のぞ→♡ココ
こま→♡のぞ
「少し休憩しましょうか」
「賛成―!」
のぞみは今日、こまちの家へ遊び人っていた。いや、遊びに、ではなく勉強を教えてもらっていた。
先日のテストでとった点数はあまりいいものではなく、決して責められているわけではないとわかってはいるのだがそれでもココがついていた大きなため息はのぞみに結構なダメージを与えていた。
「どうぞ」
こまちがお茶とお茶菓子を私、のぞみはそれを受け取る。
人差し指が触れ合い、トクンと心臓が拍動する。
「お勉強したらちゃんと休憩しないと、頭がいたいいたいになっちゃうからね」
小学生並みの文章力、小説を書くこまちからすればさらに幼く感じられるのだろうが、それがまたかわいらしかった。ピンク色の髪から彼女の匂いが漂ってくる。
「これで点数が上がったら、ココは喜んでくれるかな……。とりあえず次のテストまでに十点アップ目指して頑張るぞー、けってーい!」
「ふふ、頼もしいわね」
「いえいえ。頼もしいのはあなた様で……。よろしくお願いいたします!」
のぞみがわざとらしく敬礼してこまちをじっと見つめる。
「えぇ。了解」
こまちもそれに合わせ、敬礼で返した。
そうだ。
のぞみはココのために頑張っているのだ。
プリキュアになったのもココを守るため。勉強を頑張るのも、ココに褒めてほしいから。全部、全部……。もちろん、こまちはそんなのぞみを応援しようと思っている。
「……どうしたの?」
いろいろ考えてしまっていたせいか、のぞみに心配をかけてしまったようだ。大丈夫よ、と返事をする。
「さあ、続きを始めましょう」
再び問題集を開いて勉強会を再開する。
のぞみの問題に対する表情の変化といえば面白い。簡単な問題だとにんまりし、難しい問題だとげんなりし。思わずくすっと笑ってしまった。
「うぅ……笑われたぁ……」
のぞみはそれを、自分があまりにも勉強ができないので笑われたのだと勘違いしたらしく、慌てて否定する。
「そういうわけじゃないの。ただ、少し面白くて……」
「おもしろい?」
本人はその百面相をわかっていないらしく、それがさらに笑いを誘う。
「え、なになに!?え、え!?」
きょろきょろと誰もいないはずの周囲を確認して、自分に対してのものだと再認識する。
食べてしまいたいくらいに好きだ、という言葉がある。もし私がのぞみを食べてしまったら、どんな味がするのだろうか。甘酸っぱい恋の味。苦みのある罪悪感。どんな味だとしても、私は受け入れることができた。
「気にしないで、あと少し頑張りましょう」
それでも、やっぱりだめだ。誰かから奪うなんて、そんなこと。
のぞみは勉強が苦手だが、一度集中してモードに入ると周囲のことなど何も気にしなくなるほどの集中力を発揮する。ただ必死に、今の自分を超えようとする。
これだけ近いと、のぞみの息遣いが感じられる。くりんとした瞳、きめ細やかな肌、柔らかく湿った唇……。ついつい見とれてしまう。のぞみは知らないだろう。彼女の書く小説、その主人公がのぞみのような少女になっていっていることを。
「…さんて年よーし、終わった!」
のぞみが問題を解き終わり、こまちが採点をする。まちまちの点数ではあったが、のぞみにしては十分にできているほうだ。
間違った問題はこまちが解説を入れる。ふつうは解答・解説を見たほうがいいのだろうが、のぞみはそれが理解できないのだ。できるだけ言葉を噛み砕いて説明しなければならない。向かい合っていると難しいので、彼女の隣に座ることになる。二人の肩が触れ合うくらいの距離まで詰め寄る。だがいくらこちらが意識したところでのぞみは何も気づいてくれない。それはわかっていた。
「これはね?こうやって……」
さらに高鳴る鼓動が聞こえてしまわないか心配になる。その心配は次第にドキドキへと変わり、その状況さえも楽しんでしまっている自分がいた。
同じ部屋に彼女がいると、一体になっているような気がする。でえも、それはそんな気になっているだけ。
彼女と肌が触れ合うと、互いの気持ちが伝わっていくような気がする。でも、それもそんな気になっているだけ。
この気持ちは、そっと私の胸の奥にしまっておこう。
「ほんとありがとー!やっぱりすごいね!」
勉強会が終わり、のぞみが帰る準備をする。
「……そうだ、何かお礼がしたいんだけど……」
何がいい?と聞かれたが、急には思いつかない。
「そうね。それじゃあ……キスでもしてもらおうかしら」
からかうように、そう言ってみる。冗談だと言って笑われるか、やってくれるとしても頬に優しくしてくれるだろう。
「そんなことでいいの?」
「ええ」
「……わかった」
こまちの顔に、のぞみの顔が近づく。
この日、私のファーストキスは初恋の人に奪われた。