田中龍之介に憑依したので全国三本指に数えられるスパイカーになるべく頑張る話   作:龍門岩

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変人たち

 

 

 

 

 

 

 

 

『続いてのコーナーは〜!』

 

『フューチャーモンスター!未来のヒーローを発掘します!今日は愛知県立星雲高校に行ってきました!』

 

『この高校にいるフューチャーモンスターは、この人っ!高坂瑠偉君です!』

 

『インターハイ、春高共に三連覇という高校バレー史上初の快挙を成し遂げた星雲高校の、まさに立役者!私達はその練習を覗いて見ました!』

 

『いやぁ〜、しかしバレーボールの花形であるスパイカー、それも大エースの高坂君に注目が集まるのもわかるんですけど、僕はその他の選手も見てほしいんですけどねぇ』

 

『なるほどそうですね!星雲高校の高坂君世代は、巷では黄金時代と呼ばれているそうですよ〜!』

 

『いやまさにその通り!全員が高校トップレベルの選手ですから、高坂君だけが強いというよりも星雲高校が強い、と言う方が正しいかもしれませんねぇ』

 

『はい、皆さんありがとうございます!それでは高坂君に、座右の銘を聞いてみました!それはズバリ〜!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――水滴石を穿つ。

 

俺がこの言葉を知ったのは小六の頃だった。

あれは丁度国語の授業だったか。ことわざと四字熟語を覚えよう、という趣旨でプリントが配られていて、その中にこの言葉があったのである。

ちなみにこのことわざの意味は、至極単純だ。

僅かな水滴でも、絶えず落ち続けることで硬い石にすら穴をあける、ということから、小さなことでもコツコツ継続すれば大きな成果として自らに返ってくる、という意味がある。

小六の時点で既にバレーボールはやっていたが、まさかそれが人生の座右の銘になるなんてあの時は思ってもみなかったな。

 

バレーボールにおいて、何物にも代えがたい絶対的な才能とは身長である、というのが俺の持論だ。身体的な差というのは努力では中々埋まらないもので、それ故に人は高さを渇望するようになるのである。

 

―――水滴石を穿つ。まさに俺はそれを信じてバレーボールを続けてきたと言っても過言ではないだろう。

実際俺は、石を穿てたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、楽しくやろうよ、王様」

 

月島のその一言を皮切りに、練習試合もとい、影山日向の入部試験が開始した。

 

「げっ、相手には東北の龍がいるジャン。キャプテンこれどうなんですかぁ?」

「あぁ、田中には七割くらいで頼むって言ってるから、多分大丈夫だと思うぞ。まぁそれでも田中が強いのには変わりないけどな」

 

そう言って苦笑いする澤村に、本当に嫌そうな顔を隠しもしない月島は諦めたかのようにため息を吐いた。しかしその後に影山と日向を見つけると、勝算はここにあり、とでも言わんばかりの煽りを始めたのである。

もちろん単細胞二人組には効果覿面。いくら天才と運動能力お化けとは言っても、所詮は自己中の王様と跳ねるだけの初心者だ、冷静じゃなくせば全然勝ち目はあると、月島な内心ほくそ笑む。

 

かくして試合は始まった。

 

山口の放ったサーブを田中がきっちりオーバーで影山に返し、影山はそれをレフトで待つ日向にトスを上げた。

 

(俺にもトスが上がるんだっ!!高校一発目の試合、そんでスパイク!決めてやるっ!)

 

意気込み、身体に染み付き始めたいつものフォームで姿勢を整え、日向は渾身の一発と言わんばかりにスパイクを打つ。がしかし、月島にシャットアウトされてしまった。

 

「ほんと、君よく跳ぶね〜。それであとほんの三十センチ身長があれば、ヒーローだったかもね」

「ぐぬぬっ……!」

「おい日向」

「つ、次は決める!だからもう一本!」

 

影山は日向になんて声をかけようとしたのか定かではないが、日向の闘志に満ち溢れた瞳を見て不敵な笑みを浮かべたので、影山も気合が入ったように見えた。

 

続いて山口のサーブ。これは日向に向かっていったが、苦しいスパルタ練習の成果が出たのか綺麗にAパス位置へサーブカットをしたので、影山は体制に余裕のあるライト側。つまりは田中にオープントスを上げたのだ。

 

(いや、ほんっといいトス)

 

いいセッターは、スパイカーに自分は上手いと錯覚させるとはよく言ったものだ。菅原は菅原で田中の好みのトスを上げるのだが、やはり影山は何枚か上手に見えるのである。

 

(七割。結構キツイけど、やりようはいくらでもある)

 

田中はトスと相手コートを観察しながらジャンプする。ブロックは月島と澤村の二枚。バックの山口の位置を見るとワンタッチ狙いだろうと田中は推測した。

 

(狙いを定めて―――打つ!)

 

ライト側から打つ田中から見てクロス側。月島の右手の小指近くを目掛けて放たれたスパイクは、田中の狙い通りに大きく弾かれ壁に激突したのである。

 

「田中さんナイスキーです!」

「ナイスキーですっ!!」

「ありがとな!」

 

影山と日向は田中を賞賛するが、やられた側の月島も歯噛みをしながらも内心で感心していた。

 

(最初は月バリ嘘言ってるとか思ってたけど、これは本物。あー田中さんにトス集まったら勝てる確率低い、ってか正直無理デショ)

 

最初に見せた、安定を感じさせるレシーブ力。日向にも負けないバネ。七割になろうが、少なくとも月島よりも高いパワー。そして冷静に相手コートを分析した上で、力の入れにくい小指に正確にスパイクをぶつけるコントロール。

 

(東北のウシワカ、東北の龍。どっちも宮城県だなんて運命ですかって感じ)

 

この瞬間に、月島は田中龍之介という人物を認め、尊敬したのである。自分で見たもの、つまりは正確な情報しか信じない月島らしいと言えばらしいが。

 

しかしそんな月島にもプライドはある。

 

(―――ただ黙って負けるのは、癪に障る)

 

月島は人知れずその瞳に決意を浮かべ、長袖のウォームアップTシャツの袖を捲りあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺―――田中龍之介は混乱していた。なぜかって?

 

それはな……。

 

「それでそこの王様は、チームメイトすら追いつけないような横暴で自己中なトスを上げ続けて、終いにはトスを上げた先には誰もいない。正に自己中セッター、横暴な独裁者。―――コート上の王様、だよねぇ」

 

……試合止めてこんな長話するなんて。

 

(普通じゃねえ!!)

 

だが、その内容自体は非常に興味深いものだ。影山はとんでもなくバレーが上手いというのは周知の事実。であるのにも関わらず中総体で北一が優勝できなかったこと、王様という言葉への過剰な反応。そしてなぜ数ある高校の中からこの烏野を選んだのか。

 

「―――でも、それって中学ん時の話だろ?」

「っ……だから、そこの王様は」

「でもちゃんとボールきたっ!」

「っ!!」

 

日向のその言葉に、影山はカッと目を見開いた。なるほどたしかにそうだ、中学の話なんて関係ない。むしろ日向には、中学のことを思い出して感傷に浸っている影山が非常にダサく見えているのだろう。

日向が通っていた中学に男バレがなかったのにも関わらずバレーを続けてきた日向に、相棒と呼べるようなセッターはいなかったのだ。だからこそトスを上げてもらえる喜びも、その価値も、人一倍理解できるのか。

バレーボーラーが忘れがちで、酷く単純なこと。

 

―――バレーボールは、全てにおいて繋がっている。

 

日向はそれを教わらずとも心情にしているのかもしれないな。と、俺はなんとなくそう思った。

 

「いいか、日向。お前は自分の最高のスピード、そんで最高のジャンプでスパイクに入れ。ボールは見なくてもいい、俺が持っていく」

「……は?持っていくって、なに」

「いいから俺を信じて飛べ、日向」

 

そう影山に言われた日向は、渋々ながらも頷き相手コートを見据えた。だが次のサーブは俺だ、チャンスボールがこなきゃ影山がやろうとしている面白そうなことができない。

 

「すんません、大地さん」

 

俺はこの後輩二人のやることが見てみたい。だからすみません、ルール破ります。

 

(―――()()ッ!!)

 

全力のパワーに最も近い九割の力でサーブを放つ。それも大地さんに、である。予め力を出していくと伝えれば拾えただろうが、さすがにルールを破るとは思わなかったのだろう、大地さんは反応が一歩遅れサーブを大きく弾いてしまったのだ。

 

「チャンスボールゥゥウウウ!!」

 

そのまま俺はファーストタッチをアンダーで影山の真上の位置へと持っていく。日向は既にレフト方向に走り込んで、影山がボールに触る前に飛んでしまっている。

 

(いや、日向はやす―――)

 

ズダンッ!

 

と、気づいた時にはボールは相手コートに転がっていたのである。

 

―――今、何が起こった?

 

俺は確かに日向の姿と影山のセットフォームを見て、ブロックフォローに入ろうと走り出そうとしたんだ。しかし日向のジャンプが早すぎる、それじゃあ速攻は合わないと危惧したその刹那。日向はもうスパイクを打っていたのである。

 

「うぉぉおおおっ!?すっげぇすっげぇ!なあなんだよ今の!なあ影山ぁ!」

「はぁ、喜びすぎデショ。一本のまぐれじゃん」

「おい、今……日向、目ェつぶってたぞ」

「「「はァ!?」」」

 

大地さんの衝撃の一言に、俺と月島、そして影山が驚愕の声を出した。さらに俺はその瞬間、とんでもないことに気がついてしまったのだ。

目を瞑った日向に、あの速度のトスを寸分違わず日向の振り下ろされる掌に()()()()()()

高精度、なんてもんじゃねぇ。たった数センチ、たったゼロコンマ何秒。それだけズレてしまうだけで途端に失敗してしまうような神業。それを影山はたった一回で成し遂げてしまったのだ。

そしてさらに驚くべきは日向である。

いくらトスを見なくてもいいと言われようが、目を瞑って全力ジャンプ、全力スイングなんで俺には不可能だ。

信じる力。いやこれは―――脅迫(しんらい)とでも言おうか。トスが上がると日向は信じているのだ、それはセッターにとってなんとしてでもトスを上げなければ、という強迫観念へと昇華するのである。

 

(―――末恐ろしいな)

 

そして、面白い。

俺は無意識に口角がつり上がっていることに気が付かないのであった。

 

 






お久しぶりです、更新遅れましたさーせん!!
もしかしたら年内最後かもしれません。

中々お話が進まないですねぇ。そして、試合描写が難しい!!
戦闘描写は得意なのになぁ〜。

そしてお気づきの方もいるかもしれませんが、星雲高校のモデルは某星〇高校で、大エースは石〇〇希選手がモデルです(笑)

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