ロリ魂   作:カイバーマン。

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十ヶ月目 それは護るべき新たな命

出産予定日より少し前、その日は日頃騒がしい万事屋が一層やかましく騒いでいた。

 

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 産まれる!! 産まれるアルゥゥゥゥ!!! ヘルプ!! ヘルプミィィィィィィ!!!」

 

「か、神楽ちゃん落ち着いて!」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 大丈夫なのコレ!? ホントに神楽大丈夫なのコレ!?」

 

「アンタも落ち着け!」

 

今までずっと付き添いとして病院にいた新八は、陣痛で呻く神楽と、一人で勝手にパニックになっている銀時に叫んで黙らせた。

 

病院の廊下を二人の看護師は猛ダッシュで駆け、担架に乗せられた神楽を急いで分娩室に連れて行く。

 

「ヤバいアル銀ちゃん! なんか私達の子が凄い出たがってるヨ! もうここで産んでいい!? ここで楽になっていい!?」

 

「待て待て待て! ここで産むのはマズいだろ! 確かにお前は昔から人前でゲロ吐いてたけど流石に子供産むのをこんな大衆の面前で公開するのはちょっと旦那として許可できねぇわ……せめてもっと人目がつかない所でコッソリ産もう」

 

「いやもうすぐ分娩室に着くんですからそこで好きなだけ産めばいいでしょうが!」

 

今まで感じた事のない激痛に耐えながら、振り絞るかのように銀時に声を上げる神楽。

 

そんな彼女に今だ冷静さを失っている銀時が訳の分からない事を言い出していると、やはり新八がツッコミを入れて疎める。

 

そして新八の言う通り、神楽を乗せた担架はすぐに分娩室に辿り着くのであった。

 

「付き添いの方はここで待っていてください! お父さんはお母さんの傍に!」

 

「おいお父さんは神楽の出産を見ていいのかよ! なんで俺が許されねぇのにお父さんは許されるんだ! ていうかお父さんって誰だ!?」

 

「「「オメェだよ!!!」」」

 

 

銀時の叫びに新八だけでなく二人の看護師もハモってツッコむと、彼女たちに連れられ銀時も神楽と共に分娩室の中へ

 

取り残された新八は一人疲れた様子で頭を手で押さえる

 

「全くあの二人と来たらこんな時までいつも通りなんだから……もうすぐ母親と父親になるってのに……あ、そうだ」

 

自分が付いていなかったらどうなっていた事やらとため息をついていると、新八はハッと顔を上げた。

 

「もうすぐ銀さんと神楽ちゃんの子が産まれるって事をみんなに伝えないと、確かこの先に電話が……」

 

こうしてはいられない、急いでこの事を皆に伝えねばと新八は速足で廊下を歩きだす。

 

すると分娩室から

 

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「……」

 

赤ん坊を産もうと頑張っている神楽の叫び声に被って、銀時もまた一緒に叫んでいる声が廊下中に響き渡るのであった。

 

「……だからアンタが叫ぶ必要はねぇだろうが……」

 

 

 

 

 

 

神楽が分娩室に入ってから数十分後には、その前で新八だけでなく他の一同も集まっていた。

 

皆、新八の連絡を聞きつけて、何かと忙しい筈にも関わらず急いでここにすっ飛んで来てくれたのである。

 

「心配ねぇ、神楽ちゃん無事に産まれるといいんだけど……」

 

「大丈夫ですよ姉上、予定日より早かったけど、お医者さんに聞いたらよくある事だって言ってましたし」

 

「そうかしら」

 

新八の姉であり神楽にとっても姉貴分である志村妙が不安そうに呟きながら、分娩室をジッと見つめる。

 

「のぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「だってさっきからずっとあの二人叫びっぱなしなのよ、なに? もしかして銀さんも産もうとしてるの?」

 

「いや銀さん男ですから……単にテンパってるだけです……」

 

お妙がここに来てからずっと扉の向こうから聞こえるのは神楽の雄叫びと銀時の悲鳴

 

中で何が起こっているのか気になる様子でとても心配そうであった。

 

 

するとそこへ彼女と一緒にやって来ていた、銀時と神楽を良く知る者の一人、お登勢がフンと鼻を鳴らす。

 

「全く、毎度毎度騒がしい連中だよ、たかがガキ産むぐらいでギャーギャーと叫んで、人の親になるんだからちっとはどっしり構えるぐらい出来ないモンなのかねあの二人」

 

「ギャハハハハ! お登勢さん! アノバカ共ガガキ産ムダケデソウ変ワル訳ナイデスヨ!」

 

そして呆れた様子で呟く彼女に、一緒に来ていたキャサリンがゲラゲラと笑い声を上げて

 

「アノ二人ニ子供ナンテソダテラレマセン、ダカラ仕方ナイカラ私ガアノ二人ニ変ワッテ赤ん坊育テマース」

 

「お前はお前でなに突然母性に目覚めてんだい」

 

哺乳瓶とオムツを取り出し、子育てする気満々の様子で構えているキャサリン。

 

どうやら神楽が赤ん坊を産むと聞いてから、一生眠り続けると思われていた母性が一気に目覚めたらしい。どうでもいい事だが

 

そんなこんなでこっちはこっちで騒いでいると、一緒に待機していた一人の男がめんどくさそうに呟く。

 

「ったくテメェ等もテメェ等でうるせぇんだよ、少しは落ち着いて待つ事ぐらい出来ねぇのか」

 

泣く子も黙る武装警察・真撰組の副長・土方十四郎である。

 

「そこの眼鏡に緊急事態だからと聞いてすっ飛んで来れば、まさかアイツ等の出産に立ち会わなきゃいけねぇなんて……とっとと産んでもらわねぇと俺はもう帰るぞ、見たいドラマの再放送があんだよ」

 

「そうですかぃ、だったら土方さんはとっとと帰ってくだせぇ、別にアンタがいてもいなくても構いやしねぇんで」

 

ぶつくさと文句を垂れる土方にならさっさと帰れと素っ気なく呟くのは、未だ副長の座を狙い続けるドS、沖田総悟である。

 

「つうか警察の仕事ほったらかしてなに腐れ縁の相手の出産なんかに来てんですかぃアンタ、仕事してくださいよホント」

 

「いやお前こそ仕事どうしたんだよ!」

 

「生憎俺はツンデレ土方さんと違ってここに来たのはちゃんとした目的があるんですよ」

 

すぐさま反論する土方にキッパリと答えると、沖田は腰に差す刀の柄をスッと握り締めて

 

「旦那とあのチャイナの間に産まれるサラブレッドと、ちぃと死合おうと思っていましてね」

 

「何を言ってるのお前!? 娘ってお前! 産まれたばかりの赤ん坊と死合うってどういう事!?」

 

「知らないんですか土方さん、最近の赤ん坊ってのは乳離れしてない時期でもとんでもねぇ強さを持った奴もいるんですよ、この前「ミスターイン〇レディブル」と「ボスベ〇ビー」、そして「クレ〇ンしんちゃん」をTSUTAYAで借りて見てわかりやした、こりゃ旦那とチャイナの娘もとんでもねぇパワフルベイビーだろうなって」

 

「わかりやしたじゃねぇよ! 何もわかってねぇよお前! 現実とフィクションを区別できてないただのサイコパスだよ!」

 

相手が赤ん坊であろうがそれが銀時と神楽の娘であれば間違いなくその強さは並大抵のモノではない筈。

 

数々の赤ちゃんが強い設定の作品を休日に見ていた沖田はそう確信した様子でニヤリと笑うが、傍から見れば産まれたばかりの赤ちゃんの命を狙う危険人物極まりない。

 

するとそこへ

 

「残念ながらあなたの目的は達成する事は未来永劫無い」

「!?」

 

突然気配もなく沖田の背後に何者かが現れ、堂々と驚く土方の前で彼の首元に脇差しを押し当てる。

 

その人物は……

 

「何故ならこの私があなたを今ここで止めるから」

「お、お前は今井信女!」

「へぇ、こりゃ珍しい奴が来たもんだな」

 

いきなりあの沖田が首元に刀を押し付けられるのも驚きだが

 

現・警察組織のトップ・今井信女という意外な人物が病院に来た事に対して土方は目を見開く。

 

「まさかお前が野郎供の出産に立ち会うだなんて……一体どんな風の吹き回しだ」

「勘違いしないで、私はただ姫様の護衛役としてここに来ているだけ」

 

彼の問いに信女はあっけらかんとした感じで答えると、彼女の背後からヒョコッと現れたのは、神楽の友人のそよ姫。

 

「あの~信女さん、神楽ちゃんが吠えながら頑張ってる中、こんな所でそんな物騒なモノを取り出さないでくれませんか? 赤ちゃんが生まれる隣で流血沙汰とか洒落にならないんで」

 

「大丈夫、流血沙汰ではなく正当なる殺人沙汰にするから」

 

「いやそれもっと洒落にならないんですけど……勘弁して下さい」

 

大事な友達が必死に赤ん坊を産もうと頑張ってる中、こんな所でつまらない面倒ごとを起こして欲しくないという一心で信女の背後から非難の声を上げるそよ姫。

 

しかし徳川家の血を引く高貴な身分の彼女の意見に耳も貸さず、信女と沖田の間には沸々と殺気めいたピリピリとしたムードが漂い始める。

 

「悪いが姫さん、コイツは他人の話なんか聞くタマじゃねぇ、よくわかるんだよ、何せ俺も同じだからな」

 

「おい総悟! 姫様の御前! ましてや病院内で暴れんのだけはやめろ! また真撰組が無くなっちまうだろうが!」

 

「そう、一旦抜いた刀を鞘に納めるときは、それは誰かを血に染め上げた時、あなたとの因縁もここで終わりにしましょうか」

 

「信女さん!? ようやく平和になったこの国で血生臭い語りはしないで下さい! それでも警察庁長官ですか!? あ、前任の人も結構物騒だったみたいですねそういえば……」

 

初めて出会った時からこの二人は何かと衝突を繰り返し続けていたが、久方ぶりの再会を祝って因縁の決着を着けようという魂胆なのだろう。

 

土方とそよ姫の制止も聞かずにぶつかり合おうとする沖田と信女、するとそこへ空気も読まずに呑気な調子で

 

「へーなんか面白そうなのやってるね、俺も混ざっていい?」

「テメェは……」

 

神楽側の親族、つまり彼女の兄である神威がのほほんとした調子で参入してきたのだ。

 

「いやー、遅れてきたらなんか面白そうなイベントやってるね、まさか俺の妹が必死にふんばってる中でこんな所で大乱闘スマッシュブラザーズやってるなんて」

 

「そういやテメェ、あのチャイナの兄貴だったか、柄にも無く妹の出産に立ち会うなんざいい兄貴じゃねぇか、まあこうして出会えた事だし、こうなったらテメェとも決着を着けてやるか」

 

「そっちが良いなら俺は大歓迎さ、もうすぐ産まれる姪っ子の為におもちゃの一つあげてやろうと思ってたんだ、アンタ等の首は良い感じに転がりそうだしボール代わりになるだろうね」

 

彼とも何かと縁がある沖田は信女との睨み合いを止めて彼の方へ振り返り、挑発的な対応を始め出す。

 

神楽の出産を機に戦闘狂がまさかの三人揃ってしまい、このままでは三つ巴の大乱闘に勃発しかねない。

 

だが

 

「いい加減にしろお前等ァァァァァァァ!!」

 

その戦いが始まる前に、遂に新八がキレ気味に叫びながら彼等の方へツカツカと歩み寄る。

 

大事な万事屋メンバーの二人の間にもうすぐ子供が産まれるっていうのに、これ以上ここでバカやってるのを見過ごす訳にはいかない。

 

「アンタ等こっちが今どんだけ緊迫した状況なのかわかってんですか! 喧嘩ならよそでやって下さいよ! てか神威さん、アンタ親族だろ! 普通止める側だからね!」

 

「全くだな、ったく、こんな時ぐらい少しは兄貴らしく姪っ子の誕生を大人しく待つ事は出来ねぇのか」

 

「!」

 

相手が戦闘狂トリオだろうがお構いなしに新八が激昂して彼らに説教していると、それに賛同するかのように一人の男がスッと近寄り。

 

「こちとら待望の孫娘を遂にこの手で抱き上げる事が出来るとわかって……! 内なる興奮と感動を必死に抑え込みながら、お祖父ちゃんとして大人しく待ってるってのに……!!」

 

「ってアンタもアンタで少しは落ち着けぇぇぇぇぇ!! 目が真っ赤に血走ってんぞ! 内なる興奮が表に出て体がガクガク震えてんじゃねぇか!!」

 

新八の連絡を聞いていち早くすっ飛んで来た人物、神楽の父であり待望の孫が生まれる事を心待ちにしていたエイリアンハンター、星海坊主。

 

さっきから彼はずっと待機用の椅子に座ったままガタガタと貧乏ゆすりしながら

 

神楽が無事に出産できるのかと落ち着かない様子で酷く落ち着かずにいたのであった。

 

「しょうがねぇだろ! お祖父ちゃんだぞ! 俺はもうすぐパピーからグランドパピーにランクアップするんだぞ! こんなのもうワクワクが抑えきれねぇよ! あーどうしよ! こうやって待つのもそろそろ限界なんだけど! とりあえずもう暴れていいかな!? 不安と心配で一杯いっぱいでグランドパピーどうしていいのかわかりません!!」

 

「いい訳ねぇだろ! アンタが暴れたら病院どころかこの国もぶっ壊れますよ! お祖父ちゃんになるなら大人しく座って待ってればいいでしょうが!」

 

いつ産まれるのか、そして無事に産まれるのかと期待と不安で取り乱した星海坊主が目的も無く暴れ出そうとするので、新八が止めに入っていると息子の神威がへらへら笑いながら歩み寄り

 

「やれやれ、俺はこんなバカ親父を殺そうと躍起になっていたのか、宇宙一のエイリアンハンターと呼ばれた男が、たかが孫が生まれるぐらいで動揺するなんてね」

 

「テメェは黙ってろバカ息子!! 宇宙飛び回ってバカばっかしてるテメェなんかに! 待望の初孫が産まれるというグランドパピーの心境を理解出来るかぁ!!」

 

「あーそういや昔、母さんから聞いたんだけど、俺が産まれた時もアンタ、立ち会ってる途中で失神して白目剥きながら倒れたんだっけ? 残念ながらそんなみっともない親父の心境を理解するつもりは毛頭ないよ」

 

「あのアマぁ! そんな事を息子に話してやがったのか! 言っておくが白目は剥いてねぇぞ! まっすぐ天井を見上げながら静かに気絶しただけです!」

 

「いや気絶してる時点で十分醜態晒してるから」

 

今度は勝手に親子喧嘩を始める星海坊主と神威

数年前はこんな光景などあり得ないと思えるほど殺伐とした関係であったが

こうして顔を合わせてギャーギャーと言い合っている光景を見ると

仲が悪いのは変わらないが、少しは家族として進展したのかもしれない。

 

「揃いも揃ってうるさいバカ親子だよホント……ま、これが神楽ちゃんが夢見てた光景か」

 

二人が騒いでいるのをどう止めようか考えながら、新八はようやく神楽の願いが叶ったのだなとしみじみと感じていると

 

「おい貴様等、病院の中で何を騒いでいる、この国で勝手に暴れ回るのは許さんぞ」

「ってあれ? その声はまさか……」

 

ふと背後から冷静かつ厳格な言葉を呟く男の声がしたので、新八が振り返るとそこに立っていたのは……

 

「この総理大臣である、ドナルド・ヅランプの前では、天人だろうが侍だろうが親子であろうが、リーダーの出産の邪魔をする無粋な狼藉は許さん」

 

「か、桂さん!? えぇ!? 僕あなたの連絡先わからなかったから連絡しなかったのに! どうやって来たんですか!?」

 

「ハッハッハ、総理大臣である俺に不可能は無い」

 

またもや現れたのは元テロリスト・現総理大臣、銀時の友人である桂小太郎であった。

 

連絡していなかったにも関わらず颯爽と現れた彼に新八が混乱していると、桂は笑いながら彼の方へ歩み寄った。

 

「しかし銀時とリーダーの子供の為にここまで人が集まるとは、フ、どうやらアイツも俺程ではないがそこそこ人望があるという事か」

 

「ええまあ……忙しいだろうにダメ元で連絡したんですけど結構集まっちゃいまして、まあ人望が厚いというよりただの腐れ縁ですけど」

 

「うむ、まさか青学の部長まで銀時の為に駆けつけるとは流石に俺も予想できなかったぞ、今日は銀時とリーダーの為に来てくれて礼を言うぞ、手塚君」

 

「いや手塚国光じゃなくて志村新八です……」

 

「手塚君の事だからきっと銀時達の為にお祝いに寿司を用意してくれたんだろう、今日はみんなでとことん寿司パーティーと洒落こもうではないか」

 

「いや寿司握るのはタカさんの方だから! アンタテニプリちゃんと読んでないだろ!?」

 

数年前より見た目が変わった自分を思いきり人違いしてるばかりか更に別の人物と間違えるという

 

相変わらず電波キャラを突っ走っている桂にホント全然変わってないなコイツ……と新八は半ば呆れた。

 

「ていうか桂さんが来たって事は、もしかして坂本さんが来てたりとか?」

 

「いやアイツは残念ながらここに来る事は出来なかった、一応俺が連絡しておいたんだがどうしても無理だと」

 

「ああそうなんですか、まあ仕方ないですよ、だって坂本さんは宇宙を飛び回る商人ですから、いきなり呼ばれて地球に来れる訳……」

 

「今この病院の別の分娩室で、奥方である陸奥殿の出産に立ち会っている真っ最中だ」

 

「なんか思ってたのと全然違う理由だったぁ!」

 

どうやら桂と同じく友人である坂本辰馬もこの病院に来ているらしいが

 

彼は彼で別の出産に立ち会っている真っ最中らしい、しかも父親として……

 

「てかあの人陸奥さんと結婚してたんですか!? 僕全然知らなかったんですけど!?」

 

「俺も驚いた、しかも予定では三つ子であったのにまさかの五つ子だったらしい」

 

「いやそれ聞いてこっちはもっと驚きだわ! 一体僕が修行に出てる間にどんな事があったんですか皆さん!」

 

銀時と神楽だけでなく、坂本と陸奥の間にも変化があったとは……

その衝撃の事実さえ知らなかった新八を更に驚かせながら、桂は「あ」と何かを思い出したかのように

 

「そういえばここに来れない坂本の代わりに高杉を呼んでおいたぞ」

 

「これ以上どんだけ僕を驚かせれば気が済むんだよ! 高杉さんそんなキャラだっけ!?」

 

「だが俺達の友が父親になるという瞬間だというのに、ここで待つのが面倒だからとここに来ずに近くの茶屋でヤクルコ飲んで暇を潰しているのだ。ここは青学の部長を務める手塚君の方からビシッと言っては来れぬか?」

 

「いや僕あんまあの人と絡んでないで無理です!! つか手塚君じゃないって言ってんだろうが!」

  

まさか”あの男”まで来てくれているとは考えてすらいなかった新八。

 

そんなキャラに合わない真似をする様な人だったっけ?と新八が疑問に思っていると、そこへタイミング良くあの男……

 

 

 

 

少し前に晴れて無職に戻った長谷川泰三が、すっかり昔と変わらないスタイルでやって来たのだ。

 

「おおー、なんかすげぇ集まってんなー、そんなにみんなアイツ等の子供見たいのか? 無職の俺と違ってみんな働いてるだろうに、暇な奴等だぜホント」

 

「ってアンタかィィィィィィィィ!」

 

「えぇ!? なんでいきなり新八君にツッコまれたの俺!?」

 

ヘラヘラしながら空気も読まずに現れた長谷川に、新八が一層やかましくツッコミを入れる。

 

「いやだってこの流れからしててっきり高杉さんが出てくると思うじゃないですか! なんでアンタが出てくるんですか! よその夫婦の出産に立ち会ってる場合じゃないでしょアンタは! さっさと仕事見つけて逃げた奥さんを迎えに行って来い!」

 

「ツッコまれた上にそこまで言う!? てか仕事失ったのアンタ等のせいなんだけど!?」

 

 

せっかく来てやったというのに文句を言われ、更には再就職だの逃げた嫁さんだの痛い所を突かれ、長谷川が悲痛に叫びながら新八に反論するのであった。

 

「全く、久しぶりにこうしてみんなで集まる事が出来たからって、銀さんと神楽ちゃんそっちのけで勝手に騒いじゃって……」

 

「ハッハッハ、しょうがないですよお妙さん、ここ数年色々あったでしょうが、コイツ等は今も昔と変わらず所構わずはしゃぎ回る悪ガキ共なんですから」

 

新八も交じって他のみんなと騒いでいる光景を見てお妙が一人ため息をついていると

 

彼女の隣に立っていた真撰組の局長・近藤勲が微笑を浮かべながら話しかける。

 

「けどそんなガキ共の中でも群を抜いてタチが悪いのが、今回俺達がここに集まった理由を作った元凶です、全くいつになったら俺達はあの万事屋に振り回されなくて済む事になるのやら」

 

「ホントですね、まさかあの人が神楽ちゃんと結婚するなんてビックリだわ、けどそんなあの人が率いる万事屋は、そうやってみんなを振り回すのが一番性に合うのかもしれませんね」

 

「いやいや、そうやっていつも振り回されてるだけじゃ向こうの思うツボですよ、どうですお妙さん? 近い内に今度は俺達がアイツ等を振り回す役目になるってのは?」

 

ニコニコと笑いながら答えるお妙に、近藤は二カッと綺麗な歯並びを光らせて彼女に向かって親指を立てて

 

「次回は是非! 俺とお妙さんの間に産まれる愛の結晶でコイツ等驚かせてやりましょう!」

 

「あーそれは無理ねー、だって人間とゴリラが子供なんて作れるわけないモノ」

 

「えぇぇぇぇぇ!?」

 

ドヤ顔で言ってみた近藤の告白であったが、昔と変わらずお妙はやんわりと袖にするのであった。

 

「あ、それなら私が近藤さんに似合いそうな相手紹介してあげましょうか? 先日友人と行った動物園で近藤さんに似合いそうないい感じのメスゴリラ見つけたんです、近藤さんが彼女と子作りすればきっとみんな驚きますよ」

 

「いやそりゃ驚くっつうかドン引きするんじゃないの!? それに俺としてもゴリラと子作りってのは結構トラウマモンなんだけど!? 昔そうなる寸前になった事あったし!」

 

「今度休日にその動物園へ連れてってあげますね、近藤さんにお似合いのゴリラがいるか一緒に探してあげますから」

 

「お妙さん聞いてる!? 近藤さんにお似合いのゴリラなんていないよ! 近藤さんは人間なんだよ! ってアレ?」

 

当人お構いなしに勝手にゴリラとのお見合いパーティーでも仕切ろうとし始めるお妙に、自分は人類なのだと必死に訴えながら叫ぶ近藤だが

 

ふとある事に先程彼女が自分に向かって笑顔で放った話の中に、少々引っかかる言葉があった事に気付く。

 

「休日に動物園に連れてってあげるってそれ……もしかして」

 

近藤がふと何かに気付き始めようとしている、だがその時……

 

 

 

 

 

「ふんごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! なんかもうほとんど出て来てるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

「「「「「!?」」」」」」

 

自分達が騒いでる声さえも軽く搔き消す程の叫び声が目の前の分娩室から木霊する。

 

声の主は恐らく現在出産中の神楽と、彼女の傍で見守りながらもずっとパニクっている銀時であった。

 

「こんのぉぉぉぉ!!! 無駄な抵抗は止めてさっさと私の中から出てこいやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「お前どんだけ男らしいんだよオイ! こっちはもうすっかりってあぁぁ! つうかマジで!? これもうマジでもうすぐ……!!」

 

あれだけ騒いでいた一同が静まり返ってしまった中で、二人の雄叫びがより鮮明に聞こえて来る。

 

「え、ウソ!? もしかしていよいよ産まれる!?」

 

彼等の先頭に立って新八がゴクリと生唾を飲み込んで”その瞬間”を今か今かと待ち構えていると

 

遂に

 

 

 

 

 

「おぎゃ……!」

「ふんぬらばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!! なんか産まれたぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「って待望の我が子との出会いの瞬間にどんな叫び方してんだアンタ等ァァァ!!!!」

 

分娩室から聞こえて来た赤子の泣き声を一瞬で消し飛ばす程の

 

気合の入った神楽の叫び声と悲鳴のような銀時の叫び声が大きく響き渡り

 

扉の前で待機していた新八がそれに応えるかの様に負けじと思いきりツッコミを叫ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらく経ち、外もすっかり夕暮れとなった頃

 

「おい九兵衛、すまんがちょっとそこどいて欲しいんだが、赤ん坊がよく見えなんし

「いや僕もよく見えないんだ、みんな、見終わったのであれば少しどいてくれないか」

 

「あらヤダ~、今誰か私のお尻触った? もしかして狂死郎さんね? も~スケベなんだから~」

 

「いや西郷さん私じゃ……ぐふ! ヘ! ヘルプミー……!」

 

神楽の出産の為に立ち合いに来てくれた人物は更に増え

 

生まれた赤ん坊達がいる部屋をガラス越しに我先に顔をくっつけて中を覗いている真っ最中であった。

 

銀時と神楽の間に産まれた子供はすこぶる健康体であり、何ら問題が無いと確認され

 

今はすっかり泣き止んで赤ん坊用の小さなケースの中で口をだらりと開けて爆睡している。

 

「親ニ似テアホ面デスネ」

 

「アホ面だろうが無事に産まれりゃそれでいいだろうさ、確かにちぃと顔に締まりが無い様にも見えるけど、そこん所は親父に似たんだろうね」

 

キャサリンとお登勢が産まれたばかりの子供を見つめながら各々感想を呟いていると

 

「すみませんちょっと僕にも……! 僕にも見せて下さい……!」

 

新八もようやく赤ん坊が見える場所に辿り着き、ようやく赤ん坊を見ることが出来た。

 

「あれが銀さんと神楽ちゃんの……」

「俺の孫ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「うわ!!」

 

大切な存在である二人の間に産まれた子供、そう思うとやはりどこか感動すら覚えて来た新八であったが

 

突然割り込んで隣にやってきた星海坊主が歓喜の声を上げてガラス窓に顔を押し付け始める。

 

「おぉ! 赤ん坊の頃の神楽とクリソツじゃねぇか! ちょっと顔に締まりがなくて人生ナメてる様な面構えしてるけどまあいいや! 初めまして俺の愛しき孫娘よ! グランドパピーだよぉぉぉ!!!」

 

「ちょっと星海坊主さん! 赤ん坊ってのはデリケートなんだから静かにしてくださいよ! いきなりそんなガラスに顔面押し付けたおっさんなんか見ちゃったら一生モンのトラウマになっちゃいますって!」

 

「うるせぇ俺はグランドパピーだぞ! 孫娘に挨拶して何が悪いんだこの……! どぅふ!」

 

こんな気味の悪い笑顔を浮かべながら叫んでいる祖父など見せてはいけないと新八が止めに入ったその時

 

彼のハゲた頭頂部に向かって神威の踵落としが炸裂した。

 

「ダメだなぁ、孫が生まれた喜びで警戒心を緩めちゃ、隙だらけで思わずそのハゲ頭に不意打ちしちゃったじゃないか」

 

「邪魔すんなバカ息子! 今俺は初孫との暖かいコミュニケーションを築き上げている真っ最中だぞ!」

 

「そうなの? ただハゲ上がった頭を見せつけてるだけだと思った」

 

「そんな事して俺と孫になんの得があるんだよ! 一方的に俺が虚しくなるだけだろ! てか誰がハゲだ! 頭の爽やかなグランドパピーと言え!」

 

背後から奇襲して来た神威と星海坊主は再び親子喧嘩を孫の前で始めてしまったので、新八が唖然とした表情でそれを見つめていると、程なくして星海坊主と代わりばんこするかのようにお妙がスッと隣に割り込んでくる。

 

「ようやく二人の赤ん坊を拝むことができたわ、早く見たいのはわかるけど少し集まり過ぎじゃないかしら」

 

「ハハハ、つい僕が皆さん呼び過ぎちゃったいみたいです……ところで姉上はどこ行ってたんですか?」

 

「神楽ちゃんと銀さんの所よ、どうやらあの二人、出産する時にあまりにもテンション上げ過ぎて、ようやく子供が産まれた途端プッツンと糸が切れたかのように白目剥いてぶっ倒れちゃったみたいなのよ」

 

「いや産んだ本人の神楽ちゃんはともかく、どうして銀さんまで白目剥いてんですか……あの人ただやかましく叫んでただけでしょ」

 

「ずっと叫びっぱなしだったせいで頭に血が上り過ぎちゃったみたいね、あの人らしいわ全く」

 

どうやら銀時と神楽は産まれたばかりの赤ん坊を見て安心したその瞬間、そのまま分娩室で倒れてしまったらしい。

 

今は病室のベッドで二人揃って気絶しているみたいなので、わざわざお妙が見舞いに行ってあげていたのだ。

 

 

「でもこれまた怖いぐらいにしっかりと銀さんと神楽ちゃんが混ざったかの様な顔付きね、将来どんな子に育つのかしら」

 

「ええそうですね、特にあの二人が親となって育てるんですから……」

 

改めて赤ん坊の顔を眺めながらお妙がふと呟くと、新八もそれに返事しながら苦笑する。

 

「あんなに可愛い子がどんな風に育っちゃうのか考えるだけでも怖いですよ……」

 

「銀さんと神楽ちゃんが両親……確かにちょっと不安ね、いくら昔と比べて大人びたと言っても神楽ちゃんもまだ子供っぽい所あるし、銀さんに至っては未だに精神年齢が中学生レベルだし」

 

「そうなんですよ、あの二人って元々好き勝手に自由気ままに生きていた人たちですし、果たして我が子を上手く導いてやれるかどうか……あ」

 

結構酷い事を言うお妙だが、それに賛同するかのように新八も頷くと、ふと自分の腰に差しているある物に気付いた。

 

それは銀時から受け継いだ洞爺湖を彫られた木刀であった。

 

半ば追い出される形だったとはいえ、その時に餞別代わりに頂いた坂田銀時の愛刀……

 

「……そうか」

「え?」

「姉上」

 

その木刀の柄を手で押さえながら新八はふと何かを悟った様な気がした。

 

銀時から受け継いだ木刀と目の前で眠っている赤ん坊を交互に見つめると、新八は決心したかのようにフッと笑みを浮かべると、お妙の方へ振り返った。

 

 

 

 

「僕、ようやく自分がやるべき事を見つけました」

 

ずっと探し求めていたモノが

 

銀時と神楽の間に産まれた子供をキッカケに

 

新八はようやく見つける事が出来たのであった。

 

 

 

 

 

 

そしてそれから月日は流れ……

 

 

 

 

 

 

 




次回で最終回

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