IM NOT MAN.I AM A DEAD MAN   作:HIKUUU!!!

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ブーケトスを見届け食事を摂る事になった死人。


cross line 結婚式 終

静かに義肢を動かし、両手に持つフォークとナイフを動かし脂の乗りに乗ったフォアグラを丁寧に切り分け、口へと運ぶ。咀嚼するというより揉み込むように舌の上で消えて行くフォアグラの官能的な旨味と甘みを口内一杯に感じ取りながら、頷き呟く。

 

「・・・美味だな」

 

「ああ、こんな美味いもの初めて食った」

 

「天然のものは異常に高いんだよな?この世界は」

 

「そうだ。だから養殖ものとはいえこんな上等なもの滅多に食えないぞ」

 

カチャカチャと余り音をたてないようにしてフォアグラの最後の一欠けらを口に放り込みながら、フォークを皿の端に静かに置き、ナプキンで丁寧に口元を拭う。大変美味かったが、前菜という形で高価すぎるものは全体に行き渡る様に、提供し他の物はビュッフェスタイルで食べれるようにしているのか。

基本顔見知りが多いこの基地ならではのスタイルにしたわけか・・・。参列者の事をよく考えているな。

 

「と言うか俺はお前がこんな上品にナイフとフォークを使えると思わなかったよ」

 

「それは、俺が粗野な見た目だと言いたいのか?」

 

「いや、そう言うわけではなくてだな・・・。俺達傭兵ってのは基本そういうイメージだろ?」

 

「下品で粗野、金に煩く下半身に忠実・・・か?」

 

「そうそれ」

 

「そういう奴ばかりではないって事だ。お前もそうだろ?」

 

「いや、そうだけどよ」

 

「俺は依頼の達成の事しか考えてない・・・良くも悪くもな」

 

ジャベリンの指摘を軽く受け流しながら立ち上がり、大きなテーブル状に並べられた色取り取りの料理を賞味するべく椅子を戻しながら奴に声を掛ける。

 

「折角の馳走だ。今の内に食える分だけ詰め込んどけ」

 

「言われなくても」

 

二人でテーブルへと向かいながら周囲の華やいだ雰囲気に若干しり込みしながら、サラダを皿へと運び、サーモンのカルパッチョなどを装っていく。

 

「しかしすげぇなジャパンの料理まであるじゃないか。ここの人形達が作ったのかな?」

 

「・・・」

 

その言葉にピタリと俺は止まり、ジャベリンが見ていた日本料理を幾つか装い、素早く席へと引き返す。

 

「あ、おい」

 

「・・・先に戻る」

 

言葉少なく、元の席に戻った俺は湯気を立てる炊き込みご飯と魚の煮つけを一瞥し、香りを嗅ぐ。醤油の照られた香ばしい香り、出汁の効いた煮汁のふんわりと暖かい匂い。そして・・・卵焼き・・・。

結婚式に相応しいかと言えば、違うものだが・・俺の琴線に触れた。懐かしい故郷の、他人が作ってくれたなじみ深い料理・・・。

もうそれしか目が行かなく、温かい炊き込みご飯をご丁寧に用意されていた箸を使い、口へと運ぶ。

 

「・・・!!」

 

・・・美味い。俺の知ってる味に近い・・・!何処かで食べたことのある味だ!望んでいた味だ!

 

感情のブレで震える義肢で卵焼きを摘まみ、口へ運ぶ。砂糖の控えめな甘さ・・・出汁が効いていながら主張しすぎない旨味に、卵本来の甘味。俺は知ってる。この味を・・!ずっと望んでた!

もう二度と食べれないと思ってた味に近い・・・!近いんだ!

 

「あ・・・母・・さん・・・・」

 

もう一口、今度は煮魚を食べて、気づいてしまった。ほろりと箸で崩れる程煮込まれながらも魚の身の弾力を損なわない、しっかりと煮られた美味しい切り身に・・・小骨が丁寧に取り除かれているのを見て気づいてしまった。

愛情たっぷりの食べるヒトの事を考えた手の込んだあったかくて優しい料理・・・。

 

母さんの料理の味に似てるんだ・・・

 

自覚した瞬間に涙が止まらなかった。失い続けて、カラダさえ滅茶苦茶なのに、覚悟を決め始めた所でのこれは辛い。優しい味なんだよ・・・。俺が欲しかった愛情。それが詰まってるんだ。

 

力なく両手をテーブル上へと置き、溢れ出る涙をそのままに顔を伏せる。優しいなぁ・・優しいんだよ・・今回の依頼で俺の知り合った連中・・・優し過ぎるんだよ・・・。だからこそどう接していいのか分からない。

右手で顔を抑えて嗚咽も漏らさずに、只ひたすら泣く。溢れ出る涙が止まらない。求める心が止まらない。家族に会いたい。

平和な世界でもう一度家族に・・・!!

 

「・・・!」

 

 

ギリリと歯軋りを零して、涙を引っ込めるべく耐える。どれだけ望んでも家族は帰って来ない。この現実を理解しないと、耐えないともう戦えなくなる。

 

深々と溜息を吐いて涙を拭い、無心で日本料理を口へ運び、じんわりと押し寄せる心の底から湧き上がる温かい感情に、募っていく悲しみ。それを耐え忍びながら俺は食べきった。

 

「・・・ご馳走様でした」

 

美味しかった。だがそれ以上に心も苦しかったが、満たされた気がした。

母に、しっかりしろと叩かれた時の事も思い出せた。

 

「美味しかったですか?」

 

「・・・これ以上なく、美味でありました」

 

いつの間にか、横でニコニコ笑っていたHK417の・・・こう判別すると失礼だが、胸部が一段とデカい方が俺へと話しかけてくれ、俺は真摯にそれに答える。限りなく美味かった。それは本当の事だから。416に似た銀の髪を煌めかせ、花嫁姿のまま微笑んでいるのを見て頭を下げる。胸の谷間が、身長差から見えてしまい目を背ける。

間違えても俺は不快な思いをさせるわけにもいかない。

一礼し、彼女の背後で不意に見えてしまったユノの、凄まじい食欲と食事を掻き込む姿を見てしまい、思わず驚愕する。

 

「うん?!」

 

「ああ、ユノちゃんですか?あの子良く食べるんですよ。ふふふ、今日も元気な様で良かった」

 

417は何度か彼女と面識があるのかそう何でもないように告げ、微笑を携えながら彼女の様子を見守っているが、ユノの周りを子供達として連れて来たであろう戦術人形が楽しそうにわちゃわちゃと、「お母さんこれも!」「こっちも美味しいよ!」とドンドン皿を持って来ているが、それ以上に吸い込まれる様に彼女の口の中へと食べ物があっという間に消えて行く。なんだあれは・・・

 

「お前はお前で有言実行するのな・・?」

 

「いや、こうしないと部下が五月蠅くてな・・・」

 

ジャベリンはジャベリンでマイペースにタッパーにいそいそと様々な食べ物を入れている姿が確認でき、俺は思わず額に手をやり溜息を吐く。主催者がいるのに、暢気な奴だ・・・

 

「あ、こっちのお料理も日持ちしますよ?」

 

「お、助かります」

 

・・・もはや何も言うまい。花嫁がタッパーに料理を詰めるのを咎めないのも可笑しな話だが・・・まぁ、これくらい緩い空気のがこの場所には合っているのかもしれないな。

 

「まぁまぁ、デッドマンも楽しんで行ってくださいね?」

 

「・・・楽しんではいます。ですが、私としては・・・いえ、何でもありません」

 

まぁ全員の気が緩んでようと俺が最悪盾になればいいか・・・。いつの間にか近くにいたディーノ指揮官が、417を迎えに来たのか、律儀にもわざわざ俺に声を掛けてきた。

 

「やあ、楽しんでるかな?」

 

「ええ、ここ数年で珍しく・・落ち着いてはいます」

 

「ははは、本部が提携してる会社の中で沈黙を保っていたGoodSmileカンパニーの看板とは思えない謙虚さだな。戦場では謙虚ではないのだろう?」

 

「お察しの通りです。望むなら全て灰にして見せましょう。超帝国主義者共なら尚の事喜んで」

 

暗に、この依頼が終わっても頼んでも良いかという含みを持った言葉にすかさず答える。

情報をくれ、依頼と言う形で信用を得る機会があれば・・・俺達はこの世界に根付きだした奴等を叩く準備が整える事が出来る。泥を啜ってでも、俺は奴等を殺し尽くしたい。

 

「まぁ、見ての通りこの基地は基本前線に近いが・・・穏やかなものだ。たまにハニー達が頑張ってくれるけどね?」

 

「手に負えない状況ならすぐにご連絡を。俺は何時でも出撃可能です」

 

「頼もしい限りだ。武器庫の傭兵部隊も噂は聞いていたけど、いや、何方も練度が高いな?」

 

「あちらは部隊として現状の我々より上です。ですが、俺個人なら余程の手練れでない限り食らいついて見せます」

 

「・・・戦力評価も色眼鏡で見ないか。油断ならないね、やっぱり君」

 

「あなたほどではございませんよ。今日は、あなた方の目出度い日です。これ以上ビジネスの話をするとそちらの奥方に不貞腐れられてしまいますよ?旦那様」

 

「おっと、それもそうか。ごめんよシーナ」

 

「ううん、大事な事って分かってるから。大丈夫だよダーリン」

 

いちゃつきだした二人を尻目に俺は密かに溜息を吐く。ディーノ・タカマチ・・・やはり曲者か。前線に近い位置の基地司令でここまで平穏に地区を納めているのも伊達ではないという事か・・・。

 

≪それではフィナーレに特別にご用意させて頂いた特性の花火をご観覧頂きまして締めとさせていただきます!本日は皆様ありがとうございました!≫

 

ガトリングを背負った金髪の戦術人形が「やっと私の出番か!待ち草臥れたぜこの時をよぉ!!」と一声叫ぶと式場を飛び出し、すっかり日が落ちて闇に包まれた空へ向かって、ガトリングから飛び出す様々な花火で夜空を彩り始めた。風情と言えば風情だが・・・ガトリングのせいで凄く五月蠅いな・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「今日は本当にありがとう」

 

「礼を言うのはこちらです。また依頼がありましたら我が社へ」

 

「じゃあなデッドマン。次も敵じゃないこと祈るぜ」

 

「それは俺の台詞だ・・・」

 

「またね!おにいさん!」

 

「ああ、困った事があれば、俺達の会社に連絡してくれ」

 

一刻も早く死体をBBの元へ運ばなければならない俺は、式場の来賓が帰宅したと同時にSUVのエンジンを掛けると、まだ残っていたユノ、ジャベリン、ディーノの三人に別れの挨拶を交わし、帰るべくアクセルを踏もうとし・・・

 

「おっとそうだ、デッドマンこれ」

 

「名詞と煙草・・?」

 

「そうそう。ウチの会社の連絡先と結構いい所の煙草だ。何かあったら連絡してくれよ?」

 

「ありがたい。その時は山程金を積んで依頼してやるさ。その分ハードだがな」

 

「うへぇ・・藪蛇だったか・・・」

 

車の窓越しに渡された名刺と封が切られていない煙草の箱を押し付けられ一瞥する。一度だけ組んだ男にわざわざ丁寧な奴だ・・・。ひとしきり軽口を叩き合い、俺は再度三人に挨拶しSUVのアクセルを踏み込む。

 

「では、安らかなる時を・・・さらばだ」

 

 

・・・・・・単純に・・・今を精一杯に生きる彼ら・・・彼女ら・・・彼らの様な輝きは、俺にはもう手に入らないものかもしれない。それでも・・・

 

「・・・彼らの幸せを願って、俺は戦い続けるよ。それしか出来ないから・・・」

 

何が立ち塞がろうと、どんな困難が訪れようと・・・俺は戦い続ける。そして、いつか全ての因縁にケリを付けたら・・・今度こそゆっくり考えよう。死だけが答えじゃない筈だ。俺にもまだ何か出来る事がある筈だと。

 

「良い意味で・・・刺激になった依頼だったな」

 

独り言ちながら、SUVをかっ飛ばして俺は車中で緩やかな笑みを浮かべていた。ここ数年程ない・・・穏やかな笑みを・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




と言う訳で私の方でのHK417ちゃんの結婚式はこれにて終幕となります。遅くなりましたがコラボ許可していただいた方々ありがとうございました。紹介する作品が多すぎるため割愛してしまい申し訳ありませんが、次回も実はコラボなので読者の皆様はほんへのぞんでるかどうかわかりませんがもっと首長くして待ちやがれ下さい。

ネタだけばらすと焼肉です。色んな基地の人呼んでの。まー楽しみにしていてください?

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