愛の色   作:ビタミンB


原作:BanG Dream!
タグ:R-15 オリ主


少し、話そうか。
ああいや、別に集中しなくてもいいよ。耳を傾けるだけでいい。なんならそれすらしなくてもいい。ただ、そこにいるだけでいいんだ。


『独り言』は得意なんだ。




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少し、話をしようか。





愛の色

 

 

 よし。ようやく静かになってくれたね。意外だったよ。大人しそうな見た目なのにあんなに騒ぐなんてさ。いや、別に気を悪くしたわけじゃないんだ。むしろ逆かな。君の新たな一面を見れたことを嬉しく思っているんだ。嘘じゃない。

 

 さて、じゃあ話をしようか。

 突然だけど、君は人が人になる瞬間ってどんな時だと思う? ああ、本当に唐突な話になったね。それで、どう考えるのかな。そんな目で見られても喋ってくれなきゃ伝わらないよ。

 

 うーん、話してくれる様子じゃないね。なら僕から先に話そうかな。僕はね、人が人になる瞬間ってのは、認められた時だと思うんだ。認めた時と言ってもいい。多分誰もが自分の存在証明なんてできっこないと思うんだけど、それでも僕はそう考えるわけ。他人からでも、自分からでも。何かに『認められる』瞬間こそ、人は存在していると思うんだ。

 

 例えばさ、時間を切り取ってみたとしよう。全てが静止した世界ってのを想像してみると分かりやすいかな。或いは超常めいた写真なんかでもいいかも知れない。止まった時間の中で自分だけが動くことができるとしたら、なんて、一度は考えたことがあると思うんだ。僕だってある。一時期僕はそのことで頭の中がいっぱいでさ。来る日も来る日も、そんな馬鹿馬鹿しいことで悩んでたんだ。でさ、止まった時の中で自由に行動できるとして、きっとそうなった瞬間はとても楽しいと思うんだ。普通ではありえないことだからね。きっと誰もがテンション上げて好き放題やるんだろう。

 

 でもさ、でも、その先を考えて見よう。どれだけ当人の時間が経過しても、世界は止まっているから時間が経たないし、太陽だって人間だって、自分以外は止まったままだ。そのうちやる事がなくなってきて、停滞が不安に変換されていくんだ。誰も自分を見ないし、誰も自分を認知していない。誰からも認められないその時こそが、人間の死に値すると思うんだ。

 でもね、この話にはまだ続きがあってさ。誰も認知しないなら、自分で自分のことを認めていたらどうなるんだろうって。考えてみたら、それもありだったよ。つまり、自己の存在証明は自己だけで完結するんだ。散々悩んだ挙句、この課題は驚くほどに単純明快なもんだった。まるで人生が変わったようだったよ。だって、僕が僕を『僕だ』と思っている限り、僕は存在できてるんだからさ。

 いやあ、認めるって素晴らしいことだよね、全くね。だからさ、僕は僕の行いを後悔した事なんでないんだぜ。自分で言うのも何だけど、これって結構すごい事でさ。多分ほとんどの人は後悔の連続で生きてるんじゃないかな? 今の時代、失敗は成功の元、なんてのがテレビや書籍で謳われてるんだ。その考えも間違ってないのかも知れないけど、僕は違う。だからさ、僕が君にした行いだって、僕はなにも後悔なんてしてないんだ。僕の人生は成功の連続さ。その分どこか胡散臭さはあるけどね。まぁ、それはいいんだ。僕はここに存在していて、僕に認知されている君も、間違いなく君として存在しているってわけ。ただそれだけさ。

 

 あぁ、本当に唐突で取り留めもない話になってしまったね。そんな興味なさそうな目で見ないでくれよ。特にオチなんてないけど、暇つぶしにはなっただろ?

 

 それで、君の意見を聞かせてくれよ。……はあ、だんまりか。いや、いいんだ。別に気を落としたわけじゃないし、怒っているわけでもない。僕は君を認めているからね、そんなの些細なことなんだ。僕は沈黙が嫌いじゃないし、喋らない相手に一方的に話をするのが得意なんだ。意外な特技ってやつ。だから君は気にしなくていい。

 

 うーん。でもそうだなあ。君が何も話さないなら、また僕が話そうかな。反応はしなくていいから、そのまま聞いていてくれると嬉しいよ。

 じゃあ、僕と君との出会いについて話してみようか。お、少し反応したね。いいよ、やる気が出てきた。じゃあここからは少し念入りに話していこうかな。

 

 僕が最初に君を見たのは、ほんの偶然の出来事だったんだ。

 今、僕と君がいるこのアパート、実はまだ5年くらいしか住んでなくてさ。普通に高校を出て、普通に働いてる僕にとってこの部屋は起きて寝るだけの場所に過ぎないんだ。だから今こうして君と二人でいることを、僕は君が思っている以上に嬉しく思ってるんだよ。君はどうか知らないけど。

 あぁ、少しずれちゃったね。それで、僕が君を見た時の事なんだけど、その前の日の仕事がとても忙しかったわけ。そんなに大した仕事をしているわけじゃないんだけど、それでも結構大変でさ。くたくたになってここに帰ってきては、何も食べずに寝ちゃったんだよね。そして、起きた時はもう夕方近くでさ。僕は散歩に行くことにしたんだよ。

 なんでまた唐突に、って思うよね。僕自身意外に思ってる。普段散歩なんて絶対にしないし、そもそも僕はあまり外に出たがらないからね。あんまり好きじゃないんだ。意外だろ? でも、その日の僕はそういう気分だったわけ。もう一度寝ようにもやけに目が覚めちゃってさ。寝すぎて寝れなかったんだ。だから僕は重い足取りでここを出た。

 そんなこんなでしばらく歩いてたんだけどさ、信号待ちをしていたところで僕は初めて君を見かけたんだ。

 正直に言うと、とても綺麗だと思ったよ。なんだか照れくさいな。でも本当のこと。とても目を引かれたのを鮮明に覚えているよ。銀髪が控えめにたなびいててさ。君のとなりにいた茶髪の子も可愛いかったけど、それすら掠れるくらいに君が魅力的だったんだ。

 はは、そう睨まないでくれ。全部本当のことなんだ。

 

 君は僕に気付かなかっただろ? 気づいたとしても、それが僕を『僕』と認識したものじゃなかったと思う。だってあからさまな服装だったからね。肌の露出が極端に少ないやつ。僕の服ってそんなのばっかりなんだ。意外だろうけど、僕って結構有名人なんだぜ? 本当の話。

 まあそれはどうでもいいか。それで、その日から少しずつ気になっていってさ、仕事中だって君のことを考えたりもしたんだぜ。君が友達と一緒に組んでいるバンドのライブだって何回か行ったよ。予想はついていたけど、やっぱり君って歌がうまいんだね。とても力強くて透き通った歌声だったよ。あのステージの君を見て、ますます僕は君に惚れたんじゃないかな。

 

 それからしばらくくよくよ悩んでいた時期があってさ。というのも、君に声をかけようか迷ってたんだ。ほら、僕ってこんな性格だろ? いろいろ余裕ぶってるくせして、案外行動力がないんだ。うん、ついに反応がなくなってきたね。もう僕の方を見てすらくれない。そろそろ時間かな。でも、もう少し続けるよ。

 

 いろいろ悩んだんだけど、やっぱり声をかけることにしたんだ。でも、君と僕との関係は一方的に僕が認知しているだけ。ファーストコンタクトで失敗すると、今後二度と僕たちは関われないって僕は考えたんだ。だからさ、僕なりに考えて結構入念に準備したんだ。今こうして二人でいられてるのを思えば、あの準備も無駄じゃなかったね。

 いや、大変だったんだぜ? そのために1週間くらい計画を練ったりしてさ。仕事なんか全く身が入らなかったよ。心ここに在らず、って感じでさ。かなり上司に怒られたよ。でもそこは僕も大人だからさ。なんとか我慢したんだ。

 ああ、今思い出したら鬱陶しい気分になってきた。ごめんね、落ち着くことにするよ。もうほとんど聞こえてないだろうけど。

 

 ああそうだ! とっておきの話があるんだ。せめてこれだけても聞いてくれよ。

 君は好きな色ってのはあるかな? 女の子だからね、ピンクとか、黄色とかがベターかも。クールな君のことだから、自分の髪と同じ銀なんかも案外好きだったりするかもしれないね。でも僕は男だからね、もっと強そうな色の方が好みっぽいんだ。

 

 青とかは結構好き。海も空も青で、一番身近にある一番壮大なものだからね。究極ですらあるよ。

 

 黒なんかもいい。やっぱり男といえば黒! って感じはするよねやっぱり。暗黒とか漆黒とか。まあとにかく男って生き物は潜在的に闇ってものが大好きなのさ。笑わないでやってくれよ。

 

 でも、でもさ。僕が本当に好きな色ってのは、今言ったものの中には無いんだ。ああいや、エメラルドグリーンとか、コバルトブルーみたいな複雑な派生色みたいなのじゃないんだよ。これも1、2を争うほどベターなものさ。なんだと思う? あんまり僕っぽくないかも知れないから分からないかも知れないね。いや、君なら気づいているかな? 気づいていないにしても、聞いたら納得するかもね。

 

 正解はね、赤だよ。

 僕は赤がこの世で一番好きなんだ。あれ、やっぱり意外だったかな? 僕ってよく喋る男だけど、こういう話はあんまりしてこなかったんだ。今までを振り返ってみてもたったの数人いるかいないか。だから君は記念すべき数人目の人物なんだ。まあ、だからといって何かあるわけじゃないんだけど。

 

 それで、話を続けるね。なんで僕が赤が好きなのかって聞かれると、これまた長い話になっちゃうんだけど……少し簡単に話していこうかな。

 昔話を一つしよう。僕が幼かった頃のこと。まだ『母親』という存在が僕にもいた時期のことだ。

 

 僕はあまり喋らないし、他人からみると驚くほど感情が読めない、子供にしては不気味な子だったらしいんだ。当時を振り返ってみても、たしかにそうだったように思うよ。たしかにあの頃の僕って無愛想だったし、今みたいに喋り通すこともなかった。好きな色だってまだ決まってなかったんだ。そんな時にさ、ある事件が起きたんだよ。いや、あれは事故のようなものだったね。

 なんて事のない、母親と二人で出かけていた時の帰り道に、母親が車に轢かれちゃったっていうだけのことなんだ。

 うん、子供ながらに僕は驚いたね。手を繋いで僕の一歩前を歩いていた母親が、ふとした瞬間突然消え去って、消え去ったかと思ったら血まみれで倒れてるんだ。すぐにニュースになったよ。その後、僕は父親に育てられてここまで生きてきたんだけどさ、その父親も随分前に死んだよ。全く、人の命ってのは悲しいもんだね。

 

 母親が死んだ時のことは今でもよく覚えてるんだ。けたたましいクラクションと、大きなトラック。すごい人だかりができたんだけどさ、秋の冷たいアスファルトを流れるあの血のなんとも言えない赤さが綺麗で、とても綺麗でさ。僕はその場でただ一人だけ泣いてたんだ。笑わないでくれよ、子供だったんだ。仕方ないことさ。って、笑ってなんかいないか。

 

 まあ纏めると僕はその日から赤が好きになったんだ。変だろ? 普通はもうちょっと情熱的だから、とか、派手でかっこいいから、とかがあるのにさ。

 

 さて、もう話題が尽きてきたな。ああ、そうだ。今になって気づいたよ。一つ前言撤回させて欲しいことがあるんだ。僕は後悔をしたことがない、ってやつ。自分で言っておいて不誠実だよな、そこは許して欲しい。

 僕は今、後悔していることがあるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 包丁を使ったのは失敗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやー、よくやっちゃうんだよね、これが。身近にあるし、手頃だしさ。その瞬間は気持ちいいんだけど、でもこうしてお喋りが終わっちゃうと冷静になって、ああ、またかって思っちゃうわけ。

 まあいいか。もうこれも慣れたもんだ。

 

 

 心配しないで、君は死んでなんかいないから。僕が君を『君』だって思ってるうちは、君は君で存在しているんだ。だから大丈夫だよ。

 

 

 

 

 よーし、またやる気が出てきた。君がこんなにも綺麗なんだ、自然も舌もよく回るってもんだよ。

 

 

 

 まだまだ夜は長いんだ。もっと僕の『独り言』に付き合ってくれよ──────ね? 

 

 

 

 

 

 

 

 






さて、次は誰と喋ろうか。



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