田中龍之介に憑依したので全国三本指に数えられるスパイカーになるべく頑張る話   作:龍門岩

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転機

 

 

 

 

 

 

『監督、話ってなんですか?』

 

『ん、あぁ、高坂か。なに、一つ報告だ』

 

『報告、ですか……』

 

『高坂、突然だが、全日本の真壁監督から招集がかかった』

 

『……っ!!それは、アンダー20ですか?』

 

『いや、正真正銘全日本だ』

 

『そう、ですか。ありがとうございます』

 

『して高坂。お前の武器とはなんだと思う?』

 

『俺の、武器、ですか』

 

『あぁ。お前の魅力はそのジャンプ力、最高到達点は日本人の中でもかなり高いな。だが世界と戦うにあたり、そのアドバンテージはどうだ?世界にはもっと高いところから打ってくる選手はごまんといる。当然ブロックも比例して高くなるだろう。そうなったとき、お前には何が残る?』

 

『……それは―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――あれから色々なことがあった。

 

体験入部を終えて正式に烏野高校バレーボール部となった俺、田中龍之介は、チームメイト達と実力を伸ばしあっていった。顧問もコーチもおらず、多少ダラダラしていたが、お互いに高めあえることができていただろう。しかし、烏養前コーチが復帰してから平穏な日々は崩れ去った。練習が非常に辛く、激しいものとなったのである。俺やノヤっさん、そして二年生の三人はなんとか食らいついていたが、縁下ら三人は耐えきれかったのだろう、徐々に部活をサボり出すようになってしまったのだ。

俺は前世から仲間想いのところがあるので、ノヤっさんと何度か説得を試みたが、あまり効果はなかった。烏養コーチが来ない日には部活に軽く参加するなど、態度が顕著だったのもあり、二年生らは少しイラついていたようにも感じた。

 

それでもなんとか試合には来てくれて、春高予選では一次予選を突破するなどそれなりの成果はあげていたが、他のインターハイ予選などは二回戦負けはざらだった。

 

え?なに?田中(俺様)がいるのになぜって?

答えは簡単、バレーってのは一人じゃできない種目だからだ。一人一人の意思、目標、熱意に差があれば、チーム内でもすれ違いが生まれるようになってしまうのは自明の理。その点二年生達は、誇りをもっていつでも最高のパフォーマンスをしようとしていたので、若干本気度が足りない俺たち一年生はついていききれなかったのである。

もちろん俺は、本気でプレーしていた。しかし春高予選に三年生になってから出られるかわからない二年生と、まだ最低でも二回は出場できる一年生の間に、熱意において差ができるのは必然のことだったのかもしれない。

バレーは六人で強い方が強い。当たり前のことのようで、実際問題六人全員の意思統一を図ることはかなり難しいのだ。

 

ちなみに俺と潔子さんの仲に進展らしいものはない。あくまでプレイヤーとマネージャー、俺もあまり部活内恋愛に現実味を持てていないというのもあり、結構仲のいい先輩後輩という位置づけだ。

 

そして時は流れ、三月となった。

この月に、今年度最後――つまり俺達が二年生に上がる前――の大会がある、その名も"県民体育大会"だ。全国大会などには繋がらないが、まあその一年の練習の成果を出すという意味でこの時期に開催されているのではなかろうか。

 

そして今日これから、俺たち烏野高校と、鉄壁のスローガンをもつ伊達工業との試合がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

公式練習が始まり、俺たち烏野高校は先サーブを獲得した。烏野の公式練習は、主にスパイクとサーブのみである。

公式練習は大体各チームに三分が与えられ、その中で練習と撤収を終えなければならない。だから実際練習できる時間は二分半程度なのだ。

 

スパイクを打っていると、観客席から様々な声が聞こえてくる。

 

『おい、烏野の田中だ。相変わらずすげぇ』

『中学んときあんな上手かったか?』

『いるじゃん、高校入って覚醒する奴。その口だろ』

『あーね。ずりぃわ〜』

 

あはは、あはは。もっと俺を崇めよ!褒め称えよ!さすれば、自ずと道は開かれんっ!

 

……さて、公式練習は終わりだ。

 

俺たち烏野高校と伊達工業の試合が始まった。ちなみに背番号は一番から順に、大地さん、スガさん、旭さん、俺、ノヤっさん、縁下、成田、木下である。俺は前世と同じエースナンバーである四番を貰うことが出来た。

 

そしてレフトは旭さんと俺、セッタースガさん、ライト大地さん、センター二人は縁下と成田でリベロはノヤっさん、木下は今のところピンチサーバーでの起用だ。

 

また、ローテの始まりはこんな感じである。

 

――――ネット――――

WS東峰.MB成田.S菅原

WS澤村.MB縁下.WS俺

(MB後衛時Li西谷入)

 

の布陣だ。なぜ俺が後衛スタートなのかと言うと、強力なサーブで相手の出鼻をくじくことが目的らしい。俺個人としてもサーブは好きなので全く異論はないし、後ろから始まった方がバックアタックなども早めに織り交ぜていけるので効果的なのだ。それに、俺以外にスタンディングのフローターサーブ以外を打つのは今のところ旭さんと木下だけで、その二人も成功率はあまり著しくないので結局サーブは俺からになったのである。

ちなみに旭さんがジャンプサーブ、木下はジャンフロだ。

 

―――試合開始の合図である、主審の笛が仙台体育館に鳴り響く。

 

既にルーティンは済ませてある。試合の入りとは非常に大事だ。そこから一気に流れを持っていかれる場合があるので特に注意が必要な場面、俺は迷わず攻めて行こうと思う。

 

(笛が鳴ってからあまり間を置かずに―――)

 

ジャンプサーブ、コースは気にせず威力重視!

 

試合の始まりは誰もが緊張していて体が硬い、さらに突然サーブを打つ者も多くないのでかなりの動揺を誘えるのだ。前世から俺はこれを活かしてきた。やりすぎると対策されてしまうので、出し所は考えながら、だが。

 

そして俺の思惑通り、本気の力の九割で放ったサーブはノータッチで相手コートへと突き刺さり、烏野高校は最高の滑り出しをすることができた。

 

「「「っしゃぁぁああ!!!」」」

 

もう一本。

 

仲間からかけられるこの言葉は、信頼だけではなく軽く脅されているようにも感じるぜ、俺はな。

 

結局その後、五本連続俺のサーブは決まり、堪らず伊達工業――伊達工とこれからは略させてもらう――は一回目のタイムアウトをとる。

 

「いやぁ田中、今日は絶好調だな」

「大地さんアザっす!」

「このまま二十四点頼むわ〜」

「スガさんさすがにそれは無理っす」

「龍、気負わずいつも通りだぜ!」

「おう、任せろノヤっさん!」

「よし、タイムアウト終了の笛だ。田中のサーブが続いてるが、一本で返ってくる可能性もある、気は抜くなよ!」

「「「おう!」」」

「いくぞ!!!」

 

大地さんの一喝により、チームの雰囲気はさらに締まったように感じる。いや、実際締まったのだろう、皆目付きが違う。

 

―――結局その後サーブはとまらず、十点差がついたところでさすがの俺もネットにかけてしまった。

 

というかめちゃめちゃ疲れた。

 

休んでいる暇はない、次は本日初のサーブカットである。今の後衛は俺とノヤっさん、大地さんなので余程のことがない限りミスはしないだろう。俺は前世からの経験があるし、大地さんもかなりレシーブが上手い、多分俺より上手い。そしてノヤっさんは言わずもがな。

 

相手のスタンディングフローターサーブは大地さんに飛んでいき、アンダーでしっかりとAパスの位置へと持っていく。そしてスガさんは、旭さんの最も得意なトスを上げ―――

 

―――シャットアウト。

 

旭さんのスパイクは、伊達工のセンターに完全シャットアウトされたのである。パンフレットで見たが、確か俺と同じ一年だったはず。名前は……青根。ブロックという点においては凄まじく高い水準で纏まっている伊達工だが、今年の……いや、今年からのブロックの軸は彼なのだろうと一瞬でわかった。

鉄壁と謳われる伊達工は毎年ブロックが強いと聞くが、青根は他とは一線を画している。先程の場面、成田のクイックという線もあったはずなのにトスが上がった刹那には既にレフトへと動き出していたのだ。視野の広さ、判断力、また身体的ではあるが、手足の長さは本当に一級品である。一年生の時点でこれなのだから、三年生になったらどうなってしまうのだろうかと若干恐怖を抱いてしまう。

まあ、他校から見た俺もそんな印象なんだろうなぁ。

 

ピッ!

 

おや?

シャットアウトかと思われた旭さんのスパイクだが、ギリギリサイドアウトだったらしい。実にラッキーだ。

 

ローテが周り、スガさんのサーブ。スガさんは顔に似合わない性悪サーブを打つことで有名だ。多分。こんなこと本人に言えば怒られるのは確実なので言わないけど。

 

スガさんの前に落とすサーブを青根が拾い、地味にクイックの牽制をする。相手にしてはかなり嫌なサーブだ。

Aパスに上がったトスを相手レフトが上手くセンターの成田の横を抜いてクロスに打つが、その先には我らがノヤっさん。

勢いを完全に殺すレシーブで攻撃を最大限に支援する。リベロは直接攻撃のできないポジションであるため、攻撃へのお膳立てが重要な仕事となるのだ。

またリベロは最もコートが見えるポジションなので、ブロックへ指示を飛ばしたり大声で味方を鼓舞したりとやることは沢山ある。

その点で、俺はノヤっさんを最強だと評しているのだ。

 

スガさんはもう一度旭さんにオープントスを上げる。さっきはラッキーポイントだったのでしっかり決めさせてあげたいというスガさんの気持ちだろう。

 

旭さんもいつも通りの助走でスパイクを打ち―――

 

(……また、シャットアウト)

 

―――再び青根の手によって、ボールは自コートに落ちた。今度こそしっかり相手のブロックポイントである。

 

今、完全に青根はコースを読んでいた。

 

観察していたが、旭さんの視線を見てブロックを少しズラしたのだろう、腕を振り回すというよりかはピンポイントで止めるブロックなので、バックのレシーバーにもあまり迷惑にならない素晴らしいブロック。

敵ながら天晴れだ。

 

さて、これはかなりキツイな。俺だけトスを集めればなんとかなるだろうが、それはこのチームの方針とは合っていない。俺だけに頼らないようになりたいと皆は口を揃えて言うので、この苦しい場面でそれは崩してはならない。

言い方は悪いが、所詮は県民体育大会。改善点を見つける為にも少し揉まれた方がよいのだろう。

 

―――結局、一セット目は最初のリードが生かせてなんとか先取することができたが、二セット目三セット目と連続で取られ、試合には負けてしまったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰りのバスは非常に暗かった。特に旭さん。

 

あの後何度かブロックアウトは取れたものの、スパイクの半分はシャットアウトされたのだ、そりゃ悔しいわな。

ノヤっさんも超反応を何度も見せた。シャットアウトされる凄まじいスピードのボールを手のひら一枚だけで上げるなど、神がかったプレーを何度も見せていたがついに伊達工を破ることは叶わなかった。

それに、旭さんは最後の最後でトスを呼ぶことをしなかった、つまりは諦めてしまったのである。

これにはノヤっさんも目を見開いていた。その表情は失望にも憤怒にも取れる表情で、俺も何だか怖くて話しかけることができなかった。

 

次の日、大会の後ということもあり軽い練習で終わったのだが、その終わりごろに事件は起こった。

 

「あ?」

「だから、俺が打ってもスパイクは決まんねぇんだ」

「……っ!!一回で決まんなくたっていい!!その度に俺は拾い続ける!だから旭さんはバックを信じて打てばいいんですよ!!」

「はは、その結果が今日のあれだ。西谷は本当によく頑張ってくれたよ、こんな不甲斐ないレフトのためにあんなに……」

「うるせぇ!!!あんたが諦めてどうすんだ!!あんたはこのチームのレフトだろ、エースだろ!?一番ボールが集まるポジションのあんたがそんなんじゃ、勝てる試合も勝てねえ!!!」

「しょうがないだろっ!!俺だって頑張ったよ、それでも無理だった!!!」

「……だから、あんたはあの時、トスを呼ばなかったのか」

「あぁ、そうだ。西谷、お前もわかってるんだろ?俺なんかがいなくたって、田中っていう最強のスパイカーがいるんだ、()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ」

「……ッッ!!!あんたはっ!!!!」

 

白熱したノヤっさんは、床に置いてあったモップの柄の部分を踏み折り、旭さんへと近づいていき睨みつけた。

 

「……俺、しばらくバレーやめる」

「!!……逃げんのかよ」

 

ノヤっさんのその言葉に、旭さんは答えることはせずに無言で歩き去っていく。ノヤっさんはその背中を見つめながら悲壮を浮かべた表情で叫んだ。

 

「あんたが戻ってこないんだったら、俺も二度と部活にこねぇよ!!!」

 

そうしてこの騒動は収束し、モップを折られたこと、そして騒ぎを大きくしたことが教頭にバレた西谷は、一ヶ月の部活動謹慎処分を受けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の帰り、潔子さんに一緒に帰ろうと言われた俺は夜の道を自転車を押しながら歩く。街頭が照らすこの道を潔子さんと二人きりで歩く日が来るなんてな。いつもなら心臓が破裂しそうなレベルで緊張して話しかけまくってそれを紛らわしている所だが、今日はそんな気分にはならなかった。

 

「ねぇ田中。私、何も出来なかった」

「それは……俺だって同じです」

「あの時、どうすればよかったのかな」

「俺にもわかりません。ただ、変に煽るようなことを言っても溝が深まりそうだったので、俺は黙ってました」

「そっか。……私ね、この部活が好きなの」

「……?はい、俺も好きです」

「暖かくて、面白くて、楽しくて。でもやる時はやるって切り替えて。……皆が輝いてて、毎日マネージャーをしながらそれを眺めるのが、私は本当に好きだった」

 

でもね、と。潔子さんの話を遮らないために俺は敢えて無言を貫く。既に歩みは止まっていて、街頭の下で話を続けていた。

 

「あんな喧嘩を見たのは初めてで……本当に、何も出来なかった。部員の調子とかを管理するのはマネージャーの仕事なのに、私はそんなことすらできなかったし、東峰があんなに悩んでたなんて知らなかった。私、マネージャー失格かな」

「そんなことはないです!!」

 

俯き、少し涙声になる潔子さんに、それは違うと即答する。あまりの勢いに驚いたのか、潔子さんは俺を見上げていた。案の定、その瞳はしとどに濡れていた。

 

「潔子さんはすごいです!毎日部活が始まる頃にはドリンクたくさん作ってるし、大地さんとか他の部員がして欲しいことを言われなくてもすぐに気づいて実行するし、球拾いは早いし!と、とにかく、潔子さんはすごいんです!!後は、えーっと、あー」

「……ふふっ」

「え、ちょ、なんで笑うんすか!」

「いや、ううん。ごめんね。でもありがとう、田中。ちょっとは元気出た、かな」

「それはよかったっす!」

「でも……ちょっとだけ、胸、借りても、いい、かな」

 

そう言って無言で近づいてきた潔子さんは、俺の胸に顔を埋め、僅かな嗚咽を漏らす。俺は抱きしめるべきかどうか非常に悩んだが、さすがに本気で悲しんで泣いている女の子に対して汚い感情は抱けなかったので、頭を軽くポンポンするだけにした。

 

 

 

俺、前世の記憶を思い出してから、少し天狗になっていたかもしれない。それが今回の出来事に繋がったのだ、旭さんが俺に劣等感を抱いてるなんて微塵も感じなかったのである。

 

(気合い、入れなきゃな)

 

―――俺は前世では考えられない、ある決意をしたのだった。

 

 

 

 




難産でした。賛否両論出そう(小並感) はやく原作開始させたいのでダイジェスト気味に飛ばして、大事な旭さんとノヤっさんの場面をしっかりと書き上げました。ちょっと適当になった感はあるので気に入らなかったら後で修正するかも。

※原作との乖離点
・田中の背番号が4
・既に旭はジャンプ、木下はジャンフロを練習している

そして最後の田中の決意。ヒントは『頭』です(笑)

旭さん……そりゃないぜ……
やっぱりこの場面熱いな……
潔子さん最後キュンとした……

そう思った方も、思わなかった方も、高評価、お気に入り登録、感想、たくさんお願いします!!
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