あさおん・オブ・ザ・デッド   作:夢野ベル子

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ハザードレベル95

 衝撃の事実。

 

 カエレの文字とゾンビテロは別の犯人だった!

 

 ボクとしては胃の裏側がメンソールで満たされたみたいな心胆寒からしめる事実だったのだけれども、周りを見てみると、ピンクちゃんも命ちゃんもまったく動揺がみられない。

 

 町長はボクが貸したお狐様のお面で顔見えない。

 でも動揺している気配はない。

 

 あれ? みんな驚いてない?

 

 むしろそのことが驚きなんですけど!?

 

「大丈夫だぞ。そっちの犯人もわかってる」

 

 ピンクちゃんの力強い言葉。

 え、そうなの? 知らなかったんだけど。

 

「先輩が動揺しないように黙ってるつもりでした」

 

 命ちゃんも?

 

「まあ、いろいろあるんだよねえ」

 

 町長も?

 

 ボクだけ知らなかった系?

 

 もしかしてはぶられてる?

 

『ヒロちゃんだけ知らなかった系?』『ヒロちゃんのきょとん顔助かる』『どういうことだ?』『なんらかの忖度があったんじゃないか。日本お得意の』『ピンクの大丈夫は大丈夫じゃない説』『毒ピンを信じろ!』『後輩ちゃんを信じろ』『謎の町長を信じ……なくていいな』

 

 ま……まあいいや。

 

 ボクだけ知らなくてもそれはボクのためを思ってとかだろうし、命ちゃんとピンクちゃんはボクよりずっと頭がよいんだから、ボクはただみんなを信じていればいい。

 

 久我さんはあいかわらず憎悪まるだしの表情。

 

 言ってることもむちゃくちゃなように思えるし、正直捕まっても自分が絶対的に正しい人なんだろうな。こうなってくると粛々と対処するしかないという気がする。

 

 感情論のスキ・キライじゃ何も進まない。

 

「とりあえず、君に聞きたいのは組織の考え方かな」

 

 葛井町長がなごやかなムードで語りかける。

 でも隣にいるだけで感じる威圧感がすさまじい。

 この人ほんとにニートだったのかな。

 

「ゾンビを殺せ。それだけだ」

 

「しかし、実際にはゾンビを……、つまりヒロちゃんを害するというのではなく、町のみんなをゾンビにするという指令だったわけだ。これはどういうことなのかな?」

 

『監視レベルだったのかねえ』『普通に考えてヒロちゃんに勝てるとは思えんからな』『むしろ排除しちゃったらマズイって考えもあるんじゃね』『ヒロちゃんがいなくなったあとにゾンビハザードが続いたらもうどうしようもなくなるしな』『そんな香具師おらんやろ』『あ、昭和な人ハッケソwww』『おっさんで何が悪い』『みんな仲良く』

 

 久我さんは黙秘する構えのようだ。

 葛井町長は気にするふうもなく続けた。

 

「上からの指令というのは、ヒロちゃんを貶めることにあったんじゃないかな。ヒロちゃんが人間にとっての敵であるということを印象づけたかったんだろう。まあ実際にはヒロちゃんは何の対価もなく癒してくれたわけだけどね。敵どころか天使という見方が強まったようだよ」

 

「おまえたちがチョロすぎるだけだろ」

 

「チョロいというのは心外だねえ。そもそも僕たちはゾンビから逃れてようやく安息の地を見つけたようなものなんだよ。ヒロちゃんはみんなの希望にもなっているし、みんなのためにがんばると言ってくれたわけだ。君もいっしょにいたからわかっているだろう。そんなヒロちゃんを信じないなんてことはありえないなあ」

 

「自分かわいさだけだろうが!」

 

「それの何が悪いのかな? 君達のような侵入者がいなければ、この町はなごやかなムードで着実に人類救済を進められたんだよね。わかっているのかな。君たちは僕らにとってはゾンビと同じだ」

 

「ふ ざ け る な !!」

 

 激昂だった。久我さんはパイプ椅子が机側に傾くぐらいに身体をこちら側にやって、血走った目で町長をにらみつけている。

 

「怒るのも筋違いだよね。こちらはいろんな利害を調整しながらやっているんだよ。本当は仕事したくないんだけどねえ」

 

「おせぇんだよ!」

 

 その怒号はいままでで一番取り繕うところがなく本心のように思えた。

 

 遅い――。

 

 それはボクとしてもわかっている。

 

 ボクがゾンビを操る能力に気づいたのは目覚めてすぐの時だった。

 

 そのあとにしたことは?

 

 とりあえずコンビニにいったり、学校にいったり、ホームセンターにいったりと、成り行きにまかせてグダグダと進行しただけだ。

 

 人間を信じるのが怖いというただそれだけの理由で、ボクはいたずらに時間を経過させた。

 

 自己保存は人間の本性だから、それはそれでしょうがなかったんだとボクは言いたいんだけど、周りの人間からしてみたら、遅いとなってもしかたない。

 

 だって、ここにいたるまでに関東ではゾンビとの大決戦があったらしいし――。つまり、かなりの数のゾンビが駆逐されてしまった。

 

 要するにヒトが死んだということだ。

 

 ボクが何もしなかったことと、因果関係がないとはいえない。

 

 淡くて暗い蛍光灯しかない奥まった部屋に、黒いタールのような重苦しい沈黙が降りた。

 

「ボクが悪かったかも」

 

 ぽつりと呟く。

 

 久我さんが――、みんながボクを見る。

 

「いろいろフラフラ考えてて、遅くなったかも……ごめんなさい」

 

『ヒロちゃんは悪くないだろ……』『ちょっと遅かったんちゃうん?』『遅れてきたヒーローに価値はない』『小学生やで。無理言うなや』『ヒロちゃんが覚醒したのは彗星が降った日って言ってたしな。遅いといえば遅い』『愚かな人類が悪いのです。緋色様は悪くありません』『ちょっとくらい遅れたって誤差だよ誤差』『弥勒様だって56億7千万年くらい遅れて来るからヘーキヘーキ』『太陽系滅びてる~~』

 

 ヒロ友にもいろんな考えがあるらしい。

 

「そうやって――、謝ればなんとかなると思ってるんだろう。ガキの考えそうなことだ。感情的優位性を作り出し、議論に打ち勝とうとする」

 

「勝とうとは思ってないよ。ただ、もう少しやりようはあったかなって」

 

「やりようだと? その上から目線がきにくわねえんだよ! おまえのやりようってやつで、どれだけの人間が死んだと思ってる」

 

 久我さんは怒りのあまりに全身が震えている。

 

『感情的優位性とかいっても議論にならんだろ』『オレもママンの頭かち割ったけどヒロちゃん悪くねえよ……』『ヒロちゃんが最初から計画的に人類を滅ぼすつもりなら配信してねえって!』『だべなー。配信せずにひきこもってりゃ勝ち確だしな』

 

 配信せずに引きこもっていれば――勝ち確。

 

 なにをもって勝ちとするかはあるけれど、ボクと命ちゃんと雄大と……あるいはボクと知り合った何人かの仲が良くなった人たちだけ生き残ることができればそれでいいなんて考え方もあると思う。

 

 仮にゾンビが全滅しても、ヒイロゾンビをちょっとずつ増やすことは可能だろうし、ヒイロゾンビと人間の違いは見た目的には存在しない。ただ再生能力が強いだけ。

 

 ゾンビが消え去ったあとでこっそり増やしていくなんてことも可能だったろうし、あるいはヒイロゾンビなんて増やさなくても楽しく配信できたかもしれない。

 

 人間が滅びた場合は言うまでもない。ボクたちは生き残る。

 

 でもボクは選んだ。人類は生存すべきだし――、その人類の中にはボクのことが嫌いだという人も当然に含まれるべきだ。

 

 すごく、怖いけど。

 

「ボクはボクのできる限りにおいて、人が死なないように、文化が復興するように努力するよ」

 

「信じられるかよ」

 

「信じてとはいわないよ。でも、ボクはやるって決めたんだ」

 

『ヒロちゃんがイケメン』『なんだよかわいくてイケメンとか最高かよ』『今週の切り抜き決定』『素敵抱いて』『ピンクちゃん補佐してあげて』『Kはこれだけ言っても伝わらんやろうな』『まあたぶん親族家族がゾンビに殺されたとかゾンビになったとかやろ』『気持ちはわからんでもないけどなぁ』

 

 再び沈黙が落ちる。

 これ以上は久我さんも口を開きそうにない。

 命ちゃんもピンクちゃんも沈黙のまま。

 お開きかな。ボクはそっと町長に視線をやる。

 

 謎の組織、ジュデッカの指示だったかどうかはわからないし、久我さんの動機もわからないままだったけど、それはそれでいいんだ。

 

 ボクもまた嫌われるだけの理由があるって知れただけでも収穫。

 それでも――、やるんだって決めることができたのが収穫。

 それでいいよね?

 

 そんな弛緩した空気が流れた時だった。

 

『待たせたな』

 

 コメントの中で閃光のように放たれた一言。

 

 他のコメントが次々に名前をあげる本当のヒーローの名前。

 

 モーセのように、コメントが、ヒロ友の列が割れる。割れる。

 そんなイメージ。

 

 ボクもよく知ってる人。

 

 FPSの神様とまで呼ばれた人物。

 

 幼女先輩だった!

 

 

 

 ☆=

 

 

 

「あ~~~。幼女先輩。お久しぶりです!」

 

『ヒロちゃん超笑顔』『はい。かわいい』『小学生にガチ恋』『お兄さんそろそろムショは寒いよ』『生きてたんか我ぇ』『幼女先輩がきてくれただけで安心感が違うな』『勝ったな風呂入ってこよう』『おじいちゃん水がもったいないからお風呂は週一って決めたでしょ』『小山内隊長なにしてんすか……』『自衛隊の仕事を放り出して配信に参加する幼女先輩www』『あとで始末書もんだろ』『まて、この配信に参加するのが自衛隊の作戦行動じゃないか?』『小学生の配信に参加するのが作戦行動て。草』

 

 ん。小山内?

 なんか聞いたような。

 あ……。

 久我さんと目が合う。口の中で小さく「小山内」と呟いている。

 その憎悪のこもった視線を見ていると思い出した。

 

 そう、入間さんと小山内さん。

 自衛隊を真っ二つに割った二人の人物のひとり。

 入間さんというのが元々の自衛隊の長だったみたいだから、小山内さんのほうが半身をもぎとっていったって感じかな。

 

 つまり、幼女先輩イコール小山内さんってこと?

 自衛隊が二つに割れて釘づけになることで大規模作戦はとれなくなったって言ってた。

 もし、幼女先輩が自衛隊を割ってくれなかったら、電気が落ちるだけじゃすまなかったのかもしれない。

 じんわりと胸があったかくなる。

 

「幼女先輩がボクを守ってくれてたんですか?」

 

『子どもを守るのは大人の使命だからね』

 

 とぅんく。

 ああ、かっこいい! かっこいい!

 幼女先輩すごくカッコいい。すごく大人のひとって感じがする。

 お父さんって感じがする。

 

「えへっ」

 

『まだ可愛さ係数が上がるだと』『ボンっ(スカウターが壊れた音)』『ヒロちゃんって大人の男の人けっこう好きだよね』『かわいい女の子も好きだぞ』『つまり人間が好きな天使』『幼女先輩かっこいいからな。名前以外は』『なんで幼女なんだろうな』『そりゃ……ロリコ……』

 

『仕事がたてこんでて遅れてしまったよ。申し訳ない。音声チャットでお邪魔していいかな。そこにいるK君とも話したいんでね』

 

「もちろんです! お願い後輩ちゃん!」

 

 地味に音声チャットは使ってなかったからね。機械に詳しい命ちゃんに丸投げするのだ。

 

「先輩はやっぱりチョロイン……」

 

「ん。なにか言った?」

 

「なんでもないです……」

 

 命ちゃんがすぐに場を整えてくれました。

 そしてパソコンを通じて、幼女先輩の声は想像してたとおりの大人のひとって感じだった。

 あー♪

 

「久しぶりだね。K君? 元気にしてたかな」

 

「小山内……なにしにきた」

 

「べつに、小学生に捕まった君のことを哀れんだりするために来たわけじゃない。入間隊長殿はどうしたのかなぁと思ってね」

 

「オレが答えるとでも思ったのか」

 

「隊長殿は最近お姿が見えんからなぁ。現首相の命令にも耳を貸さないご様子だし」

 

「国が崩壊しているのに現首相もクソもない。国民が臨時の首相をいつ認めた? ゾンビだらけで国会の召集もないんだぞ」

 

「国の制度でそうなってるんだけどな……。まあ、君と言い争っても時間の無駄だし、単刀直入に聞こう。ジュデッカは何を考えている?」

 

「知るかよ」

 

「末端の君じゃ本当に知らないかもしれないな」

 

『やっぱ黒幕はジュデッカじゃねえか』『自衛隊の半分を掌握している時点で入間だけの力じゃないだろうしな』『しかし、日米共同だろ。なんで日本が言うこと聞くんや。おかしいやろ』『まあアメリカの支配が思ったよりも強かったってことで』『日本の政界もぐっちゃぐちゃ』『そんなことより幼女先輩の声でASMRしてるヒロちゃん』『妊娠ボイスだしな』『ヒロちゃんが孕んじゃう?』『セクハラはやめような』

 

 だってかっこいいんだもん。

 しょうがなくない?

 

「ヒロちゃん」

 

 幼女先輩に呼ばれ、ぴょんと跳ねるボク。

 

「はい!」

 

「ごめんね。Kは元々わたしの部下だったんだ。だからこいつにいろいろ言われて気分を害したのなら許してほしい」

 

「はい! 大丈夫です!」

 

『素直』『小学生』『目の中ハートになってない?』『メスの顔してる』『ちょろすぎw』『完全に幼女先輩のファンと化してるな』『やっぱりヒロちゃんも女の子やったんやなって』

 

「ボクはフツーに人として幼女先輩を尊敬してるだけです!」

 

『ほんとぉ?』『うそぉん』『幼女先輩。娘さんをください』『やらんぞ』『おまえに聞いてねえ』『Kのことほったらかしで草』『しかし、Kって本当に現場をかき回すだけのクソ雑魚やったんやな』『そこに住んでる人にとっては恐怖でしかないで。ゾンビテロは』『ヒロちゃんがいたからよかっただけだもんな。普通なら死ぞ』『それな』

 

 幼女先輩は溜息をこぼし続けた。

 

「入間とジュデッカがつながってるのは確かなんだ。しかし、具体的に何をどうしたいのかが見えてこない。ジュデッカと自衛隊の関係も複雑でね。誰が構成員なのか、どれくらい根を張ってるのかもよくわからないんだ」

 

「まるで人間の脳みそに寄生する虫みたいだな」とピンクちゃん。

 

「そうかもしれないね。ジュデッカの恐ろしいところは人の心を行動心理学的に操るところにある。例えばスーパーで大根を買おうか人参を買おうか迷ったときにジュデッカは多数派がどちらを選ぶかをそそのかすことができる。そういう組織なんだ。五万人の分かたれた自衛隊も本意じゃないやつはいるだろうし、わたしだって味方と殺し合いはしたくない。だから、相手さんの意図が知りたかったんだよ」

 

 幼女先輩も苦労人みたい。

 しかし、大根か人参かを選ばせるとか、すごいのかすごくないのかよくわかんないな。

 社会をデザインして、人のこころを操るということなんだろうけど。

 

「お前達がオレたちに従えば争いは起こらない」

 

 久我さんが憎しみをこめた声をあげた。

 

「それはできない相談だな。わたしは大人としてヒロちゃんのような子どもを守る義務がある」

 

「そいつは人間じゃない。ゾンビだろうが」

 

「ヒロちゃんは人間だ。人を想う心がある」

 

「違う! こいつは意図的にゾンビハザードを放置した。自分本位な化け物だ」

 

 久我さんの憎悪が膨れ上がる。

 

 場に満ちる風船が破裂しそうな緊張感。

 

 ボクは、わりと冷静だった。

 

 久我さんには嫌われているのは確かだけど、幼女先輩が弁護してくれるから。

 

 幼女先輩はまた深く溜息をついた。

 

「君が妹さんとご家族を撃たなければならなかったのは悲劇であると思う。しかし、この子は関係ないだろう。自分の与えられた立場で精一杯がんばっているじゃないか。どうしてそれがわからない」

 

「そいつはウソをついている。最初はただの配信者。その次は超能力少女。今度はヒイロゾンビ。なんだそりゃ。やっぱりゾンビじゃないか。こいつは都合のいいタイミングで少しずつ情報を小出しにして人間を内心ではあざ笑ってるんだよ。オマエのほうこそどうしてそれがわからない!」

 

 ボクもその都度その都度で最善は選んでるつもり。

 でも、確かにそれが不誠実な態度になった面はあるかもしれない。

 ボクは視線を落とす。

 他のみんながどんな考えなのか怖かったけど――。

 

『まあKの言うことも一理あるかもしれんな』『ヒロちゃんもわりとウソはつくしな』『バレバレだけどなw』『バレバレっていうか空気感で伝わるというか』『Kは配信を直接的には見てないんだろう。オレたちはわかるよな』『わかる。ヒロちゃんが人間を好きだっていうのはわかるよ』『だから顔をあげて』

 

 うん。

 ボクはヒロ友たちのコメントに勇気をもらって顔をあげた。

 

 

 

 ★=

 

 

 

 彼女は感受性のカタマリだった。

 

 あらゆる音、光、情報を、0と1のコードとして純化し、時間と空間を隔絶して吟味する。

 凡人を超越する天才的思考。あるいは悪魔的思考。

 

 黒いリノリウムの廊下を歩き、わたしは彼女の部屋の前に立つ。

 

 そしてノックする。

 

 心臓が恐ろしく跳ねる。

 

『オジサマ。イラシタノ』

 

 機械じみた恐ろしく調律された少女の声に、わたしはいますぐにでも踵を返したかった。

 いや、屈服し頭を地面にすりつけて許しを請いたかった。

 

 久我が思ったよりも使えなかった。

 

 戦闘力だけで見れば小山内と同程度。ゾンビハザードのような未曾有の災害が起こったときに突然変異のように表れる異常個体だと思ったのだが、ただの凡人だったらしい。対人戦闘がほんのちょっとだけ得意な一般人。

 

 本当の異常個体とは、あの小さな白いゾンビと――。

 

 彼女くらいのものだ。

 

 気づくと白髪の混じる執事が傍らに立っており、わたしに声をかけた。

 

「入間様。コートはこちらにお預けください」

 

「ああ」

 

 部屋への扉を執事に開けてもらう。

 

 彼女はここにいて――、しかしここにはいない。

 そんな奇妙な存在感が彼女にはある。

 

 わたしがぼんやりと立っていると、

 

『ドウシタノデスカ?』

 

 と、彼女はわずかに視線を流した。

 

 どの人種かもわからない奇妙なほど平均的な配列をした顔。

 まるでAIが作ったかのようにバランスがとれている。

 鴉の黒翼のような髪の毛は床下に届きそうなくらい長い。

 

 そして――、瞳。

 

 ブラックホールのように見るものを吸いこむような。

 人の罪過も憎悪も怨嗟も憤怒も諦念もすべて喰らい尽くすような黒の瞳。

 

 要するに何のことはない日本人的な配色なのだが、すべては彼女の美しさがベールのように覆っていて、見る者を幻惑させるのである。

 

 わずか齢13歳。

 

 彼女こそがジュデッカの最高議長。

 

 誰が言い出したのか彼女の名前の由来から、こう呼ぶ者もいる。

 

 イスカリオテのジュディ、と。




タイミング的にはいまだよねって思うんだけど、どうかなぁ。
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