「ここがロキ・ファミリアの拠点だな」
「うーん、下見で一度来たことがあるけどやっぱりデカイな」
目の前に聳え立つのは夕暮れ時を思わせる色合いの建物。所々に西洋式の塔の様な特徴が見えており、どちらかと言えば城の様なイメージを抱かせる。
門番らしき人が二人、武器を持って立っていたので近寄って話しかける。その時に顔に人の良さそうな笑顔を張り付けておく事を忘れない。人の第一印象は外見によって決まるのだ。
「すいませーん、今日ここで入団試験するって聞いてるんですけど」
「あー入団希望の方ですね。名前の方を教えてもらえます?」
「漣蔵人です。ロキに推薦するから受けろって言われて来ました」
「ムラマサ・アヤメだ。
「ムラマサ・アヤメって……フレイヤ・ファミリアの【
「ちょっと話せそうな人を連れてくる!!」
やはりLv.4ともなれば有名になるのか、それともフレイヤ・ファミリアからの
「しょ、少々お待ちを!!今幹部の方を連れてくるんで!!」
「こんなにビビり散らかされるってお前何やったの?」
「ロキ・ファミリアに直接何をしたという記憶は無いのだがなぁ……普段の私の行いが伝わっているのだろうな」
「取り敢えずロクでもない行いをしたんだっていうのは分かった」
どうせ二つ名の通りに色んな事を斬って解決しようとしたのだろう。フレイヤ辺りは笑い話にでもしていそうだが、団長であるオッタルは朝の様子からするに相当参っていた様だった。
直接問題を起こした訳でもないのに、アヤメの名前を聞いただけで腰を抜かしそうになるってこいつは一体何をやらかしたのだろうか。
「やぁ、待たせてしまったね」
兎も角、話の出来る奴が来るまでは待たなければならない。なので待っていたのだが、やって来たのは少年と言っても差し支えなさそうな風貌の男だった。普通なら、こんな奴を連れて来るなんてふざけているのかと怒鳴り散らすだろう。
だが分かる。こいつはアヤメよりも、そして俺よりも強い人間であると。流石にオッタル程では無いが、それでも十分に化け物と呼べる様な強さを持っていた。
「フレイヤ・ファミリアのムラマサ・アヤメとサザナミ・クランドだね?」
「そうだ」
「呼び方が難しかったらクラウドでも良いぞ」
「そう?ならそう呼ばせて貰おうか。悪いけど、応接室まで案内するからついて来てくれるかな?」
断る理由が無いし、向こうから話す場所を作ってくれるのは非常に好ましい。アヤメの方も異論は無いようなので彼について行く事に決める。
そうして彼に案内されたのは応接室。質素と呼べる程に飾りっ気が無い訳ではなく、だけど派手と呼べる程に飾られているわけではない。が、よく見れば置かれている調度品の質の良さが分かる。恐らくは高級品だろう。
こういう調度品の質の良さだけでもファミリアの財力が優れている事が伺える。金が無い場合は装備や生活に優先して回し、こういう調度品は等閑にされがちであるから。
「さて、僕の名前はフィン・ディムナ。ロキ・ファミリアの団長を務めている冒険者だ」
「なら改めて自己紹介だな。俺は漣蔵人、呼びにくかったらクラウドでも構わない。一週間程前にこっちに来た来訪者だ。ロキに誘われた事と冒険者になりたかったから入団試験を受けに来た」
「私の事は知っているだろうが一応しておこう。ムラマサ・アヤメ、フレイヤ・ファミリアに所属しているLv.4の冒険者だ。前から
「クラウドの事は予めロキから伝えられてたけど、まさか【
「その事で話があるんだけど、ロキは居ないのか?」
「訓練場の方で入団試験の準備をしてるから外せないんだ。代わりに僕が聞こう」
出来るのならロキに直接話しを聞いて欲しかったのだが、戦力の増強に繋がる試験の準備をしているのなら仕方がない。組織のトップの立ち位置にいるディムナに話しをするしかないだろう。
「アヤメから分かると思うけど、俺はフレイヤに目を付けられている。何とかして大人しくはさせたんだけど、この先あいつがどんな行動をするのか分からない」
「……最悪、
「流石はロキのファミリアの団長さんだ。話が早くて助かる」
「何故抗争になるのだ?」
「そしてこのお馬鹿よ」
いや、フレイヤに目を付けられているという事を告げただけで最悪の事態まで僅かな間で辿り着いたディムナの頭が凄いと褒めるべきだろう。寧ろアヤメの反応の方が正しい。
「アヤメ、フレイヤの性格を考えろ。あいつは欲しい男を何が何でも手に入れようとする。そして現在のあいつのターゲットは俺だ。俺がここに入った場合、暫くしたら俺を自分のファミリアに入れようとちょっかいかけて来るに違いない。そのちょっかいのよりけりによっては抗争もあり得るんだよ」
「とはいえ大丈夫だと思うよ。確かにフレイヤ・ファミリアは強大だが、抗争なんてすれば向こうも浅くは無い被害を受ける事になる。彼女も神だ。自分の眷属たちを愛している。無闇矢鱈と被害が出るような事はしないはずだ」
「だと良いんだけどねぇ……」
一週間前の夜のフレイヤの別れ際の顔を思い出す。あれはどう考えても、狙った獲物を狙う捕食者の顔だった。確かにディムナの言う通りに、ロキと同じように眷属の事を思いやる一面を持っているかもしれないが、あれを見てから大丈夫だと言われても信じられない。
「でも、確かにこの話はロキには伝えておくべきか……うん、そろそろ試験を始める時間だし丁度いい。僕たちも訓練場に向かおうか」
異論は無かったのでそれに従い、どうして抗争になるのかと未だに頭を悩ませているアヤメを連れて訓練場に向かう。普段の言動から察していたのだが、彼女は頭の方が弱いらしい。でも不思議とそれは欠点には見えずに彼女らしいと思ってしまう。
訓練場は広く、そして様々な人種の者たちが集まっていた。パッと見渡す限りでは右側に集められた者たちが弱く、左側に集まっている者たちが強く感じられる。恐らくは右側の者たちが入団希望者で、左側がロキ・ファミリアの団員たちだろう。
俺が来た事に気が付いたのか、エルフの女性とドワーフの男性と話していたロキが顔を上げ、満面の笑みを浮かべながら走り寄ってきた。
「クランド〜!!来てくれたんやな!!それにえらい美人さんも連れてきとるし、この色男!!」
「そりゃあ折角の別嬪さんからのお誘いだしな。それに約束は基本的に守るタイプの人間だし」
「貴女がロキか。私はムラマサ・アヤメだ。
「ロキ、悪いけど彼らの事で伝えたい事がある」
フレイヤに目を付けられている事を伝えているのだろう、ディムナは他の者たちに聞こえぬ様にロキの耳元で囁き、それを聞いて彼女の細めは大きく見開く。
「ふ〜ん、あの色ボケがなぁ……」
「ぶっちゃけた話、あいつのお相手とか遠慮したい。そりゃあ俺にだってそういうお相手欲しい願望あるよ?だけど流石に捕食者はいただけねぇわ。俺のセンサーが拒絶反応起こすレベルなんだけど」
「自分、あいつに誘われて断ったんかいな?」
「あぁ、魅了とか気合と理性でどうにか出来た」
「ぷ……フハハハッ!!ザマァ!!色ボケ女神ザマァ!!お得意の色仕掛け通じてへんやんか!!」
俺がフレイヤの誘いを断った事がツボに入った様で、ロキは腹を抱えて爆笑しだした。訓練場の下は地面なのでそんな事をすれば埃まみれになるのだが、御構い無しに転がり回っている。
「ひぃ……ひぃ……あー笑った笑った!!こんなに笑ったん久し振りやわ!!今度の
「デナトゥスとやらが何かは知らんし煽るのは別に構わんがやり過ぎるのだけは勘弁してくれ。ちょっかいくらいなら良いが、それ以上となったら流石にキツいからな」
「分かっとる分かっとる。実力行使なんてされたら目も当てられへんからな。近いうちに会って丁度いい落とし具合を確かめておくわ」
分かってくれているのならそれで良い。それにロキの口振りからすれば、彼女とフレイヤはそう浅くは無い間柄の様だ。あいつの本性も、扱い方も深く理解しているに違いない。ここは大人しく彼女に任せた方が良さそうだ。
「さてっと、そろそろ入団試験始めようか」
身体に付いた砂埃をはたき落としながらロキは徐にそう言った。そんな始まり方でいいのかと思ったが、団員たちは文句一ついう事なく試験を始める為に行動を始めていた。
明らかに、ロキの突発的な行動の対処に慣れている動きだった。
「そいじゃトップバッターは自分から行ってみよか」
「アイサー」
ロキからの使命を受け、リオンからもらった弁当入りの荷袋をアヤメに渡して前に出る。
身体の調子は絶好調とは言い難いが、絶不調と呼べるほどでは無い。つまりは普通だ。いつも通りに動かす事が出来る。後はテンションがついてくれば自然と最高のパフォーマンスを発揮出来るだろう。
「試験の内容は模擬戦や。ウチのとこから一人出すから、その子と戦ってもらうで」
「一応聞いておくけど殺しは?」
「実力が見たいから本気でやってくれたらええわ。流石に殺しはダメやけどな」
殺しは無し。本気でやれという条件付きだが、やっている事は一週間前の夜にやった事と変わりは無い。出来る事ならば、Lv.4以上が相手になってくれると嬉しいがどうだろうかと思っていると、模擬戦の担当者が前に出てきた。
出て来たのは少女だった。眩い金の長髪を靡かせ、胸部と腕だけにプロテクターを装備している。そして髪と同じ金眼で真っ直ぐに俺を見据え、腰に下げていたサーベルの様な剣を引き抜いた。
そして何より、強いと一眼で分かった。少なくともアヤメ以上に強い。それだけ分かれば十分だった。
「お嬢ちゃんがお相手かい?」
「お嬢ちゃんじゃない。アイズ、アイズ・ヴァレンシュタイン」
「そりゃあ失敬、漣蔵人だ。呼びにくければクラウドと呼んでくれ」
表情が乏しいと思っていたが、お嬢ちゃん呼びが気に入らなかった様で少しだけ不機嫌そうに眉間に皺を寄せている。どうやら精神は年相応と見て間違いなさそうだ。褒められる手段では無いが、煽ったり仲間を侮辱する事で冷静さを奪う事が出来る。
「あぁそうそう、名前呼びと家名呼びどっちが良い?」
「アイズで良い」
「助かる。一々ヴァレンシュタイン呼びだと長くて噛みそうになるからな」
彼我の距離は10mあるかないかといったところ。アイズはサーベルを右手に持って軽く腰を落としている。余分な力が入っておらず、すぐに動く事が出来る良い構え方だ。
「それじゃ行くで?」
ロキが右手を掲げる。あれが降ろされたと同時に開始という事だろう。
それを見て、アイズが僅かに身体を前のめりにさせる。それに対して俺は自然体。刀に手を伸ばす事もせずに、手をダラリと伸ばして無防備を曝け出している。それを見て入団希望者たちから、そして団員たちから声があがってあるのが聞こえるがそれを無視する。
「ーーー始めッ!!」
ロキの右手が振り下ろされた瞬間、アイズは足に力を込めて前に突貫しようとしていた。
それよりも早くにアイズとの距離を縮地で詰め、抜刀と同時に彼女の首を斬った。