地下迷宮にて剣餓鬼は嗤う   作:鎌鼬

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コミュニケーション・リリシア

 

 

(ひぃ)(ふぅ)(みぃ)

 

 襲い掛かってくるゴブリンたちの首にすれ違い様にナイフを走らせながら数を数える。延髄に届かぬ程度に、だけども気管と血管を斬り裂かれた事でゴブリンたちは苦しそうな悲鳴をあげて生き絶える。

 

(よぉ)(いつ)(むぅ)(なな)

 

 逃げ出そうとしていたゴブリンたちの頸に目掛けて小型のナイフを投げる。俺に対して背中を向けているゴブリンたちはそれに気付くことが出来ず、無防備なままに刺さって前のめりに倒れる。

 

 確実にトドメを刺したとは言えないが、延髄に届く様に投げたのだ。生きていたとしても、身体はマトモに動かない。

 

「しゃがんで」

 

 か細く、だけどもハッキリと聞こえる声に従ってその場にしゃがみ込めば、さっきまで上半身のあった場所を三本の矢が通過する。矢の同時打ちというのは、見てわかる通りに困難な技だ。普通に射るだけでも難しく、仮に射れたとしても狙っていた箇所に届かない。

 

 が、その矢は吸い込まれる様に向かってきたゴブリン三匹の額に突き刺さる。

 

(やぁ)(ここの)つに(とぉ)っと。これで終いだな」

 

 身体を起こし、投げナイフの刺さっているゴブリンたちに確実にトドメを刺してから息を吐く。それを見て戦闘が終わり、近くにモンスターがいないと察したのか、弓を構えた少女ーーーリリシアが駆け寄ってきた。

 

「お疲れ様」

 

「おう、お疲れ。にしてもいい弓の腕してるな。誰から習ったの?」

 

「母様から教えてもらった。でも、三日目に凄い落ち込んでた」

 

「あ〜……」

 

 恐らく、リリシアの弓の才を理解したから落ち込んだのだろう。自分の娘が天賦の才を持っていることは嬉しいだろうが、自分よりも優れた射手になる事を理解させられたのだ。そりゃあ落ち込みもするだろう。

 

 ちなみに親父も俺の剣の才を知って落ち込んでた。項垂れていた親父の周りを爺と一緒に意味の無い踊りを踊って煽ったのが懐かしい。

 

 その後、ブチ切れた親父を爺と一緒にボコボコにしてやった。

 

「魔石は私が取る。クラウドは警戒してて」

 

「あいよ」

 

 リリシアがナイフでゴブリンから魔石を取る作業を始めたので言われた通りに周囲を警戒する。とは言っても、近くにはモンスターの気配も他の冒険者の気配も無い。突然目の前でモンスターが産まれるなどの例外でも無い限りは心配しなくても良いだろう。

 

 ゴブリンの血で汚れたナイフを布で拭いながら、真剣な表情で魔石を取り出しているリリシアを見守る事にした。

 

 

 

 

 初めてダンジョンに入ってから一週間、つまり俺が冒険者となってから二週間が経った。やっている事はフィンのトレーニング、リヴェリアの座学、空いている時間を見つけて素振りと殆ど変わらない。

 

 しかし、今日から新人の中で俺とリリシアの二人だけダンジョンに入ることが認められたのだ。一人では入らない事と門限までには帰ってくる事、階層制限など条件付けられたが大きな進展だった。一応トレーニングや素振りをしてるだけでもステイタスは上昇するが、ダンジョンに入った日と比べるとどうしても劣ってしまうのだ。

 

 ちなみにヒュームとアイニスは座学の成績が宜しくなかった様でリヴェリアに首根っこを掴まれて引き摺られていた。あの様子では、二人のダンジョンアタックの許可は暫く先になりそうだ。

 

 ステイタスの上昇に関しては徐々にだが強くなっているという感触はある。全盛期には届かないもどかしさはあるのだが、それでも自分が育っているという事実は確かな手応えを与えてくれる。

 

 早く全盛期を超えてオッタルに挑みたい。だが焦ってはダメだ。焦燥に駆られて動いたところで求めている領域まで至らずに、途中で果ててしまうのが目に見えている。

 

 焦らず、着実に。先ずは全盛期の強さに至る事を目標に行動する事にした。

 

 

 

 

 ダンジョンに入ってから2時間程経過した。どこから敵が来るのか分からない、いつ戦闘になってもおかしくないという状況下では否応無しに緊張で精神と体力が削られる事になる。それは戦争を経験し、並外れた精神をしている俺も例外では無い。

 

 疲れてしまえば気が緩んでしまい、小さなミスを起こしてしまう。それがどうでも良いものならば笑い話で済むが、それが原因で死ぬか重傷を負えば笑えない。

 

 なのでここで休憩を取る事にした。リリシアはまだ大丈夫だと言っていたが、動けなくなるような段階に入る前に休むのが基本なのだ。

 

 ダンジョンの壁は壊れてもしばらくすると元に戻る。が、その間はモンスターが産まれないという特性を持っているのだ。それを利用し、ハンマーで壁を壊して一時的な安全地帯を作って休憩する。他の場所からモンスターが来るかもしれないが、それでも腰を下ろして休めるというのはありがたい。

 

 リリシアの方に視線を向ければ水の入った皮袋に口を付けていた。息が荒く、注意も散漫になっていたから疲れていると思ったがどうやら当たっていたらしい。

 

「ふぅ……」

 

「ほら、これ食べとけ」

 

「クッキー?」

 

「赤は人参、緑はほうれん草、黄色はカボチャが練り込んであるから……待て、待て。なんだそのまさかお前が作ったの?みたいな顔は」

 

「料理出来たの?」

 

「それなりにな。流石に本職と比べると劣るけど」

 

 フィンからは時間制限が付けられているので出来ないが、数日間ダンジョンに潜り続ける事も考えている。その時の為に保存食になりそうな物をいくつか考えていて、間食に丁度いいだろうと思ってその内の一つを持ってきたのだ。本当なら生野菜を持ち込みたかったが、すぐに駄目になってしまうので練り込む形で妥協した。

 

 味見は既に済ませていて、問題ない事は確認している。リリシアは赤いクッキーを手に取り、小さく齧ると硬かった顔を僅かに綻ばせた。どうやら口に合ったようだ。

 

「美味しい。人参の甘みが良い感じ」

 

「そりゃあ良かった」

 

「意外だね。クラウドって、戦う事以外はどうでも良い人だと思ってた」

 

「間違っては無いぞ?食事だって戦う為には必要な事だからな」

 

 戦う為に、もっと言えば身体を動かす為にはカロリーが必要になる。身体を育てる為には栄養バランスの取れた食事が必要不可欠。そして美味い食事を取ればストレスが解消される。良い食事は戦い続ける為に外せない物なのだ。

 

「凄いね、クラウドは。私の知らないことを沢山知ってる」

 

「何、年の功ってやつだよ。お前も長生きすれば色んなことが知れるさ」

 

「……私ね、色んなことを知りたくてオラリオに来たの」

 

 皮袋の水を飲みながら、リリシアは不意にそう告げた。

 

「エルフの里は閉鎖的で全く新しい事が入ってこなかった。母様と父様との暮らしは嫌いじゃなかったけど、私が知りたがっても誰も教えてくれなかった。いつもいつも、同じような毎日の繰り返しで……本当につまらなかった」

 

 彼女の顔にあったのは落胆、そして諦観。知りたいと思っていた事に対する答えが得られない事に落ち込んで、変化の訪れない環境に仕方がないと諦めていたのだろう。思い出すだけでそこまで読み取れるのだ。当時の彼女がどうだったかなんて、簡単に想像出来てしまう。

 

「だから私はオラリオに来た。沢山の事を知る為に、まずは冒険者として強くなるって決めた」

 

「ふーん」

 

 リリシアの話を聞きながらクッキーを食べる。野菜の味を出そうと思って砂糖の量を減らしていたが、まだ多かったようで不自然な甘みが感じられる。この分だともう少し減らしても良さそうだ。

 

「ふーんって」

 

「いや、それ以外に何を言えと?」

 

 それで良いのだと認めて欲しかったのだろうか?それとも、間違っていると叱って欲しかった?だとするのなら御門違いも良いところだ。

 

 人が人を導くなんて事は悟りを開いた聖人でもなければ出来ない。生憎と悟りの境地には指を掛けているが、聖人(そんな存在)になるくらいならば俗物である事を選ぶ。そんな暇があるのなら、剣を振るった方が有意義だ。

 

 だが、まぁ、長く生きている先駆者として説法の一つくらいはしてもバチは当たらないだろう。

 

 水で口を湿らせ、いいかと声を掛ける。

 

「お前が選んでお前が決めた選択だ。それはお前だけに許された絶対の特権なんだ。これで良いのだろうかと迷うだろう、間違ってるんじゃないかって考えるだろうーーーそれで良いんだよ。悩んで、迷って、考えて、自分の選択は絶対なんだと胸を張って言えるようになれ。他人の言葉なんて参考程度にしときゃ良いんだよ」

 

「……普通に真面目。ビックリ」

 

「泣くぞ?年甲斐も無くみっともなく全力で泣くぞ?」

 

「昨日の夜の事を忘れたとは言わせない」

 

 その言葉に全力で顔を逸らす。

 

『アイズたんの使用済みパンツゲットしたでぇーーーッ!!』

 

 昨夜、ロキがそう言いながら食堂へとパンツを片手に飛び込んで来て、アイズにドロップキックを決められ、パンツを手放しながら吹き飛んだ。

 

 宙を舞うパンツは重力に従って落下しながらこちらに向かって来たので思わず圏境レベルの気配遮断を行なって、誰からも俺の存在を認知できない様にし、

 

 近くにいたエルフの少女ーーーレフィーヤの頭にダンクを決める様にパンツを被せた。

 

 凍る食堂の空気。向けられる殺意の篭ったアイズの視線。状況を理解して顔色を赤青とコロコロ変えるレフィーヤ。この場に留まれば面白い物が見れるのは間違いないだろうが、巻き込まれるのが目に見えていたので伸びているロキを引き摺って食堂を後にした。

 

 圏境を使っていたのでバレるハズはないが、思い出せばリリシアはあの時、近くの席に座っていた筈だ。俺の姿が見えなくなった事から推測したのだろう。

 

「違う……違うんだ……!!こうしたら面白くなりそうだなぁ、って考えてただけで実際にやるつもりは無かったんだ……!!」

 

「でもやった」

 

「身体が!!身体が勝手に動いたんだよ!!」

 

「勝手に」

 

 予定外も良いところだ。もう少し時間が経って、既存の団員たちと打ち解けて気心の知れた間柄になってから本性を出すつもりだった。が、こちらの世界に来てからずっと猫被っていた反動からなのか、思わずあの場面で動いてしまった。

 

 俺は自分の性格を理解している。社会からはキチガイだと呼ばれて弾かれるタイプの人間だと熟知している。なので集団に入る時は猫を被って隠す様にしていた。明かすにしても、気心の知れた間柄になってからだと決めていた。

 

 自分の軽率さに顔を覆い隠しーーーすぐに気持ちを切り替える。どの道、いつかは明かすつもりだったのだ。時期が早くなっただけだからセーフだと完璧な理論を構築する。

 

 そして投げナイフを取り出し、上に向かって投げる。

 

「休憩はここまでにしとくか」

 

 ブチュリと嫌に生々しい音が聞こえ、頭上からヤモリを巨大化させた様なモンスターのダンジョン・リザードが落下した。投げナイフは目に刺さっていて痛みに悶えているがまだ生きはある。

 

 なのでロングソードでその首を撥ねて仕留める。

 

「はぐらかされた気がする」

 

「もっと話がしたいのなら帰ってから聞いてやるから」

 

「お茶請けはクッキーで」

 

 意外と安く済みそうな事に安心しつつ、クッキー以外の茶菓子も用意してやることを決める。流石に調理器具の関係で凝った物は作れないが、それでも作れそうなレシピはいくらかあるのだ。料理の腕を確かめるという意味では、こちらにとっても悪い話ではない。

 

 ダンジョン・リザードから魔石を取る。ダンジョンに潜ってから二時間程度で、フィンから設けられた制限まではまだ余裕がある。

 

 時間一杯まで、或いはリリシアが音を上げるまで続けることを決め、奥へと足を進める。

 

 






集団に所属している以上、誰とも関わらないなんて事は不可能なのでコミュニケーションパート。

そりゃあ初っ端からキチガイ全開でいけば受け入れられる訳がない。それを理解してたから猫を被ってたり。というわけでここからクラウドのキチガイが解禁されていくわよ〜。
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