IM NOT MAN.I AM A DEAD MAN 作:HIKUUU!!!
車に戻った俺は、右大腿部に入れていた煙草が空になっていたのを思い出し、ドアをこじ開けダッシュボードにぶち込まれていた新しい煙草のパッケージを取り出して封を切る。あたりの喧騒が一時的に消えた車内で、緩やかに煙草を咥えて何時もの様に火を付け肺へと煙を流し込む。
ふぅぅぅっと溜息交じりに煙を吐き出して、空気へと溶けて消えていく紫煙をぼーっと眺めながら、病弱で病院と自宅療養の繰り返しだった妹の姿を何故あの子に見たのかを、疑問に思いながらも額に左手をやり、視界から来る光を遮りながら眉間に寄った皺をほぐす様に撫でる。
ああ・・どうして・・・。戦い続ければ、この未練も消えるものだと思っていた。妹への救えなかった後悔も、家族への思いも、全て燃え尽きて黒く塗り潰されるとばかり思っていたのに・・・一つ命を奪えば、また一つ家族が恋しくなる。優しく幸せだった頃の思い出を遠ざければ遠ざける程、後悔が、郷愁が募っていく。銃を一発撃つ度に、有りもしない母の泣く顔が見える。父の戒める様な怒声が聞こえる様だ。
それらと折り合いをつけて今があるのに次は、リサに似た子が現れた・・・。世界はどうあっても俺を許しはせずに、苦しみ続けろとのお達しらしい。こんな目出度い日に気の緩んだ瞬間を狙うかの様に訪れた予期せぬ衝撃は、最大限の苦しみとなって俺を襲ってくれた。
傷を負うのは慣れた。痛みだって、一時的なものに過ぎない。敵を殺すのに支障が出るだけで、そうじゃない。違う、違う、違う。
心の苦しみは、痛みだけは、この胸の痛みだけは何時になっても癒えなかった。寧ろ酷くなっていく。過酷な戦火に身を焼かれ、銃弾が鍛え上げた肉体を貫き、血を流す度に胸が痛んだ。今日、今この時だって痛み続けてる。心の内で、遥か昔に離れた故郷から残響する家族の俺を呼ぶ声は今は、悲痛な声ばかり聞こえる。
気を抜けば聞こえるんだ。セイジ止めて。もう戦わなくていいのよ。私達の事を悔やんでも良い。だけど幸せに生きてと母の泣きながらの悲痛な叫びが、父のお前にそうなって欲しくて俺達は君を育てたんじゃない。目を覚ませ。という父の竦める声。リサは心の中で会えば何時も俺に対する呪詛を吐いている。そうだろうな、何もできなかった無能な男・・・。優しさで世界が変わると思っていた頃の、糞愉快な男・・・。
そんな物はなかった。俺はデッドマン。超帝国主義派を壊滅させる願いを抱えた幾多の思いを背負って、戦っている。セイジは眠れ。眠るのだ。任務が終わる迄、俺は死ぬのだ。死んで戦うのだ。この自己暗示も何度目だ。精神がブレて機能する度に、行ってきた自己確立は。もうやりたくない。そう思っても現状がそれを許さない。俺自身も許せない。
休憩は終わりだ。立て、兵士。
ガチリとむりやり当て嵌めた自己の精神の器へと、煙と同じ様に、空気へと霧散して逃げて行こうとする哀れな男の魂をこの継ぎ接ぎの鋼鉄の肉体へと押し込めて、不死身の男は完成する。逃げれない。逃がさない。敵も、俺もこの運命から逃げれない。どちらかの命尽きるまで殺し合うのだ。
酪調状態にも似た一種のトランス状態を、振り払うべく残りの煙草を一息で吸い込み、握り潰して消火。携帯灰皿に吸い殻を叩き込んで車のドアを開けて、持ち場へと戻る。
ああ・・あと何度これを繰り返す事になるのだろうと、己自身に分かる筈もない疑問を投げかけながら、俺は警備へと戻るべくしっかりとした足取りで地を踏みしめて歩いて行った。
「早かったな?」
「流石に煙草を喫うだけだ。早々、変な遅刻はするはずがないだろう」
「まあそれもそうか・・」
想定していたよりも早く戻ってきた俺に、ジャベリンがスキットルに入れた紅茶を嗜みながら声を掛けてきた。それに対して10分も動いてない腕時計の針を指さし、心外だと告げると納得した様子でスキットルに入った紅茶を一口噛み締める様にジャベリンは飲み、スキットルのキャップを閉めた。
後、どうでも良いがスキットルに飲み物入れて飲む奴を見ると、作戦行動中にウィスキーやウォッカ隠して入れて飲む奴を知ってるからか、微妙な気持ちになるのは伏せておこう・・。
その後も特に、あの糞共の様なやらかそうとする輩は来なかったものの、ナンパ目的で来たのか変なチャラい男共を、ジャベリンと奴等のケツを蹴り上げながら追い返したくらいか。
「俺達はG&K社の基地所属の小隊指揮官だぞ!こんな真似してただで済むと思うなよ?!」
「だからIDで今回の来賓登録されてねぇって何度も言ってるじゃねぇか。さっさと帰れ。ヤることしか考えてねぇ猿共。目出度い日に仕事増やすな恥知らず」
「あー、って訳だから説明したた通りお宅等のIDが率直に言って拒否されてるから帰ってくれ。あんた等一体なにしたんだ?」
「言わずとも分かるだろうよ。ここの基地の戦術人形のスタイル見て口説きにかかった事がある連中だろ。データベース見て見りゃ罪状というかなんというか・・見て見ろ。糞見てぇな連中だ。俺が女ならタマ蹴り上げてるね」
ジャベリンと話しながら最後の一団であるナンパ師(自称小隊指揮官)達の戯言をうんざりしながらケツを蹴り上げて、ゲートから転がしながら溜息を付いてゲート横のモニターに映る罪状を見て、更に顔を顰めて飽き飽きとしながら更にケツを蹴る。とんでもねぇ馬鹿野郎共だ。
「悪い。正直お前が女になった想像が出来ない」
「奇遇だな。俺もだ」
「痛い!タマを蹴ってる!僕の大事なハニー達を喜ばせる大切なものだぞ!?」
「じゃあ今日でバイバイだな。お薬出しておきますね~・・・レックゥ!!!」
「あ”あ”ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
「効き目一生。今日から女として生きて見ろ。案外性に合ってるかもしれんぞ?」
「うわっ・・えげつなっ・・そこまでやる必要なくないか?」
「義妹が万が一会ったら事が事だから早い内に禍根は潰しておこうと思ってな・・・」
「あんたの義妹さん、こんなバカに引っかかるってのか?」
「変に純粋だから騙されそうな気がしてな・・・」
「あぁ・・成程ね」
口喧しい一人の股間にぶら下がった粗末な物を気合を込めて鋼鉄の義肢の出力30%程度で蹴り上げ、ぐしゃりと潰れたのをズボン越しに確認しながら叫び声をあげて涙を流して股間を抑えて蹲る一人を摘まみ上げながら他のナンパ師共に尋ねる。
「今日から、新しい人生を開拓したい奴はいるか?こいつの様に」
奴等は一斉に顔を青ざめて首をブンブンと横に振りながら、泡を吹き始めた玉無し君をひきずりながら逃げるように出て行った。そんな必死に逃げなくても撃つ気はないんだがなぁ・・・。
「いや、撃たれる心配じゃなくて確実にタマ潰される事の方が恐怖だったんだろ」
「なくても生きては行けるだろ?」
「男としての尊厳失いたくないんだろうさ。俺も同じ立場なら逃げるね」
「・・・解せんな・・・」
逃げていく集団をジャベリンと二人で見つめながら先程アメリカンガールに持って来て貰った瓶の表面に水滴が集ったキンキンに冷えたコーラを、何気なく手刀で飲み口を水平に切り落としながら一気に煽り飲み干す。
「変に喉渇いたからなぁ・・・あの子には感謝だな・・・」
「いや・・お前、それ・・・」
「ん?」
「何でもないわ。悪いな」
地面に落ちた飲み口部分の瓶と俺が手に持つ瓶を交互に指さすジャベリンに首を傾げながら、一気にコーラを煽り、口内を刺激する炭酸と爽快な甘さにリフレッシュして切り落とした飲み口と、瓶を近くのごみ箱へと入れながら腕組みをして日が暮れ始めた綺麗な夕焼けに目を細めて呟く。
「そろそろ、披露宴か・・・」
お待たせしました。申し訳ナサス。こっそり投降してもばれへんやろ・・・(脱走兵)