IM NOT MAN.I AM A DEAD MAN 作:HIKUUU!!!
コミュ障大男
煌びやかな装飾と華美な照明に照らされた室内を、何となしに突っ立ってぼーっと眺めて・・・今まで出席した友人や同僚たちの披露宴を思い出しながら感嘆の溜息を吐く。
美しい・・・。此処迄凝った室内の装飾などもそうだが、参加者のテーブルまで豪勢にこの時代の価値にしては高いであろうコーディネートを施された様子に、気合が入っているなと所感を覚えて俺は目立ちづらい壁に寄り掛かろうとすり足で壁際へと後退する。
足音すら目立つような、静かに行われている周りの歓談を邪魔するつもりは微塵もないからだ。
壁際まで後退した俺は、手持ち無沙汰に己の両手を広げて見つつ、ぼんやりと考えに耽る。結婚。出産。育児。・・・つまりは平和だ。愛だ。一般的に定義されるものの幸せの象徴の始まりだ。俺はそれを、この世界で初めて見届ける事になる・・・。
幸せから遠ざかり、闇の道を行く俺には最も縁のない場所・・・。この腕で、愛した人など抱けはしない。冷たく、硬いだけの両腕。見るも無残な傷だらけな体。陰気な性格に、何時も不機嫌そうに表情を歪めた喫煙者。
こんな男、誰も愛してなどくれはしないだろう。頼まれても、それこそ金を積まれたとしても。俺だって同じ身だったらごめんだなと自嘲し、腕を組んでただ待つことを決める。
どうせ、一度死んだ身。地獄に落ちるべき奴等と共にこの身もまた地獄に行くだけか・・・。
「おい、デッドマン。そんな所に突っ立ってないで、此処に座れよ。凄い目立ってるぞ」
「・・・分かった」
ちゃっかり来賓に紛れてテーブルの一角に座っていたジャベリンがこちらへと手招きしていた。おまえ、もう座ってたのか・・・。
壁際からのそりと緩やかに歩を進めながらジャベリンの空いた右隣へと座るべく歩んでいく。義肢のサスペンションから空気が抜ける音が響き、近くで喋っていた見覚えのある白い髪の娘が俺へと声を掛けてきた。
「あ、お兄さんもこっちに来たんですね」
「ああ、是非とも披露宴に参加してくれと言われてな。・・・依頼された側としては複雑な心情だが」
「何でですか?」
「考えても見てくれ。途中で依頼を放り出しては信用に関わる。つまりはそういう事だ」
「別にそこまで深く考えなくても良いと思いますけど・・」
「単に性分の話だ。あまり気にしなくて良い」
「そういえばお名前をお聞きしてなかったですね。わたし、ユノって言います!」
「・・・デッドマンだ。様も敬称もいらない」
良く未だに様付で呼ぼうとする守銭奴娘を頭に思い浮かべながら話し、眉間をなぞる。あいつ、後方幕僚が元々の仕事って言われてたのに俺らの基地に来てからやった事のない業務ばかり押し付けられてるからな。そりゃあ・・・出来んわな・・。
帰ったら、カリーナをねぎらってやるかと思いつつ、座ったまま懸命に俺へと視線を合わせようと頑張っている彼女の為に身を屈めて、膝立ちの状態へと移行する。
「じゃあデッドマン」
「ああ、それでいい」
何が楽しいのかニコニコしている彼女の瞳が常人のそれとは違うと勘づくも、俺も似たようなものだし・・・この世界では有触れた事なのかもしれないと一人納得した俺は特に言及もせずに彼女の病的に白い肌と、若干やつれた頬を見て口を開く。
「ふーむ・・・もし、何か困った事があればうちの会社を訪ねてくれ。格安で受け負う」
「へ?本当ですか?」
「依頼などについては嘘は言わん」
俺の顔を見ているのか良く分からない何処か焦点のあってない彼女の瞳をぼんやりと眺めながら、顧客になりそうな雰囲気と厄介事が付きまとう匂いを感じて気づけば口を開いていた。まあ、何にせよ。現状の我が社はG&Kにかなりの支援を未だに受けているのが現状だ。抜け出すにはそれなりの利益が必要だ。奴等を追う自由な行動力を発揮するには・・・支援を受けなくても動けるだけの資金が必要だ。今のうちに我が社の宣伝もしとかないとな。
「機会があったらお願いしますね」
「その時が来れば、俺は依頼を果たすだけだ。気にするな。使い捨ての駒の宛てが増えたくらいに思え」
ぺこりと丁寧に頭を下げた彼女に気を追う必要な度はないと自分なりに伝え、何処か亡くなった妹と同じ儚げな印象を受ける彼女の様子に後ろ髪を引かれつつ、途切れた会話をそのままに、彼女の隣に座る副官であろうPKKをちらりと盗み見る。俺の動きを警戒していたような印象を当初から感じていたが、複数連れてきていた他のHG人形達とのびのびと会話をしているのを盗み聞き、多少は警戒が薄れてくれたかとホッとする。警備担当がいらん警戒を来賓に与えるなど、笑い話にもならんからな。
そして俺の隣ででごそごそと何かを探っているジャベリンの様子が気になり、声を掛ける。
「何をしている?」
「ん?準備だよ。そろそろ挨拶と新郎新婦の入場だろ?」
と言いつつ、タッパーをテーブルの上にそっと並べたジャベリンの姿に、眉間の皺が寄るのを感じ、眉間の皺を咄嗟に左手で抑える。何も言うな。何も・・・。ひとまずその行為を放置し、他のテーブルの来賓達に視線を彷徨わせて、俺は特に何も考えずに様様なおめかしをしてきた彼ら、彼女らを眺める。そして自分の姿もチラリと鑑みる。やはり、今度からスーツくらいは持ち歩くか・・・。
自分の浅はかさと言うか、先見の無さに軽く渋面を浮かべながら、会場のスピーカーから流れたアナウンスが耳に入り姿勢を正す。
【皆様、大変お待たせいたしました。新郎、『新婦達』の入場でございます。どうか盛大な拍手でお出迎え下さい】
遂に始まるかと、思いながら新婦達という事は、花嫁を引率するて者と一緒に新婦は入場かと勝手に理解し、手を合わせてパラパラと鳴り始めた拍手に合わせて、俺も柏手をしようとし、はたと両手を眺めて動きを止める。
拍手が出来ない。
両手とも金属製のせいで拍手した瞬間、金属がぶつかる音しかしないのではないかこれは?
試しに軽く、本当に軽くだが、拍手をしてみた。
――――――ガギン!ガギン!ガギンッ!!!
剣戟の様な音を立てて、違和感と共に奏でられる不協和音に思わず首の向きを変えて此方を見てきたジャベリンとユノの視線から顔を背けながら、仕方なしにこのポンコツ義肢の指の形を変え、親指と人差し指で輪を作り、口の中に入れて思い切り息を吹いて指笛を鳴らす。せめて拍手もできないなら少し、どころか親しい間柄でもないのにこんな真似をするのを許してもらいたいが、せめてもの祝福の意思を込めて指笛を吹き続ける。鉄の味しかしない。ぴゅいぴゅいと控えめに鳴らし続けながら、可哀想なものを見る様な目で見てくるジャベリンに少しイラっとしながらユノのポカンとした表情に更に顔を深い角度で背ける。
俺を見るな。新郎新婦を見ろ。
ステージ風に整えられた壇上の奥から、人影が複数見え現れた女性達と新郎の姿に思わず指を口から離し、無心で
見つめる。ああ、新婦達ってそういう意味かと。
現れた彼女達は花嫁衣装に身を包み、感涙を流しながら新郎に寄り添って歩く先程ダミーとはいえお会いしたHK417を筆頭に新郎を囲む形で現れた花嫁の一団に思わず感嘆の溜息を漏らす。
美しい光景だ。これが、俺/私の本当に見たかったものかもしれない。幸せ、平和の形・・・。
俺にしては珍しく、本当に何も考えられずに彼らの幸福の絶頂の瞬間を共に過ごせる事に、感謝を抱く。ありがとう。この光景を見せてくれて。ありがとう。ただ、素直にその感想しか出て来なかった。
気付けば自然と口角が上がり、緩やかな笑みを浮かべながら俺は、彼等の姿を目で追っていた。
ああ、この光景のおかげで、改めて覚悟が決まったよ。こんな光景を、明日香が恋人を作って安心してこうなれる
様に・・・俺は、
戦える
それと。どうでも良い事かも知れないが417はダミーより・・その・・・なんだ・・・かなりデカいんだな・・・
最後まで締まらねぇなこいつ(死人のブレを楽しみつつ)