スキル名『兎化』   作:夜と月と星を愛する者

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兎は可愛くもあり、強くもある。
その足から放たれる瞬発力とキックはトップクラス


になりたいベル君であった


兎が跳ねた

ある村の少年の話をしよう

 

少年は祖父と二人暮らしをしており山に出ては木の実、獣を狩って、薬草を取ってそれらを売り金を稼いで生活していた

 

暇があればナイフを振り、腕立て伏せ、腹筋、ランニングなど一般的なトレーニングもしていた

 

少年は唯一の家族の祖父を大事にしており、祖父も孫である少年を可愛がっていた

 

少年は祖父から語られる英雄譚が好きであった。

特に好きなのが『駿足の白兎と要塞の亀』と呼ばれる英雄譚であった

 

それは駿足の白兎と呼ばれる白髪赤目の男と黒髪黒目の男が大国の冒険者をしているところから話は始まる。

 

白兎は大国1番の駿足であった、曰く彼が本気で走れば白の軌跡が見えるだけで本人は見えない。曰く彼の足から繰り出される技は気づいたら蹴られていた、吹き飛ばされていた、気絶していたなどと誰も視認も反応もできない。曰く彼が本気で闘う相手は最硬の硬さを誇る要塞の亀のみであると

 

亀は大国1番の硬さであった、彼の体は硬金属のアダマンタイトに勝るとも劣らない硬さであると言われてる。曰く彼に剣で斬りつけても傷1つ付かない。曰く彼の体から繰り出されるパンチは一撃で大岩すら砕ける。曰く彼が本気で闘う相手は最速を誇る駿足の白兎のみであると

 

彼等は冒険者、いや国が誇る双角であった。電光の如く縦横無尽に駆け回る一角雷馬(ユニコーン)であっても白兎には勝てず。膨大な魔力がある地の鉱石が意思を持ち動き出した、体がアダマンタイト、ミスリルなどの鉱石でできた鉱石人形(ゴーレム)であっても亀に傷つけることはできず、亀の拳で砕け散った。

 

白兎の速さに追いつける魔物はおらず、亀の体を傷つける魔物はおらず、誰もが認める最強であった

 

しかし栄光は長くは続かない

 

周辺諸国は彼等を恐れた、誰も追いつけない兎と誰も傷つける事が出来ない亀。彼等を相手取ったら間違いなく負けると考えた周辺諸国は彼等に濡れ衣を被らせた。彼等は貴族を殺した、彼等は王の座を狙っている、犯罪者を引き連れて大国を支配しようとしているなど、根も葉もない噂を流した

 

本来だったらそれは嘘だと笑って流しただろう。しかし周辺諸国のある国が暗殺者を差し向け大国の貴族を殺した事で、冒険者達は犯人を知らないので彼等を疑った、更に彼等は必要以上に喋らない寡黙な者達であったので事実を語らない。もしかしたら本当なのかもしれないと疑った冒険者、国民、貴族、王族達は彼等を追放した

 

それから2年後、周辺諸国は彼等を失った大国を自国の領土にする為に戦争を仕掛けた、国の双角であった彼等を失った大国はだんだんと押されていった

 

大国であっても多くの国が結託して攻めてきては流石に勝てない

 

その時、戦場にフードを被った2人が現れた、彼等は颯爽と現れては敵国の兵士達を倒していった

 

大軍相手におよそ半日もの間、彼等は大立ち回りを見せた

 

敵軍が撤退をすると、彼等は大国の兵士に背を向けて歩き出した、ある隊長が彼等の名前を聞いた、彼等は自身を『白兎』と『亀』と呼んだ

 

彼等が去ると隊長と兵士達はこの事を国に報告し王は彼等の捜索願いを出したが、1年2年と経てども彼等の足取りどころか目撃情報さえ出なかった

 

大国は多大な損失を出してしまった、双角の『白兎』と『亀』、彼等が消えたことによって攻めてきた周辺諸国によって兵士と国民、資材など、大国は彼等を見つけ出す為に彼等の英雄譚を出した、他の英雄譚に比べれば少し見劣りしてしまうが、彼等は立派な偉業を成した。たった2人で100万もの敵兵を倒したという偉業が

 

その英雄譚の題名が『駿足の白兎と要塞の亀』。マイナーではあるが普通の人では成すことのできない偉業を成した2人

 

 

 

 

 

 

さて、少年の話に戻るとしよう。

 

少年はいつしか自身の容姿に似ている駿足の白兎のように速くなりたいと思っていた

 

そこに神の悪戯か、運命が彼を選んだのか、少年は神から授かる恩恵(ファルナ)によって発現する筈のスキルを得てしまった

 

スキル名『兎化』

 

効果は単純、兎のように脚力が上がり足が速くなる。

 

だけと思いきやこのスキルは自身が兎になる事もできる意味不明なスキルであった

 

これは祖父の元を離れ駿足の白兎のように冒険がしたいという少年の物語

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《オラリオ》

オラリオにはダンジョン又は迷宮とも呼ばれるいつから存在するのか不明な広大な地下迷宮があった。ダンジョンには貴重な収入源がある。ダンジョンに現れる魔物を倒すことによって現れる魔石と呼ばれる様々な用途に使える物である。魔道具と呼ばれる生活から戦闘に幅広く使える道具は火を出し、水を出したり光を放つなど生活に役立ち、ダンジョンがある穴を囲むようにして出来た都市が《オラリオ》ここには英雄になりたいと思う冒険者、金儲けを考える商人、など様々な人々が日々オラリオに入っていく

 

そしてその日、祖父の元を離れ冒険するという夢を叶えにきた少年。“ベル・クラネル”がオラリオに足を踏み入れた

 

「ありがとな坊主。お陰で助かったぜ、ほい護衛してくれた礼だ」

 

オラリオに物資を届けに来た商人が、道中護衛をしてくれた少年にそれなりの金が入った布袋を渡した

 

「え!?約束より多くないですか?」

 

本来、少年がもらう筈だった筈の5000ヴァリスの筈が倍額の1万ヴァリスになっていた

 

「そりゃあ坊主がいなかったら俺は今頃あの魔物どもの腹の中だからな。坊主がいたお陰で助かったから予定より多くさせて貰ったぜ、返すなんて言うなよ?これは正当な額だからな。」

 

この商人、本当は護衛を雇わないでオラリオに行く予定だったが、オラリオに向かう途中にベルと出くわし成り行きで乗せたのだ、いつもだったら現れない魔物が現れたがそこはベルが難なく倒すことによって商人はベルを護衛として雇った

 

「…わかりました、ありがとうございます。」

 

礼を言うベルに商人は満足気に頷くと、頑張れよ坊主と言ってオラリオの中央に向かって行った

 

「…護衛の報酬が1万ヴァリス。村で狩った獣の皮や牙、薬草などを売って稼いだおよそ5000ヴァリス。合計1万5000ヴァリス……考えて使えば長く持つな。」

 

因みにベルが今まで稼いだ額は10万ヴァリスに届くが、持ってきた5000ヴァリスを除き、9万5000ヴァリスは祖父の元に置いてきた

 

「それじゃあ先ずはファミリア探しと行きたいが…」

 

キュルルル〜〜

 

可愛らしいお腹の虫が鳴き、行き交う人々がベルの可愛らしい音に微笑みを浮かべていた

 

「……先ずは腹ごしらえかな」

 

ベルが大通りを歩くと、ある屋台が目に入った。屋台には黒髪をツインテールにした一部がかなり成長した少女が店番をしていた

 

「お、そこの少年!ジャガ丸くん揚げたてだぞ!」

 

ジャガ丸くんとはジャガイモをすり潰しそれを揚げただけのいたってシンプルなジャガイモ料理だ

 

「それじゃあ1つください」.

 

「おう!ジャガ丸くん1つだね。30ヴァリスだよ」

 

ベルは少女に30ヴァリスを渡すと、揚げたてのジャガ丸くんを包んで渡した

 

「ありがとう」

 

屋台を後にするとベルは食べながら歩いていた

 

(味はまんまジャガイモ…揚げてるから脂っこいけど、お腹は膨れるな)

 

食べ終えるとベルは当初の目的のギルドを探していた

 

「えっと、ギルドは何処だろう?」

 

「おい」

 

「ん?」

 

後ろから呼びかけられたので、後ろを向くとそこには2メートルはありそうで、鍛え上げられた体、顔を見ると強面で年は30代だろう。そして目につくのは頭にある猪のような小さな耳。種族は猪人(ボアズ)であろう男はベルの目をしっかりと見ていた

 

「えっと、何か御用でしょうか?」

 

「“あの方”がお前の面倒を見ろと仰られたからお前の手助けをしてやる。来い、ギルドはこっちだ」

 

「あの方?…あ、ありがとうございます。お名前は?」

 

「……オッタル」

 

「オッタルさんですね。僕はベル・クラネルと言います。」

 

「ベル…クラネル。お前の名は覚えた、行くぞ」

 

道行く人は2人を見たら驚愕した、方やオラリオ最強の冒険者。方や見たこともない白髪赤目の兎のような可愛らしい10代後半と思われる男。滅多に姿を現さないオッタルが見知らぬ男を連れていたのだ

 

2人が歩くこと10数分、大きな建造物が見えてきた

 

「ここが、ギルドだ。ギルドでファミリアを紹介してもらい、そのファミリアの主神又は冒険者に頼んでファミリアに入るのが普通だ、これ以上はお前が決めることだ、俺はお前をここに連れてきたので役目は終えた、あとは好きにしろ」

 

そう言うと、背を向けてオラリオの中心にある大きな建造物、バベルに向けて歩いていくオッタル

 

「ありがとうございました、オッタルさん」

 

因みに補足だが、ベルはオラリオの一級冒険者どころか最強の冒険者の事さえ知らない。無知とは怖いものだ、自分を助けてくれた男がこのオラリオ最強の冒険者なのだから。

 

ベルがギルドに入ると最初に抱いた感想はでかくて人が多いだった、今の時間はまだ昼を過ぎたばかり、これからダンジョンに向かうもの。ダンジョンから帰還し換金する者など様々な人がいた。

 

ベルが人の列に並んで待つ事数分、ベルの番が来たようだ

 

「はい、御用は何でしょうか?」

 

茶髪に深い緑色の瞳をした耳が長いが、エルフ程ではないので恐らくハーフエルフだろう

 

「冒険者になりたいんですけど、オススメのファミリアとかありますか?」

 

「え?えっと失礼ですけど、年は何歳でしょうか?」

 

「17です」

 

「うそ!?どう見ても14かそこらの見た目なのに…失礼しました、それではこちらの本にオラリオにあるファミリアの名簿がありますので、お決まりになりましたら、また来てください」

 

「わかりました」

 

ベルが受け付けから離れ近くの椅子に座ると、本を開きパラパラとめくった

 

「……違う…違う……これでもない…」

 

様々なファミリアの名前があるが、ベルはこれといったのがないのか、流しながらめくっていった、中にはオラリオ最強のファミリアの2つの名前があったが、ベルのお眼鏡には敵わなかったようだ。そして、ベルはあるファミリアの名前に目が止まった

 

「ヘスティア・ファミリア……団員は…0…うん。これに決めた」

 

ベルは本を持って同じ列に並び、自分の番が来ると

 

「僕はこのファミリアに入りたいのですけど」

 

「ヘスティア・ファミリア……団員はいないから君が最初になるけどいいの?」

 

「はい、できるなら人が少ない方がいいので」

 

正確にはスキルが既に発言してるという珍しいのがあるからそれを広めないためなのだが

 

「わかった……はい、ここがヘスティア様がいる場所よ」

 

受付嬢のハーフエルフが、地図を渡すとベルはそれを受け取り

 

「ありがとうございました。…えっと…」

 

「あ、自己紹介していなかったね。私はギルド職員のエイナ。エイナ・チュールよ。よろしくね」

 

「はい、よろしくお願いします。エイナさん。僕はベル・クラネルと言います」

 

「うん。ベル君…あ、年下だからベル君って呼ぶよ?」

 

「大丈夫です。次はヘスティア・ファミリアに所属してからまた来ます。さよなら〜」

 

「またねベル君」

 

 

 

ベルがギルドに出て地図通りに進むと、そこには外装が剥がれた、寂れた教会に辿り着いた

 

「ここに、ヘスティア様が?…中は…」

 

中には荒らされたようにも見えるほど瓦礫が崩れており、長椅子は倒れていたり壊れていたりなど、とても人がいるようには見えない

 

「……どうしよう…もうちょっと待ってみて来なかったらその時はその時で」

 

暇なので、布袋に入れていた実家から持ってきた『駿足の白兎と要塞の亀』を読み始めた、これを初めて読んだ日からおよそ7年。10歳の誕生日に祖父から貰ったこの英雄譚はベルの宝物になっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

読み始めて、かなりの時間が経ち空は夕焼けに染まっており、ベルはそろそろ宿をとって出直そうかと考えていると

 

ギィィ

 

その時、教会の入り口の扉が開いた

 

「…あれ?君は昼の…」

 

そこには昼のジャガ丸くんを買った屋台で店番をしていた黒髪ツインテールの少女がいた

 

「貴方がヘスティア様ですか?」

 

「え?う、うん。そうだけど」

 

「どうか僕を貴方のファミリアに入れてもらえないでしょうか」

 

「……え?…えぇぇぇええぇぇええ!!!??」

 

夕暮れに染まったオラリオに神の驚きの声が響いた

 




はい。4900文字弱です。

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