地下迷宮にて剣餓鬼は嗤う   作:鎌鼬

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ロキ・ファミリア・4

 

 

「それでは、合格者を発表する」

 

 試験が全て終わり、話し合いを経て合格者の発表となった。入団希望者たちの反応はここでも二つに分かれている。間違いなく合格したと考えて浮ついている者と、合格している事を願って強張っている者だ。

 

 合格者が出るのなら、間違いなく後者のグループから出ると信じている。前のグループは戦い方が雑で、お世辞にも使える人材だとは思えない。ディムナが手を抜いて自分から仕掛ける事なく相手をしていることにも気がついていない様だった。反対に後者のグループは手を抜かれている事を自覚して模擬戦に望んでいた。緊張で身体を強張らせながらも、最大限のパフォーマンスを発揮しようとしていた。

 

 明らかに後者の方がいい人材が揃っている。使えない人材をわざわざ使えるようにするよりも、元から使える者達を育てた方が手間的にも資金的にも有益だ。組織のトップに立つ様な人間なのだから、その事くらいは理解しているだろう。

 

 事実、ディムナが挙げる名前は後者のグループの者しか出ていない。ディムナの視線を見れば分かる。彼の目は、前者のグループを見ていない。後者のグループだけを見て、どう育てようか思案している。

 

「ーーーそして、サザナミ・クラウド。以上だ」

 

「あいよ」

 

 ディムナに名を呼ばれて一喜一憂しながら前に出ている者達を微笑ましく見ていると、俺の名が呼ばれた。最後の合格者が発表された事であり得ないと驚愕の表情を浮かべている者たちを、ダメだったかと上を向いて涙を堪えている者達を通り過ぎて前に出る。

 

「残念ながら他の者たちは不合格だ。とは言っても君達が弱いという訳ではないことを理解して欲しい」

 

 後者のグループだった者達はディムナの言葉を受け入れて大人しくこの場を去ろうとするが、前者のグループだった者達はそれが認められずに詰め寄ろうとしてくる。

 

 それを、ディムナの隣に立っていたドワーフの男性が一睨みで黙らせた。鼻息荒く、ディムナに詰め寄ろうとしていた者達がドワーフの男性が放つ無言の圧力に負けて後ろに下がる。

 

 その光景を見て、ディムナの弱点とも言える物が垣間見えた気がする。ファミリアの団長を務めているだけあって、組織のトップに立つ為に必要な素質は持ち合わせているのだろう。が、見た目が幼過ぎる。知っている者なら兎も角、知らない者では外見から舐められてしまう。成長の遅い種族なのだろうから見た目以上に歳を重ねているのだろうが、団長としては致命的な弱点だろう。

 

 オッタルの様に一目見ただけで分かるような風格があれば良かったのだが、それは無い物ねだりなのだろう。

 

「さて、合格者たちはこれから簡単な面接をしてもらうつもりでいたんだが……」

 

「悪いな、ちょっと私用を優先させてもらうわ」

 

 予めアイズとティオナから話を聞いていたのだろう。ディムナが視線を向けてくるので、前に出る。

 

「出来る限りやり過ぎない様にして欲しいんだが……」

 

「ごめんね、思いっきり怪我する前提でやるから」

 

「やっぱりかぁ……こんな事を君に頼むのは筋違いかもしれないが、アイズの事をよろしく頼む。彼女は強くなる事への執着心が強過ぎるんだ。今はまだ大丈夫だが、今後それが原因で取り返しのつかない事になりそうなんだよ」

 

「幾らかは指導してやるつもりだけど、俺が出来るのは戦う事くらいだ。それで何を思って何を感じるのかはあいつ次第だぞ」

 

「それで構わないよ。あぁ、勿論やり過ぎだと判断したら止めに入るからね?」

 

「それは良いんだけど、あっちの方見てくんない?」

 

 先に立って剣を抜いて待ち構えているアイズ。その遠く離れた背後から、まるで親の仇でも見ているかの様な目つきで睨んでくるエルフの少女と狼の耳と尻尾を生やした青年の姿があった。

 

「俺何かやった……は、やったな。でも、模擬戦だからセーフだろ?あんなに睨まれる筋合い無いんだけど」

 

後者はまだアイズに対して恋心を持っていて、彼女を倒した俺に敵愾心を抱いているのだと言われれば納得は出来る。が、前者はどうしてあんな目つきで睨んでくるのだろうか。しかも、狼の青年と同じような視線を向けてきている。他の団員たちの反応からするに仲間がやられたからという理由では無さそうだが。

 

「レフィーヤ……ベート……うん、僕から言っておくから、少し待ってくれるかな?」

 

「よろしく頼むわ」

 

 不意を狙っている訳ではなく、ただ睨んできているだけなのは分かるが、油断無しのLv.5の冒険者と戦うのにあの無粋な視線は頂けない。フレイヤ・ファミリアの団員たちとやった時の様な、一挙一動を見逃さんとする視線ならば良かったのだが。

 

 溜息をつきながらエルフの少女と狼の青年の元に向かっていったディムナの背中に中間管理職の人の様な哀愁が漂っているのを感じながらアイズの前に立つ。

 

 模擬戦の時とは違う。俺の事を格下だとは見ておらず、敵だと認識してくれている。流石に殺意を放っている訳では無いが、それでも抜き身の剣を思わせるような鋭い闘気を放っていた。

 

 

「ごめんなさい、私の我儘に付き合ってもらって」

 

「何、気にするな。若人の我儘に付き合ってやるのも歳上の務めだからな」

 

「……何歳なの?」

 

「歳は……幾つだったか?確か90は超えてた筈だけど」

 

「……」

 

 アイズからの無言の圧力が強まる。どうやら巫山戯ていると捉えられたようだ。本当の事を言っているのだが、事情を知らない者からすれば確かに巫山戯ていると思われても仕方の無い。俺でさえどうして若返っているのか理解出来ていないのだ。

 

 これ以上、何を言ったところで無意味だろうと判断して刀を抜く。

 

「さて、ルールはどうする?模擬戦の時と同じなんてつまらないだろ?」

 

「貴方が決めて」

 

「丸投げかよ……なら目潰し、金的、急所狙い何でもありあり。終わりはどっちかが戦えなくなるまで、後はディムナたちが止めに来るまでだな」

 

 エルフの少女と狼の青年からの睨む視線は無くなったが、その代わりにディムナとドワーフの男性、それとエルフの女性からの視線が強くなっている。一先ずは好きにやらしてくれるようだが、何かあれば止めに入るという気迫を隠そうとしない。

 

 加えて、その三人は全員がアイズよりも強いと見て分かった。単純にLv.がアイズよりも上……Lv.6辺りだろうか。一対一なら兎も角、三人同士で仕掛けられたら一人相打ちに持っていければ御の字だろうと判断出来る。

 

 もっとも、入団が決まっている俺を殺そうとしているとは思えないのだが。

 

「付け加えて言うのなら、死んだなら死んだ方が悪いって事だけだ」

 

 ピクリと、アイズの眉が僅かに動いた。大方どうして手合わせで死ぬことになるのかとでも思っているのだろう。分かる、その気持ちはよく分かる。手合わせとは自分がどこまで出来るかや、戦い方を学ぶ為の鍛錬であって殺し合いでは無いのだ。

 

 だが、我が家では違った。手合わせは殺し合いとほぼ同意義だったのだ。無論、意図して殺す訳では無いが、真剣を使っての手合わせとなれば不慮の事故が起きないとは限らない。だからこそ、手合わせで死んだのなら死んだ奴が悪いと親父と爺から教えられていたのだ。

 

 いや、実に懐かしい。戦争になる前では良く親父と爺とこのルールで手合わせをしていた。刀を使えば勝つには勝てたが、それ以外の手段や武器縛り無しの場合ではガチガチにメタを張られて一方的に半殺しにされる事など日常茶飯事だったのだ。戦争中は普通に殺し合いで、戦後は相手になりそうな者など誰も居なくてただ一人で寂しく剣を振るうだけの日々だった。

 

 親父と爺とやって以来の、久方ぶりの手合わせだ。フレイヤの時のような一方的に試される様なものとは違う。ストッパーが存在しているものの、好き勝手に戦う事が出来る。

 

 否応無しに、気分が高まると言うものだ。

 

 その気分の高まりのままに行動を起こす。無拍子でアイズの間合いへと踏み込んで首に目掛けて刀を振るう。真正面からの奇襲、模擬戦の初手と全く同じ。あの時はアイズは全く反応する事ができずに首を斬られていたが、二度目だからなのか、油断していなかったからなのか、サーベルで防がれた。

 

「ッ!?」

 

「反応出来たな?良し良し」

 

 金属同士がぶつかった事で火花を飛び散らせながら、アイズは硬直状態を嫌ったのか後ろに飛び退く。アイズの姿からその場に留まって戦うのではなく、動きながら戦うタイプを想像していたが、今の反応を見る限りでは合っているようだ。

 

 それよりも気になるのは刀越しに感じたサーベルの手応えだ。外見は普通のサーベルと変わらないのだが、妙に手応えが硬かったのだ。俺の知らない異世界産の金属を使っているからなのか、それとも別の要因があるのかは分からないが、無理に斬ろうとすれば刀の方が折れてしまうだろうと簡単に想像出来る。

 

 ならば武器破壊は無しの方向で戦えば良いだけの話だ。問題があるとすれば、Lv.5の冒険者であるアイズの身体がどの位硬いのかという点だ。一応近いレベルのアヤメを斬る事が出来たし、皮一枚だけだったとは言え斬ることには斬れた。後は肉と骨が斬れるかと言う問題だけだが……考えたところでどうする事も出来ない。アヤメと同じように斬ってみて確かめよう。

 

「それじゃ気を張っとけ、緊張を緩めるな。加減しないで行くぞ」

 

 身体能力に限って言えば俺よりも格上の存在との手合わせに心を躍らせながら、縮地で距離を詰めて再びアイズへと斬りかかった。

 

 






不壊属性(デュランダル)とかいう斬鉄メタ。斬れ味が落ちるけど壊れないとかいう。初っ端っから斬鉄でサーベル斬ろうとしてたらこれが原因で折れてたよ。

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