよね? ね?」
念押しするようにボクは言う。
「ピンクはまだ未分化な段階だからよくわからない。肛門期は抜け出してると思うんだが……思春期にはなってないしな。でも、どうやったら子どもが生まれるかくらいは知識としては知ってる」
八歳児の口から肛門期という言葉がでてきました。
しかし、学術的な物言いのせいか、そんなにえちえちな感じではありませんでした。
八歳児にえちえちな雰囲気を感じたら、人として終わってる気がするけどね。
知識と感覚がズレてるのかもしれないなぁ。
ちぐはぐなところがまたかわいくもあるんだけど。この感覚は命ちゃんのときにも一度味わってるよ。命ちゃんも幼いときはだいぶんズレてたからね。知性が巨大すぎるといろいろと苦労するのですよ。お兄ちゃん的立場だと。
で、凡人のアドバイス。
「まあ、そんなに気にすることはないってことだよ。ノリと空気でそんなこと言ってるだけだからね。でも、ボクとしてもピンクちゃんともっと仲良くなりたいというのは本当だよ」
ピンクちゃんもコクンと頷く。
「ピンクももっと仲良くなりたいぞ。えちえちなことも知りたいぞ」
はいはい好奇心が旺盛なことで――。
って、なに言っちゃってんの。この子。
小さな唇に人差し指をルージュを塗るように這わせて、
「ピンクは淫乱になりたいぞ」
こ、小悪魔だ……。
「ならなくてもいいよね?」
「ピンクは早く大人になりたいと思っている。周りが大人ばかりでピンクはいつもひとりぼっちだった。仕事はできても誰もいっしょに遊んでくれる人はいなかったぞ」
顔をうつむき、寂しそうな表情をするピンクちゃん。
ボクは自然とピンクちゃんを撫でる。
配信には不特定多数の友達を作る効果があるけど、リアルの得意分野は触覚だと思う。
子ども特有の暖かな体温とあまったるいトリートメントの匂いが伝わってくる。
ピンクちゃんは目を細めて気持ちよさそう。
「ピンクちゃんとはちゃんと友達になったから大丈夫だよ」
「ん……ヒロちゃんが初めての友達だ」
よしよしよしよしよし。
とりあえず撫でつづける。
「ヒロちゃん。ピンクは……ピンクは……あいむ……おん……くらうど……ないん……」
眠たそうに呟くピンクちゃん。
最後に何か言ったみたいだけど、英語よわよわガールをなめんなよ。
ピンクちゃんが何呟いているのかまったくわからん!
とりあえず撫でポが効いているとしか……。
「和訳は天にも昇る気持ちです」
察してくれる命ちゃんが容赦ない件。
「どうもー」
「それと先輩。ひとつ言い忘れてたんですが」
神妙な命ちゃんの声だった。なんだろう?
「配信切り忘れてますよ」
「は?」
ボクは待機状態になったノートパソコンの画面をさっと動かしてみる。
『てぇてぇよお……』『エモい』『ほら、豚どもエサだぞ!』『ぶひひひひ』『ぶひー』『百合豚はヒロ友じゃねえんだよなぁ』『あ、バレた』『ピンクは淫乱になりたい宣言いただきました』『ピンクちゃんは淫乱?』『ヒロちゃんに撫でられたいだけの人生だった』『配信の切り忘れ。ピンクちゃんとのイチャイチャ……このリアルさがたまらない』『毒ピンの髪さらさらで撫でやすそうだな。ん。少々髪が痛んでる。トリートメントはしているか?』『おてて民だけにあきたらず髪民までいるとは』『後輩ちゃん知ってて黙ってた説あると思います』
「最低ー! えっち変態! みんなどうして配信見続けるかなー! 盗撮といっしょだよ」
『ありがとうございます!』『我々の業界ではご褒美です』『うひひひ』『ヒロちゃんの最低。助かる』『めっちゃ好きやねん』『生産性のない行為ができるというのが人間のすばらしいところだよ』『ヒロちゃん天使説から、ピンク小悪魔説でてきて、神と悪魔の戦いが具現化されている』『とりあえずハリポタを発禁処分しよう。悪魔を呼ぶから』『むちゃくちゃな理由でワロタw』『そもそもヒロちゃんが切り忘れたのが悪い』
うっ。
最後に目に入った正論コメント。
切り忘れたのが悪いっていうのは、確かに本当だ。
配信は終わったあともしばらくコメントが続いていたりするし、いわゆる余韻の状態も必要だと思うから。
「うー。今回はボクが悪かったです。でも、ピンクちゃんに対してえちえちとか淫乱とか言うのは禁止! まだ八歳なんだからね!」
『承知した』『善処する』『高度な政治的配慮を有するので慎重の上決定したい』『わかったー(素直)』『というか、ヒロちゃんも毒ピンも後輩ちゃんもほとんど素なんだな』『ヒロちゃんはえちえちユーチューバーにはおなりにならないんですか?』
おなりにならねえよ。
まあ、ボクとしても少しは演じようって気持ちはあるけどね。素のままだと男の思考もだいぶん混じってる気がするし。普通に女の子好きだし。いい顔見せようって気持ちはやっぱりどこかにはある。人は野生のままじゃいられないのだ。
☆=
葛井町長は切れ長の目をさらに細くさせてピンクちゃんを見下ろしている。
威圧する気持ちはないんだろうけど、ピンクちゃんとの身長差がひどいことになっている。
「私が町長です」
と、お決まりのセリフを言って、ピンクちゃんに手を差し出す町長。
ピンクちゃんは物怖じせず、手を伸ばした。
握手。ピンクちゃんが座っているのはボクと同じサイドのソファ。
場所はまた町長室。マナさんの視線がピンクちゃんを生暖かく見ていて、ボクは守らねばならぬという決意を一層強くした。
「ピンクはピンクだ。リアルではモニカ・グッドモーニングという」
ピンクちゃんに残念ながらロマサガネタは通じなかったみたいだ。
動じてないふうだけど、少しだけ残念そう。
「申し遅れました。僕は葛井明彦といいます」
「そうか。よろしくお願いする」
「それで、僕はどちらで呼べばいいのかな。ピンクちゃん? モニカちゃん?」
「ピンクはピンクでいいぞ」
「じゃあ、ピンクちゃん。単刀直入に聞くけど、君は誰かの指示でこちらにやってきたのかな?」
「ピンクはヒロちゃんに会いたくてきたんだ。でも言いたいことはわかる。組織ぐるみかということだな。そうではないとはいえないな。組織の――ひいては人類全体の希望でピンクはここにいるから」
「まるで自分が人類の代表みたいな物言いですね」
少しとげのある言い方。
ピンクちゃんは無表情に受け流す。
「実際に、代表だと思っている。人類の科学機関の頂点にたつのがピンクのいる組織ホミニスだ。ホミニスは各主要機関に働きかけて、人類の科学サイドの意識を統一させた」
「こちらはしがないなんの変哲もないただの田舎の町役場なんですよ。僕たちはヒロちゃんに接触する前はほとんど世の中のことについて無知でしたし、今もどこの組織がどうなっているかなんて知りようがありません。今日はじめてネットにつながったくらいですし。例えば、配信でコメントにでていたジュデッカとかいう組織とあなたは関わりがあるのですか?」
そういえばそんなコメントあったね。
確か、日米の共同経済会議体がジュデッカとかいうらしい。
英語よわよわガールなんで、どうせボクにはわかんないけど、たぶん『J』APAN―『U』SAうんたらかんたらみたいな感じなんだろう。JUDECCAなのかな。
「ホミニスは日米共同での科学開発をしている独立色が強い組織だ。だが、資金源をたどるとジュデッカと無関係ではないな。ジュデッカからお金はだしてもらってる分、いろいろと融通をきかせるという関係だ。ただのお金だけの関係に過ぎない」
「しかし、資本主義の社会においては影響力は強かったんじゃないかな」
「もちろん。ゾンビハザードが起こる前はそうだった」
「いまは違うと?」
「違う。そもそも組織の人事権については口だしをさせていない。ホミニスは科学者集団だからな。科学的知見がない者が上にたっても現場は混乱するだけだ。――と、ママ……ごほん、上長が言っていた」
「つまり、ジュデッカという組織が何を考えているかはわからないということかな?」
「そうだ。正直なところさっぱりわからない。おそらく九州内の電気を停止させたのはジュデッカの意思だとは思うが、そんなことをしてもまったく意味がないし、むしろ人類全体として困るのは目に見えている」
「例えば、ヒロちゃんがいなくてもゾンビをどうにかできると思っていて、新秩序のためにはヒロちゃんとの協力関係はないほうがいいと思ったとかは?」
「考えられる。しかし、ヒロちゃんがいない場合、ゾンビからの回復はほぼ不可能に近い状況だ。ゾンビを全滅させることは可能かもしれないが、多大な犠牲がでる。理に適っていない」
「感情的なもつれというか、拒絶反応だとは考えられないかな」
町長の言葉にピンクちゃんは首をひねっていた。
理性が強いピンクちゃんとしては人の感情の得体のしれない理不尽さがまだわからないんだろう。
ボクはわりとわかります。
正直、ゾンビは怖いからね。ボクも異物として怖がられている可能性はあると思う。
なにがなんでも消したい。そう考えている人が一定以上はいると思う。
「ボクね。この町役場で誰かにカエレって書かれたよ」
言うと、ピンクちゃんは最初驚き、それから怒りからかプルプルと身体を震わせていた。
「人間はやっぱり愚かだ。バカだ。愚物だ。愚鈍だ。愚劣だ。阿呆だ。鈍麻だ。愚昧だ。どうして、人間はいつも綺麗なものを踏みつけにするんだ!」
地団太を踏み、キタナイ言葉を躊躇なく喚き散らすピンクちゃん。
「お、おちついてピンクちゃん。ボクとしてはそんなにショックを受けたわけでもないし、人類に対する敵愾心があるわけでもないから」
ボクが思うに――。
例えば、ゾンビから人類の生存圏を広げたり、あるいはゾンビから回復させようという行動が遅かっただけでも、ボクを糾弾する理由にはなりうるのだろうと思う。
会社の社長が、社員が忖度して居残るのをいいことに何も言わないという不作為が罪になるように、ボクも努力が足りないとか思われてるのかなぁって。
人類の忖度にのっかってて、配信とかを無邪気に楽しんでるクソガキとかさ。
そんなふうに思われてるかもしれないわけで――。
もちろん、ボクはボクが犯人でないのは知っている。
ボクは人類を見下しながら笑ってる悪魔じゃない。
でも、ボクのクオリアは誰にも見えない。
「ピンクは決めたぞ」
ボクが懊悩していると、代わりにピンクちゃんが毅然とした声を出す。
「ピンクは犯人を見つけ出してやる。真実はいつもひとつだ!」
うーむ。これはこれでややこしい。
じっちゃんの名にかけて。名に。