田中龍之介に憑依したので全国三本指に数えられるスパイカーになるべく頑張る話 作:龍門岩
プロローグ
『―――さぁ、ついにマッチポイント!この一点を沈められるか!!』
耳を劈くように轟く吹奏楽部の音色が、妙に俺の脳内に染み渡る。煩くて喧しいだけであった声援が、初めて心強いとさえ感じていた。
大観衆が緊迫した面持ちで試合を眺めているのが横目で確認できる。マネージャーも縋るように、祈るように両手を合わせている。
仲間がサーブを打った。俺は今前衛のターンでチャンスボールが来ればボールが集まるのは明白だった。
仲間のサーブ、それは正に三年間の集大成を込めたかの如き威力で相手コートに飛んでいく。サービスエースで終わる、それも有りか。なんて考えられるくらいには俺の頭は冷静だった。
そのままノータッチでコートに突き刺さると思われた黄色と青のストライプは、相手チームのリベロの意地により自コートに返ってくる。
―――キタ。
思わず笑みを浮かべる俺は、セッターと視線を交わす。セッターも笑みを隠してきれておらず、その表情は俺に一発カマしてこいと暗に脅しているようでもあった。
いいぜ、決めてやるよ、この俺が!!
「レフトォォォォオオっ!!!」
他者の鼓膜を破く勢いでボールを呼ぶ。
セッターも、ベンチも、コート内の仲間ですらレフトと叫んでいた。なんだこれ、と思わず笑みを更に深めてしまう。
そして俺が得意とする、高めでネットから微妙に離れた位置にトスが寸分たがわず上がり―――
『春の高校バレー、優勝は星雲高校ッ!大会MVPは星雲高校の大エース、ウィングスパイカー
目を覚ます。今俺が見ていたのは夢か。いやでも俺の名前は高坂瑠偉なんて名前じゃ……いや俺は高坂瑠偉か。え?いや、元々俺は田中龍之介だろ?泣く子も黙る、あの田中龍之介だろ?え、でも今の誰?高坂瑠偉?俺だよな。うんうん。いやでも俺って名前なんだっけ、田中龍之介だよな。姉さんに龍って呼ばれてるもんな。ああそうだ、俺は田中龍之介だ!!
「………………」
―――俺、田中龍之介。どうやら前世の記憶ってもんを思い出しちまったようだ。
状況を整理しよう。
俺の前世は高坂瑠偉。超高校級のバレーボーラーと謳われ、最後の春高全国では優勝、そしてMVPをも獲得した超高校級のバレーボーラーだ。(大事なことなのでry)
そして今の俺は田中龍之介。ただいま中学三年生だ。しかし既に烏野への進路は決まっていて、あとはヤンチャし放題だ、って時に前世の記憶が蘇ってしまった。
いやそもそもこれは前世なのか?別世界の誰かとも考えられる。高坂瑠偉である俺と、田中龍之介である俺は、必ずしもこの世界で生まれたのではなくて所謂パラレルワールド的なあれがあれでそうなって―――
「だーーっ!わかるかんなこと!!てかバレーがしてぇ!!!」
田中龍之介になったからか、秘めたる粗暴さや情熱が出てしまう。まずは風呂に入って冷静になろう、そう考えふと全身鏡を見ると―――
「……俺、坊主やん?」
その日一番の慟哭が俺の喉を引き裂き、家族に死ぬほど怒られたのは言うまでもない。
高坂瑠偉であった俺は、かなり髪の毛に気を使っていた。世の流行りがウルフスタイルからマッシュスタイルに変わった途端にべらぼうに伸ばしていた襟足をすぐさま刈ったりなど、兎に角髪型には気を使っていた。世にいうイケメンには遠かったせいもあり、半ば憧れのような形で髪型を弄り始めたのがきっかけか。
ヘアカタログで見るような髪にスタイリングすることさえできるのが、ささやかな俺の特技であったのだ。
それが、なんだ。
坊主?
ふざけるなよ…?
まず初めに決めたこと。それは髪を伸ばして高校デビューまでに間に合わせることだった。
それから約三ヶ月。急に性格が変わったと騒ぎになるのも嫌なので、学校は休んだ方がよいと感じて自宅でトレーニング等を続けた。それと同時進行で亜鉛を毎日摂取したりタンパク質を摂ったりシャンプーを優しくするように意識するなど、髪を伸ばすための努力もしたおかげでスタンダードなマッシュスタイルにまで戻すことができた。
前世の俺の身長は約177cmで、最高到達点が3m49cmというとんでもジャンプ力であったので、今の174cmという身長は成長することも考えると全く問題はない。
烏野は染髪自由であるため、前世ではできなかったミルクティ色とかいうオシャンティーな髪色にして入学式を迎えた。
坊主であった頃は厳つい顔をしていたが、髪を伸ばして俺の意識が入ることで柔らかい笑みを浮かべる好青年のようになってしまった。家族には誰?とさえ言われ少し凹んでいるが、おそらくバレーボールなどで熱くなると、田中龍之介としての本能が顔を出すだろう。
入学式も終わり、クラスで多少のオリエンテーションをしたあと、ついに待ちに待った放課後だ。
早速仲良くなった前の席のヤツに別れを告げ、体育館へとひた走る。途中にいちごオレを飲んでるやつにぶつかって相手の制服が汚れたが知らない。着替えは既に済ませてある、烏野の臙脂色をした体育着で俺は体育館の扉を開き―――
「あ、入部希望者第一号」
―――俺は、女神を発見してしまった。
なるべく原作の雰囲気を壊さないようにギャグと恋愛、スポコン成分を上手く調和させていきたいと思っています!
こんなの田中じゃない!
こんな田中もなかなかいい!
田中かっこいい強そう!!
など思ってくれたら高評価、お気に入り登録、感想、よろしくお願いします!!!