田中龍之介に憑依したので全国三本指に数えられるスパイカーになるべく頑張る話   作:龍門岩

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VS青葉城西

 

 

 

 

 

『ブラジル代表との試合、フルセットの末惜しくも敗れてしまいました!しかしこれまでにない素晴らしい接戦でした!格上であるブラジルをあと一歩という所まで追い詰めたんですがね!』

 

『はい、そうですねぇ。やはり私も予想した通り、高坂選手が光ってましたね〜』

 

『ええ、素晴らしいプレーがたくさんありました。ここで試合をテレビの向こうで見てくださった皆様の、最も盛り上がった瞬間を計測していました、それはこのシーンです!』

 

『んうーそうですね!ここは私も痺れました!』

 

『ブラジル代表のエース、シバ選手のバックアタックを高坂選手が素晴らしいディグ!そこからカウンターでなんと高坂選手のバックアタック炸裂ゥ!!パイプ攻撃にパイプ攻撃で返したこのプレーが、最アツプレーでした!!』

 

『スパイクだけじゃないってところも見せましたよね。ちなみに高坂選手の成績を教えて貰えますか?』

 

『はい、統計出ております。なんとスパイクは総打数三十八本、決まったのは内二十本!五十%を超えてきました、これはすごい!さらにブロックポイントは二本、サービスエースは三本という好成績。今日のMVPにも輝きました高坂選手です!』

 

『日本バレーボール界の未来も安泰ですかねぇ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願いしゃァァーす!!」

 

日向にゲロられた後、色々あった。潔子さんとイチャイチャしてたら青城の選手二人に睨みつけられたり、影山がそいつらの片方に王様と呼ばれたり、相変わらず日向がトイレに籠ったり……。

既に練習試合が終わったのではないかと思うほどの疲労を俺は味わっているが、まだ試合すら始まっていないのだ。

 

それにしても、日向の様子がまずすぎる。このままでは試合でヘマをやらかすに違いない。俺が鼓舞してあげなければな。

 

「なぁ日向」

「は、はぃいいい!?」

「そんなにビビるこたぁねえぞ!たしかに相手はデカくて上手い。お前の何倍もだ。でもな、そんなの誰だってわかってんだよ」

「……っ!?」

「コートには六人いて、その全員のプレーが一つの結果へと繋がっていく。誰もお前の活躍なんて期待してないんだよ」

「ちょ、田中、さすがに言い過ぎだ!」

「……だから、迷惑かけろ!俺たちはチームだろ!?」

「っ!!」

「お前の下手くそなレシーブも、吹っ飛ばされるワンチも、全部俺達チームが拾ってやる!!ネットのこっちっ側、漏れなく全員味方なんだよ!」

 

俺は当たり前のことを日向に教えたつもりだったが、表情を見る限りいい方向に転んでくれたようだ。どうも、全部一人でやらなくちゃいけないっていう使命感みたいなのに囚われていたようだからな。その誤解を解いてやれば済む話だ。

 

「おぉ……田中が先輩してる……」

「いや俺は元から出来た人間っスからァ!」

「田中……か、かっこよかった」

「き、潔子さん……愛してまぁああす!!」

「ちょ、こんな所で……っ」

「あぁーあ。始まったよ」

「吠えるな野生児ー」

「釣り合わないぞ坊主ー」

「うるせぇ縁下、木下ぁ!!」

 

と、日向の回復と同時に、チームの雰囲気もよくなったようだ。皆日向を気にしすぎてたからな、肩の重荷が外れたような気持ちだろう。

 

―――さて。

 

今できる万全の攻撃を、食らわしてやるよ。

たとえ及川徹がいなくてもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

審判の笛が、体育館に鳴り響く。

危惧していた日向の顔色も、想像以上によくなっていた。むしろ試合できることに高揚しているようにすら見える。

 

「よし、日向。この前の三対三と同じだ。お前の最高のジャンプとスピードで突っ込んでこい。ボールは俺が持っていく」

「おうっ!」

 

影山と日向の会話を皮切りに、練習試合は始まりを告げた。

 

東峰が抜けたあと、田中は前衛スタートになっている。青城側のサーブを澤村が綺麗にレシーブし、Aパスの位置にボールが上がった。影山は現在前衛なので、選択肢は三つある。

一つはレフトで待つ大エース、田中にトスを上げること。二つ目はクイックに入ってくる月島に上げること。最後に、自身のツーアタックだ。

初っ端ツーアタックは相手も念頭に置いてないだろうから決まる確率も高いが、失敗すればおそらく味方の士気は下がってしまう。

色々逡巡することゼロコンマ五秒。影山は迷わずレフトへ高めのオープントスを上げた。

 

「田中さん!」

 

ふわり、と。スパイカーにとって最高とも言えるトスが大エースの元へと上がった。それを見た田中は思わず口角を吊り上げ、嬉嬉としてそのダイナミックな助走に入る。

日向と同等かそれ以上のジャンプは、宛ら飛翔する鷹――いや、今は龍と呼んだ方が良いだろうか。

そんな田中の前には、県内でもトップクラスの高さを誇る三枚ブロック。

 

(三枚ブロック上等ッッ!!!)

 

―――目の前に立ちはだかる、高い高い壁。

 

それを躱すにはなんだ?何が必要だ?

 

田中には、力で捩じ伏せることができる。さらに、コースをついてブロックに触られないことだってできる。

 

―――その向こうは、どんな眺めだろうか。

 

ここは一発、奴らの度肝を抜いてやろう。

 

―――『頂の景色』

 

その時田中の視界に映るコートの一部が、光り輝いて見えていた。そこに打てと、本能が叫ぶ。俺ならできると、田中が田中を鼓舞する。

大エース。六本の指と田中の違いとはなんだ。

 

否、違いなどない。なぜなら田中は―――

 

ズダァァアンッッ!!!

 

―――既に大エースたる器を持ち合わせているのだから。

 

影山から最高のトスを貰った田中は、三枚ブロックのさらにその内側。超インナークロスに強打を叩き込んだのである。

高さ、肩の柔らかさ、的確なミート、全てが組み合わさなければ途端にネットにかけてしまうような、まさに超クロス。

影山の日向に合わせる神業トスよりかは多少劣るが、それでも神業と呼ばれるべきスパイクであったのはたしかだ。

 

「ぅ、ぅうおぉおおお!!!田中さんナイスキー!」

「田中すっげぇなおい!」

「今までそんなのやってこなかったじゃん」

「いや、日向と影山につられたんすかね。多分―――俺また成長しました」

 

日向と影山、並びにチームメイト全員がその瞬間に思ったことは、おそらくシンクロしていただろう。

 

『田中、カッケェ』と。

 

「うわっはは、さすが六本指の一人だな」

「こりゃマジでウシワカと変わらんな」

 

さて、田中さんにビビったか、ビビったよな。と、影山は青城のコート内を観察する。その会話はこちらに丸聞こえであるため、たしかに相手は田中のスパイクに感心し畏怖しているようだった。

 

そして続いての影山のジャンプサーブは力んだのか、思わずネットにかけてしまう。しかし悔しがるより先にチームメイトに謝りを入れ、先の失敗の反芻をしているあたりは流石というべきか。

 

次の相手のサーブも澤村がカットをし、今度は月島のど真ん中を突っ切るAクイックが炸裂。順調な試合運びと言えるだろう。

 

さて、月島サーブとなったので、ついに日向が前衛に上がってきた。日向と影山は目線を合わせ、頷き合う。

 

月島のサーブは綺麗にカットされ、相手のミドルブロッカーである金田一の移動攻撃(ブロード)にトスが上がる。完全にブロック振られたと思ったが、そこには田中がいた。

金田一のストレートを完全に一枚で威圧感と共に閉め、クロスに打つしかない――となった刹那、日向が斜め飛びで食いついたのだ。

これにはさすがの金田一も驚き、思わず打ち下ろしてしまったので日向の右手に当たり綺麗なワンタッチとなり、カウンターのチャンスを得たのである。

 

「チャンスボール!」

 

素早くボール下に入りチャンスボールを影山に上げる縁下。

 

(このタイミング、この角度で―――ドンピシャ!)

 

ズダンッ!!

 

相変わらずの影山のトスと信じて飛んだ日向の、電光石火の超速攻が美しく決まった。青城ブロックは文字通り一歩も動けず、それは後衛も同じであった。

 

「しゃァァァァあ!!!」

「日向ナイスキー!」

「アザース!」

「影山もナイスな!」

「うす!」

 

やはり日向の超速攻は映えるな、と田中は思うが、決まれば気持ちいいので味方の士気が上がることも考えればいいことだと納得する。

 

「さぁ、まだまだ行くぞォ!」

「「「おォォ!!!」」」

 

―――新生烏野、その翼はまだ開いたばかり。

 

 

 

 

 

 

 

結局その後二セット先取し試合に勝ったことになるがこれは練習試合。約束の三セット目を始めようとしていたが、そこに青城の正セッターで主将―――及川徹が現れた。

どうやら足首の故障で通院していたようだが、会話を聞く限りでは完全復活らしいと影山は悟る。

 

「やっほー飛雄ちゃーん。元気してた?」

「……うす」

「あれれ、反応薄い。及川さん悲しいなー。にしても、やっぱすごいね田中くん」

「……?お、はい」

 

思わずおう、と返事をしそうになった田中だが、及川が先輩であることを思い出し間一髪敬語を使うことが出来た。

 

「やっぱ天才はあれだねぇ。……捻り潰したくなる」

「及川、雑談はそこまでだ。アップ念入りにな」

「はーい」

 

相変わらずの飄々とした態度と、性格の悪さを感じさせる言動だと、影山は思う。

そしてそこで休憩の終わりを告げるタイマーが鳴ったので、コートに選手らが入った。及川は隣コートで既に柔軟体操を始めている。今から始めるのなら、念入りなアップを済ませた後ということは試合終盤になるなと田中は瞬時に判断するが、意味の無いことだと思い考えることをやめた。

今は試合に集中、その一心でコートに立つ。

 

「やはり影山はうちで取るべきでしたかね」

「うーん。彼がこのチームに来ていたとしても、あのように実力を発揮してくれていたとは考えられないかもね。烏野だから。あの五番(日向)がいるから、ああいうプレーをするようになったんじゃないかな」

 

にしても、と。既に始まった三セット目を見ながら、青城の監督『入畑伸照』は思考を巡らせる。

 

穴だらけの烏野の守備を広くカバーする、オールラウンダーな主将、澤村君。

クレバーで冷静で、しつこくボールを追い続ける高身長ブロッカー、月島君。

トス回し、ブロック、レシーブ、サーブ。全てにおいて高水準、影山君。

スパイク以外はてんでダメだが、囮の能力の高さとそのバネは驚異的、日向君。

そして何よりも、全国六本の指に名を連ね、強固な三枚ブロック相手でも物怖じせずにぶち破っていけるまさに大エース、田中君。

 

これに本来のメンバーである守護神、リベロの西谷君と、パワーなら田中君と同等かそれ以上のスパイカー、東峰君がいたら。

 

「さらに手をつけられなくなるかもしれない」

 

なんと末恐ろしい。

 

―――烏野高校。全国に行くための最大の障害は白鳥沢だけだと思っていたが、撤回しよう。君たちも充分脅威だ、とね。

 

そうこうしているうちに、スコアは二十四対十七。烏野高校のセットポイントである。次のサーブは国見だが、ここでアップを終えた及川がピンチサーバーで入るようである。

 

「いくよ、皆!」

 

洗練された自信を感じさせるフォームでジャンプサーブを打つ。その精密なコントロールと強烈さは、レシーブを苦手とする月島へと一直線に向かい、月島は捉えることが出来ずに弾いてしまった。

 

「やーっぱり。メガネくんとそこのチビちゃん。レシーブ苦手でしょ」

 

潰してあげるよ、と。そう言外に告げられた日向は憤慨するが事実は事実。たしかに自分はレシーブが下手だったと落ち込んだ。

しかし、月島は違った。

 

「もう一本、いくよ」

 

そう言ってサーブをまたもや月島に向けて及川は打つ。

 

(僕だって、入部してから田中さんの強烈なジャンサー触ってる。だから―――)

 

ドッパァァン!!

 

「なっ!!」

 

―――なんと月島は、及川のサーブを二本目にして上げたのである。それはAパスとは言えないが、高くアタックライン付近に上がるBパスと呼ばれる位置だった。

日頃田中や影山のジャンサーをイヤイヤ受けに行っていたのには、月島なりの理由がある。それは田中にも直接言われたことなのだが、やはりリベロがいない現状狙われるのは月島と日向であるということだ。それを自覚していた月島は、メキメキと成長する日向に若干の苛立ちを感じたため、半ば投げやりにレシーブ練習の機会を増やしていたのである。

その結果が既に如実に現れている。

威力は多少落とし気味とは言え、及川のサーブを二本目で上げたのだ、それはすごいことであると言えるだろう。

 

そしてBパスに上がるボールを見て影山は一言、充分だ、と漏らした。

 

日向はBクイックの位置で飛び――否、フェイク。飛ぶふりをした後凄まじいスピードでライト側へブロードを仕掛ける。

 

(ほんの一瞬。たった一歩。それだけの差でもうこいつには追いつけない。追いつけるのはボールだけだ!!)

 

超速度でコートの端から端まで移動した日向の掌にやはりピンポイントで神業トスが上がり―――

 

「……ッッ」

 

ズダンッ!!

 

及川の横を通過したスパイクは、コートのライン上に落ち、烏野の得点。よって三セット全てを烏野が取ったという結果になったのである。

 

「大王様、倒したー!!」

「うるせぇぞ日向ボゲ!浮かれんな!」

 

浮かれるのも無理はない。

なぜなら県ベスト4と三セット戦い、全てのセットをかっさらったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

そのあと帰りの挨拶を終え、バスに向かっていると及川が烏野高校に話しかけていた。それは今の烏野の弱点―――守備の弱さを突くものであった。

 

「どれだけすごいセッター、スパイカーがいても、そこに繋がらないんじゃ意味ないよ。俺以上にすごいサーブ打つヤツなんて全国探せばゴロゴロいるだろうし、それに今日のサーブも所詮七割ってところだしさ。なんとかした方がいいんじゃない?」

 

それだけ言い残して、及川は帰って行った。忠告しに来たのかとも思うが、おそらく嫌味を言いに来ただけだろうと影山は瞬時に判断する。

 

「キャプテン、なんか言い返さなくていいんですか!?」

 

日向がそう澤村に問いかけると、澤村はふっふっふ、と不敵に笑いだした。田中もそう言えば、と、思い出したかのように手を叩く。

 

「そろそろ戻ってくるんだ」

「……?田中さん、どういう……?」

 

日向が田中の言葉に疑問を持つが、それに田中が答える前に澤村は一言、こう言ったのだ。

 

「烏野には―――守護神がいるんだ」

 

小さな巨人を目指す者と、小さいのにも関わらずコートの中で一二を争うほどのオーラを発する守護神が出逢う時は近い。

 

 




名前:田中龍之介
ポジション:ウィングスパイカー(WS)
誕生日:三月三日
身長:177.2cm
体重:70.1kg
好物:メロンパン、潔子さんの作った食べ物
最近の悩み:潔子さんが可愛すぎて会う度に吐血しそうになる


今年最後の投稿となります。まだ拙作が連載してからそれほど経っていないのにも関わらず、たくさんのお気に入り登録ありがとうございます!
評価ももっと上げていきたいので、来年からも執筆頑張ります!
(感想くれたらモチベが上がるのでよかったらどしどしお願いします)

それではまた来年もお会いしましょう!!
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