「長ったらしい挨拶とかいる?俺は要らないと思ってるけど」
「私も要らない派だ。というよりもあれに何の意味があるのだ?不要極まりないだろう」
「あれにもちゃんと意味があって行われているのだが……まぁいい。今は公式の場で無い。堅苦しい挨拶は抜きにしても許されるはずだ」
「んじゃ、音頭は俺が取ろうかーーーそれでは、乾杯!!」
ジョッキを掲げて喧騒に負けないようにそう叫べば、同じテーブルに着席していたオッタルとアヤメも同じように掲げて乾杯と言い、それを口に運ぶ。
まずは始めの一杯という事で
「あ〜やっぱり冷えたエールは最高だなぁ!!おーい、火酒追加で〜!!」
「あ、なら私は果実酒を頼む」
「俺はエールをもう一つ、それと厚切りのベーコンを」
「はーい!!」
空になったジョッキを下げに来たシルに注文を頼めば、暫しの間を空けて注文通りの物が運ばれて来た。が、中には頼まれていない物も入っている。厨房の方を見れば女将がウインクをしながら親指を立てているのが見えた。どうやら気を利かせてくれたらしい。感謝の意を込めてサムズアップで返す。
「はぁ……【
「何をしたんだ?」
「リヴェリアが読もうとしていた本を全部細切れにしたんだよ。お陰でロキ・ファミリアの一角で火柱が上がった」
アヤメは今でもどうしてだと首を傾げているが、あれは一から十まで彼女が悪い。衝動的に斬りたくなったからとはいえ、流石に室内で刀を振り回すのは俺からしてもどうかと思う。
今のところ、被害に遭ったのはリヴェリアだけだが、裏を返せば被害がリヴェリアだけに集中しているとも言える。彼女の本が斬り刻まれ、彼女の洗濯物が斬り刻まれ……火柱が上がったのが一度だけなのが信じられない程の被害を受けた。
お陰でここ数日の間、アヤメはリヴェリアに首根っこを掴まれてフィンを伴っての人格矯正を受けさせられている。
今の彼女の様子を見る限りでは全く効果は無いようだが。
「ところで懐は大丈夫なのか?割り勘でも良いのだぞ」
「一応予算は考えてあるからそれの内なら問題無い。超えるようだったら割り勘にさせてもらうけど」
ダンジョンに潜れるようになってから一週間経った。魔石やドロップアイテムを売却する事で得ていた収入が武器のメンテナンス費用などの支出を超えて黒字になり、纏まった金が出来た。だから、前にオッタルと交わしていた約束を果たすためにこうして豊穣の女主人に来たのだ。
アヤメに関しては完全にオマケだ。リヴェリアによる人格矯正教室のストレスを発散したいのだろうと考え、お前だけは自腹であることを伝えて許可した。生憎と金は俺とオッタルの分しか用意していないのだ。
お陰で店内はオッタルの来店に驚いて動きを鈍くしている客と、久しぶりに姿を見て話しかけてくる客の二種類に分かれている。
後者はまだ良い。俺とオッタル、そしてアヤメの三人セットで覚えてくれているのか、あぁまたこいつらかという視線を向けるか、酔った勢いで話しかけてくるかのどちらかだ。
問題になりそうなのは前者。オラリオ最強として有名なオッタル、【
正直に言ってかなり不快だ。叶うことならば、すぐに別の店に移りたくなるほどに。だが、そんな視線を向けられても平然としている二人を見てると泣き言の様にしか思えず、堪えるために火酒を煽る。
「あーベーコン美味え」
「おい、おいクラウド。それは俺のベーコンだぞ」
「堅いこと言うなって。取られるのが嫌ならアヤメみたいにしてりゃ良いだろ?」
「む?」
最初に摘みとして頼んだいくつかの料理の内、串焼きの盛られた皿を抱えていた。両手の指の間で串を挟み、リスの様に頬を膨らませてモキュモキュと頬張っている。
「取られるの嫌なんだろ?真似してみろよ」
「……俺が悪かった。代わりにそちらの唐揚げ貰うぞ」
「あ、ごめん。全部レモン掛けてたわ」
「貴様ァーーー!!」
「ここがお前の死地と知れ……!!」
キレてはいるが理性はまだ残っているのかテーブルを壊さない程度に叩いて立ち上がるオッタル、アヤメはナイフを構えて不吉なことを言い出した。殺意こそは感じないものの、二人からの圧力が凄過ぎて物理的に潰れるのではないかと錯覚してしまう。
まぁまぁと二人を席に座らせ、近くを通りかかっていたアーニャに唐揚げと火酒を追加で頼む。
「ほら、新しく頼んだから落ち着けよ」
「命拾いしたな」
「全く、唐揚げは塩が一番だと分からん様な奴だったか」
「……何を言っている?唐揚げはそのままが一番だ。そんな事も分からんのか?」
「は?お前、何言ってんの?唐揚げにレモンは当然だろうが。わざわざ譲歩してやって新しいの頼んだってのに……これだから女神様第一主義者の脳内御花畑野郎と斬ることしか考えない脳筋女郎は」
視線が交差し、この話に関しては相容れぬ存在であると理解する。前までならば殴り合いに発展してレモンがナンバーワンである事を教えてやるのだが、今の俺では真っ先に負けてしまうのが目に見えている。その事を二人とも理解している筈だ。そして同時にレベルの差による決着は認められないとも考えている筈。
同時に手を挙げ、この店で一番強い酒を持ってくる様に頼む。殴り合いで決められない以上、酒場で出来る勝負は飲み比べだけだ。ルノアの顔が呆れた物になるが、これだけは譲れない。
「唐揚げお待たせニャ!!ちゃんとマヨネーズかけておいたニャ!!」
空になったジョッキが三つ、アーニャの顔面に叩きつけられた。
「もう……無理ぃ……」
「よし、これで塩派とかいう邪教徒は消えたな」
「それに関しては同意だが……お前の身体はどうなってるんだ?」
「まだまだ、これからだよ」
数十分という短い間に強い酒を水の様にカパカパ飲めば当然酔っ払う。真っ先に潰れたのはアヤメで、リヴェリアに対する愚痴を呟きながらテーブルに突っ伏して眠りに就いた。顔色は酔ったせいで赤いが、変な酔い方をしている様には見えない。嘔吐は心配しなくても良いだろう。
オッタルも顔を赤くしているが、アヤメほど深酔いしている様には見えない。ペースは幾らか落ちているがまだ飲めそうだ。
それに合わせて俺もペースを落とす。ただ飲むのではなく、味わう飲み方に切り替える。
「それにしても、アヤメは随分とそちらで楽しくしている様だな」
「何だ、気にしてたのか?」
「気にするとも。問題児だったとはいえ団員だったのだからな。こちらに居た時の彼女よりも、今の彼女の方が生き生きとしているように見える」
「あんな所で生き生き出来るのは女神様第一主義者たちくらいだろ。こいつは違うみたいだし、色々と抱えてたんじゃないか?」
「そうか……そうかもな」
斬る、斬る、やめて、本だけは、などと不吉な寝言を呟くアヤメの寝顔を眺める。
フレイヤ・ファミリアに所属していながら、彼女はフレイヤの信者では無かった。ただステイタスを得る為だけにあそこに所属していたように見える。フレイヤはそれでも良しとしていただろうが、他の団員たちからしてみれば不敬でしか無かった筈だ。
周囲との温度差、信者からの嫌がらせ、その他諸々とストレスが溜まりそうな要因なんて幾らでも思い付く。あの悪癖は先天的なものかも知れないが、案外ストレスからくる後天的なものかも知れない。
「んで、女神様はどうだ?」
「相変わらずお前の事を気に掛けている。進言して何とか抑えてもらってはいるが、その内手を出すかもしれん」
「デスヨネェ!!そんな事だろうと思ったよ畜生ォッ!!」
俺の事を鋼の恒星だと評し、実力を図る為だけにアヤメを含めた団員四人も使う様な女神だ。寧ろ、弱体化の事を知って直ぐに仕掛けてきてもおかしくは無かった。
「何とか抑えられない?出来れば一生」
「無理だな。例え抑えられたとしてもランクアップ間近になれば間違いなく手を出す。あの方はそういう御方だ」
「知ってた」
分かる。凄く分かる。こう、ちょっと遊ぼうかしら?的な感覚でLv.3辺りの団員を差し向けて来そうだ。今の俺では確実に勝てるとは言い切れない。ダンジョンに潜ってステイタスは上がっているが、それでもLv.の差はあまりにも大き過ぎるのだ。防御に徹すればある程度は持ち堪えられるだろうが、勝ち目は薄い。
七対二対一だろうーーー負けが七、相打ちが二、勝ちが一だ。
「出来る限り俺から抑えるようには進言しておく。その間に強くなれ」
「そうしてくれ」
女神様第一主義者のオッタルが、フレイヤに逆らうような行動を取ろうとしている。それは俺の為か、それともフレイヤの為だろうか。出来る事ならば前者であってほしいが、どちらにしても俺からすれば渡りに船である。
俺はまだ弱い。対人戦に限ってはLv.2相手にも負けないと胸を張って言えるが、それ以上が相手ではステイタスの暴力で技術を無視して圧殺されるのが容易に想像出来る。
それにこの世界ではメインで戦う事になるのは人間では無くモンスターだ。今のところはアサシンスタイルか一撃必殺で戦っているものの、戦い方を対モンスター用に変える必要がある。
それ以外にもやる事は沢山ある。頭の中でやらなければならない事をリスト化し、その多さに辟易するーーーが、案外悪くは無いなと思っている自分もいる。
少なくとも、地球に居た時のようにただ刀を振って老いるだけの日々を過ごすよりも充実している。この状況を楽しむ事が出来ている。オッタルという全盛期の俺でも敵わない相手と戦う未来を心待ちにしている。
間違いなく、地球に居た時よりも
ただしフレイヤ、テメーは自重しろ。せめてランクアップ間近まで。
すっかりと冷めてしまった、何も掛かっていない唐揚げを口に運ぶ。オッタルはレモンの掛かった唐揚げを口に運んだ。
「ん、何も掛けないのも美味いな」
「……レモンの唐揚げも、存外悪くは無いな」
互いに蔑んでいた唐揚げを褒め合い、笑ってからジョッキをぶつけ合い、酒を煽る。
先に問題は色々とあるが、今は酒と友人とのやり取りを楽しむ事にした。
オッタルと酒飲んで飯食べて話すだけ。アヤメは添え物。リューさんは舞台裏。
クラウドが友人だと思っているように、オッタルも友人だと思ってる。フレイヤの事を伝えたのだって友人の為に。
まぁ、フレイヤの為に強くなれって意味でもあるんだけどなぁ!!割合としてはそっちの方が多かったりするぞ!!
次回で漸く原作の時間軸に突入よ〜