田中龍之介に憑依したので全国三本指に数えられるスパイカーになるべく頑張る話 作:龍門岩
『―――おい高坂、手抜くな!飛べ!』
『はい、すみません!』
『―――高坂、ブロックもっと手出せおい!』
『はい、頑張ります!!』
『―――高坂てめぇやる気あんのか!?』
『はい、あります!!』
『―――高坂!!』
『―――高坂!!』
『―――高坂!!』
ああ、もう壊れてしまいたい。
日向と影山が喧嘩をし、体育館から追い出されてしまったその翌日、早朝。俺、田中龍之介は体育館に来ていた。理由は単純明快、朝練をするためである。
実質の部活動禁止を言い渡された彼らだが、大地さんの目の届かない早朝や、体育館を使わない練習ならば許されると考えたのだ。しかし肝心の体育館が空いてなければ意味が無い、なので俺は昨日の練習終わり、大地さんに鍵を返してくると申し出たのである。その鍵をもちろん返さず持ち帰って―――
「おっ、日向はよ〜」
「あ、おはようございます!!」
―――こうして彼らと朝練をするために。
まだ日向しか来ていないが、そのうち影山とスガさんも来るだろう。
そしてこの朝練をしようと決断したのには、実は理由がある。それは大地さんから告げられた、『練習試合』があるからだ。結局日向と影山以外にも入部希望者が二人現れたので、先輩を加えた三人対三人に別れた試合をするらしい。しかもそれで勝てたら入部を認めるという、日向と影山にとってはまさに僥倖の極みであろう。
「今体育館開けっからな〜」
「アザっす!!」
「朝から元気いいなお前」
隠しておいた鍵で解錠し、体育館に入る。まずはネットを立てようと日向に言い、二人で何とか協力して立て終わると、揃って準備体操を始めた。
運動前の柔軟と軽く発汗させるためのアップは、スポーツマンとしては仕事と同義であろうと俺は考えている。
怪我、これはスポーツにおいて最も怖いものであり、最も避けなければならないものだ。どんなに将来を期待されようが、どんなに運動センスが有り余っていようが関係ない。いきなり動き始めたら誰だっていずれ怪我をするのである。
「うし、対人……はできるか?」
「ぅえ、き、厳しい、かも……」
「んー、じゃあ俺がボールを投げるから……いや待てよ、レシーブはスガさんに教えて貰え」
「え、なんでですか?」
「ネットは朝しか使えないんだ、なら昼間にスガさんとレシーブをやった方が効率がいいだろ?」
「な、なるほど、さすが田中先輩!!」
「はは、そうだろう!そして今からやることは……」
「もしかして、す、すすすす、スパ……」
「おうそうだ!スパイクフォームの確認だよ」
「スパイクっ!!……フォームの、確認……」
スパイクと聞いてテンションが上がるも、確認まで聞いて露骨にそれを下げる日向は、やはり見ていて面白いなと内心苦笑する。ここまで感情が先に表に出てくる奴はなかなかいないだろう。
さて、飛んでみてくれ。この言葉を皮切りに日向は感情を昂らせる。よくよく耳を凝らしてみると、小声でフォームを認められてスパイク打ってやる、と言っていた。そんなに小声でもなかったわ。
「うおぉぉぉおおおっ!!」
弾丸の如き速度の助走、翼のように広がるフォロースルー。どれも初心者とは思えない練度である。そして相変わらずのバネだな。だが―――
「どうですか、田中先輩!!」
「日向。お前―――まだ飛べるぞ」
え、っと。呆気に取られた顔を日向は晒す。
「それってどういう―――」
「おはようございます田中さん!」
「ん、おう、はよ〜」
しかしそこで影山が来てしまったので、日向にその理由を教えることができないまま朝練に入ってしまった。
ちなみにだが、影山と日向には俺が。そしてもう二人の入部希望者―――月島と山口には大地さんが入り試合をすることになっている。だが俺がいる時点で戦力過多だろとツッコミが縁下から入ったので、本気の七割までという縛りプレイを大地さんに課せられてしまった。
とは言っても、七割までしか出せないのなら大地さんに軽々しくサーブとスパイクを拾われる可能性が大きい。なかなかいい勝負になるのではないだろうか。
「ナイスキーです田中さん」
「おう、ありがとな」
そんな俺は今、影山にトスを上げてもらいスパイクを打っていた。もちろん本番に合わせた七割の力だが、ジャンプはしっかりやっている。日向は遅れて合流したスガさんとレシーブ練習をしているようだが、俺がさっき伝え損ねたジャンプのこと、そしてスパイクを打ちたいという欲求が隠しきれておらず、興奮した子犬のような顔でこちらを見ているのが面白い。
「なぁ影山!俺にもトス上げてくれよっ!」
「……俺は、勝ちに必要だと思ったやつにしかトスは上げない。今度の試合も田中さんにトスを集めていく」
「んなっ!?」
その影山の一言に、ちょっと大人気ないと俺は思ったが、深く考えてみるとなかなかいい言葉である。バレーは六人で強い方が強い。そしてそれに必要な要素で一番大きいのは、実は攻撃ではなく防御なのだ。どんなに強力なスパイカーがいても、レシーブが出来なければ意味がない。トスにすら繋がらないからだ。
バレーのプレーは、全てが繋がっている。
それを攻撃大好き日向に教えるための一言だろう、と俺は感心して影山を見ていたが……
(多分あれ、なんも考えないで罵倒しただけだな)
その顔はひどく顰めっていたので違うと考えを改め直した次第である。
「……って、時間やばい!早く撤収すんべ!」
「ぉ、おっうわもうこんな時間!一年共働けぇ!」
「おっす!!!」
気づけばもう始業二十分前。ネットを片付け着替えて、としていれば時間はすぐ経ってしまう。急ぎ朝練の痕跡を完璧に消去した頃、それは始業五分前だった。
「んじゃお前らまた明日の朝だぞ!」
「「オス!」」
「日向昼なー!」
「あ、はいっ!!」
全力走行しながらの会話を終え、一目散に自分の教室へと駆け上がり、席に座る。その瞬間に始業のチャイムが校舎内に鳴り響いた。ギリギリセーフってところだな。
そして、朝練をしたのだから当然腹が減る。
早弁を繰り返していたら昼休みには弁当の中身が空になってしまったのだ。くそっ、計算してコンビニにでも行けばよかったぜと後悔するも、後の祭り。
購買にはこのタイミングで飛び出しても既に売り切れているであろう。烏野の購買は非常に優秀で基本なんでも置いているが、それ故に大人気。購買ガチ勢と呼ばれる集団が毎日鎬を削って争っているので食べ物が余っている可能性は限りなく低い。
それでも、なんとかパンあたりが残っていることを祈り、無駄足になって余計腹が減るだけかもしれないという一抹の不安を抱きながらも席を立った、その時。
―――俺の潔子さんレーダーが反応したのだ。
「田中、いる?」
ひょこっと首だけ教室に入れて俺の姿を探す潔子さん。
それを見つめる俺を見つけて、目が合った瞬間に満面の笑みを浮かべる潔子さん。
多少の急ぎ足で頬を赤らめながら俺に向かってくる潔子さん。
「女神、だ」
「た、田中!?」
んぐっ、危ない危ない。あとちょっとで意識が持っていかれる所だった。ほんの数センチ、潔子さんが俺に近かったら卒倒していただろうな。恐るべし、これが女神の輝きかァ!
「昨日LINEで朝練って言ってたから、お腹減るだろうって、思って……お弁当、作ってきた」
「んなっ!?」
お、お、お、おおお弁当だとぉぉお!?
朝練に疲れた俺に笑顔でお弁当を持ってくる女神……そうか、俺と潔子さんは結婚していたのか?
なるほど、そう考えれば……いや違う、結婚なんてしていない。そうだこれは、俺に好意を寄せるあまり弁当を作ってきてしまったのだ潔子さんは!!
ぐふっ、ぐへへへ。
そうと決まれば、まずはお礼だな。普通に腹が減ってて何も出来ないところだったし、本当にありがたいっす。
「結婚しよ」
ありがとうございます!
「ん?」
あれ?俺今なんて??
どうして潔子さんはこんなに頬を赤らめているんだ?もしかして今俺は―――本音と建前が逆になったのか……?
いや、それは断じて否!!
感謝と結婚願望、どちらも本音だ。つまり入れ替わってしまっただけのこと。これは言い訳すればまだ間に合う!!
「す、すみません。本音と本音が逆になっちゃって。潔子さんもよくありますよね!」
その言葉で潔子さんはついに顔から湯気を出し始めたのである。アイエエエエ!?ショート!?なんでショート!?
「ま、ま、まず、ほら、屋上行こ?」
「え、なんでですか?」
「一緒にご飯……食べよう?」
そう上目遣いで恥ずかしげに俺に告げる潔子さん。
―――今度は俺がショートしたのであった。
時間と言うのはあっという間。
今日はもう、練習試合当日である。
朝早く、俺は体育館に行くと既にスガさんがいた。何をしているのかと聞こうとするが、その視線の先を追うと影山と日向の姿。それも影山が一方的に日向に稽古を付けるかの如き激しさでの対人だ。だが、日向はついこの間まで素人同然だったとは思えない反応で影山の強打やフェイントに対応している。
(経験不足を補う、圧倒的反射神経と運動センス。そして絶対に影山を納得させてみせるという強い意志)
やはりあのとき。
初めて日向を見た瞬間に感じた可能性は、間違っていなかった。彼ら二人、絶対にこの試合で何かをしてくれると予感させてくれる。
そして影山が大きく弾いたボール。
さすがにあれは無理だろう、と俺も思った。
だが、日向は違かった。
「なっ、追いつけるはず……!」
スガさんも横で驚愕している。そう、日向は懸命に足を動かしてボールへひた走っているのだから。
このレシーブを何時間も続けてきたのだろう、いくら運動能力お化けとは言っても疲れているはず。それに、あんな意地悪な球出しを見たら諦めてしまうのも普通のはず。
それなのに、日向は顔をぐちゃぐちゃにしながらもなんとかボールの落下点に入ろうと頑張っている。
(苦しい。もう止まってしまいたい。壊れてしまいそう。そう思った瞬間からの―――)
『―――高坂ぁ!!』
『俺は……負けねぇっ!!!!』
『高坂撃ち抜けぇえええ!!』
『「うおぉぉぉおおおっ!!」』
―――一歩。
小さく、意味の無い。そんな単純な一歩になるかもしれない。だが、先に踏み出さなければ変わるものも変わらないのだ。
意地、根性、熱血、ガムシャラ。
これらの言葉が的を得ているようで、しかし違う。今の日向を突き動かしているもの、それはたった一つ。
「……渇望」
俺を差し置いてエースになると豪語するほどの
ふわっと。
美しい曲線美を描いたトスがレフトに上がる。
(あぁ、よかったな。疲れてるだろうが、トスが上がったぞ日向。ならお前は絶対に―――)
ズダンッ!
(嬉嬉として打つよなぁ)
超スピードでレフトに走り込んだ日向は、目をキラキラさせて影山を見つめている。ああ、いいな。あいつら熱いな。
俺も気合い入ってきたぜ。
……だが七割しか出しちゃいけないってのか。なかなかキツイぜ大地さんも。
「影山っ!俺たちで勝つぞっ!」
「当たり前だ」
「俺も忘れてもらっちゃ困るが……今回の主役はお前らだ。頼むぞ?」
「「オスっ!!!」」
そして続々とバレーボール部員が集まり、最後に到着したのは月島と山口―――練習試合の相手だった。
「それじゃ、楽しくやろうよ、王様」
―――決戦の火蓋が、切って落とされた。
日向強化フラグ
遅れてすみません、執筆意欲が低下してまして。さすがにこれ以上サボるのは良くないと思ってなんとか書き上げました。
(なお、話はあまり進んでいないもよう)
はやくインハイ予選書きたいぃぃ……
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