IM NOT MAN.I AM A DEAD MAN 作:HIKUUU!!!
「んっしょ・・・」
クーラーボックスのベルトを肩に掛けて、重たさに体をよろめかせながらBBさんの後をついて行きます。歩くたびにカラリと中の氷と氷がぶつかり合う音を耳にしながら重たさに思わず泣き言を漏らしてしまいました。
「重たいよ、これぇ・・」
「そうだろうな。流石にやりすぎたな。すまないね」
「本当ですよ」
「だが、ここらへんで息抜きをしないとオープンが直ぐに来て誰も休めなくなる。いいタイミングだったと思うがね」
「だからって、これは酷いよBBさん。お肉腐っちゃったらどうするつもりだったの?」
「ミンチにして畑の肥料に加工だな」
「・・・もう何も言いません」
腐ったお肉肥料にしても疫病とか衛生面でアウトだと思うなぁとか考えてたら、いつの間にか基地の片隅にあるお兄ちゃんのレストラン付近まで来ていました。
レストランの周りにはお兄ちゃんのお母さんと本当の妹さんが好きだったシクラメンの花壇に、季節の花を幾らか植えてるので今の季節的にミニひまわりと、ちょっと季節外れの紫陽花が誇らしげに咲き誇っていました。
そんな花壇の周りに、同性としても羨ましくなる様な魅力的な包容力がありながら茶目っ気もあるスプリングフィールドさんと、冷たい雰囲気からは想像も出来ないほど面倒見が良いHK416さんが花壇のお手入れをしてました。
何というか意外な組み合わせだなと思いながら二人を見ていましたが、何やら話している様なのでちょっと興味に駆られた私は盗み聞くことにしました。
「意外と女性的な装飾や花を好まれますよね。ウチの指揮官・・・今日も紫陽花がきれいに咲いてますね」
「鬼みたいな見た目に似合わず、女々しいのよ。後、気障ったらしい。だから色んな娘引っかけてくるんじゃないかしら?」
紫陽花の花に顔を寄せて微笑みながらスプリングフィールドさんが左で同じく、奇麗に紫陽花の伸びてきた葉等を剪定しながら小さな片手サイズの枝切りバサミでパチンと余分な歯を切り落としながらツンとしたまま返事を返しています。指揮官ってお兄ちゃんの事だよね・・・?
「あれで天然っていうんですから、罪作りな方ですよね。そこのところどう思いますか?HK416」
「そういうあなたこそどう思ってるのよ。私は別にあいつがどうしようと、誰を選ぼうと関係ないわ。私は、彼にとっての完璧な兵器よ」
「じゃあ私が狙っても問題ないんですね?」
「知らないわよ。勝手にすればいいわ。選ぶのは彼よ」
な、何か雰囲気も会話も怪しくなって来たなぁ。笑顔なのにどこか威圧感のあるスプリングフィールドさんと、赤い涙のタトゥーが陽光できらりと光って流し目で、スプリングフィールドさんを睨む様にちらりと見たHK416さんの間に火花が見えるよ・・!!
「明日香君、レストランの厨房スペースにボックスを置いたら一旦休憩しよう。セイジのやつが作り置きしていたアイスを見つけた」
それ、たぶんお兄ちゃん個人用に楽しみにして作っておいたものだと思うんだけど、食べて大丈夫かな?
二人の会話も気になるけど、確かに暑い中移動したからか体は火照ってるし、のども乾いて来たなぁ。ちょっと、お兄ちゃんには申し訳ないけどちょっとだけ貰おうかな。
後ろ髪を引かれつつ、徐々に剣呑な雰囲気になっていく二人からそっと離れて私は厨房に足を向けた。
何のアイスかなぁ・・・♡
「セイジを誑し込もうとしてるのはあんたじゃない。貞淑な妻のつもり?」
「如何にも私が妻ですってしれっと素知らぬ顔で傍らに控えてるあなたには言われたくないですね・・・?」
わたしなーんにもきこえなーい(棒)
「ん?外が何やら騒がしいな?」
「気にしない方が良いよ。BBさん、それよりアイス食べよ?」
「んぅ?まぁ、そうだね」
厨房からひょこっと顔を出したBBさんが、外で私が離れた後に本格的に言い争いし始めたのだろう小さく聞こえる声に首を捻りながら確かめに行こうとしたのを私は慌てて止める。行ったら絶対に八つ当たりされるよ。私の言葉に行くのを辞めたBBさんは冷凍庫からアイスの入った金属製の、霜が張り付いたボックスを複数個引き摺り出して、アイスクリームディッシャーを引き出しからボックス同様複数個取り出す。淀みなく行われる迷いのない行動の速さに私は一つ勘づいてしまった。
BBさんもしかしなくてもしょっちゅうお兄ちゃんのアイスとか作り置きの料理つまみ食いしてる?
眼鏡をきらりと光らせながらディッシャーを使い分けて、チョコレート、ストロベリー、バニラをお皿に分けながらいつの間にか持っていたスプーンを二人分のお皿にカランと音を立てて置いたBBさんがずいっとアイスが乗っかったお皿を差し出してくれた。
「味は何時も通りあいつが作ったものだ。保証しよう・・・なんてな。あいつの真似だ。似てたかい?」
「ふふふ、あんまり似てなかったよ?」
「うーむ、やはりあいつの様な低くて威圧感のある声は無理か」
「単にお義兄ちゃんが柄が悪すぎるだけだしね。声音まで怖いもん」
「知り合いじゃなかったら絡みたくないレベルだしな。傷面に大男、それにあの威圧感」
二人でなんとなしに他人だったらの場合を想定してお兄ちゃんを貶してみる。どう足掻いても兵士以外の職業人ですって言われても納得できない外見だもんね。
ま、それはそれとして・・・頂きます。
スプーンを使って私は口に運んだストロベリーフレーバーののひんやりとして体温で溶け出すアイスの独特な舌触りと爽快感に瞳を閉じて味を楽しむ。口内いっぱいに広がるストロベリーの甘酸っぱさとベースにしてた薄味のバニラを混ぜたコクのある味わいに思わず顔がニヤケちゃう。
美味しいなぁ。
BBさんも大きく掬ったチョコレート味とストロベリーのフレーバーを二つ同時に口に放り込みながら満面の笑みを浮かべて「美味い。やはり摘まみ食いは最高だな」と呟いている。ヤッパリ何時もやってたんだね。
二人でアイスをゆっくりと味わいながら、お日様で火照った体を冷ましてのんびりしていたら、レストランのドアからカランコロンと、開閉する度に音を鳴らす備え付けのベルの柔らかい音色が聞こえる。
誰か来たみたいだね。
「厨房に塊は置いていけ。俺が捌いて食べやすいようにカットしておく。ああ、それから指示通りにしっかりとホルモンやら内臓関係は培養漕から出して直ぐに冷蔵したのか?それなら足が早い食材でも多少は持つ。さ、時間は待ってくれない。急ぐぞ」
あ、お兄ちゃんが来たみたい。スタッフさんと一緒にクーラーボックスや氷が敷き詰められたビニール袋に入れたお肉の塊を持って厨房に足早に入ってきました。アイスを食べている私達を目撃したお兄ちゃんは、目をぱちくりとさせて苦笑しながら、荷物をキッチンの片隅に置いて私の頭を撫でてBBさんには空いた手で拳骨を落としていました。
「程々にな、明日香。全く、BBの奴にそそのかされたか?BB、お前がしょっちゅう摘まみ食いしてるのは分かってるぞ。明らかに在庫が合わないからな。原隊に居た時から変わらねぇなお前もマックも。この馬鹿垂れが」
「美味い食い物はそれだけで危険を冒す価値がある。分かるだろ?」
「物資に余裕はあるし、言えば食わせてやるんだからわざわざやるなって言ってんだよ!?」
反省も何もしていない状態でアイスを頬張ってもぐもぐと食べながら話すBBさんの姿に思わず怒鳴るお兄ちゃんの姿に小さな時に見た光景そのままのやり取り、何だかうれしくなって声を出して笑ってしまう。
「あはははは、お義兄ちゃんも、BBさんもわたしが小さい頃に見たやり取りそのまんま!ふふふ、なんか可笑しいなぁ」
BBさんが何かしでかしてお兄ちゃんがそれを叱ったり、後始末をする。本当に何も変わってない二人の仲の良さに
私はつい可笑しくなってアイスがなくなったお皿をテーブルに置きながら笑う。
ずっとこんな平和な時間が続けば良いのになぁ。
キッチンに備え付けの蛇口で手を濯いだお兄ちゃんが、BBさんを叱るのを辞めて本当に時間が惜しいのか素早い手つきで塊肉を大きな包丁で大胆に捌いていく様子を眺めながら、そろりと足音を忍ばせて厨房から逃げていくBBさんの姿に苦笑を漏らしつつ、お兄ちゃんの作業風景を眺めていました。
少しずつ意欲が戻って来たけど待ってる奴おらんやろ・・・ww