ヤバい。ちょっと今、柄にもなく少しいやかなり焦っている。流石の俺も、ここまでのレベルだとは思ってもいなかった。いや、結果を見てから考えてみれば事前に分かっていても何らおかしくはないことではあるんだが。珍しく盛大に読みを外してしまったな、クソ。今後のスケジュールが一気に崩れそうだ。
「教官? 次のパターンはあるのかしら。出来れば焼き増しの作戦ではなく、新規の中規模作戦辺りを参照したいのだけれど」
焦りを何とか隠しつつ、さてどうしたものかと考えていたところにAR-15の非情な声が響く。ちょっと待ってくれませんかね、もうこっちは正直ネタ切れ状態なんですけど。ふとピンク髪の後ろを覗いてみれば、AR-15に続いてM16、M4も物足りなさそうな表情をしている。なんとびっくりあのSOPMODⅡまでもが「おかわりマダー?」と言わんばかりの顔付きである。
完全に読み違えた。畜生、どうしてこうなった。
さて、今がどういう状況かと言えば。先日俺はキルハウスにてドヤりながら説法をかました後、ホクホク顔で場所を移し楽しい楽しい勉学のお時間を開始したわけなんだが。
正直に言おう、俺はどうやら電脳とやらをまだナメていたらしい。初日の射撃訓練の時から電脳のスゴさってのは分かっていたつもりなんだが、まだまだ認識が甘かった。うちの部隊から適当に拝借してきた作戦報告書を配りながら、やれ作戦概要はこうだ、やれ初動の戦術はこうだ、などと最初の一日目こそ順調に授業を行えていたんだが、こいつら吸収力が半端ないの。次の日に前回の復習も兼ねて、いくつか意地の悪い質問も交えて成果の確認をしていたんだが、一度教えた部分は完全に覚えてやがるし、ご丁寧にも戦略の意図やら連携のパターンまで報告書に補足しながら教えてたもんで、それすらも全部一発で覚えてやがった。更には戦術について前回色々とお膳立てをしてしまったおかげか、早速座学で覚えた内容を自分なりの戦術に落とし込んで構築させてるときたもんだ。
俺は本当の意味で「戦術人形」のことを分かっていなかった。こいつらの根本は記憶じゃなくて記録なんだから、そも忘れるわけがない。それこそハードウェアに致命的な障害が起きるか、容量が一杯になるかしないと無理だ。前者は戦闘で修復不可能なほど傷ついてしまえば可能性はあるかもしれないが、そうならないようにするための訓練である。後者については本当に無理で、例えるとすれば100TBの容量を持ったハードディスクにテキストエディタで作ったデータを一杯になるまで延々と突っ込んでいくようなものだ。あまりにも非現実的過ぎる。
そして先日までのこいつらは、その膨大な空き容量を持て余した状態だった。乾いた布が水を吸収するが如く凄まじい勢いで学び、空き容量へ知識というデータを詰め込んでいったのだ。
というような、戦術人形の吸収の早さを見誤っていた焦りが半分。残り半分は、考案していた教育スケジュールを前提から崩してしまった焦りだった。
初日の射撃訓練はまぁ致し方ないとしても、ここまで座学の効率がいいのであれば、キルハウスでの遭遇戦訓練に移る前に一定の知識を詰め込んでから実践に入るべきだったんだ。そうすればより効率よく訓練を進められたはずだ。部下の資質を見誤り、教育の手順を間違える。上司が一番やっちゃいけないことだ。戦術人形にモノを教えること自体が初めてだってのはあるが、それならそれで事前に聞いておけば容易に解決できた話。どんな理由や言い訳を並べ立てたとしても、これは教育する側の失態である。ガッデム。
つーわけで、AR-15が望むような新規の作戦報告書はもうここには無いってことと、結果として俺が教育方針を誤ってしまったことを素直にごめんなさいしておく。自らの非を謝れないやつに上に立つ資格はないと考えているからな俺は。誰だってミスをする。部下だってするし、俺だってする。だったらミスった時にそれを即座に清算しておかないと、後々デメリットしか残らない。
「い、いえ、そんな……謝られるようなことでは」
「そうだぜ教官。あんたはよくやってくれてるさ。感謝こそすれ、この程度で謝られる道理はないな?」
うおお、なんていい子なんだお前たちは。AR-15は俺からの謝罪に対して逆に申し訳なさそうにしゅんとしてしまい、それをフォローするが如く我らがイケメンM16A1が素敵な言葉を添えてくれた。マジで惚れそう。
「そうそう! それにぃ、教官と一緒に遊ぶの楽しいから平気だよ!」
SOPMODⅡがいつも通りの眩しい笑顔で元気よく振舞ってくれる。多分フォローしてくれてるんだろうけど別に遊んでるわけじゃないからね? けどまぁ、少なくとも嫌々よりは楽しみながら訓練して貰えた方がこちらとしても気が楽だし、本人も身が入るところがあるんだろう。悪くない傾向ではあるので素直にありがたく感じておくことにする。
「まだ、教わり始めてから日は浅いですが……多くのことを、学ばせて頂いています。M16姉さんの言う通り、私も感謝していますので……」
やっぱり気の弱さは相変わらずだなM4は。それでも、精一杯俺を気遣ってくれているのは痛いほど分かる。というか、全員にここまで言われると逆にちょっと居た堪れなくなってきちゃう。
うーん、変な空気のまま固まってしまいそうなのでリセットリセット。とりあえず、再度すまんな、と簡単に話を締め、ひとまず座学の時間は終了とする。本当はここで結構な時間を割く予定だったんだが、スケジュールが大幅に縮まってしまった。決して少なくない量の報告書を持ってきていたはずなんだが、まさか2日でオールコンプリートされるなんて考えもしなかったぞ。
しかし実際にやることがなくなってしまい、教材が無くなってしまったことはもう事実として受け止めるしかないので、俺もいい加減切り替えていこう。ちょっとらしくなかったな。
うん、折角だ。この2日間で学んだことを早速活かして貰うことにしようか。てなわけで、2日ぶりのキルハウスへとんぼ返りである。遭遇戦訓練の再開を聞いた4人は、非常に分かりやすいSOPMODⅡとその次に分かりやすいAR-15を筆頭に、皆やる気に溢れているようだ。きっと最初にやった時と比べたら大きく動き方も変わってくるんだろうな。これはマジで今日当てられてもおかしくない気がしてきた。俺も気合入れよう。頼むぞ俺の愛銃。
「うっしゃあ! ヒットだ! やってやったぜ、今日は祝杯だァ!」
狭いキルハウス内、M16A1の雄叫びが木霊する。叫んだ本人はと言えば勢いよく握り拳を振り上げながら、その歓喜を全身で表現している。普段の大人っぽさがいい意味で鳴りを潜めており、見目相応の活発な少女にも映った。
午前中に早々座学の時間が終了してしまい、場所は変わってキルハウス。遭遇戦訓練に改めて挑んだ俺とAR小隊の4人だったが、結果として4人全員にキルマークを献上してしまうという事態に陥っている。しかも、SOPMODⅡとM4A1には既に2回デスられている有様だ。トータルの戦績で言えばまだまだ俺が優勢だが、こいつらの成長速度にはほとほと舌を巻くばかりである。いやー、嬉しいやら悔しいやら。今までどれだけ筋のいい新人を鍛えていても、たかだか1週間弱で曲がりなりにも俺と戦えるレベルにまで成長するやつなんて一人も居なかった。これはもうとっくに新人に毛が生えたレベルなんて範囲じゃ収まりが利かなくなっている。確かに俺を全身染め上げるくらいにまで成長して欲しいとは思っていたが、こんなエグいスピードで実力をつけてくるなんて聞いてません。人形怖い。
意外にも俺に一当てするのが一番遅かったM16A1だが、これは単純に運や相性もあるだろう。こいつは今まで感じたとおり精神的にもタフで頭もキレる、頼りがいのあるやつなんだが、個人での作戦となると案外単純、というか正面突破に近い戦術を好む傾向にある。対する俺は自分が優秀だなんて毛ほども思っちゃいないので、搦め手全般が得意技だ。こうなると相性は最悪に近くなる。逆にこの短い期間でよく俺に当てられたものだなと褒めてやりたいくらいだ。周りの3人もまるで自分のことのように喜んでおり、その光景は大変微笑ましい。うーん、何だか娘が4人出来たみたいな錯覚に陥りそうだ。
おっといかんいかん。さて、盛り上がっているところ水をさすようで悪いが、一旦状況を締めて4人を集める。
イーブンからスタートして俺に一当て出来たってことは、狭い範囲での個人戦術、技量において最低限の実力はついたと見ていい。めでたく新兵は卒業って状態だな。1週間で新兵卒業とか普通は有り得ないんですけどね。
ということで、ここからは俺も交えて5人でチームを組んで遭遇戦訓練に入ることにする。2on2で相方を順繰りに交代して、残りの1人は見学だ。見る側とやる側を定期的に組み替えることで主に俺の体力も温存出来るし、組み合わせの偏りを防ぐことで戦術や思考の偏りも極力抑えていく方針である。今でこそ4人だが、将来的に他の人形と組む機会も当然あるだろう。特定の相方ありきの戦術で凝り固まってしまうのは非常に良くない。様々な組み合わせ、パターンに実践で慣れていくことで更なる経験値を積んでもらいたい。
ま、最初は連携の不備や思考の違いやらなんやらで喧嘩や諍いも起こるだろう。だが、そういうものも飲み込んで、自分の糧にして始めて経験として生きてくるもんだ。頭と思考は常に柔らかくしておかないとな。電脳に対して柔らかく、なんて表現が合ってるのか知らんけど。
ああ、あとクルーガー辺りに頼んで追加の作戦報告書も貰っておこう。無理して正規軍人であるうちの部隊のやつを用意して貰わなくてもいい、というか今となっては俺も初見の報告書の方が都合がいい。お互いに考えながら最適解を模索出来るし、それもまたいい経験になるはずだ。ついでに報告書の書き方とかも教えておくか。いつか役に立つだろう。
当初の予定では大体2週間の基礎訓練のはずだったんだが、さてはて残す1週間でこいつらをどれだけ底上げ出来るか。クルーガーが手を回しているとはいえ、俺もずっと自分の部隊を空けるわけにはいかないしな。時間は限られているが、やりたいこと、やってみたいことは湯水のように湧いて出てくる。頑張って表には出さないようにしているが、今の俺はめちゃくちゃテンションが高い。自覚できている分まだマシだが、教官としてはあまり望ましくない。冷静になるんだ俺。
おっと、大事なことを忘れていた。
個人で動く分には問題ないが、チームを組む場合、最初の息を合わせるのが何より肝心だ。出足がバラついてしまえばその後ずっと響くからな。つーことで、うちの部隊では状況開始の準備が整った時にこう言ってる。別に真似する必要はないから、後で4人で色々打ち合わせるといい。
それじゃ、やりますか。頼むぜ、一時の相棒さんよ。
「――You Copy?」
ウサギ狩りとジンジャークッキーの1日17周って結構重くない? やりますけど
この小説はとりあえずのケツが決まってるので割とサクサク書いてます。色々ガバいけどゆるして
すっかり過去作になりましたが
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最近新しく読み始めたぜ!
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定期的に読み返してるぜ!
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AR小隊はいいぞ