地下迷宮にて剣餓鬼は嗤う   作:鎌鼬

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ヘファイストス・ファミリア

 

 

「ごめんなさい、私のせいで……」

 

「別に良いって言ってるだろ?払うもん払ってくれるんだからこっちからは別に何も言う事は無いよ」

 

 オラリオの街をアイズと二人で歩く。女主人で働いている時に行った買い出しでも一緒に居た従業員が美女だったからか視線を集めていたが、今回のはそれの比では無い。アイズが美人だからと言うだけではなく、Lv.5の冒険者であるからという理由もあるだろう。

 

 その目を無視しながら彼女と共に向かう先はオラリオの街並でも一際目立つ巨大な塔、摩天楼(バベル)である。正確に言えば目的地はバベル其の物では無く、その中にある店だが。

 

 冒険者として活動する為にギルドと呼ばれている場所で登録を済ませ、午後からは訓練や教育に時間を使うという話だったが、ある事情からそれを後日に回してもらったのだ。

 

 その事情とは、武器の修理と補充だ。

 

 昨日のアイズとの手合わせをした時に彼女の風を斬るという無茶な使い方をしたせいか、刀の芯が歪んでしまったのだ。このままでも斬れないことも無いが、無茶が祟ればいずれは折れてしまうのは目に見えている。

 

 補充に関しては、この刀が弱体化の影響によって使えなくなってしまったからだ。早朝に振ろうとしたのだが、刀の重さに振り回されて使われるような形になった。その為に鞘を刀に見立てて振るう事しか出来なかった。ステイタスが上がるか、ランクアップをすれば使えるようになるだろうが、今の状態では使い物にならない。

 

 その二つの目的を叶える為に向かうのはバベルの中にあるヘファイストス・ファミリアの店。そこの主神がロキと友人らしく、便宜を図ってもらえるかもしれないと紹介状を手渡された。

 

 恐らくは俺が弱体化しているので色々と融通を効かせようとしているのだろう。これに関しては俺は既に納得しているし、ロキの心境も理解出来るのでありがたく受け取ることにした。

 

 元々は俺一人で向かうつもりだったが、偶々話を聞いたアイズが付いて行くと言いだしたので二人で向かう事になったのだ。刀が歪んだ原因が自分にあると考えて罪悪感を抱いているようだった。断る理由も無く、修理費を出してくれるというので許可したのだ。

 

 そういう事情があってアイズと二人でバベルへと向かっている。黄昏の館から出る時に嫉妬混じりの視線が二つ感じられたがそれは無視した。エルフの少女と狼の青年のものだろう。直接手を出されたわけでは無いので気にしなくても良いだろう。

 

 そしてバベルの下に着いた時、粘りつくような視線を感じた。が、その視線の質には覚えがあったので溜息をつく。

 

 この視線は、フレイヤの物だ。

 

 あの夜から度々感じていた物だが、今日ほど強いものでは無かった。フレイヤの拠点が近くにあるからそう感じているのだろう。彼女なら、既に俺がロキ・ファミリアに所属する事に気付いていても不思議では無い。

 

 なので、そこにオッタルが居たとしても何ら不思議では無いのだ。

 

「よう、久しぶり……っていう割には時間経ってないか」

 

「あぁ、そうだな。一日も空いてないが随分と会っていないような気がする」

 

「一週間の殆ど一緒にいたからな、その分慣れがあったからだろ」

 

 Lv.7の冒険者であるオッタルが、無名の俺と話しているという光景に周りが騒然としているが、俺たちはそれを気にすることなく話を続ける。豊穣の女主人でも始めの頃は騒がれていたのだが、最後の方では当たり前の光景として処理されていた。

 

 オッタルからしても俺のような存在は好ましいのだろう、彼も硬い表情を崩しながら話を続けてくれる。

 

 Lv.7と言えばオラリオでも最強の称号なのだが、それは同時に孤独という意味合いでもある。並び立つ者が居ない、隣り合う者が居ないというのは酷く寂しく、そして虚しいのだ。俺も経験した事があるから分かる。

 

 だからこそ、例え実際に並び立てる様な者でなくても、対等に扱ってくれるだけで寂しさと虚しさを軽減できる事を知っている。

 

「で、今日はどうしてこんなところで立ってたんだ?また女神様から無茶振りでもされたのか?」

 

「……今日はお前がここに来るのが見えたから会ってこいと言われて来たのだ。だからこそ、こうして待っていたのだが……何があった?何故ファルナを与えられて弱くなっている?」

 

 流石はオッタルと言うべきか、見ただけで俺が弱くなったことを察した様だ。周囲に聞かれないようにする為に頭を下げる様に指示を出し、下がった肩に腕を回して耳元で囁く。

 

「スキルの影響だよ。身体能力と魂の両方に制限かけられて弱体化したんだ」

 

「何だと?レアスキルか何かの効果か……いや、それよりも何故それを俺に教えた?」

 

「フレイヤにこの事を伝えさせるためにだよ。あの女神様、黙ってたら絶対ろくな事にならないだろうからなぁ……」

 

 これは朝の内にロキと話し合って決めた事だ。俺が強いままという前提でちょっかいをかけた場合、今の俺では間違い無く死ぬ事になる。ステイタス無しの状態で冒険者と戦わせた前科があるのでやらないとは言い切れない。それならば前もって弱体化した事を伝えておくことに決めたのだ。

 

 スキルの事をバラされる可能性に関しては俺もロキも心配していない。性根が悪く、ロキも色ボケだと評するフレイヤであるが、少なくとも考え無しで行動をするような馬鹿ではない。

 

「まぁ、そう言う事だ。ぶっちゃけこれで興味無くしてくれたら良いんだけど、あいつの事だからそれはそれで愛してあげるとか言い出しそうなんだよなぁ……」

 

「何?それはご褒美では無いのか?」

 

「うーんこの反応」

 

 ネタとかでは無く素で反応しているから返しに困る。いや、彼女に魅了されている者からすればその反応は正しいのかもしれないけど。

 

「分かった、その事はあの方に伝えよう」

 

「おう、頼んだ。収入が入ったら奢ってるやるよ」

 

「……ふっ、楽しみにしておこう」

 

 そう言ってオッタルはバベルの中に姿を消した。その頃には粘りつくようなフレイヤの視線も無くなっていた事に気がつく。どうやら目を離してくれたようだ。流石にあの視線をずっと向けられるのは堪えるので助かる。

 

「よっし、行くか……ん?どうかしたか?」

 

「……クラウド、オッタルと知り合いなの?」

 

「知り合い……個人的には友人だと思ってるけどなぁ」

 

「……凄いね」

 

「そう特別視してやるなよ。案外寂しいもんだぜ?」

 

 そう言われてアイズは首を傾げていた。その反応から、彼女は俺たちの感じた孤独感を感じた事が無いらしい。それはそうかと納得する。ロキ・ファミリアの雰囲気ならば、そんなものを感じる前に誰かが寄り添ってくれそうだ。

 

 それは間違い無く幸福な事だろう。孤独感など感じるようなものではない。彼女がこのまま強さだけを追い求め続ければ感じるようになるかもしれないが、それはその時になったらだ。その時が訪れてから後悔するなり、改めて選択をするなりすれば良い。全ては彼女が選ぶ事だ。

 

 不思議そうに首を傾げているアイズの姿に苦笑しつつ、バベルの中へと進む事にした。

 

 

 

 

「ここがヘファイストス・ファミリアの店か」

 

「うん、四階から八階まで全部がそう」

 

 バベル内にあった昇降設備と呼ばれる台座で移動した先はバベルの四階。特に注視する事をしなくても武具の店が所狭しと並べられている。ショーウィンドウに並べられている物を見れば、どれもが数千万ヴァリスという価格であった。

 

「へぇ、こいつは中々……」

 

 偶々目に入ったのはやや大きめのサイズのナイフだが、見ただけで業物だと分かる一品であった。華美な装飾が施されている点だけが個人的にはマイナスだが、出来ることならば直接手に取って柄を握り、振った感触を確かめたくなる。

 

「おっと、見惚れてちゃいかん。ここの主神を探さにゃならんな」

 

「お?なんだ、主神様に用があるのか?」

 

 声をかけられたと思い、振り返ればそこに居たのは左目を刀の鍔で隠した女性。肌は褐色だが束ねられた黒い髪と着物から極東の出身者では無いかと予想出来る。

 

 そして強い。アイズよりもやや劣る程度に。恐らくは彼女もLv.5の冒険者だろう。

 

「椿」

 

「おぉ、剣姫では無いか!!お主が男連れなんて珍しいな!!」

 

「この人は新しく入ってきたの」

 

「ほう?こやつがのぅ……」

 

 女性から品定めをするような目で見られるが不快感は感じない。寧ろ存分に見てくれと言わんばかりにその場で一回転してやる。

 

「ふむ……お主、相当に()()()()()()()()?」

 

「分かっちゃう?」

 

「身体つきが完全に剣を振るう為のそれになっている。その上、それだけ剣タコだらけの手を見れば嫌でも分かるわ」

 

 女性が手を差し出してきたので、握手だと思いそれを握る。長年の間鍛治をやっていたのだろう、触れた手の皮は分厚く、そして荒れていた。疲労骨折の後も見受けられるし、治りきってない状態で槌を振るったのか歪みも感じられる。

 

 その手を知っている。それは正しく職人の手ーーー唯一つの事を追い求め続ける求道者の手だった。

 

「手前は椿・コルブランド、ヘファイストス・ファミリアの団長だ。椿で構わん」

 

「漣蔵人、来訪者だ。好きに呼んでくれ」

 

「主神様に用事があると言っていたな?なら手前が案内してやろう」

 

 それは助かる。普通に会おうとすればロキからの紹介状があっても門前払いされてしまうかもしれないが、団長である椿の案内があればスムーズに進むだろう。

 

 付いて来いと言う椿に従い、俺たちは彼女の後を付いて進む事にした。

 

 

 






どんなジャンルだろうが突き抜けてしまえば最終的には孤独になると考えてる。並び立つものが居ないってのは寂しいよねって事だよ。

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