地霊殿を出発して五分と少々、俺とこいし様はひとまず旧都に向かうことにした
特に理由はないのだが、強いて理由を言うならば必要物資の調達である
地霊殿からある程度の物資は持ってきたとは言え、キッチンが半壊したせいで非常食も殺られてしまったらしいので、もしもの時の非常食を購入しなければならなくなった
なにせ地上は妖怪やら妖精やら人外やらがウヨウヨしているような場所だから何が起こるか分かったモノじゃない!
いくら中途半端なサイボーグと言えど元は人間だから、基本的には人間と同じである
そして地上は灼熱地獄のある地底よりも温度が低いのでカッターシャツの下にTシャツを着ているというどうでもいい情報も伝えておこう、ついでに少し大きめのバッグも持っている
.....全く、この頃俺は一体どこと交信しているのだろうか
「蒼兄、どうしたの?」
「いや、何でもない」
どうやら心配をかけてしまったらしいな
どうやらこいし様は昔、第三の目を閉じてしまったらしく、さとり様のように心を読む力がない
その代わりに覚妖怪としてではなく、古明地こいしという一人の少女に与えられた「無意識を操る程度の能力」なるものが覚醒したらしい
ちなみに俺には程度の能力と呼ばれる力はない
いや、覚醒していないという方が正しいのかもしれない
さとり様が言うには、個人差があるらしく目覚めないまま一生を終えるものもいるくらいらしい
俺はサイボーグだから今まで何とか能力なしでやっていけたが、それでも異世界に流れ着いたのだから能力的な何かは男ならば一度は思うはず、何故なら俺がそうだから!
「....蒼兄、さっきから変な顔してるよ永淋に診てもらえば?」
「こいし様、それは俺にしばらく帰ってくるなと言ってんのか?」
「ううん、その悪人面を整形してもらえば、って言ってるんだよ」
「人の気にしてることを笑顔で言うのはヤメてもらえませんかね!?」
こいし様はきょとんとする
流石「無意識を操る程度の能力」の使い手、悪意ゼロの無意識で俺の心配をしてくれたようだ
.....これを心配と受け取っていいのかも疑問だが
こいし様はそんな俺の思考に気付く気配もなく、トコトコと俺に付いてくる
本当、無邪気な所は見た目相応の子供らしいのに幻想郷ではそんな常識は通用しないんだよな...
こいし様も妖怪だから俺よりも長寿に違いない
しかし年齢のことに触れるのは女性に対して失礼なので誰も聞くことができないのは明確である
「蒼兄、旧都が見えてきたよ、ついでに朝ごはんも食べて行こうよ」
「そうだな、確かに朝飯はまだ...」
そこで俺は気がついてしまった
地霊殿ではいつも俺が朝昼晩と三食を作っていたこと、今はキッチンが壊れており使用不可能だということ
「.....まぁ、いいか」
今は(酔い潰れてしまってるが)勇儀さんもいるし、何とかなるであろうと信じたい
それに念のために余り物を少し置いてきてあるし大丈夫だろう
「こいし様は何が食べたいんだ?」
「ラーメン!」
「幻想郷にあったっけ!?」
俺はこいし様を追いかけ、旧都に向かって走って行った
※
「本当にあったよラーメン屋...」
数分後、俺とこいし様は旧都にある明らかに人が通るような道ではない路地裏の一角に恐らくスキマ妖怪の仕業により幻想入りしたラーメン屋の屋台があった
ていうかどうしてこいし様はこんな知る人ぞ知るを通り越して知る人いるの?というような場所を知っているのであろうか?
大方散歩している時に見つけたというのが正しい答えなんだろう
....それ以前に朝からラーメンを食べることになるとは思わなかった
俺とこいし様は席に座り、店主を呼ぶためにあるだろう鈴を鳴らす
「いらっしゃい、何食うんだ?」
....店主の接客態度に少しだけ文句を言いたい、何だろうな、客が来やがった的な顔で一瞬舌打ちをされた気もする
「塩ラーメンと醤油ラーメンで」
「へいへい、一人で二つも食うのかよ、しかも違う種類を」
「まぁな、こう見えて大飯食らいなんだ」
まぁいいけどよ、と店主は舌打ちを一つして奥で調理を始める
俺と店主の会話で気がついた人はいるかもしれないが、店主にこいし様の姿は見えていない
こいし様の「無意識を操る程度の能力」は他人の無意識に存在するというのが能力の本質であるため、こいし様を意識していないとこいし様の姿を確認することはできない
俺もたまにだが姿を確認できないことはある
この能力は意図的に発動するものではなく、自動的に発動しているものなので、こいし様の意思で能力を解除することもできない
だからこそ彼女は盗みやら、食い逃げやらを平気でしている
このラーメン屋も被害にあったのかなー、と少しだけ遠い目になる
「こいし様、醤油ラーメンで良かったか?」
「うん!」
俺たちは少しの雑談をしながらラーメンを待った
店主に独り言が多いと軽蔑の眼差しも向けられたがこいし様の姿を確認できていないならば仕方ないと思い苦笑いで誤魔化す
あと、ここのラーメンは結構美味しかった
店主とも仲良くなり、また今度来ると店主と約束をし屋台を後にした
さて、準備も済んだことだし地上へ向かいましょうかね