地下迷宮にて剣餓鬼は嗤う   作:鎌鼬

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女神フレイヤ・3

 

 

「うーん、まさか普通に力で押し負けちゃうか〜……」

 

 プラプラと身体を揺らしながら、上下が逆さまになっている景色を見てそうぼやく。今は外壁のヘリに片足だけを引っ掛けて宙ぶらりんになっている状態だ。

 

 アヤメの放った抜刀術の一閃。それを俺は受け流して接近するつもりでいた。

 

 目に問題は無かった。滑らかに、最速で放たれる抜刀を余すことなく視認出来た。

 

 反応に問題は無かった。こちらに迫る刀を目視し、それから軌道上にナイフと剣を置いて受け流す体勢は取れていた。

 

 問題があったとすればそれからだ。流されて俺の頭上を通り抜けるはずだった刀をアヤメは強引に筋力だけで修正してみせたのだ。初めはそれでも堪えて流すつもりでいたのだが、即座に無理だと理解して自分から吹き飛ばされる事でダメージを抑えた。

 

 神の恩恵(ステイタス)なる物の恩恵により常人を超える身体能力を得ているとは話に聞いていたがここまでだとは思わなかった。Lv.3の奴までなら流した感触で大丈夫だったのでアヤメもいけると思っていたが、彼女はランクアップを控えたLv.4の冒険者。神の恩恵(ステイタス)もLv.4ではなくLv.5に近いものだと想定するべきだった。

 

 アヤメの一撃によって壊れて柄だけになったナイフと剣を投げ捨て、指を動かして感触を確かめる。想定外の膂力で無様を晒してしまった訳だが、衝撃を逃す事自体には成功している。指、手、腕、足と、戦う為に必要な部位に違和感は無く、痺れも無い。

 

 問題無く戦えるなと判断し、勢いを付けて腹筋で身体を起こし、脚力で外に飛び出していた身体を外壁の上に引き寄せる。

 

「当然、まだ動くよなぁ?」

 

「アレくらいで死んだと思うような間抜けじゃなくて助かったよ……あぁ、そうだ。参考までに聞きたいんだけど、俺の強さって冒険者で言う所のどのくらいになるの?」

 

「ふむ……1〜3の連中との戦い、それと先の一合で見るなら敏捷がズバ抜けて高く、技術が規格外の域まで達しているLv.3相当と言ったところだな。というよりも、なんだその変態的な技術は。何故あそこからダメージ無しで済ませられる」

 

「何、日々の鍛錬の成果ってやつよ。お前さんだって一生涯鍛錬しときゃ、このくらいは出来るようになるさ」

 

 二本足で立って喋れるようになった時から剣を握って振るい続けてきたのだ。

 

 気まぐれで、或いは暇だからと殺しありで仕掛けてくるような頭のおかしい親父と爺と手合わせをしていたのだ。

 

 生死の価値観がゴミ同然に扱われる地獄の様な戦場で戦って生き残ったのだ。

 

 そしてそこから皺くちゃの老人になるまで、それらの日々を思い返しながら一人で鍛錬を続けて来たのだ。

 

 如何にLv.4という偉業を積み重ねて高みに至っていようとも、()()()()()()()()()()()()

 

「さて、来いよ若造。テメェの土台で勝負してやるよ」

 

 無造作に歩き、アヤメの間合いの直前まで迫ってから刀に手を掛けて彼女と同じ抜刀術の構えを取る。

 

「ほぅ、それで良いのか?」

 

「そうじゃなきゃワザワザこんな事せずに一刀で殺してる」

 

 直前の問答はそこで終わる。アヤメとの会話が無くなり、代わりに重苦しい緊張感が辺りを包み込む。周囲もこの緊張感を感じ取っているのか、僅かな息遣いがハッキリと聞こえるほどに静まり返っていた。

 

 そして、雲がかかったのか月が翳って暗闇が訪れた瞬間にアヤメが動いた。

 

 その動きを見てから行動しーーー()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ーーーッ!?」

 

 驚愕しながらも行動を止めないアヤメの姿が良く見える。振るわれようとしている腕に向かって刃を振るい肉を裂く。流石は冒険者と言うべきか、その時の肉の手応えが柔らかくも金属並みの硬さを感じさせるという理解不能なものだった。

 

 そんな事は関係無い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

漣式剣術が初歩ーーー

 

 皮を破り、肉を割き、骨を断つ。地球では戦時中でしか出来なかった久方振りの感触を楽しむ。切り離されたアヤメの腕が刀を握ったままで宙を舞い、彼女は肘から先を失った状態で振り切るという間抜けな姿を晒している。

 

 まだ終わりではない。高々腕を失った程度なのだ。振った状態から刀を振るい、アヤメの胴体を袈裟斬りにする。左肩から入った刃先は付けられていた胸当てを切り捨てて右の脇腹から出て行き、鞘へと納める。

 

ーーー斬鉄二連式

 

 鯉口が鞘に当たり、音を立てたのと同時にアヤメの腕と胴体から勢い良く鮮血が噴き出す。常人ならばそのままショック死でもしかねないような怪我だが、生憎とアヤメは冒険者である。致命傷にもならない、ただ出血が酷い程度の傷では死にはしない。

 

 その証拠に、彼女は驚愕と歓喜が入り交じった顔をしながら飛び退いて距離を取った。

 

「この……化け物め!!三味線を弾いていたな!? 」

 

「罵倒か?それとも褒め言葉か?」

 

「無論後者だ!!それだけの技量を持った奴などこのオラリオでも殆どいない!!どれだけ剣を振るったと言うのか!!」

 

「何、一生かければ俺の足元くらいには届くだろうさ。何せウチのクソ親父から刀剣を握らせりゃあ三千世界で一等賞だと言われたんでな」

 

 事実、俺の才は刀剣系に関してはズバ抜けていた。何でもありならば経験が勝る親父と爺に負けるのだが、刀だけと条件付きであれば十の頃から二人に勝ち続けているのだ。

 

 鞘から刀を取り出して刀身を確かめる。久方振りに斬鉄をしたのだが刀身に歪みは無く、刃毀れは見当たらない。剣速を意識して振るった為か、刀身には脂も血液もごく僅かに付着している程度。消耗を最低限に抑える事が出来たことを喜びながら刀身を納める。

 

 そして斬られた側のアヤメといえば治療されていた。他の団員たちが持ってきた回復薬を傷口に掛けて、或いは飲んで回復に務めている。

 

「腕はどうする?」

 

「返してくれ。これだけ綺麗に斬られたのならまだ繋がるだろうからな」

 

「腕落とされても繋がるのかよ」

 

 流石は異世界だと内心で感心しつつ、刀を握ったまま転がっているアヤメの腕を拾い上げて彼女に投げ渡す。アヤメは受け取った腕を傷口に当て、そこに回復薬をかけた。そうして暫くして手を離せば、腕は落ちる事なく繋がった状態になる。胴体に付けられた傷も無くなり、陶磁器の様な滑らかな肌が無傷で曝け出されている。

 

 そして服が破かれた影響で彼女の胸も露出していた。

 

 素晴らしい光景である。

 

 フレイヤのも中々にデカイのだが、あいつは中身が完全にアレなので食指が動かない。少なくとも、俺はあいつからどれだけ誘われようが閨を共にする様な事はしたくない。

 

「お見事だわ、クラウド」

 

 拍手をし、柔らかな微笑みを浮かべながらフレイヤは賞賛の言葉を送ってきた。この世界では神の恩恵(ステイタス)の有無が絶対的な格差を生み出す。それを踏まえれば、神の恩恵(ステイタス)を持たない俺がLv.4のアヤメを倒した事は偉業に等しいのだろう。

 

 俺からすれば、倒せて当然の相手だとしても。

 

 身体能力こそ俺を上回っていたアヤメだが、それにしたって技術の方は修めた程度の物でしかなかった。これならば親父や爺が戦っても勝つ事が出来ただろう。

 

「そら、俺は勝ったぞ。ならお前はどうすれば良いのか分かってるよな?」

 

「勿論よ」

 

 フレイヤが猫耳を生やした男に目配せをすれば、そいつは大人しくリオンの首元に突き付けていた銀の槍を退かした。困惑している様子のリオンを手招きでこちらに来させる。その際に、万が一の奇襲を考えてフレイヤ・ファミリアの全員を警戒しておく事を忘れない。

 

「よし、なら今夜はこれで終いだ。異論は無いな?」

 

「えぇ、中々素晴らしいものを見させてもらったわ。私のファミリアに入れられないのは残念だけど、諦めないわよ?」

 

「勧誘するなら程々にしてくれ。ロキを怒らせたく無いからな」

 

 フレイヤに目を付けられているという時点でロキからしたらアウトかもしれないが。

 

 ロキのファミリアはオラリオの中でトップクラスのファミリアだと彼女は無い胸を張って自慢していた。だが、いくらそうであったとしてもフレイヤのファミリアと勝負になるかと聞かれたら首を傾げるしか無い。それが俺が直接フレイヤ・ファミリアの団員たちを見て思った感想だ。

 

 出来る限り穏便に済ませたいものだ。

 

「おやすみなさい、クラウド」

 

「おやすみ、フレイヤ。良い夜を」

 

 ウインクを一度だけして、フレイヤは団員たちを引き連れて外壁の上から去って行く。

 

 そして、最後まで残っていたのはアヤメだった。

 

「どうした?お礼参りでもするつもりか?」

 

「いや、そんなつまらん事はしないぞ」

 

 そう言ってアヤメは露出した胸元を手で隠しながら近づいてくる。殺意は無く、敵意も隠している様子はない。一応の警戒はしておきながら、間近に立つ事を許した。

 

 アヤメの顔は求めていた物を見つけた子供の様な笑顔を浮かべ、頬を微かだが赤く染めていた。フレイヤ程の酷さを感じていないが、経験則から完全に()()()()()()()()と分かる

 

「気に入った、気に入ったぞ漣蔵人。良かったら、私の夫にならないか?」

 

「唐突な告白ありがとう。だけど、知らん相手と結婚しようと言われても困るからお友達からでよろしく」

 

 うーんこいつアマゾネスかな?と内心で突っ込みながら、予想していた通りのどストレートなプロポーズをノータイムで打ち返す。

 

 地球では独り身であったが、決してモテなかったという訳ではない。ただ、アヤメの様な頭のネジが飛んでいる様な奴から好かれやすかったのだ。俺も同じようなタイプだし、類は友を呼ぶと言う奴なのだろう。

 

 もっとも、そう言う奴は地球では基本的に短命だったので結ばれる事は無かったし、漣の血を途絶えさせるつもりだったので結ばれる気も無かった訳だが。

 

「友からか……うむ、確かに何も知らんでは夫婦生活に支障が出るからな。互いの事をもっと知り合ってからの方が良かろう」

 

 その場凌ぎの言い訳に近かったのだが、アヤメはそれで納得してくれたようだ。何度も頷き、外壁の上に乗り、

 

「では、然らばだ蔵人。近いうちにお前が働いている店に行くぞ」

 

 そう言って飛び降りた。

 

「……一体何があったのか、説明を求めても良いだろうか?」

 

「うーん……ざっくりといえば女神に目を付けられて、イかれた美女に求婚されたってところか?」

 

「強ち間違いではないが……」

 

「詳しい話は帰ってからにしよう。このままだと、朝が起きれなくなる。只でさえ宴会で怪しいのに仕事に遅れでもしたら完全に女将がブチ切れるぞ」

 

 そう、宴会のせいで別館の食堂ではウェイトレス達が酔い潰れて眠っているのだ。店では無いので掃除の方は心配しなくて良いだろうが、しこたま酒を飲んでいたのだから確実にアルコールは残るだろう。

 

 アルコール臭をプンプン漂わせながら働こうとしたらどうなるだろうか?確実に女将の怒りを買うことになるだろう。

 

 女将が一度怒ることはもう確実なのだ。それなのに、要らぬ怒りを買う必要は無い。少なくともこんな場所で話をするべきでは無い。

 

 女将の怒りを買った事があるのか、リオンは顔を真っ青にして身体を震わせながら頷いて肯定してくれた。

 

 






そりゃあ人生一度使い潰すくらいに鍛錬続けてたんだから冒険者並みに強いんだよなぁ。

ただ、冒険者ではないので身体能力はバラバラ。力はLv.3、耐久はLv.2、敏捷はLv.5相当。魔力は当然無しで、器用に関しては技術という意味で言えば天元突破してる。

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