IM NOT MAN.I AM A DEAD MAN   作:HIKUUU!!!

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忙しかったのもあるけどこんなに時が過ぎてしまった事に驚愕と失笑を禁じ得ない。すまぬな・・・


お客さんのお出迎え準備!

シャラリと鞘に収められていたマチェーテと見間違うかのような、室内灯に照らされ鈍く輝く解体包丁を、さやから無造作に抜き払い、鞘を片隅へと置いた後、ダン!と力強く振り下ろして肉塊を切断して部位を分けていくお義兄ちゃんの姿を後ろから眺めて足をぶらつかせてみる。

 

椅子から地面に伸びる脚が力なく振り子のように前後しながらリズムを刻むのをなんとなく楽しく思いながら、手の中で包丁をクルクルと回して何かの感触を確かめているのか、ジッと包丁を持つ手を訝しげに見て、首を傾げつつ作業に戻るお義兄ちゃんは、口を開くこともなく黙々と山の様にある肉塊を次々とバラしていく。

 

「ねぇ、お義兄ちゃん?」

 

「なんだ?」

 

「ヘルドッグ・・・雫お姉ちゃんは?」

 

「・・・知らん。俺に聞くな・・・あれと俺は、極力関わらない様にしている。尚更、その当事者たる俺が居場所を知ってると思うか・・・?」

 

顔を顰めながら解体作業の手を止めたお義兄ちゃんがそう苦々しげにポツリと呟き、ゆらりと頭上に解体包丁を掲げ、振り下ろす。

ガン!とまな板を叩き割るかのような勢いで振り下ろされたそれは目の前に鎮座する、巨大なロース肉を二つへと分かつ。

 

「でも、好きだったんでしょ?婚約を結んでた程に」

 

「・・・」

 

「無言は肯定と取るよ?」

 

「・・・資格がない」

 

「お義兄ちゃんに?」

 

「・・・そうだ。俺は、あいつから逃げた。やるべき事があったのも事実だが・・・俺より相応しい男がいるはずだ・・・」

 

「でも、まだ待ってると思うよ」

 

「俺が行くと思うか?」

 

「・・・思えないね」

 

「そういう事だ。お前は、気にするな・・・俺達の問題だ。皆の前では何時も通りに振舞うさ。俺達は・・・」

 

私の視線を背中で受け止めながらお義兄ちゃんは、嘆息しながら滅多に吐露しない自身の心情を私に晒して、作業が一段落したのか解体包丁をまな板に置き、解体した肉をお皿に盛り付けていく。私は椅子からそろりと立ち上がって、お義兄ちゃんの横に立ちながら再度口を開く。

 

「・・・二人に何があったの?」

 

「・・・言えない。あいつも口が裂けても理由を言う事はないだろう。そうだな、簡単に言うとだが・・・俺が・・・いや何でもない」

 

「ごめん・・・」

 

「・・・気にするな。悪いな・・・こればかりは・・・俺と雫だけの秘密と言う事にしておいてくれ・・・」

 

それっきりお義兄ちゃんは口を開かずに、黙ってお肉を盛り付け、解体作業を続けていった。まるで、それ以上はもう聞かないでくれと言った無言の訴えに私も、それ以上の事は聞かずにドアへと歩いていく。

 

「お客さん、そろそろ来そうだからもう行くね?」

 

「・・・ああ、悪いが対応は頼むよ・・・」

 

すっかり何時もの勢いも無く本当に珍しく物静かなお義兄ちゃんが、囁く様に振り向いて告げた言葉に私は返事を返してドアを開け放つ。

 

「うん、任せて。ところでお義兄ちゃん水着は?」

 

「・・・ダイバースーツを用意した」

 

「なんでそんなものを・・・?」

 

「・・・・・・他人に見せれる様な体じゃ無いと言うのもあるが、俺は、肌が弱いから日焼けすると長引くんだよ」

 

「あ、そういえばそうだったっけ」

 

「そういうお前は?」

 

「後でのお楽しみに!」

 

「あ・・・おい・・・」

 

渋面を作って聞き返すお義兄ちゃんを調理室に置き去りにしながら、私は逃げる様にその場から離れた。言えない。結構、その・・・攻めた水着だって事は、今は。絶対お義兄ちゃんの事だから過保護に止めてくるだろうし・・・。

ぱたぱたと小走りで長い廊下を私は駆けていく。しばらくはお休みだし、存分に食べて遊ぶぞ~!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暑い・・・」

 

「怠ぃ~・・・これ先に呑んだら駄目か?おい」

 

「大変魅力的で素晴らしく、民主主義的に可決したいところだが・・・やってみろ。多分、砂浜に生き埋めにされるぞ。セイジに」

 

「畜生っ、あいつ前世ちょび髭の売れない画家だろ絶対」

 

「解り辛い例えだが、申し訳ないが第三帝国はNGだ」

 

照り付ける陽光とコンクリートに反射して茹だる様な熱気にすっかり意気消沈しながら、ヘリポートから少し離れた位置に設営されたテントの中で、何やら文句を垂れ流しつつ客人を待つ禿とガスマスクの小男はぐったりとビーチチェアーに凭れ掛かりながら下らない事を話して客人が乗ったヘリを待つ。

 

「大体、アンだけの量があるなら先におっぱじめても何ら支障がねぇだろ?」

 

「まぁ、そう言うなってフロッグよ~・・・俺だってそう思って聞いてみたさ」

 

「おう」

 

「そうしたらな・・・てめぇらの食う量考えてから言えって怒られちまったよ」

 

「まぁ・・マックだけじゃなくて俺らも結構食うからなぁ・・・」

 

「と言うかウチの基地大食い多い様な気がするんだが・・・?」

 

「まぁ肉体労働者ですしー?俺ら」

 

額から汗をじわりと滲ませながら二人は、話し続けて気温で溶けた氷がクーラーボックスの中でカラリと音を立てて崩れるのを耳にして生唾を飲み込む。

 

「くっそ・・・良い音だぜおい。キンキンに冷えたラガーだろうぜぇ・・・!」

 

「水滴が滴る缶のビールで火照りを冷ましながら喉に流し込みたくなる。やめてくれよフロッグ・・・!」

 

「お前だって同じ事考えてるんだろ?美味いラガーちゃんの固い大事な所を抉じ開けて大事な大事な中身を一滴も残さずに余す事無くむしゃぶり尽くしたいだろ?!」

 

「だからそれを!やめろって言ってんだよ!!がまんできなくなるだろぉが!!!」

 

「セイジのちょび髭が何だってんだ!!おれはやるぜぇぇぇぇぇ!!!!超呑むぜぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」

 

「やめろ馬鹿!連帯責任で俺まで呑めなくなるだろうが!!!!」

 

目を血走らせながらフロッグの名に恥じない驚異的な跳躍を敢行してクーラーボックスに辿り着いたフロッグは、中から水滴に濡れて気温差によりじっとりと汗を掻いた目的物のアルミ缶を利き手の左手で掴み上げた。快晴の青空から燦然と降り注ぐ陽光に照らされたそのビール缶は、止めに入ったスケイルから見てもあまりにも耐え難いほどの魅力を惜しげもなく放っていた。

至極簡単に説明すると、超美味そうだった。それも極悪なまでに。

 

「おいスケイルよぉ・・・指が、手が、震えるぜぇ・・・!こんなに冷え切ったおビール様だぁ!」

 

天へと至宝を掲げる様に眩し気に目を細めて、微かに震える左手で再度生唾を飲み込んだスケイルへと興奮と期待の混じった笑顔で見せつける。缶に付着した水滴が地球に呼ばれて、熱砂へと吸い込まれ・・・その一場面がまるで神話にある一場面かの様な無駄な荘厳さをスケイルは感じ取り、圧倒された。

今この瞬間は、紛れもなくフロッグは、聖剣を引き抜いた勇者と同一。いや、スケイルにとっては逃れられぬ誘惑を振りまく魔王の様に感じられた。

 

「やめろぉ!頼む!そっと戻してくれ!」

 

「いいや!限界だ!俺は!!!」

 

 

 

「呑むねっ!!!!!!!!」

 

 

 

―――――クワッと目を限界まで見開いたフロッグがスケイルの必死の懇願を振り切り、カシュッっと小気味の良い音を上げてプルタブを引き上げ缶を開封する。途端に周囲に溢れ出す麦の香ばしく、芳醇な何処か懐かしい香りにスケイルは何故か涙を流す事を止めれなかった。

 

「おぉぉ・・・うぉぉぉぉぉっ・・・」

 

「これだぁ・・・これ・・・なのだ・・・」

 

恍惚とした表情で匂いを、缶の開け口に鼻を寄せて肺一杯に香りを閉じ込めるかの如く堪能するフロッグの姿に、悔しさと、羨ましさからくる複雑な心境のまま、スケイルは唸る。飲みやすい様に直上に聳え立ったプルタブを押して倒し・・・フロッグは缶へと口を付けて舐める様に少量のビールを、口内へと含んだ。ゾンビの様に手をだらしなくこっちへ突き出し、最後の抵抗をするスケイルを嘲る様に容易く止めながら。

ゴクリと、フロッグの喉が鳴る。ゴキュッとスケイルの喉が生唾を飲み込む。

熱く、汗を掻いてまで、バーベキューの準備をしていた体に訪れる至福の一瞬。フロッグはそのビールの美味さに、言葉も出ずに只々味わい、本能のまま缶の中身を一気に飲み干してしまう。

 

「・・・・・・」

 

「あぁぁぁぁぁぁ・・・」

 

 

極楽。あまりにも超常的な至福。

 

 

それ以外にフロッグは何も感じる事が出来なくなり、凪いだ心持で、スケイルへとクーラーボックスから新たな缶を取り出しながら、この素晴らしい事を戦友であるスケイルにも味合わせてやらなければと言う使命感に駆られる。

 

「同志よ。共に、悦楽を分かち合おうぞ・・・」

 

「口調が可笑しくなってるぞ!フロッグ!!やめっ・・・!!」

 

 

 

 

 

「ふぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!うめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




酒は飲んでも呑まれるものではありません(戒め)
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