コロコロ変わってるけど、書き方はこれで固定しようと思う。
「ふぅーーー」
息を大きく吐き出しながら刀を構える。通常、刀というのは刀身を薄くする事で斬れ味を上げているのだが、俺の刀は違う。
刀身が、通常の刀よりも数倍分厚い。そしてその分だけ重量が増している。
こうする事で刀身が薄くなってしまう事で下がる耐久度を増やすことが出来、その上で重量によって一撃の威力が嵩増しされる。分かりやすく言えば刀の斬れ味と斧の破壊力が一緒になった様な物だろう。
親父が思い付きで打った刀だが存外に使い易くて気に入っている。戦争に参加した際に敵の撃ってきた大砲の弾を切ってへし折れてしまったので捨てたのだが、どういうわけかこの世界に一緒に付いてきている。それも全く傷みの無い万全な状態でだ。
年月にして七十年は使っていないがその重みを、その斬れ味を忘れた事は今までひと時も在りはしない。一度、二度と簡単に振るってから、今度は極限まで速さを排除してゆっくりと振るう。
この動きの目的は身体がどう動くのか、思う通りに動かすことが出来るのかという確認行為である。地球でも老人の時には朝起きたらこの動作をするように心掛けていた。
ゆっくりと動かすという動作は見かけによらず全身を使う。刀を振るう動作だけでも筋力と振るう際の遠心力、刀自身の重量などの様々な要因があって振るうというのに、筋力以外の全てを排除して振るうのだ。振り下ろしからの切り上げという普通ならば1秒も掛からない動きでさえ、三十秒以上掛けて行う。
水の中で活動しているかのように時間を掛けて動きながら、身体の調子の良さに内心で舌を巻く。
漣の家系というのは戦いに明け暮れていた影響もあって、どれだけ長く戦える状態を維持出来るのかという点にも着目されていて、現代で言う所のアンチエイジングを取り入れている。その効果は九十を超えた俺が若者と並んで運動が出来ると言えば理解出来るだろう。
そんな漣出身の俺でも、老いというものは感じていた。若い頃に比べれば落ちた筋力に鈍くなった動き。視力は衰えて、聴力も同様。他人と比較すれば高い結果を出せるのだろうが、過去の自分と比較すれば泣いてしまいそうになる程に悲惨な結果だろう。
身体の方は諦めて技を磨くしか無いのかと諦めていたところに異世界トリップで若返りである。身体の方は間違いなく全盛期、技の方は場所が悪いので確かめられないが、感覚的には老人の時と同じように振るう事が出来そうだ。
「これがうわさに聞く強くなってニューゲームってやつか……!!」
「何を馬鹿な事を言っているんだ」
若い頃の肉体を取り戻したまま老練の技術を振る舞えることにまだまだ強くなれるぞと喜んでいると、背後から呆れたような声を掛けられた。
そこに誰かがいる事は、そしてその正体が誰なのかは気配から判断出来る。振り返って確認すればその判断に間違いは無かった。酒場でウェイトレスを務めていた、俺の事を縛り上げたエルフのお嬢ちゃんがそこに立っていた。
「よぉ、おはよう。若いのに早く起きられて偉いなぁ」
「おはようございます……貴方の歳が幾つなのかは分からないが、お嬢ちゃんなどという呼び方は不愉快だ。私にはリュー・リオンという名前がある」
「そいつは失礼、名前が分からなかったもんでな。えっと、家名の方が後に来るんだよな?」
刀を鞘に納めながら確認すれば、間違っていなかったようで彼女は頷いて肯定した。名前の方は西洋式とみて間違いなさそうだ。ただ、極東という日本に似た文化の地域があるので、そこの出身者は日本式の名前だという事を頭の中に入れておこう。
「で、リオンも身体を動かしに来たのか?」
今のリオンの格好は動き易さを重視しているのかノースリーブにホットパンツ程の丈の短いズボン、そして手には棒が握られているので間違いないだろう。その予想は合っていたようで、頷きで返された。
「えぇ、そういう貴方も?」
「うーん……俺は日課といえば日課なんだろうけど、ちょっと試したい事があったからなぁ」
正直に若返ったんで身体の調子を確かめてましたなんて言ったところで信じてもらえないのは目に見えている。それに、昨日の行いのせいかリオンの俺を見る目は疑いの色を孕んでいる。真実だとは言え信じられないような発言をしても余計に警戒させてしまうだけなので、この場では濁すしかない。
「……私は回りくどい事が苦手だ。だから正直に伝えよう。私は貴方のことを信じられない。ミア母さんが雇うと決めた以上、私からは何も言えないーーーだが、もしもこの店と働く者たちに手を出そうとするのなら」
ヒュン、という風を切る音と同時に首へ棒の切っ先が突き付けられる。今の一動だけでも、彼女が相当に
「私が相手になる」
リオンの目に宿ったのは闘志でも殺意でも無い。地球でもよく見たことのある守ろうという意思の目であった。
その目を見て、背筋が震えた。臆しているわけではない。エルフなので実年齢は分からないが、この程度の圧でビビっては漣など名乗れない。
それは戦争時ならばいつ如何なる時でも感じられた。栄光を求めて全世界を相手に戦争を始めたドイツ軍に与していた時に、対峙した敵兵の大半が放っていた圧。
即ち、守る為に戦うという決死の覚悟。それを目の前の彼女はしかと放っているのだ。
喜ばない訳が無い。喜べない筈がない。地球では地獄を体現したかの様な戦場に立たされてようやく感じる事ができた圧力を、リオンは放っているのだ。それは彼女が地獄を体験したことがあるのか、それともそれほど深くこの場所に思い入れがあるのか。どちらなのかは分からないが、俺としては非常に喜ばしい限りだ。
目の前の彼女が決死の覚悟を抱けているのだ。ならば、他に同様の人間が存在してもおかしくは無いだろう。
そんな人間と出会い、敵対し、殺し合うーーー考えただけで興奮が抑えられない。
目の前の彼女ともそんな蜜月の時を過ごしてみたくはある。が、そんなことをすれば折角のアルバイト先と就職予定がパーになってしまう事が目に見えている。口惜しさを感じながら両手を挙げ、降参の意思を示す。
「そんなにカッカしなさんなって。心配しなくても手を出したりなんてしねぇよ。女将がどのくらい強いのかっていうのは気になるけど、流石に恩を仇で返す様な事はしたく無いしな。それにーーー」
その瞬間にリオンの呼吸を盗み、合わせる。感覚を、意識を限りなく彼女の物と近づける事で俺という存在を他人では無く、自分と同じ存在であると誤認させる。そうなればいくら潔癖症のエルフであろうが関係無い。
突き付けられた棒を躱し、近く。流石に肌が触れ合う程に近づけば後で彼女の怒りを買う事は分かっているのでそこまでは近づかない。だとしても、手を伸ばせば触れそうな距離にまで近づいても俺を他人だと認識していない以上、警戒する事は出来ない。
「手を出すなら、まずはお前からにするさ」
「ッ!?」
耳元で囁く様に声をかけて呼吸を外し、それで漸くリオンは俺の存在を認識する。警戒していたはずなのに近づかれた事に、そして耳元で囁かれた事に驚いたのか、彼女は顔を赤くしながら飛び退いて俺から距離を取った。
その姿を見て呵呵と笑い、手を振りながら店へと戻る。
気分が良い。実に晴れやかだ。こんなに清々しい気分になれたのは一体いつぶりだっただろうか。少なくとも戦時中には毎日の様に感じていたはずだったが、終戦後には数える程しか感じていないはずだ。
この気分のままに酒を飲めたら間違いなく最高だろう。しかし、これからは労働が待っている。飲んでから仕事に臨めばあの女将が怒り狂う事は間違いないだろう。
酒は夜の楽しみとして取っておく事を決め、今日も一日頑張る事にした。
漣ジッジ、リューさんにロックオン。
にしても豊穣の女主人って戦力が本当におかしいなぁって。あそこだけで下手なファミリアよりも戦力揃ってる。