虞美人さん、人理修復中のカルデアにて   作:heater

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芸術は爆発。黒歴史も基本爆発。テンションで進める、よくない。


いともたやすく行われる八つ当たりな自爆

 

 

「……虞美人さん、呼び方を変えても良いでしょうか……」

「なぜ小声なの?」

 

 ある時、マスターが人目を忍んで私に聞いてきた。

 どうもマスターは周囲にこの話題を周囲に聞かれたくないらしいが、突然どうしたというのだろうか。

 基本的にマスターやマシュを含むカルデア一同は私のことを虞美人(名前)にプラスで敬称を付けて呼ぶ。サーヴァントは燕青やロビンフッド辺りは虞美人(グビ)姉さんなど略して呼び、不遜な王辺りは名前を呼びすらしないこともあるが、基本虞美人と呼ばれることが多い。そんな今まで特に変えてこなかったものを、いきなり変えようとするなどどうしたというのだろうか。

 

「……ペンテシレイアさんというサーヴァントが召喚されまして」

 

 話を聞く所によると、新しいサーヴァントが召喚されたのだが、そのサーヴァントにとっては「美しい」という言葉がNGワードとのことだ。あとついでにアキレウスも。そこで虞美人()の“美人”という単語が、彼女の怒りの琴線に触れてしまうのではないかとカルデア一同は危惧したらしい。しかし名前はサーヴァントにとっては重要なことが多くあるモノ。勝手な名前で呼ぶのは失礼に値すると思い、こうしてマスターがわざわざ私に頼み込みに来たとのことだ。わざわざマスターが出向いて聞きに来ている辺り、相も変わらず妙な所で律儀である。

 ……そもそも私の“美人”は後宮での役職名である。虞姫と呼ばれることもあったが、通りが良かったから虞美人と(そのように)名乗っているだけで、そこに拘りはない。様々な問題があるようならば、私もペン……テシレイアとやらに絡まれるのは面倒なので好きに呼べばいいと伝えた。すると、

 

「では(ぐっ)ちゃんと!」

「お前、割と肝が据わってきたわね」

 

 マスターは活き込んで私をそう呼んできた。

 え、ぐっさんだとヤマトに居た頃の友人や有名人の名前を思い浮かべる? 知らないわよそんなこと。ともかくちゃん付けはやめなさい、ちゃん付けは。十数年やそこら生きた男にそう呼ばれるのは何故か嫌だ。好きに呼んでも良いと言った? 気のせいよ。

 さすがに(ぐっ)ちゃんは冗談だったらしく、最終的に虞+敬称か虞美人(ぐび)+敬称辺りで落ち着いた。……しかし、ちゃん付けね。えんまちゃんがぐっちゃんと呼んだり、ドクターやペペが軽い感じで(あくた)ちゃんと呼ぶことはあったけど、こちらの名前でマスターにそう言われるのを断るのは……ちょっと勿体なかったかしら。

 

 

 

 

 

 

 ある時、夢を見た。

 内容は聖杯大戦とやらに関する副産物が事件を起こし、マスターが竜に呼び出されて解決する、というものだ。それに私も何故か巻き込まれたのだ。……いえ、正しくは藤丸立香(マスター)ではないのだけれども。

 その藤丸立香は人理が修復した後の藤丸立香で、虞美人()を知らない藤丸立香であった。私が話しかけても私を知らないと言った挙句、竜が「人理修復をした」云々と言ったのだから、恐らく違う時空の藤丸立香なのだろう。……私が人理修復前のカルデアに呼び出されたように、そういうこともあるのだろう。

 だが、何故私が呼び出されたのだろうか? 少なからずこの身はサーヴァントとして人理修復前に召喚された私であるため、英霊として呼び出されたのだろうけど……理由が分からない。理由(それ)を竜に聞くと、

 

「なんか、勝手に呼び出された」

 

 とのことだ。私はこの竜を一発殴っても良いと思う。

 なお、藤丸立香に止められた。くっ、コイツ止め方が殆ど一緒ね。混乱する。

 

 呼び出された理由は兎も角、こういった空間では問題を解決しなければ元の場所に戻れないと悟っている私は、初めケイローンとペンテシレイアが見たら狂喜し(喜び)そうなサーヴァントと出会い、大まかな方針を決め不本意ながら藤丸立香と竜……ジークと共に問題解決に勤しんだ。

 わらわらわらと出てくる影――複製サーヴァントは厄介なことこの上なく、面倒なので呪血尸解嘆歌具(エターナル・ラメント)を連発して薙ぎ払っていった。初めは凄いと言っていた藤丸立香ではあったが、ケイローンから私の()()について指摘を受けると、使わせることを躊躇うようになった。……やはりと言うべきか、この男はどの世界のカルデアでも同じこと言うようである。おそらく流星一条(ステラ)に対してもこの男も使わないように言っているのだろう。

 ……だけど、この藤丸立香は私のマスターではなく、そして境遇も違う。その上、人理修復を完了して、()()()()を知らないのであるならば、

 

「覚えておきなさい、藤丸立香。この顔を、魔術を、声を、能力を、在り方を」

 

 お前が歩む道程の先には、必ず私とは違う私が現れる。だから、

 

「貴方は躊躇うことはあっても、成すことは最後にきちんと成し遂げなさい」

 

 芥ヒナコとしての在り方を、この男は忘れずに先に進まないといけない。

 それが芥ヒナコ(先輩)としての在り方であり、そしてそれが私が呼び出された理由なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 ある時の夢の続きのことだ。

 集まったメンバーでピクニックをした。ケイローンやアキレウスを除けば、知っているサーヴァントしかいないメンバーであったが、相手はやはり私達のことは覚えてい(知ら)ないようであった。だが、藤丸立香は変わらずこのサーヴァントを纏めている辺り本質は似ているのだろう。

 この夢も数日が立ち、この空間ももう少しで問題解決する。ので、藤丸立香が一人の時を見計らってふと思いついたことを言ってみた。

 

「ねぇ、後輩。私普段は下着を着けないし自室で寝るときは裸よ」

「ぶっ!?」

 

 藤丸立香は含んでいた飲み物を見事に吹き出して咳き込み、慌てた様に口元を拭くと、急にどうしたのかと私に問いただした。ふふ、いいリアクションね。

 そう、何故私がこのようなことを言い出したかというと――ただの嫌がらせである。

 理由は簡単だ。なんとこの男のカルデアには項羽様が居るのだ。しかもあのお姿としてである。つまりこの男が進む先では――芥ヒナコ()が項羽様と出会うのだ。そんな相手に対する嫌がらせである。私が私に嫌がらせで意味が分からない? 気にしてはいけない。

 

「ああ、ちなみに私のマイルームの部屋の暗証番号は310480よ。特に使用せず変わっていないなら■には■があって、■を■した所に本の■があるから。クローゼットを開ければ■の裏に■があるし、自由に使いなさい。多分そっちの私に対する精神攻撃には使えるから」

「先輩自爆が好きなんですか!?」

 

 失礼ね。ただそれが一番手っ取り早いからよ。色々と。

 

 

 

 

 

 

 ある時私の前に現れた()()は、人の形をしたヒトであり、私の最も嫌うモノの象徴であり、私が目を逸らしていた存在であった。

 曰く以前からカルデアに居たらしいが、戦闘能力を有していないため戦闘に出る機会は無かったと彼は言う。だからこの姿と世で会うのは初めてのことだ。善性のマスターと仮とは言え契約しているので、今の彼自身善性よりだとは彼が言う。しかし本質の好奇心や夢や衝動があるので完全な善性でもない、と彼は言う。

 

「なら、お前は以前と違って人を呪い続けはしないという事かしら、張三李四(ちょうさんりし)?」

 

 それに対し、彼は「オレのことを知っているなんてー」などと適当なことを言う。あるいは本当に覚えていないのかもしれないが、この態度からいって間違いなくこの男は私のことを覚えているだろう。彼はそういう存在だと、私は()()()()()

 ――私は知っているのだ、彼は人を恨みながら、私とは違うものを追い求めていたことを。それは彼がカルデア(ここ)に来る前から変わらない本質であると知っているから、何故そのように願えるのか私は理解できない。文字通り悪行を成さなかった彼が、悪として貶められたにも関わらず、それを求めることが()()()()()()のか、私は理解できない。

 そして違うモノを夢見ながら、カルデア(ここ)に居ればそれが叶うかもしれないとお互いに知っている。彼は「割と楽しく過ごせている」と、嘘のように、本気のように笑顔を作る。曰くこんな自分だからこそ出来ることもあると言う。存在が認識されにくい、英霊最弱だからこそ、出来る行動(イタズラ)というものが――イタズラ?

 イタズラという言葉に対し、何故か私は妙な違和感を覚えた。具体的にはここ数か月の奇妙な出来事。

 

「最近食後のデザートが少なくなる時があると思った時も、読んでいた本の栞の位置がずれていた時も、(項羽様の水着)衣装案が拾われていたのも――」

「そう、オレのせい!」

 

 よし、殺す。こいつは悪だ。

 地味な嫌がらせ(気のせいだと思っていた)がコイツのせいならば容赦はいらない。

 偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)? よし、どんと来なさい。発動した瞬間に呪血尸解嘆歌具(エターナル・ラメント)で道連れにしてやる!

 

 

 

 

 

おまけ

 

 とある世界での藤丸立香、シンにて。

「あ、芥先輩! 芥先輩じゃないですか!」

「……お前に気やすく呼ばれる筋合いはない。というより、初対面でしょ」

「何を言っているんですか芥先輩! 俺は貴女のカルデア自室に項羽さんの人形があるの知っていますよ!」

「……は?」

「実は本は読んでいるフリなんですよね!」

「え?」

「ですけど劉邦と項羽さんの本だけは熟読して、赤ペンで文句を入れたり格好いい所は栞を挟んでいるんですよね!」

「ちょっと待って」

「紅閻魔さんとえんまちゃん、ぐっちゃんと呼び合う仲なんですよね!」

「何故知っている!?」

「あ、所でうちのカルデア、芥先輩が知っている会稽零式としての項羽さんが居るんです!」

「え!?」

「だから――うちに来ません、芥先輩?」

「行くわ」

 

 




いともたやすく行われる裏切り。
なお蘭陵王も味方になり、毒も解決し、衛士長はマッサージとなり、異聞帯項羽様とは争いを避け、クリプターは普通に脱退できた模様。

この物語において虞美人さんとこの世全ての悪さんとは生前出会っている設定です。
人が寄り付かない場所に行ったら【彼】が居て、「ここは私が居るべきではない」と去ったような感じです。居たくない、ではなく居るべきではない、と。

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