Fate/Extreme Aid   作:オリオンリング

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俺とお前は……戦うことでしか解り合えないので初投稿です


Bad Time

「永夢ー。えーむー」

 

立ち尽くしている永夢に呼びかけたり、顔の前で手を振ってみたりするけど反応はない。

参ったね。中身だけ抜けてどっかいっちまったみたいだ。

 

「監察医、取り敢えずベッドへ運ぼう」

「りょーかい」

 

椅子から立ち上がった大先生に頷いて、取り敢えず永夢の足を持とうと屈む。

ん……?なんか、永夢の体が波打ったような……

不思議に思い、ジッと永夢を見つめているとバグスターウィルスが湧き出して自分の視界を覆い隠した。

 

「い゛っ…………」

「ゔっ……」

 

直後、転がるように永夢の体から飛び出してきたパラドの頭と自分の頭が激突して目から火花が飛ぶ。

痛ってぇ〜勘弁してよ、もう。

………………って。

 

「パラド、何があった」

 

大先生が身構えながら自分と同じく頭をさすってるパラドへ問いかける。

そう、パラドだ。

先程「何かあったら自分だけでも脱出して助けを求める」と言っていたパラドが、永夢のゲーム開始から1分もしないうちに飛び出してきた。

どう考えても只事じゃない。

 

「くそっ…………やられた!黎斗の奴……俺を無理やり外へ飛ばしやがった!」

「やはり罠だったか……!」

 

大先生は悔しそうに歯噛みする。

パラドは再びバグスターウィルスに戻ると永夢の体に飛び込んで行ってしまった。

 

「監察医、俺が行く。お前は待機しててくれ」

「俺が行くって……永夢のドライバーからガシャット抜いても大丈夫なのか?」

 

ゲームを始める手段が永夢が今ドライバーに挿してるガシャットしかない以上、自分たちも行くにはそれを抜くしかないんだけど…………

正直、気が引ける。どうみたって普通の状態じゃないし。

 

『流石に勘がいいな九条貴利矢……』

「檀黎斗!」

 

PCが勝手に起動した。

大先生はまたまた画面に写ったアイツを睨みつける。

勘がいい?じゃあやっぱりガシャットを抜くのは不味いのか。

 

『察しの通り、ドライバーからガシャットを抜けばゲーム内に入り込んでいる永夢の精神は二度と元に戻れなくなる』

「ったく……ロクなことしねぇな」

 

舌打ちして、画面をピンと指で弾く。

液晶の中のあいつは微動だにせずニヤニヤとしているだけだ。

 

「それで、自分達が永夢を助けに行く方法はあんのかよ?」

『無い……と言いたい所だが、一つだけある』

 

自分と大先生が同時にPCの画面をのぞき込む。

アイツは勿体ぶるように暫くニヤニヤと自分たちを眺めてから、漸く語りだした。

 

『まず君たちがバグスターになって』

「はいお疲れ様ー」

 

パタンとPCを閉じて言葉を遮る。

せっかく生身に戻ったってのに、冗談じゃない。

結局、打つ手なしってことか。参ったね。

 

「バグスターなら、助けに行けるのか」

 

大先生がジッと自分の方を見ている。

いやいやいや、自分もう人間に戻ってるし。

またバグスターに戻るのは嫌よ?

自分の困惑を察したのか、大先生は首を横に振る。

 

「違う。監察医にバグスターになれと言いたいんじゃない。居るだろう、俺達の身内にもう1人、バグスターが」

 

あっ、そうだ。この場にいないからすっかり忘れてた。

心の中で謝りながら、スマホを取り出して目的の人物へメッセージを入れる。

きっと今頃白髪先生の病院で診察してるだろうしな。電話をかけるのは控えておく。

…………っていうか大先生、自分で連絡入れればいいのに。

さては説明が面倒臭いからこっちに投げたな?

 

 

 

 

 

やられた。完璧に嵌められた。

僕は思わず頭を抱える。

あの精神と○の部屋の衝撃が大きすぎてスルーしてたけど、そもそも自由にゲームを中断できるならそんな機能必要ないじゃないか!

黎斗さんは無駄に爽やかな笑みを浮かべながら、僕の肩に手を置く。

 

「まぁまぁ、永夢。落ち込んでいないでゲームを進めようじゃないか」

「誰のせいだと思ってるんですか!」

 

ニコニコしてる黎斗さんの両肩を掴んで思い切り揺さぶる。

ガックンガックンと頭が揺れるけど、黎斗さんの笑顔は揺らがない。腹が立つ。

仕方ない。落ち着け、落ち着け……

でも、こちらでの1年が現実で12分程度って考えると、タイムリミットについてはあまり気にせずに済むのは不幸中の幸いだったかも。

もしこの機能が無い状態で中断が不可能、なんて言われたら僕は何がなんでも黎斗さんを殴っていただろう。

いや、正直現段階で既に殴りたいけど。そんな事をしても無意味なのはよく知っているので実行には移さない。

 

「フォーウ」

 

うんうん、君もそう思うよね。全く厄介な人だ。

それでも救うと決めた以上は、付き合っていく他ないけど。

…………ってアレ?

 

「わっ、なんですかこの生き物」

 

いつの間にか僕の肩によじ登っていた子猫サイズの真っ白な生き物を抱き上げる。

犬みたいな、猫みたいな、兎みたいな、リスみたいな。あるいはそれら全てを混ぜ合わせたようなふわふわした小動物。

……まぁ、ゲームの中だし、不思議な生物がいてもおかしくはないか。それにマスコットキャラっていうのは大切だしね。

 

「……いや?私は知らないが」

「知らないってどういうことですか?アナタが作ったゲームでしょ」

「ふーむ、どういう事だ」

 

首を傾げた黎斗さんは、僕に抱かれている小動物に顔を近づける。

小動物は「フォーウ!」と鳴くとその可愛らしい前脚で黎斗さんの鼻を殴った。

いい気味だ。

 

「おのれ…………私に逆らうつもりか……!」

「マスコットキャラに暴力はいけませんよ、黎斗さん」

 

鼻を抑えながら憤怒の表情で拳を振り上げる黎斗さんから小動物を庇いつつ、良くやったとその頭を撫でる。

小動物は心地良さげに目を細めた。可愛いなぁ。

暫く小動物と戯れてると、パタパタと足音が聞こえてきた。

 

「フォウさん、そこに居たんですね……あっ」

 

そちらへ顔を向けるとなんていうか、凄い美少女が驚いたような顔でこちらを見ていた。

大人しそうで、どこか儚げな印象を受ける。

外国の子かな。顔立ちは日本人離れしていてまるで妖精みたいだ。

僕の周囲にはいなかったタイプの女の子だなぁ……

…………まあ、学生時代はゲームか勉強に明け暮れてたせいで女の子との付き合いは無かったし、CRで知り合ったポッピーと再会したニコちゃんくらいしか居ないんだけどね、僕の周りの女の子。あとは紗衣子先生くらいか。

 

「あの、もうすぐ所長によるブリーフィングが始まりますよ先輩?」

 

先輩?こんな子と会ったこと無いはずだ。会ってたとしてもこんなに可愛い子なら忘れないと思うけど。

って、ゲームの中だからそういう設定なだけか。あんまりにもリアリティがあり過ぎてうっかり現実と混同しちゃったよ。

 

「ゴメンね。すぐ行くよ」

「フォーゥ」

 

名残惜しそうに鳴く小動物を床に下ろす。そうか、お前はフォウくんって名前なんだね。……まんまじゃないか。

そういえばブリーフィングって、何処へ行けばいいんだろう?

女の子は僕の顔を見つめているだけだし、黎斗さんはフォウくんと威嚇し合っている。変に話しかけてこっちに飛び火しても嫌だから放っておこう。

どうすればいいのか分からず、取り敢えず女の子を見つめ返してみる。女の子は微動だにせず僕をジッと見ているだけだ。

うぅ、なんだかドキドキする。

 

「ここにいたのかマシュ。ダメじゃないか、断りもなく1人で行動するのは……おや?」

 

僕でも黎斗さんでもない、男の人の声。

助け舟とばかりに振り向くと、緑色のコート姿の男性が立っていた。

マシュ……?この女の子の名前かな?

アメリカの男性名に近い名前だけど、そういえばどこの国の子なんだろ。黎斗さんに後で聞いてみればいいか。

 

「どうやら先客がいたようだね。48番目の適性者、宝生永夢君。ようこそカルデアへ。私はレフ・ライノール、ここで技師をしている」

 

差し出された掌を握り返す。良かった、いい人そうだ。

にこやかな表情のレフさんは僕の手を握ったまま、フォウくんと格闘している黎斗さんへ目を向けた。

威嚇合戦は終わったようで縦横無尽に通路を跳ね回る白い毛玉を黎斗さんが追いかけ回している。

 

「それで、あちらの彼は?適性者のリストの中にはないし、カルデアの職員でも無いようだが」

 

ピタリと黎斗さんの動きが止まる。どうしたんだろう。

そのまま首が周りジロリとレフさんを睨みつける。

 

なぜ私を認識できている……

 

ぼそりと呟いた台詞は、声が小さすぎて聞き取れなかった。

そして睨みつけたのはその一瞬だけで、黎斗さんはすぐに爽やかな笑みを浮かべる。

 

「私は彼の付き添いで来ただけだ。気にしなくていい」

「付き添い?」

 

訝しむような表情で黎斗さんを眺め回すレフさん。

黎斗さんは気にする様子もなく爽やかオーラを全身から放っていた。

アレだ。あの爽やかさのせいで初対面で黎斗さんの本性を見破れる人間は早々いない。一皮むけば中身は真っ黒いのがぎっちりと詰まってるくせに。本当にタチが悪い。

レフさんは暫く疑いの目を向けていたけど、やがて元のにこやかな表情に戻った。

 

「これは失礼した。確かにこんな秘境へ一人で来るのも心細いだろうしね。これから所長によるブリーフィングがある、良ければ付き添いの方もご一緒にどうぞ 」

「心遣い感謝するよ」

「さ、案内しよう。マシュもおいで」

「はい。先輩、行きましょう」

 

先導して歩き出したレフさんに、マシュちゃんも黎斗さんもついていく。

僕も行かないと。

 

「フォウ、フォーウ!」

 

1歩踏み出した僕の体が衝撃で揺れる。

見るとまた僕の肩にフォウくんがよじ登ってきていた。

可愛いなぁ、本当に可愛い。

黎斗さんのせいで蓄積していたストレスが霧散していくようだ。

 

「先輩?どうしましたか?」

「あっ、ごめん。今行くよ」

 

声をかけられて、フォウくんを肩に乗せたまま歩いていく3人を慌てて追いかけていく。

っていうか黎斗さんもプレイヤー扱いなんだ。あの人の事だからゲームマスターとかいって好き勝手やって来そうだと思ったのに。

どういう風の吹き回しなんだろう。

 

 

 

 

「貴方ね、部外者を勝手に連れ込むってどういうつもり!?」

 

ブリーフィング開始から1分もしないうちに、僕は所長だという少女に怒鳴られ、詰め寄られていた。

原因である黎斗さんは気にする様子もなく僕の隣の席に腰掛けて前方のモニターを眺めている。

うぅ……周囲の視線が痛い。

この人もすごい美少女だけど(ゲームのキャラなんだから当たり前だけどね)マシュちゃんとは違ってキツめの性格みたいだ。

……ニコちゃんも同じようなタイプだと思うけど、あっちはまだ子供っぽい可愛らしさがあった。

この人はなんていうか、余裕がないっていうか……

 

「出て行きなさい!貴方に今回の任務に参加する資格はないわ!」

「えぇ!?」

 

あれよこれよと言う内に、僕と黎斗さんはブリーフィングが行われている管制室から締め出されてしまった。

 

「…………ふぅむ」

 

どうしたものか、と黎斗さんの方を見ると腕を組んで首を捻っている。

なんていうか、さっきからこの人ずっと上の空だな。何考えてるんだろう。

 

「フォウくん」

 

僕の掌の上にちょこんと座るフォウくんを黎斗さんの方へと差し出す。

するとフォウくんは勢いよく跳躍しそのまま華麗なライダーキックを黎斗さんの顔面へと叩き込んだ。

仰け反った黎斗さんは我に返った様子で辺りを見回し、そして自分の顔にしがみつくフォウくんに気付く。

 

「……はっ!おのれ獣風情が神に楯突こうとは……!」

「フォーゥンキャゥ……」

 

黎斗さんの顔を蹴り反動でそのまま綺麗に僕の掌へ着地したフォウくんは怒る目の前の自称神には微塵も目をくれず毛繕いを始めてしまった。

良かった。取り敢えず怒る程度の気力はあるみたいだ。

そのままフォウくんを床に下ろす。黎斗さんは喚きながらフォウくんを威嚇していた。

 

「あの、先輩……」

「わっ。なんだ、マシュちゃんか」

 

突然声を掛けられて思わず飛び上がっちゃった。恥ずかしいなぁ……

っていうか、マシュちゃんもさっきのブリーフィングに参加していた筈なのに。もしかして、僕を追いかけてきてくれたのかな。

 

「マシュで結構ですよ、先輩」

「あ、そう?」

 

正直、ゲームだと分かっていてもほぼ初対面の女の子を呼び捨てにするのは気が引ける。

まぁ本人が呼べって言ってるんだし、いいか。

取り敢えずこれからの事について確認しないと。

 

「マシュ、僕これからどうすればいいかな?」

「所長は1度言ったことを覆さないお方ですから、恐らく本当に先輩はファースト・オーダーから外されるでしょう。とはいえ先輩をこの極寒の外に放り出すような方ではありませんからご安心を。……取り敢えず、お部屋に案内しますね」

「部屋かぁ。わかった、案内おねがいするよ」

 

そこがおそらくこのゲーム上での僕の拠点になるんだろう。

ここからどういう展開になるんだろうか。

流石にこのまま主人公()が作戦に参加しないってのは有り得ないと思うし。

 

「そう言えばマシュもさっきの作戦に参加するの?」

「はい。私はAチームのメンバーなので、前線に立つことになりますね」

「ふーん……Aチーム?」

「ええと、今回の任務において実際に英霊を召喚して戦うチームですね。先輩や他の方々は基本的にその補助に当たることになっていました」

「え、それじゃあマシュはさっきのブリーフィングに参加しないとダメなんじゃないの?任務の要って事じゃないか」

「私は少々特殊な体質なので、説明自体は先に受けています。なので問題ありません」

 

マシュが足を止める。どうやら僕の部屋に到着したみたいだ。

 

「それでは私はここで。恐らく職員の方から説明があると思いますので待機していてください」

「うん、ありがとうマシュ。またね」

 

微笑みながら一礼して、マシュは今来た道を戻って行った。

それを見送ってから、僕の部屋の扉へ触れる。

プシュッと、圧縮空気が抜ける音がして扉が自動で開いた。

 

「…………あれ?そう言えば黎斗さんは?」

 

そこでフォウくん相手にムキになっていた黎斗さんの姿が見当たらない事に気がつく。

まぁ、一人でそこら辺を歩いているのかな。

寛ぐにもあの人が居たんじゃ落ち着けないし丁度いいか。

気にしないことにして、部屋へ入る。

 

「「………………へ?」」

 

部屋に備え付けられたテーブルに座る男の人が、ケーキを頬張っていた。

思わずお互いに間の抜けた声を出してしまう。

どういう事だろう。ここが僕の部屋だって言ってたけど。

男の人は吃驚した顔で僕を見ながら口の中のケーキを咀嚼している。そしてゴクンとそれを飲み込むと勢いよく立ち上がった。

 

「だ、誰だ!ここは僕の秘密の休憩部屋だぞ!?」

「あの、ここが僕の部屋だって説明を受けたんですけど……」

「え、じゃあ君が最後の一人?……そっかぁ、この部屋ともお別れかぁ」

 

男の人は落胆の様子を見せながら椅子を指し示した。

そして自分の反対側の所へ皿に乗ったケーキとフォークを置く。

 

「まぁまぁ座りなよ。今お茶を入れてくるからさ」

「え?いや、ここ僕の部屋…………」

 

パタパタと部屋を出ていく男の人を困惑しながら見る。

そこで僕は、この人が白衣を着ていることに気がついた。

 

「あの、ところで貴方は一体……」

「あ、自己紹介がまだだったね。僕はロマニ。ロマニ・アーキマン。一応このカルデアの医療部門のトップを務めさせてもらってる。みんな僕のことはDr.ロマンと呼ぶよ」

 

 

 

「へぇ、じゃあ永夢君も日本にいた頃は医者をしていたのかい?」

「えぇ。と言ってもまだ駆け出しでしたけどね」

「じゃあ任務から外されたなら僕のところで働かない?医療スタッフが足りなくて困ってたんだよね〜」

 

10分後、僕はロマンさんとケーキをつつきながらすっかり打ち解けていた。

会話の中で色々分かったことがある。

現在が2015年であるということ。

このカルデアは南極に存在していて、この世界の国連が承認した公的な組織(表向きは)であること。

この世界には《魔術》という神秘があって、それを扱う人々がまるで裏社会のように存在しているということ。

僕は駅前で勧誘を受けてこのカルデアへやってきた、という事になっているらしいこと。

 

 

4つ目に関しては記憶にないしそういう設定ってことなんだろう。

受け持ってる病気の子がいる以上、勧誘されても南極に行くなんてことを承諾したりしないしね。

 

「っていうか、南極まで来たのに任務から外されるってあんまりですよね」

「うーん、まぁ、彼女も悪気がある訳じゃないんだ。あの年でこのカルデアの所長になってしまったからね、色んな重責があるんだよ」

 

そう言われてしまうと、責める気にはならなくなる。

そっか、そうだよね。ニコちゃんと同い年か、少し違うくらいだもん。それで、こんな世界の命運を背負う組織のトップに立つなんて。

あの少女の背負う責任の大きさを想像もできない。

だって、世界だよ?全人類の命を背負うんだ。どれほど強ければそんなことが可能なんだろう。

 

『ロマニ、ちょっと管制室まで来てくれないか?』

 

いきなりレフさんの声がした。辺りを見回すけど、姿はない。

見ればロマンさんの手元の端末にレフさんが映っていた。

 

「何かあったのかい?」

『ああ、もうすぐレイシフト開始なんだが数名に変調が見られてね。すまないが急ぎで頼む』

「なるほどね。じゃあ麻酔でもかけてあげようか」

『今、医務室だろう?そこからなら2分もあれば到着するだろう。待ってるぞ』

 

通信が切れる。……ここ医務室じゃないし、さっきマシュに案内された時結構歩いたけど大丈夫かな?

 

「どうしよう、ここからじゃ5分は掛かる……」

「ええっと、走るしかないんじゃないでしょうか」

「どうせ遅れるなら、5分も10分も同じだ。片付けしてくよ」

 

ロマンさんはそう言ってテキパキとケーキの皿やティーカップを片付け始めた。

僕も手伝おうと、テーブルの上に置かれていた布巾を手に取る。

 

「そう言えば、君は不安じゃないのかい?こんな所まで連れてこられて」

「まあ、不安といえば不安ですけど……」

 

僕は手を止めてニッと笑いかけた。

 

「マシュも、レフさんも、ロマンさんも。皆いい人そうなんで何とかなりそうです」

「ぷっ……くく、所長は入れてあげないのかい?」

「だって僕まだあの人に怒鳴られただけで会話すらしてませんもん。まだ分かりませんよ」

 

言って、2人で笑い合う。こうしていると、とても目の前の人がゲームのキャラだなんて思えないなぁ。

 

「ってロマンさん、早く行かなきゃ。レフさんに怒られるんじゃないですか?片付けは僕がやっておきますから」

「あー!そうだった!じゃあ、悪いけど任せるよ。またね永夢くん!今度医務室までおいでよ。取っておきのお菓子をごちそうするから」

「楽しみにしてますよ」

 

笑顔のロマンさんが手を振りながら部屋から出ようとした、その時。

部屋が大きく揺れた。

 

「わっ……!?」

「なに……?」

 

地震?僕もロマンさんもバランスを崩して床に手をつく。

何事かと2人で顔を見合わせていると、アナウンスが流れ始めた。

 

【緊急事態発生、緊急事態発生。中央発電所及び中央管制室で火災が発生しました】

 

「管制室って……!」

「永夢くん、僕は現場に向かう。君は隔壁が閉まる前に避難してくれ!」

 

ロマンさんは立ち上がると、慌てて部屋から飛び出して行った。

避難してくれって言われても、どこへ行けばいいのか……

それに…………

 

(管制室って、さっき人が集められてた場所だよね………)

 

案内をしてくれた少女の顔を思い浮かべる。

僕を追い出したあの所長の顔を思い浮かべる。

じっとなんてして居られない。それに僕だって医者だ。手当を必要としている人が居るかもしれないんだ。

ロマンさんを追って、僕も走り出す。

 

「永夢くん!?避難してくれって……」

「怪我人がいるかもしれないですから!僕にも出来ることがある筈です!」

「っ……無茶だけはしないでくれ!」

 

先程までの真っ白な風景から一変し、赤い警告灯の光で照らされる通路を駆け抜ける。

只管、あそこにいた人々の無事を祈りながら。

 

 

 

そこは、地獄のようだった。

青を基調とした内装は崩壊し、瓦礫と炎に包まれている。

頭上に浮かぶ良く分からない球体だけが、変わらず存在していた。

ロマンさんが口元を抑えながら呻く。

 

「これは酷い……恐らく人為的な破壊工作だ」

「そんな……」

 

周囲の瓦礫を見回すけど、人の姿が見当たらない。

もしかして皆下敷きになったのか、と嫌な考えが頭をよぎった。

 

「うぅ…………」

「!!」

 

消え入るような、呻き声が聞こえた。どこだ、どこに居る?

辺りを探し回る僕へ、ロマンさんが声をかける。

 

「永夢くん!僕は地下の発電所へ向かう!君は避難してくれ!恐らく生存者は…………」

 

悔しげに唇を噛んだロマンさんは、顔を逸らして管制室から出ていく。

嫌だ、諦めたくない。確かに今、声がしたんだ。

 

「…………ん……ぃ」

「!!そこか」

 

再び、声が聞こえた。出処である瓦礫の陰を覗き込んだ僕は、言葉を失う。

マシュだ。つい先程僕を案内してくれたマシュが、積み重なった瓦礫に下半身を潰されていた。

顔からは血色が失せ、口元には力のない笑みが浮かんでいる。

 

「良かった…………先輩は、無事だったんですね…………」

「喋らないで!今、助けるから……!」

 

そこまで言って、僕は言葉を止める。

多分、内臓が潰れてる。先程からマシュは吐血を繰り返している。それに、瓦礫の下から広がっている血の海。輸血が必要だ。少なくとも、この場でできる応急処置なんてない。

医師だからこそ、分かってしまう。この状況で、僕に出来ることはないって。何をする余裕もなく、この少女は恐らく絶命する。

もしかしたら瓦礫をどかせて、そしてここに手術ができる設備があって、飛彩さんみたいな天才外科医がいれば彼女は助けられるかもしれない。

でも、どうしても足りない。変身すれば瓦礫はどかせる。これほどの規模の組織なら外科医もいる筈だ。ロマンさん自身が医療部門のトップって話だし。医務室も管制室からは2分で行けるみたいだし、少しは離れているから爆発の被害も少ないかもしれない。でも、時間だけが足りない。

マシュを運ぶだけの余裕がないんだ。

プレイヤーも、ゲームのソフトも、コントローラーもあるけど、肝心のそれを動かす為の本体だけが欠けているんだ。

悔しさのあまり、マシュを押しつぶす瓦礫を殴りつける。

けど、変身もしていない僕の拳じゃ瓦礫を吹き飛ばすどころか、自分の拳の骨を痛めるだけだった。

 

【観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました】

 

「先輩は…………早く逃げてください…………大丈夫です、私は…………」

 

自分が死に瀕しているというのに、僕の心配をしているマシュへ、精一杯笑いかける。

僕の中の絶望が悟られないように。

 

「大丈夫。喋らないで、あと体もなるべく動かさないようにね」

 

火の手が迫ってくる。さっきからアナウンスは何かを報告するように流され続けている。

そんなのどうだっていい。今はただ、この子を救う手立てを考え続ける。

見つからない。無数の案が浮かんでは、全て否定されて消えていく。

 

【“シバ”による近未来観測データを書き換えます】

 

「分かってますから…………」

 

微笑むマシュ。どうしようもない。どうにもできない。

黎斗さん、これが貴方が僕に見せたかったゲームなんですか。

命が消えていく様を、目の前で見せられ続ける。こんな、こんなものをゲームだなんて僕は認めない。認められない。

 

【近未来、100年後の地球迄において。人類の痕跡は発見できません】

 

重い音が響く。瓦礫が崩れて出入口が塞がれてしまっていた。

 

【人類の“生存”は確認できません】

 

「すみません……私のせいで、先輩が……」

マシュが、申し訳なさそうに僕を見た。

 

【人類の“未来”は保証できません】

 

「気にしなくていいよ、そんなの」

僕は、笑いかけることしかできなかった。

 

【コフィン内マスターのバイタル値、正常に達していません】

【レイシフト定員数に達していません】

 

「そう言えば、自己紹介してなかったね。僕は宝生永夢、よろしく」

「ぁ…………そう言えば……そうでした…………」

そうだよ。まだちゃんと名前も聞いてないじゃないか。

だからダメだ、こんな所で死んじゃ。

 

【該当マスターを検索中……発見しました】

 

「先輩………………」

マシュの息が荒くなる。もう、限界なのかもしれない。

むしろ、この損傷でここまで持った方が奇跡なのかも。

普通なら即死レベルの傷だ。

何かを探すように虚空をまさぐる手を、咄嗟に掴む。

 

【適応番号48“宝生永夢”をマスターとして再設定します】

 

「暖かい……です。先輩の手…………」

「そう?」

「あの………………もし、よろしければ…………ですけど」

 

【アンサモンプログラムスタート、量子変換を開始します】

 

「このまま、手を握っていてくれませんか?」

「お安い御用だよ、マシュ」

 

【全工程、完了。ファースト・オーダー実証を開始します】

 

微笑むマシュの顔も。しっかりと握られた手も。周囲を取り囲む炎も。

僕の視界に映っていた全てが、真っ白な光によって消し飛ばされていく。

光に呑まれていく意識の中で、握っていたマシュの手の感覚までもが消えていくのを感じた。

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