あれから数年経った今、宇宙からの脅威をなんとか退けた江戸は、束の間の平和の一時を過ごしていた。
だがそんな安寧の日々もずっと長く続くとは思えない
この世は常に乱が起こるもの、いずれまた宇宙から天人が攻めてくる可能性、現在身を潜めている攘夷浪士達が再び一斉蜂起する事さえも十分にあり得る。
だからこそ江戸には今後も彼等が必要とされた。江戸の治安、引いては江戸そのものを護るために再結成された武装警察。
真撰組、一度目は将軍暗殺の責任を取り解体、二度目は新政府による粛清、何度も潰されて消える筈だった彼らは
現在の平穏を維持するためには必要不可欠な存在という上からの命で、不死鳥の如く再びを息を吹き返した。
かつては荒くれ物の浪士達が集まっただけのチンピラ集団だった彼等、しかし今では江戸を護る為に立派に……
「おいテメェ、今何キロ速度違反したと思ってんだコラ? この期に及んで言い訳してタダで済むと思ってんのか、ああ?」
「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!! すんません!!」
速度違反した車を後ろからバズーカで大破させ
ボロボロになった運転手の胸倉を掴んでドスの低い声で脅す
正義のお巡りさんがそこにいた。
速度違反の運転手を取り締まり終えると、真撰組の屯所に戻った鬼の副長・土方十四郎は機嫌悪そうに煙草を咥えて待機していた。
「チッ、最近じゃ起こる事件もてんで大した事ねぇモンばかりだ、どうして俺が速度違反なんかを取り締まらなきゃならねぇんだ、奉行所の役目だろ……」
「仕方ねぇですよ土方さん、この国にはもうテロリストも将軍もいねぇ、たたっ斬るモンも護るモンも無くなっちまったんですから」
私室で筆を動かして報告書をまとめている土方に対し、勝手にズカズカと部屋の中へと入って来ていた一番隊隊長・沖田総悟が、急いで報告書を書き終えようとしている彼の背後でゴロンと寝転がっていた。
「俺達なんざ大事件でも起きなきゃただの人斬り集団でさぁ、仕事が回されるだけありがてぇと思わねぇとやっていけねぇですぜ」
「ああそうだよ、だから今俺はたかが速度違反者にバズーカぶっ放したバカの後始末をしなきゃならねぇんだ、落とし前として切腹させなきゃなコイツには」
「そのたかが速度違反者を捕まえて脅しまくった挙句、泡吹かせて病院送りにしたお巡りさんはどこのどいつでしたっけ?」
土方が今取り組んでいるのは、先ほど速度違反の車に街中で派手にバズーカをぶっ放した沖田の事での報告書だ。
部下の失態は上司の責任、故に土方が先程からイライラしているのは全て背後で昼寝を決めている沖田のせいである。
一方沖田も負けじと皮肉を返しながらようやく上体を起こして胡坐を掻いていると、そこへまた一人の大柄な男が入って来る。
「ったく二人揃って同じ部屋でブツブツブツブツとぼやき合って辛気臭ぇ事してるなぁお前等、江戸はすっかり平和になったっつうのに」
真撰組の大黒柱こと近藤勲が、腕を組んだまま二人に対して苦笑しながら歩み寄って来ると
土方は振り向かずに報告書を書き続けながら「ケッ」と吐き捨てて
「近藤さん、悪いがその平和ってのが俺達の性に合わねぇからこんな奴ととぼやき合ってんだ、俺達は今この江戸に必要なのか? 数年間ずっとこんなくだらねぇ事ばかりやらされてちゃ剣も鈍っちまう」
「ハッハッハ、そんな下らん事で悩むとはお前も年取ったなトシ、俺達が江戸に必要なのは当たり前だろ、この国にまたなにか脅威が迫った時、いの一番に駆けつけて先陣を務めるのは俺達にしか出来ねぇからな」
相変わらず物事をポジティブに捉える総大将に、土方はやれやれと思いながら咥えていた煙草を灰皿に
平和になったのは確かに良い事だ、しかし新しい時代になると共に古いモノは消えゆく運命。
なんとか今まで生き延びて来た真撰組だが、もうそろそろ潮時なのでは、と土方はここ最近考えたりしているのだ。
「その脅威、っつうモンが来る前に、俺達が剣の代わりに杖を持ってゲートボールに勤しんでなきゃいいんだけどな」
「大丈夫でさぁ土方さん、土方さんはちゃんと老後を迎える前に俺が殺しておいてあげるんで」
「いやどの辺が大丈夫? テメェを先に地獄のゲート潜らせるぞコラ」
時を経ても未だ隙あらば自分の命を狙いに来る沖田に対して土方はようやく振り返って睨みつけていると、そんな二人を眺めながら「ハハハ」と近藤が笑う。
「ま、とにかく俺達が刀を抜かない間はこの国が平穏を保っていられる何よりの証拠だよ、江戸にとっては俺達が血を流して派手に暴れまわる毎日よりも、誰も死なねぇ一日の方を望んでいるのさ」
「わかってるよ、俺だって好き好んでなりふり構わず暴れたいだなんて思っちゃいねぇ」
「まだまだこの国には不穏な輩はそこらかしこに潜んでいる、そん時こそ俺達の出番だ。そしてその時が来る前に……」
近藤の言ってる事に渋々納得した様子で、ようやく報告書をまとめられたと後頭部を掻きながら土方がうなずいているのをよそに
突然、近藤は物陰に隠れてゴソゴソと不審な動きを見せた後……
「お妙さんとファイナルファンタジーしてきます」
「ってちょっと待てオイィィィィィィィィ!!! 結局アンタが辿り着くって所ってそこ!?」
「当たり前だ! 俺が常に望むのはお妙さんとのハッピーエンドだ! それ以外に臨むモノは何もない!」
次の瞬間、先ほどまで制服姿だった近藤が一瞬で結婚衣装の袴に早変わり。
どうやら数年経った今も、彼は一途にお妙を愛し続けている様子。
「平和な時代だからこそ俺達は動かなくていい! その今こそが俺がお妙さんと結ばれる絶好のチャンスなんだ!!」
「アンタ平和だろうが世紀末だろうが年中付き纏ってんだろ! もういい加減みっともねぇから諦めろ!」
「ヤダァァァァァァァ!! 俺は絶対にお妙さんとファイナルファンタジーするんだぁぁぁぁぁ!!!」
未だ独り身で結婚適齢期ギリギリアウトであるにも関わらず、一人の女性のみを一途に愛し続ける
と言えばカッコいいのだが、実際は全く進展のない様子でただただ一方的に近藤が付き纏っているだけなのが現実だ。
まあ数年経って少しは相手の態度も軟化したとは聞いているが、それでも彼の望みが叶うのは非常に難しいであろう。
そして遂には子供みたいにだだをこね始める近藤に、土方がツッコミで怒鳴っている光景を見ながら
沖田はズボンのポケットに両手を突っ込んだ状態でへっと笑った。
「俺は近藤さんを応援しますぜ」
「総悟ぉ! お前はやっぱり俺のことわかってるなぁ!」
「俺としては平和ボケした毎日よりも、面白ぇ出来事で刺激が欲しいんで、だから近藤さんちょっと一回あの女に殺されに行ってくださいよ」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「そしたら向こうの連中VS真撰組で近藤さんの弔い合戦とかやれるじゃないですかぃ」
突然の無茶ぶりに近藤がビビると、沖田は少し楽しげな様子で話を続ける。
「万事屋の旦那やあのチャイナとも久しぶりに戦いてぇと思ってた所なんでさぁ、だから近藤さん、その為の礎になってくだせぇ」
「無理に決まってんだろ! 発想がもうドSを通り越してサイコパスじゃん!! いつからそんな怖い事考えるようになったのこの子!?」
「いや近藤さん、コイツ元からこうだから」
いずれは決着をつけたいと思っている銀時と、特に因縁が強い神楽と戦えるならと、平和よりも戦いを望む沖田。
心配そうに彼を見つめる近藤に、土方は冷静に諭していると、ふと万事屋と聞いて彼等の事を思い出した。
「そういや万事屋の奴等、ここ最近随分と大人しくなってるみてぇだな、何かあったのか?」
「ああ、言われてみれば確かにアイツ等の姿を見てねぇな……新八君は武者修行に出て長らく留守にしているのは聞いているが……」
「俺達以上に平穏と縁遠いあの旦那が、騒動や事件を引き起こさねぇのは確かに怪しいですね、山崎にでも探らせやすか?」
近頃、かぶき町の万事屋がどこで暴れたとか壊したとか全く聞かなくなっている事にふと気づいた土方。
近藤と沖田もそういえばと、あんだけ自分達以上にどこかしこで暴れまわっている様な男の話をてんで聞かないというのはやや不気味だと感じる。
そしてしばらく三人揃って万事屋の事を気に掛けていると、突然廊下からタッタッタッと急いでこちらに向かってくる足音が……
「たたたた!!! 大変です副長ォォォォォォォ!! あ! 局長と沖田隊長もお揃いで!!」
「お、丁度良い所に来たな山崎」
血相変えて襖を開けて部屋に入って来たのは密偵の山崎退であった。
どうしてそんなに慌てているのかは知らないが、土方は彼が良いタイミングで来たと振り返り
「俺達はここ最近、あの常時騒ぎを起こさねぇと気が済まない万事屋が特に目立った事してねぇのが怪しいと睨んでる、だからお前ちょっと、アイツの家を張り込みして奴等の動きを調べてこい」
「いやその万事屋の件で慌てて来たんですよ俺!!」
「ああ?」
ここでようやく山崎がどうして慌てているのか不思議に思い出した土方、どうやら彼は偶然にも万事屋の情報を既に入手して来たたらしいが……
「さっき偶然出会っちゃったんです! 市役所で!! 俺がこの前失くしたマイナンバーの再発行手続きしてた時に!! いたんですあの二人が!!」
「バカかお前、マイナンバーなんて貴重品失くしてんじゃねぇよ。てかお前それどこで失くした? もし外で失くした場合はきちんとウチにも報告しとけよ」
「いや俺のマイナンバーの下りよりも万事屋の下りを重視して下さい!」
素なのかボケなのか、本題から逸れて別のところを気に掛ける土方に山崎はツッコミつつ
先程自分が見た信じられない光景を話始めるのであった。
「落ち着いて聞いて下さい! 気をしっかり持ってください! いいですか!? 万屋の旦那とあのチャイナ娘が!!!」
「こ、婚姻届を出してましたァァァァァァァァァ!!」
数十分後、かぶき町在住の一人の男が真撰組に拘束されて、いつの間にか屯所の取調室に軟禁されていた。
「おら、特製土方スペシャル丼・激盛りだ、たんと食え、そして全部吐き出せ」
「ふざけんな、こんな犬の餌食ったら別の意味で吐いちまうだろーが」
薄暗い取調室で、丼にこれでもかとマヨネーズがそびえ立つ程に盛られた差し入れを、ブスっとした表情で答えながら
取り調べを受ける側である坂田銀時は、取り調べをする側である土方を睨みつける。
「いきなり街中歩いている時にパトカーにぶち込まれて、挙句の果てにこんな所に閉じ込めて犬の餌食わさせようとするとか、なに考えてんだお前等」
「尋ねるのはこっちだ、お前は答えるだけしか許されてねぇ」
市役所から帰る途中で突然何も言わずに拉致された事で機嫌悪そうに口を開く銀時だが、土方は向かいの椅子にドカッと座ると厳しめな口調で
「単刀直入に聞く、お前、自分の所にずっといたあのチャイナのガキを、遂に手籠めにして所帯持っただろ」
「まあな、長く一緒にいるアイツに手を出して、更には孕ませたフェミニストだよ。だから責任取ってアイツと入籍したんだよ、わかったかコノヤロー」
「白状するの速過ぎだろ! 一切否定せずに吐き出しやがったよコイツ!」
てっきり長丁場になると覚悟していたのだが、うんざりした様子で机に頬杖を突きながらあっさりとぶちまけてしまう銀時に、思わず椅子からずり落ちそうになってしまう土方。
「てか孕ませたってなんだ!? お前ひょっとしてそこまでやっちまってたのか!?」
「あーそうだよ、一時のテンションに身を任せた結果できちゃった婚だよ」
「嘘だろオイ……お前とあのチャイナがデキ婚って……!」
山崎の情報だと二人が役所で婚姻届を提出しているのを見たとは聞いていたが、まさか神楽の方は既に身重だったとは思っていなかった土方。
まさかこの天然パーマは元々親子みたいな間柄であった少女に手を出した上に子まで作っていたとは……
ショックで思わず顔を手でうずめる土方だが、銀時はポリポリと後頭部を掻きながら
「おいもう話は済んだのか? 今丁度4ヶ月目に突入して大事な時期なんだよ、だからさっさと俺を嫁さんの所に返せ」
「……随分と開き直ってんなお前、ひょっとして俺達の前にいろんな奴等に言われたのか?」
「あちこちでロリコンだのなんだの言われまくってるよ、だからもう諦めたんだよ、周りになんと言われようがもう知らねって、少女に手を出した変態鬼畜野郎だと言われようが全てを受け入れようと腹くくったんだよ……」
「いつも以上に目が死んでるぞオイ! 本当に受け入れられてるのか!? 本当は心が痛いんじゃないのか!?」
土方の問いに銀時は虚空を見つめる表情で、周りの冷たい視線や罵詈雑言なんて屁でもないと言い切るのだが
明らかにヤバい目をしているので本当に大丈夫なのかと慌てる土方。
すると彼等の傍で立ち合いとしてずっと座っていた山崎が唖然とした表情を浮かべて
「副長、万事屋の旦那もあっさりと吐いちまったしもういいんじゃないですか? なんかもうそっとしてあげたい様な……」
「いい訳ねぇだろ、コイツは親の目の届かない所でガキにガキを孕ませた男だぞ、そんな無計画なちゃらんぽらん野郎がキチンと嫁と子供を真剣に養おうとするとは思えねぇ、だからここはガツンと言ってやらねぇと」
「あ、思ったより旦那の事考えてくれてたんですね副長……」
てっきりノリで捕まえて来たと思っていたのだが、土方は神楽と所帯を持つことになった銀時へ、警察の立場として身の振る舞いを改めろと忠告する為だったらしい。
ちょっと感心する山崎をよそに、土方はまだ虚空を見つめている銀時の方へ視線を戻して
「成人男性が未成年の少女に手を出すっつうのはまあ、言葉だけなら真っ黒だが、ガキの方かそのガキの保護者が警察に訴えなければ罪には問われねぇ、例え年の差が離れようが真剣交際なら問題ないって事だ。だから今から別にお前を捕まえるような真似はしないから安心しろ、今の所はだが」
「悪気はなかったんだよ……2年経ってしばらく会わない内にちょっと大人びたなーと思っただけなんだけど、また二人で同じ屋根の下に住む事になって、そっからすぐに新八がいなくなって……そしたら自然とアイツと二人で過ごす時間が増えてそっから段々……」
「なに勝手に馴れ初め話始めてんだ! 聞いてねぇし聞きたくもねぇよこっちは! 俺の話をちゃんと聞け!」
突然神楽を意識するようになって来た頃をブツブツと呟き始める銀時に、机を拳で叩きながら土方は怒鳴り口調でツッコんでいると
「どうだトシ! 取り調べは順調か!?」
「近藤さん……」
勢いよくドアを開けて取調室に入って来たのは局長の近藤であった。
様子を見に来たのであろう彼に土方は顔をしかめて首を横に振る。
「悪いが序盤からつまづいてる状況だ……どうやらテメーが所帯を持ったという現実をまだ呑み込めていないのか、会話が上手く噛み合わねぇ……」
「よし、ならばここは純情派の俺に任せてくれ、ムチがダメならアメでいこう」
自信ありげにそう言うと、近藤はツカツカと銀時の方へ歩み寄り、彼の耳元に顔を近づけると
「よぉ万事屋、遂にお前も所帯持ちか、てっきりお前はトシと同じでそういうモノを持たない主義だと思っていたが俺の思い込みだったようだな、年の差など関係なく俺は素直に祝福するぞ、おめでとう」
「はぁ、どうも……」
「あの、それと祝福するついでにちょっと聞きたいんですが……」
お前に祝福されても全く嬉しくねぇよと言った感じで、目も合わせずに適当に返事する銀時に対し、気にせずに近藤はどこか丁寧な物腰で
「自分よりずっと年下の相手を口説き落としたそのテクニックを……ぜひ俺にも教えて下さい」
「アメをやるどころか自分からアメ貰いに行ったァァァァァァァ!!」
ずっと年下の神楽と結ばれた銀時を参考に、自分もお妙と結ばれたいと深々と彼に頭を下げる近藤。
土方が叫ぶ中、それに対して銀時はめんどくさそうに
「……まあ、口説くっつうか、俺の場合、長く一緒の生活を送っている内に自然とそうなっちまっただけだから、お前もあの女ゴリラとくっつきたいなら、まずは同居からスタートすればいいんじゃないの? ゴリラ同士だし一緒に檻の中で暮らすとか?」
「コイツもコイツでロクでもないアドバイスしてるし! 同居からスタートってなんだよ! その時点で既に手順飛ばしまくってんだろ!」
「なるほど! ありがとうございます先生! 早速新居に相応しい良い檻を見つけてきます!」
「新居に相応しい檻ってなに!?」
普通の人には全く参考にならない銀時の体験談を鵜呑みにし、メモを取りながら彼に礼を言う近藤。
彼の結末がどうなるか目に見えていると土方が確信していると、そこへ再びドアが開いて……
「土方さん、旦那と面会させろって今にも暴れだしそうな奴がいるんですがどうします?」
取調室にやって来たのは今度は沖田であった。
のほほんとした感じで中へと入って来ると、どうやら銀時との面会を求む者がいるらしい。
それを聞いて土方は「あ?」と彼の方へ顔を上げる。
「コイツに会わせろだと? 悪いが今俺達はコイツの腑抜けた根性を叩き直してる所だ、お帰り願え」
「いや待ってください副長!」
誰なのかも聞かずに断って帰らせようとする土方であったが、そこへ山崎が待ったを出して沖田の方へ顔を上げる。
「沖田隊長、旦那と会いたがってる人ってもしかして……」
「ああ」
嫌な予感を覚えて恐る恐る尋ねる山崎に、沖田はクイッとドアの方を親指で指して
「自分を旦那の嫁だと思い込んでいる精神異常者でぃ」
「思い込んでるんじゃなくて正真正銘銀ちゃんの嫁よ! ぶっ殺すわよサディスト!」
「すぐそこにいたぁぁぁぁぁぁ!!」
沖田が呟いた途端タイミングよくドアを蹴破って強引に中へと入って来たのは
数十分前に銀時と入籍したばかりの神楽、否、坂田神楽であった。
徐々に膨らんでいるお腹を抱えたまま、他の隊士達を押しのけでここまで殴り込みに来たらしい。
「いきなりウチの銀ちゃんを攫ってどういうつもりよアンタ達! 答えによってはアンタたち全員この場で血祭りにするわよ!!」
「おーおーおっかねぇ事言いやがる、女は妊娠すると感情の起伏が激しくなるっつうの本当だったのか」
「ああ!?」
妊娠四カ月目の状態であろうが、夫の危機は自分で何とかして見せると興奮した様子で握り拳を構える神楽。
すると沖田はそんな彼女の方へ振り替えると感心した様子に頷き
「安心しろチャイナ夫人、テメェとは長く争っている俺だが今回の件は素直に喜んでるんだぜ」
「気持ち悪い事言ってんじゃないわよ、アンタに喜ばれても全然嬉しくないわよこっちは」
今までどんだけ自分とぶつかってきたクセに、ここに来て彼が素直に自分の幸せを喜ぶなど絶対にあり得ない。
絶対に何か裏がある……そう直感してジト目で彼を睨みつける神楽に対し、案の定、沖田はニヤリと笑い
「なにせ俺がいずれ倒したい相手トップ3の中にいる二人の間がガキを生むんだぜ、そんな戦い甲斐のありそうなサラブレッドが生まれるなんて聞いちまったら……いつ戦えるのかと俺はそのガキの将来が楽しみで仕方ねぇ」
「おい待てコラ! アンタ私や銀ちゃんだけじゃなく私達の子供まで狙うつもり!?」
「ガキがそれなりにデカくなったら、俺がいっちょ手ほどきしてやるから楽しみにしとけ、なんなら一家丸ごと相手してやるよ」
「上等よコラ! 坂田一家が全力で叩き潰してやるわよ!」
銀時と神楽、そして二人の間に生まれた子供が成長した暁には、是非ともやり合ってみたいと志願する沖田に神楽が中指を立ててその挑発に応えていると
「おい総悟、さっきドサクサに言ってたいずれ倒したい相手トップ3って、ひょっとして俺も入ってんのか?」
「自意識過剰過ぎまさぁ土方さん、三人目はコイツの兄貴です、アンタは俺がいずれ倒すトップ3じゃなくて、俺が確実に殺すトップ1にランクイン済みなんで」
「トップ1ってなんだよ! それもうランキングじゃなくていいだろ! ただ俺を殺したいだけだろテメェ!!」
ふと疑問に思った土方が彼に尋ねると、淡々とした感じで明確な殺意をぶっちゃける沖田
やはりコイツには何年経っても安心して背中を預けられないと、土方は頭の中でそう断言するのであった。
しかしそうしている間に、神楽は銀時の方へ歩み寄り不機嫌そうな調子で
「それよりアンタ達もういい? いい加減ウチの亭主を引き取りたいんだけど?」
「ああ、もう勝手にしろ、身重の状態でこんな所まで来させて悪かったな、詫びとして家まで車出してやる、おい山崎、コイツ等を送ってこい」
「あ、はい!」
妊娠中の神楽の気を遣ってここまでご足労かけたと、山崎をアゴで使って彼等を送迎する事に
しかしだからとって彼女の機嫌がよくなるわけではない。
「やっとこの人と入籍出来たのよ私は、なのにその後すぐに旦那を拉致されるって……なに考えてんのよアンタ達」
「そいつは本気で悪かったと思ってるさ、けど言っておくが俺達は別に、お前への嫌がらせ目的でコイツを捕まえたんじゃねぇ」
やや本気気味に怒っている様子の神楽に、土方は改めて詫びを入れると銀時の方へ視線を向ける。
「コイツが上手く亭主として、父親として上手くやれるのか忠告する為に連れて来ただけだ」
「はぁ? なんでそんな事をアンタ達に心配されなきゃならないのよ、こっちはそんな事頼んでないっての」
「コイツは俺が知る限り一番のダメ男だ、お巡りさんとして、これからはちゃんとしろと釘を刺す必要があったんだよ」
「それ警察の仕事? 心配しなくても銀ちゃんがちゃんとする必要なんてないわよ」
「ああ?」
警察というより個人的に気になったから忠告しようとしたのだろと、素直じゃない土方に神楽は思わず笑ってしまうと、覇気のない銀時を立たせて肩を貸す。
「銀ちゃんは銀ちゃんのままでいいアル、私が好きになったのはこの宇宙一のダメ男、だからこのままでいいネ」
「……」
「ほら行くヨ、銀ちゃん」
堂々と素直な気持ちを告白すると、神楽は銀時と共に、屯所の入り口で車を出して待機している山崎の所へと向かうのであった。
「はぁ~俺が遂に所帯持ちか~……俺上手くやっていけんのかなぁ……」
「市役所で婚姻届出してからずっと同じ事言ってるアルな、もう入籍したんだから今更不安になってももう遅いネ」
「仕方ねぇだろ……なんだか実感湧かねぇし、この先の事を考えるとちゃんとやれんのかって頭痛くなんだよ」
「大丈夫ヨ、銀ちゃんがちゃんとしなくても、私がしっかり面倒見てあげるヨロシ」
ぐったりする銀時に笑いかける神楽、そんな対照的な夫婦の姿を黙って見送った土方は
彼女達が部屋を去ると思わず自然に口元がほころんでしまう。
「平和になっちまった江戸に俺達が必要があるかと悩んでいたが……どうやらこれからまた退屈なんてしそうにねぇな」
「あの連中はいつも俺達を驚かしやがる。旦那達がいる限り、ハナっからこの国に平和なんて訪れる訳ねぇって事か」
「あの二人のガキが生まれ、デカくなれば更に騒動を引き起こす火種になるだろうよ。こりゃこの先も真撰組として江戸を護っていかなきゃならねぇとな」
「ええ、俺もそのガキといずれやり合いたいんでね、それまでしっかりここで剣振り回しておかねぇと」
真撰組はまだ江戸を去るわけにはいかない、久しぶりに銀時達と会えた事で土方と沖田ははっきりと理解した。
この国には彼等の様な一筋縄ではいかない連中がごまんといる、そんな彼等を抑え込む存在として、やはり真撰組は必要なのだと
「近藤さん、どうやら俺は大切なモンを忘れちまっていたらしい。これからはもう仕事に対して文句は言わねぇよ、これからも俺は真撰組として……」
不思議と満ち足りた気分で土方は近藤の方へ振り返った。
だが近藤はというと無言で携帯をいじりながら
「やっぱりこの核爆発にも耐えられる檻にしようかなぁ……俺とお妙さんとの愛は核でも壊す事は出来ないって良いキャッチコピーになるし……」
「近藤さん、アンタは”ちゃんとしてくれ”」