地下迷宮にて剣餓鬼は嗤う   作:鎌鼬

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明けましておめでとうございます!!これが私からのお年玉だ!!




ロキ・ファミリア・3

 

 

「まずは一つ」

 

 抜刀術にて振るわれた一閃はアイズの首を断ち切る事は無かった。殺しは無しだと言われているのに要らぬ殺しをして確執を作る必要は無い。

 

 その代わりに、アイズの首には一筋の傷が刻まれた。骨にも、肉にも、血管にも届いていない、皮だけを斬った。

 

「次いで二つ」

 

 斬られたと思っているのか身体を硬直させているその隙、返す刀でアイズの胴体を袈裟斬りにする。服も身体も傷付ける事なく、胸当てだけを斬り捨てる。

 

「そんで、三つ!!」

 

 流石に二度目ともなれば慣れるのか、目を見開きながらもサーベルを横長に振るう。それをしゃがみ込んで躱し、体勢を低くしたまま足払いをかける。そして彼女に背中を向けたまま、鞘の先端部を彼女の鳩尾に叩き込む。

 

 常人にこんなことをすれば間違いなく入院沙汰になるか、最悪死ぬだろうが生憎とアイズは冒険者である。人体の急所の一つの鳩尾に打撃を食らってダメージにはなっているものの、そこを押さえ込んで蹲っている()()で済んでいる。

 

「ロキ、まだやるの?」

 

「いや、もうええわ……てか自分、ホンマに強かったんやな。アイズたんが一方的にやられるとは……」

 

「俺が強かったってのもあるが、こいつがなってなかったってのもあるな。殺し合いじゃないとはいえ、相手を見下してる時点で話にならん。これならアヤメとやった時の方が楽しかったわ」

 

 アヤメよりも強いと感じ取ったのだ、恐らくはアイズの冒険者としてのLv.は5以上あるのだろう。しかし、彼女からは油断が見て取れた。それは仕方がない事だ。何せ俺は神の恩恵(ステイタス)を持たないのだから、持っている彼女からしたら俺は格下だと認識されてもおかしくない。

 

 正直なところ、ガッカリである。これなら一週間前のフレイヤのファミリアの団員とやった時の方が楽しかった。あの時はLv.1の冒険者を倒したところを見せたからという事を差し引いたとしてもLv.が高いからと、神の恩恵(ステイタス)を持たないからと、そんな程度の事で油断していては話にならない。

 

 蹲ってえづきながらも睨んでいるアイズに背中を向け、アヤメの元に戻る。その際に、他の入団希望者たちを見たのだが、始めと違って彼らは二つのグループに別れていた。

 

 一つはアイズの姿を見て油断している者たち。高レベルの冒険者なんてこんなものかと、参考にならない俺を参考にして気を緩めている。

 

 もう一つは俺の姿を見て気合を入れている者たち。アイズが弱かったのでは無く、俺が上手だったから勝てたのだと理解して、自分も勝つぞと意気込んでいる。合格者が出るとなればこっちのグループから出るだろう。前者のグループはそもそもの心構えがなっていない。俺と対峙した時のアイズと似たような者たちに何を期待しろというのか。

 

「終わったぞ」

 

「見事だな。よもや剣姫をあそこまで一方的に叩き潰すとはな」

 

「油断してたからその隙をついてボコしただけだよ。やっぱり油断は最強の毒だわ。どんな奴でも簡単に殺せるんだからな」

 

「油断してたからとはいえ、相手はLv.5の冒険者だぞ?そんな一方的にやれるものなのか?」

 

「どんなに強かろうと油断してる時点で話にならねぇよ。一週間前で考えてみろよ。事前情報無しの状態で恩恵(ファルナ)無しの俺と戦う事になったら、油断しないって言えるか?」

 

「……無理だな。フレイヤ様が目をつけていたという前提があったとしても恩恵(ファルナ)を持たない一般人なんて相手では無いと油断する」

 

「油断してくれるのなら、今の俺ならLv.6だろうが殺せる自身はあるぜ?まぁ、オッタルに関しては何かする前に殺されるイメージしか出来ないけどな」

 

 油断してるのならLv.6だろうが初撃で殺せる自身はある。油断していないのなら、最悪は相打ちにまでは持っていけると確信している。

 

 だが、オッタルは別格だ。何をしたところで行動を完了させる前に殺されるイメージしか出来ない。技量や経験などでは無く、生物としての身体能力がかけ離れ過ぎているからという理由でだ。追いつくためには俺の身体能力を上げれば良いだけの話になるが、残念ながら地球では今から四十代頃までこれ以上身体能力を上げることは出来ずに、それ以降は老化で落とす事になったーーーつまり、肉体的には今が全盛期なのだ。どう頑張っても今のままでは身体能力ではオッタルには追いつかないだろう。

 

 そこで恩恵(ファルナ)だ。神の恩恵(ステイタス)が刻まれれば、経験値を稼ぐ必要があるものの今以上の身体能力を得ることが出来る。Lv.5相当の身体能力があれば、正面から戦っても勝負になると踏んでいる。

 

 どれだけ時間がかかるのか分からないが、その日が来る事を考えると胸が踊る。どうやって戦うのかをイメージしながら、服が汚れる事を気にせずに腰を下ろす。

 

 模擬戦だがアイズは下がり、ディムナが担当するようだった。鳩尾への一撃が効いているのか、それとも最初からそのつもりだったかは分からないが、どちらにしても入団希望者の合格者は先の評価で間違い無いだろう。

 

「そういえばアヤメはどうなるんだ?やっぱり模擬戦するのか?」

 

「いや、私は既に良くも悪くも実力は知れているからな。模擬戦は行わずにこの後に簡単な面接をしてそこで合否を決めると言われた」

 

「高レベルの冒険者ともなれば扱いは違ってくるもんだな」

 

 ランクアップを控えたLv.4の冒険者のアヤメだ。多少のデメリットを覚悟してでも引き入れて戦力を強化したいと考えるのが普通だろう。もっとも【斬り裂き魔(マリアザリッパー)】というロンドンの殺人鬼のような二つ名と、門番の腰を抜かさんばかりの反応を見た後では不安しか覚えないのだが。

 

 ともあれ、俺の試験は終わったのだ。他の希望者たちが終わるまでの時間が出来てしまった。なので荷袋から包みを取り出す。店を出る時にリオンから受け取ったサンドイッチだ。昼には少し早いのだが、このタイミングを逃すと食べられなくなるかもしれないので今の内に食べる事にする。

 

「なんや自分、弁当持参かいな?真面目やな〜」

 

「お前、こっち来てて良いの?模擬戦見てなくて良いの?」

 

「ウチの子たちはしっかりしとるからな。こういう事はみんなに任せるって決めとるんや」

 

「それで良いのかよ……」

 

 眷属任せで良いのかと思ったが、フレイヤの様に主神の意思だけで入団を決めるよりはマシなのだろうと納得する。

 

 背後から覗き込んでいるロキを無視して包みを開く。木で出来た弁当箱の中に食パンのサンドイッチが入っている。が、見た目が酷かった。綺麗に切られた食パンがあれば、何度も切ろうとして失敗したのか切り口がガタガタになっている物もある。具材も同じように失敗している物とそうで無い物とで分かれている。

 

 恐らく、失敗している部分はリオンが担当していたのだろう。彼女はアーニャからポンコツエルフだとからかわれるくらいに不器用だ。女将がリオンには野菜の下拵えを任せなかったと言えばその酷さが理解出来るだろう。

 

 だが、見た目の醜美は問題では無い。自分が不器用だと理解している彼女が失敗してでも、シルの手を借りてでも料理を作りたいと思って作ったのだ。その気持ちが嬉しい。

 

 その事に頬を緩ませながら焦げの目立った卵焼きが挟まれたタマゴサンドを手に取って口に運ぶ。見た目通りに焦げているので苦味が強く、卵の殻が入っていてジャリジャリと歯応えがある。その上、塩加減を間違えたのか酷く塩っ辛い。

 

 総評すれば不味いに尽きるが、それを加味しても俺の心は満たされていた。

 

「何やこれ?失敗作かいな?」

 

「不器用な奴がそれを理解していながら一生懸命に作ってくれた料理だよ。味と見た目は酷いかもしれないけど、気持ちが篭っていて嬉しい」

 

「……作ったの美女か?」

 

「美少女だな。外観だけで言えば、あんな別嬪は向こうを含めて初めて見た」

 

「別嬪さんの作った手作り弁当!!くれ!!ウチにくれ!!」

 

「やるかよ、ブァーカ」

 

 別嬪というところがロキの琴線に触れたのか、やたらと食い気味に弁当箱に向かって手を伸ばしてくるのを躱し、地面に押し倒してその上に座る。

 

「これはあいつが俺の事を考えながら作ってくれた弁当だ。これを食べる権利は俺だけにある。例え神だろうが、食べカスの一欠片とて食わしてやるかよ」

 

「かぁー!!自分カッコええなぁ!!分かった分かった、食べへんから退いてくれや」

 

 嘘を言っている様子は無いのでロキの上から退き、次のサンドイッチに手を伸ばす。ベーコン、レタス、トマトのシンプルなサンドイッチだが、やっぱりと言うべきか具材の見た目が酷い。ベーコンは焦げで半分近く炭になり、レタスはサイズがバラバラに千切られていて、トマトも切るときに力を入れ過ぎたのか潰れかけている。

 

 酷いは酷いが、これを作っているリオンの姿を思い浮かべると微笑ましく感じる。

 

「あ、いたいた!!おーい!!」

 

 サンドイッチを食べながら希望者たちの模擬戦を見学していると声を掛けられた。した方向を見れば、そこにいたのはアイズを引き連れた矢鱈と露出の多い服装をした褐色肌の少女。明らかに俺に視線を向けているので、俺が目的なのだろう。

 

「ん?どうした?」

 

「あたしティオナって言うの!!名前は?」

 

「漣蔵人、クラウドで良いぞ。何かあったのか?」

 

「あたしじゃなくてアイズが用事があるんだけどね。ほら、アイズ」

 

「う、うん……」

 

 ティオナに背中を押されながら、アイズが前に出る。鳩尾に打撃を与えたはずだが、ダメージが残っている様には見えない。冒険者特有の物なのか、それとも回復薬で回復したのかは定かでは無いが、ここまで平然と歩かれては少しだけ凹んでしまう。

 

「あ、あの……良かったらもう一度戦ってほしい」

 

「油断してたから?模擬戦だから手を抜いてたから?次は自分が勝てると言いたいのか?」

 

 アイズの再戦の申し出に対してやや辛辣に対応する。アイズは神の恩恵(ステイタス)を与えられていない俺の事を見下していたかもしれない。ディムナに模擬戦だから手を抜けと指示されていたかもしれない。だが、模擬戦で勝ったのは俺だ。ワザワザ三度も殺せるチャンスがあったと教えてやった上で勝ったのだ。厳しい対応をしても許されるだろう。

 

 後方からエルフの少女が睨んでくるが、態度を変える事はしない。力試しという点ではフレイヤ・ファミリアの団員たちも同じで、その上で彼らは全力で挑んできたのだ。彼らを先に見た以上、アイズの申し出は余りにも虫が良すぎる。

 

「それは……ごめんなさい」

 

「そっちの事情は大体察してるけどな。まぁだからと言ってた納得するかは別だ」

 

「もう、ケチケチしないでもう一回ぐらい戦えば良いじゃん!!」

 

「そりゃあそうだけど感情の問題なんだよ」

 

「強く……強く、なりたい。誰にも負けないくらいに、大切なものを守れるくらいに。だから」

 

「強くなりたいから、俺と戦えと?」

 

 それは俺に自分が強くなるための糧になれと言っているのと同意義である。それを理解しているのかしていないのか、アイズは真剣な表情で頷きを返した。その表情から、アイズが強くなる事に対して執着しているのか見て取れる。二十歳にならない少女だというのにだ。俺やアヤメの様に箍の外れた連中とは違うのは見てわかる。過去に何かしらがあったのだろう。

 

 愚直なまでに強くなる事に執着しているーーーその姿は、とても俺好みだった。

 

「良いぞ。取り敢えず、入団試験終わってから一度やろうか」

 

「……良いの?」

 

「あぁ、俺としてもLv.5と戦えるからな」

 

 アヤメはランクアップを控えていたとしてもLv.4なのだ。俺からしてもちゃんとしたLv.5の冒険者との戦闘経験が得られるのだ。アイズの成長の為という事を差し引いてもメリットもある。

 

 油断していないLv.5の冒険者との戦闘が出来ることを喜びながら、将来有望そうな奴は居ないかとサンドイッチを頬張りながら模擬戦を観戦することにしたい。

 

 






アイズは漣が強い事を知らず、ロキから推薦されたということしか知らなかったので普通に油断していた。それを漣を見逃すわけが無く殺さない様に、だけど殺せたぞと教えながら模擬戦終了。素面で冒険者級の身体能力を持っていると分かってなかったらそりゃー油断するよ。

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