田中龍之介に憑依したので全国三本指に数えられるスパイカーになるべく頑張る話   作:龍門岩

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感想でもあったのですが、冒頭の過去話いらねえ!って方は飛ばして読んでもらっても結構です。ただの私のこだわりなので。
別にええで!って人はぜひ読んでくれたらなあ、みたいな感じです。


歪んだ人と結ばれた人と

 

 

 

 

 

 

『高坂は悩みなんてなさそうだよなー』

 

『あは、わかるわかる。そういうのとは無縁そう』

 

『いやいや、これでも結構色々あるぞ?』

 

『え、そうなん。例えば?』

 

『んー……嫉妬とか?』

 

『は、お前が何に嫉妬すんだよ!顔か?』

 

『まあそれもたまにあるけど。バレーだよ』

 

『いやそれこそわからん。日本のバレーボール界の未来を担う、期待の新人だろ?何を嫉妬すんだよ』

 

『……色々あんのっ!もうこの話は終わろうぜ』

 

『あーい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――圧倒的な高さ。

 

―――力だけに頼らない超絶技巧。

 

―――自信に満ち溢れた顔。

 

彼―――田中龍之介と共にプレーをしていると、自分までもが奮い立たせられて調子が良くなるなんてザラだ。どんな逆境でも笑顔を忘れず、むしろ不敵に笑ってみせるその様は、月並みではあるが本当にかっこいい。

 

俺、東峰旭は、そんな彼に半ば憧憬に近いものを持っていた。

自分にはない自信を持ち、それを裏付けする確かなバレーセンス。どんなに辛くても、どんなに疲れても最後までやり抜くその姿勢は感嘆せざるを得ないだろう。

すぐに弱音を吐露する自分とは大きな違いだと、自虐気味に笑ったことは数知れず。しかしそれでもバレーボールは好きだ。いつかは彼の様な―――大エースの様な、仲間をも奮い立たせるプレーがしたいと、ひたむきに毎日練習していた。

 

それでも―――あの日、あの試合。

鉄壁と謳われる県内最強ブロック陣を見、そして実際に体感し、俺は恐れ慄いてしまったのだ。いつか彼のようになれると思っていた。どんなに強固なブロックもこじ開けられると思っていた。努力は実を結ぶと――そう信じていた。けれど、それは所詮机上の空論で、泡沫の如き夢幻であったのだ。

 

彼は何度も何度もトスを呼び真正面からブロックをこじ開けていった。二枚ブロックの内側を抜いたり、打つ角度を調整してブロックアウトを誘ったり、はたまた意表をついたフェイントで相手のいないスペースにふわりと落としたり。

なるほどパワーだけあってもバレーは強くなれないわけだ、と思わず自虐する。いつからこんな自虐癖を持ったのだろうと逡巡するも、それも長くは続かない。なぜなら試合中であるからだ。

 

あぁ、前衛だ。頼むからサーブカット乱さないでくれ、そしてなるべく俺にトスをあげないでくれ。そんな心の奥底に眠る本心を押し殺して虚勢を張り、俺は何度も力強くトスを呼んだ。

最初のうちはよかった、それなりの自慢でもあったパワーだけでなんとかブロックアウトを取れていたから。だが鉄壁の名は伊達じゃない、そんなのはすぐに修正して、俺というカモを絞めるかのように何度もキルブロックを連発させていく。正直一セット目が終わった辺りから心身ともに限界だったのだが、それでもまだ頑張れた。俺がいなくとも、彼がいるから、と。

 

―――は?

俺は今何を考えた?

彼が―――田中がいるから大丈夫?

 

何を言ってる。彼がいれば勝てるなんて荒唐無稽な話、認める訳には―――

 

―――本当に、そうか?

 

実際俺には撃ち抜けない壁も、彼には何の障害にもなり得ていないし、バックからも元気にトスを呼び実際決めている。対して俺はどうだ、最高のレシーブ、トスと最大限のお膳立てをしてもらっているにも関わらずいまいち決めきれていないじゃないか。

 

ああ、もう、嫌だ、トス、くるな。

 

なんでだよスガ、今デュースじゃないか、これで俺が止められたらアドバンテージが相手に行ってマッチポイントを握られてしまうのに。

 

どうして俺にトスをあげるんだ?

 

ほら、案の定スパイクは叩き落とされた。やっぱり俺には無理なんだ、強いブロックと戦うなんて。力だけあっても何の役にもたたない、薄々感じていたけれど、ようやく確信したよ。

 

おいおい嘘だろ、サーブカットが乱れた。

こういう時、一番トスを呼ぶべきなのは誰だ?エースだ。だから、そう、俺がトスを呼ぶんだ、そしてちゃんと決め切って次に繋げて―――

 

―――俺は、トスを呼ぶことが、出来なかった。

 

憧憬、嫉妬、羨望、劣等感。

ありとあらゆる感情が俺の中に渦巻いて、どうしようもなくなって、ついに何かが切れる音がして。

気づいたら俺は自室のベットに横たわり、しきりに涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――青城との練習試合を終えた次の日。

影山飛雄は一人サーブ練習を行っていた。昨日は成功率七割超、かなりいい数字が出ているが、実際相手のレセプションを乱せたかと言われるとそうでもない。確実に、でも強気にをテーマにしていたとはいえ、乱した回数が片手で足りるというのは些か不甲斐ない結果である。

 

(トス、いい!)

 

ここ最近で一番しっくりきたトスをあげ、いつもの様にボールを打つ―――

 

―――刹那、横から飛び込んできた小さな影が、影山のサーブを完璧にカットした。

 

「……は」

「いんやぁー、お前なかなかいいサーブ打つな!」

「……うす」

「おいおい一年だろ、もっと元気出せよ!」

「……お、お俺より小さい…っ!!」

「ん、だ、と、ゴルァあぁぁぁ!!!」

 

場は早くも混沌に。そしてその中で影山は悟った。

 

(あの素早い動き、そしてサーブの威力を完璧にいなす柔軟性、勢いを殺す技術。そして何よりも―――)

 

―――強い存在感。

 

間違いない。この人こそが!

 

(烏野の、リベロか!)

 

「おっ!ノヤっさん!来たのか!」

「うおお、龍ー!ひっさしぶりだなあ!!」

「それよりも聞いてくれよ、昨日は青城と練習試合でな?」

「おうおうそりゃすげえな!!」

「そんでよ!」

 

遅れて到着した田中とノヤっさんと呼ばれた少年が話の花を咲かせている中、影山と日向は困惑するしかなかった。完全に置いてけぼりである。

 

「おっ、西谷じゃないかー」

「大地さんお久しぶりです!」

「ウンウン大きくなって〜」

「スガさんどこの親戚のおじさんすか…」

 

と田中が菅原にツッコミをいれた直後、田中が蛇に睨まれた蛙のような機敏な動きで扉を見つめる。この現象をもう皆理解していて、田中曰く潔子さんレーダーらしい。何を言ってるのかよくわからないがそういうことだ、とバレー部一同は無理やり納得しているが。

 

「みんなおつかれ」

「お疲れ様です潔子さん!今日も可愛いです!」

「……も、もぅ……っ」

「ああああああああああああああああ」

「田中!?しっかりしろ田中ァァ!!」

「き、ききき潔子さあーーーん!!愛の抱擁を!」

「しません」

「なら愛のキッスを!!」

「しません」

「せめて愛の握手を!!!」

「しません」

「ああああああああああああああああ」

「西谷ァァあ!?」

 

―――なんだこれ。と、いつもは変人担当である日向と影山は呆れた目で上級生を見ていた。

 

 

 

場は落ち着き、その後も色々あった。

東峰が未だ戻らないことに西谷が腹を立てたり、もう一人のエースの存在を知った日向が会いたいと喚いたり、結局西谷は部活に戻ることをやめたり。

東峰が部活に来たくない、もしくは来れない理由を、田中はほんの少しだけ理解していた。自分よりバレーが上手いやつの傍にいると、向上心はもちろんだが、嫉妬や劣等感が生まれてしまうことを知っているからだ。

だが、田中はそのことを自分のせいだとは思っていない。いやむしろ、思ってはいけないだろう。思った時点で東峰への冒涜であり、そもそも東峰自身の問題だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――

 

「ごめん待った?」

「いえ!俺も今来たところです!」

「そっか、よかった」

 

俺―――田中龍之介は、今日も今日とて潔子さんと共に下校するために待ち合わせをしていた。

 

「じゃ、行こ」

「はい」

 

かなりの頻度で一緒に下校するため、暗黙の了解というべきものが俺達には存在する。それは、俺が潔子さんの左側を歩くってことだ。自転車を押しやすいという利点もあったため特に何も言わずにいるが、なんだかこれが当たり前になっていて嬉しいような恥ずかしいような。

 

「東峰、心配だね」

「……そっすね」

 

……俺という人間は、なんて浅ましいのだろう。潔子さんはきっと純粋に旭さんを心配しているのだろうが、他の男の話をされるとなんだか面白くない。

……あれ、そういえば俺別に潔子さんと付き合ってないじゃん。なんてこったい、これじゃあ付き合ってもないただの先輩女子に嫉妬する坊主じゃあないか!!

 

「そ、そういえば潔子さん」

「ん?」

「ノヤっさんに愛のキッスとか色々しません!って言ってましたけど、あれ俺もダメっすかね」

 

なんとか嫉妬を払い除けよう、そしてさらに会話を盛り上げようと画策し口の赴くままに喋ると、なんとも吃驚な内容が飛び出してしまうではないか。

え、どうしよう気持ち悪がられてしまう。そんな危惧を抱き始めた俺は、さすがにフォローしなければと声をかけようとすると―――

 

「……田中、なら……いい」

「……へ」

 

ポスン、と。

俺の胸に潔子さんが抱きついてきたと思ったらとんでもないことを言われてしまった。え、なに?俺にならいいって?それってつまりキスとかも……?

なんで俺にはいいんだ?キスって普通恋人じゃなきゃしないだろ。もちろん俺は今すぐにでも潔子さんとキスしたいけど―――ってことは、潔子さんも俺と同じ気持ちということ……なのか……?

いや確定するのは時期尚早だ、だだだってまだ潔子さんの冗談かもしれないし。

 

「じょ、冗談、すか?俺そういうの本気にするタイプなんでやめといた方がいいです」

 

俺達は立ち止まったが、その場所は奇しくもあの日潔子さんを慰めた所と同一のものであった。

 

「……バカ、冗談でこんなこと言わない」

 

なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ。

若干涙目になりながらこちらを上目遣いで見上げてくる潔子さん。頬を紅に染めるのは果たして夕日のせいなのだろうか。腕の中にすっぽりと収まる潔子さんは妙に柔らかくて否が応にでも異性―――それも好きな人なのだということを暗に裏付けてくる。

 

「……きす、しよ」

「……ぇ、あ」

 

潔子さんが唇を尖らせて目を瞑って顔を近づけてきた。いやまてまてまてまて待ってください、さすがにここまできたら俺も腹を括るしかないだろう。潔子さんが誰彼構わずこういうことをする人じゃないことは、俺が一番知っている。

つまりは―――そういうことなのだ。

俺は潔子さんの肩を両手でガシッと掴んだ。途端に驚きからか目を見開く潔子さんに、俺はありったけの想いを告げる。

 

「潔子さん、好きです」

 

ああ、言ってしまった、と。本当はもっと後で言うつもりだった。インハイか、はたまた春高か。全国大会に出場できたらこの想いを告げよう、玉砕覚悟で、と。しかし密かに抱いていた考えはいとも容易く破壊された、他ならぬ潔子さんの手によって。

 

告白した恥ずかしさで視界が朧気だったのだが、さすがに潔子さんから返事がないのは不安で辛い。

俺は視線を若干下に向け焦点を合わせると、口に両手を合わせてワナワナと震える潔子さんがそこにいた。涙目、というか涙すら流している。

 

「……っ」

 

不意打ちだった。

潔子さん喜んでくれたのかな、OKくれるのかな、これから恋人になるのかな。そんなことを考えていたら、気づくと目の前に潔子さん。え、と困惑する暇もなく、唇を潔子さんに奪われてしまった。

 

「私も、ずっと、好きでした」

 

涙を流しながら年相応の満面の笑みを浮かべる潔子さんは、普段のクールな印象とはかけ離れていたがそれ故に異常なほど綺麗に映った。

俺の顔は噴火しそうな勢いで熱いし、心臓の音も破裂するのではと心配になるほどである。それはくっついている潔子さんも同様なようで、目が合うとなんとなく笑みが零れた。

 

「これからよろしくお願いします、潔子さん」

「うん……よろしく」

 

なんだか今日の潔子さんはいつもより年相応というか、素直というか、なんというか。いつものクールな感じもすこぶる良いのだが、この幼い感じもベリーグットである。

 

「ね、ねぇ……」

「はい?」

「私、さっきの初めてだったんだけど」

「奇遇ですね、俺もっす」

「……よかった」

「え?」

「…も、もうちょっと」

 

もうちょっと?あとその前なんて言った?そう問いかける間もなく、俺の唇は潔子さんに再び塞がれた。もうちょっとって、キスの催促かよ、なんて考える頃にはもう思考はドロドロだった。

無茶苦茶にしたい、俺の印をつけたい、誰にも渡したくない。汚い感情だというのは自分でもわかっているが、それでも思ってしまったものは仕方がない、もっともっと俺から求めよう。そう意気込んだ瞬間、前方から子供の笑い声が聞こえてきたので思わず潔子さんと距離をとった。

しかし代わりと言ってはなんだが、手を繋いだ。俗に言う恋人繋ぎとかいうやつである。人生においてやる日がくるなんて思いもしなかったが、誠に面白いものだな。

 

子供たちとすれ違うと、潔子さんはついに腕を絡めてきた。さらに何がとは言わないが、当ててんのよ状態である。正直理性が危ない。

 

「……今日、お父さんもお母さんもいないの」

「へぁ!?」

「だから、その……泊まりに、こない?」

「な、なんで、」

「つ……続き、したいな、って」

 

いやいやいやいや何だこの破壊力は。例えるならそう、核爆弾だ。俺の心の中に住む小市民たちが一人残らずハートを射止められてしまっている。

……少し、冷静になろう。

俺と潔子さんは今日付き合ったばかりだ、というか今。それでキスはまだわかる、色んな恋愛ドラマでもその展開は鉄板だったからだ。だがしかしその先……続きとなると話は違う。そもそも俺達は高校生だ、もっと健全な付き合いを心がけるべきであるし、倫理的な問題とかあれこれ色々あって―――

 

「だめ、かな」

「今すぐにでも行きましょう」

 

―――やっぱり女神には勝てなかったよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか今日の田中やつれてないか?」

「ああ、大地もそう思う?でも反対に清水は元気っていうか色気があるっていうか、ツヤツヤしてるっていうか」

「よく見てるなスガ……待てよ、今日二人は一緒に登校してきたという噂がある。さらになにかと会話することがいつもの倍近い。そしてあの二人の様子。つまり……」

「……朝帰り?」

「そうだ、そうに違いない。部長として、最上級生として言わなきゃいけないことは多分違うんだが、本当に今言いたくてしょうがない」

「奇遇だな、俺もだよ」

「んじゃ一緒に言おう」

「ん、せーの」

「「遅いんだよ全く!末永くお幸せに!!」」

 

いきなり叫んだ三年生二人組に、周囲は怪訝な目を向けるのであった。

 




お久しぶりです。
実は作者現役受験生でして。とはいえAOで決まっていたのでセンター試験は記念受験みたいなもんでした。その後もアパート決めやら何やらで時間が取れず、申し訳ありませんでした!!許してください何でもしますから!!
(あのリスニングは冊子を開いた瞬間に拍子抜けして笑ってしまいました)

さて、前半は東峰旭の憂鬱。後半ではついに二人が結ばれました。
ちょっと早いかなとか思いましたけどまぁいいでしょう、勝手にキャラが動いてしまいました。
頑張って砂糖吐くような文にしたかったんですけどなってるのかな。
潔子さんは本気で好きな人と結ばれるとちょっと積極的になるっていう妄想を書き連ねました、後悔も反省もしてません☆
(あとでこっそりお泊まりで何があったのか、短編で投稿します)

次回の更新日時は未定です。。待っていてくれたら幸いでござる。

久しぶりだからか、すごい喋っちゃいました。ごめんなさい。

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