函館のスクールアイドルSaintSnowの鹿角理亞はある日、ある男に出会った。
その男に、ある指摘をされた理亞は...。
※理亞ちゃんの誕生日記念短編です。

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どうも、ミサエルです。
という訳で(どういう訳で)理亞ちゃん誕生日記念の短編です!
楽しんでいただければ幸いです。

また、この短編は『Unperfected world(歌:駆紋戒斗)』と『Dance with me(歌:TEAM BARON)』の2曲を聴きながら書きました。結構影響されてる部分があると思いますので、脳内で再生しながら、お楽しみください。

それでは、どうぞ。


弱き少女と強き男爵

午後6時。

北海道函館市内にある、とある広場。

その場所で、1人の少女が踊っていた。

左右に結ったツインテールの髪を揺らし、表情は真剣そのもの。

何者も寄せ付けない気迫すら感じさせる。

少女の名は、鹿角理亞(かづの りあ)

高校1年生で、姉の聖良(せいら)とスクールアイドルユニットSaintSnow(セイント・スノー)として活動している。

そんな彼女は今、自主練習をしている最中だった。

縦横無尽にステップを踏み、静止し、ポーズを決める。

数秒止まり、また同じステップを踏み、また同じポーズを決める。

もう何度もその過程を繰り返していた。

幾度目かの反復練習の後、理亞は水分補給を兼ねた休憩をとり始めた。

屋根付きのベンチに座り、持参したスポーツドリンクを喉に流し込む。

 

「ふぅ…。」

 

スポーツドリンクから口を離し、一息吐く理亞。

彼女の脳裏には、先日の東京のイベントで立ったステージの記憶が呼び起こされた。

注目のスクールアイドルが全国から招かれ、ステージでパフォーマンスし、観客達の投票によってランキングが付けられる。

そのイベントで、Saint Snowは全力を尽くした。

今の2人に出来る、精一杯のパフォーマンス…。

それでも結果は、9位だった。

確かに、決して低くはない順位である。

だが、彼女達、特に理亞にとっては納得のいかない順位だった。

 

―まだ、足りない。もっと頑張らなきゃ。

 

そう思い、練習を再開するために立ち上がった。

が、疲れがたまっていたのか、立ち眩みを起こしてしまい、理亞は屋根を支える柱にもたれかかった。

 

「別にこのくらい…。」

 

息を整え、再び立ち上がろうとしたときだった。

 

「やめておけ。」

 

誰かが理亞に向かって言った。

声のした方向に理亞が目を向けると、そこには1人の男が立っていた。

赤と黒のロングコートに身を包み、ズボンのポケットに手を突っ込んで理亞のことを鋭い目で睨んでいる。

 

「誰…?」

 

睨み返しながら、理亞は相手に尋ねる。

 

駆紋戒斗(くもん かいと)だ。」

 

理亞は相手の名前に聞き覚えがあった。

今から数年前、とある街で『ビートライダーズ』と呼ばれる若者達がダンスで勢力争いをしていた。

その頂点に立っていたダンスグループ『チームバロン』。

駆紋戒斗はそこのチームリーダーの名前だった。

 

「ここで貴様のダンスを見ていた。」

 

戒斗は理亞に言う。

 

「ステップのキレも、柔軟性も悪くない。だが貴様のダンスは…弱い。」

「なんですって?」

 

つい、語気が荒くなる理亞。

 

「弱いと言っている。何を目指して、何を背負っているかは知らんが、このまま踊り続けたところですべて無駄になる。ただ疲労を蓄積するだけの、愚かな行為だ。」

 

戒斗は冷然と言い放った。

 

「言わせておけば…!」

 

相手は男、しかも初対面にも関わらず、怒りを露わにする理亞。

今にも戒斗に襲い掛かりそうだ。

その理亞を見て、戒斗は思い出した。

 

「そうか…。どこかで見たことがあると思ったら、貴様、SaintSnowとかいうスクールアイドルか。」

 

そう言うと、戒斗は理亞のことを鼻で嗤った。

 

「…何よ。」

「貴様のような弱者がトップクラスのスクールアイドルとはな。」

「何が言いたい。」

「なるほどな。所詮スクールアイドルとは、女子高生のアイドルごっこというわけか。」

 

その言葉を聞いた時、理亞の中で何かが切れた。

 

「馬鹿にしないで!!」

 

とうとう理亞が、戒斗の胸倉をつかんだ。

 

「スクールアイドルは…SaintSnowは、遊びじゃない!私達は強い!そこら辺のグループなんかと一緒にしないで!!」

「だったら何をそんなに焦っている!!」

 

ほとんど叫びながら言う理亞に、戒斗もまた、叫んだ。

 

「貴様のダンスには、焦りが透けて見える!それが何故か分かるか?貴様が弱いからだ!本当は自分が、自分が思うほど強くない現実から目を背け、『努力』という戯言で隠そうとしているからだ!自分の限界も考えずに!

「それは...。」

「...このまま練習を続けたいなら勝手にしろ。2度とステージに立ちたくないならな。」

「...。」

 

理亞は戒斗の胸倉から手を離し、俯いた。

戒斗は襟元を正し、どこかへ行こうとする。

 

「...のよ。」

 

理亞が何かを呟いた。

立ち止まる戒斗。

 

「何か言ったか?」

「だったら...だったらどうすればいいのよ!」

 

戒斗の背中に向かって、理亞は叫びをぶつけた。

 

「私達だって、全力を尽くした!東京で、全国のスクールアイドルが来てるステージで、私達なりの『輝き』を見せた!でも、勝てなかった...。」

 

理亞の目から涙が溢れだす。

 

「...姉様はもう3年生。一緒にSaintSnowとしてステージに立てるのも、あと少ししかない。だから絶対に負けられない。なのに...なのに勝てなかった。」

 

戒斗は理亞の叫びを、ただ黙って聞いている。

 

「...遊びに来ているようにしか見えないグループだって、中には居た。まるで、スクールアイドルを馬鹿にしているような。」

 

周囲には誰も居らず、2人だけの空間になっていた。

 

「私は、そんな奴等が一緒のステージに立っていたのに、頂点に立てなかったことが許せない。もっと練習して、次こそ勝ちたい。たとえ、ちょっとくらい無理をしてでも。」

「それが愚かだと言っている。」

「そんなことは分かってる!!でも、じゃあどうすればいいの...?」

 

肩を震わせて、泣く理亞。

暫く黙っていた戒斗だったが、不意にふっと、息を吐いた。

 

「...ある男が居た。」

「え...?」

「その男は、強大な力に、全てを奪われた。家族も、思い出も、何もかも。」

 

今度は理亞が、黙って戒斗の話を聞いていた。

 

「男には『力』が足りなかった。理不尽なこの世界に、復讐を誓った男は、弱い自分を見つめ、殺した。」

「...。」

「男は孤独なまま、頂点に立った。そんな男の前に、別の男が現れた。」

 

戒斗は語り続ける。

 

「そいつは、男が捨ててきたものを全て持っていた。そして、男とは真逆の強さを持ち、泣きながら一歩一歩、ゆっくり進んでいた。」

 

戒斗が理亞の方を向いた。

 

「結局、どちらの強さが正しいのか、優れているのか。そんなことは誰にも分からない。だが、1つだけ言えることは、男もそいつも、最初は同じだったということだ。」

 

理亞の目を見て、戒斗は高らかに言う。

 

「己を見つめ、己の弱さを受け入れろ。それを生かすか殺すか。それはお前次第だ。どちらを選んだとしても、お前なら、強くなれる。」

「私の、弱さ...。」

「お前...名前は?」

「え?」

 

突然の質問に、理亞は戸惑いつつ答える。

 

「鹿角、理亞。」

「そうか。覚えておく。」

 

戒斗はそう言うと踵を返し、歩きだした。

 

「あの...!」

 

すると、理亞が戒斗を引き留めた。

また戒斗は立ち止まる。

 

「ありがとう。...何か、『頑張れ』って言われた気がした。」

 

理亞がそう言うと、戒斗は何も言わず、また歩きだし、今度こそ立ち止まらなかった。

その背中を見つめていた理亞は、一度頷き、帰り支度を始めたのだった。

 

※※※

「大成功だったね、理亞ちゃん!」

「ええ、そうね。」

 

隣に座るルビィが私に言った。

あれから、戒斗さんにあったあの日から、半年が経った。

私達SaintSnowは、『ラブライブ!』の冬期大会を予選落ちしてしまった。

本当なら、そこで終わりだったはずなんだけど、ルビィ達『Aqours(アクア)』のおかげで 、今日のクリスマスイベントで合同ライブを行うことができた。

私達の成長を、姉様達に見てもらいたかったから...。

いや、それもあるけどやっぱり、私も姉様もまだ『輝きたかった』から。

姉様は今日が最後のステージ。

これでSaintSnowは、本当に終わり。

私、どうしようかな。

スクールアイドル、続けようかな?

あの人なら、なんて言うだろう...。

そう考えた私の脳裏に、あの赤と黒のロングコートが浮かんだ。

 

―...戒斗さん。

―私、強くなれたかな。

 

その時、私達の楽屋の扉がノックされた。

姉様が廊下に出て、白い箱を持って戻ってきた。

 

「聖良さん、何ですかそれ?」

 

Aqoursのリーダー、高海千歌さんが不思議そうな顔で、姉様に尋ねた。

すると、姉様はニコッと笑って、

 

「クリスマスプレゼント、らしいですよ。どなたかからの。」

 

そう言って、箱を開けた。

楽屋が歓声に包まれた。

箱の中身は、フルーツがたくさん乗ったデコレーションケーキだった。

チョコレート味のスポンジケーキが、生クリームに包まれていて、チョコでできたマツボックリとドングリ、砕いたクルミが散りばめられている。

その他にも、オレンジにバナナに葡萄にメロン。

レモンとチェリーと黄桃と...これはなんだろう。

 

「Oh!ドリアンなんて珍しいチョイスね!」

 

ちょうどいいタイミングで、Aqoursの小原鞠莉さんが私の隣で呟いた。

 

「早く食べたいずら~!」

「すぐに分けるからお待ちなさい。」

 

目を輝かせて言う花丸に、ルビィの姉のダイヤさんが優しく言った。

その後、すぐに切り分けられたケーキを、皆自分が食べたいフルーツが乗ったピースを食べ始めた。

私も、バナナが多めに乗ったケーキを食べ進める。

すると、メロンのケーキを持った姉様が私の隣に座り、話しかけてきた。

 

「理亞。楽しかった?」

「うん。姉様は、どうだった?」

「私も、楽しかったし、嬉しかったわ。」

「そっか。」

「えぇ。ありがとうね。」

「うぅん。私こそ。」

 

そんな会話をして、2人で笑った。

 

「あ、そうそう。」

 

ふと、姉様が私に1通の赤い便箋を差し出した。

綺麗な字で『鹿角理亞様へ』と書かれている。

 

「ケーキと一緒に、置いてあったそうよ。」

「私宛てに?」

「そうよ。」

 

誰からだろう。

ケーキを一旦テーブルに置き、私は便箋を受け取った。

封を開き、中の手紙を取り出す。

 

「うゅ?」

「ずら?」

 

手紙が気になるのか、花丸とルビィが私の手元を覗きこんだ。

私は、手紙を広げた。

 

『強くなったな、理亞。だが、お前ならもっと強くなれる。』

 

手紙には、そう書いてあり、文章の最後に、中世のヨーロッパの騎士が着けているような仮面らしきエンブレムが描かれていた。

 

「このエンブレムって...。」

「『バロン』じゃないの!」

 

いつの間にか来ていた善子が、私の呟きのあとに驚きの声を上げた。

ちょっとだけ、楽屋の中がまた騒がしくなった。

 

―そっか...。

―戒斗さん、来てくれてたんだ...。

 

「もっと強くなれる、か。」

 

楽屋の喧騒を他所に、私はあの無愛想な顔と、まっすぐな目を思い出す。

何故だか笑みがこぼれた。

 

―私は弱い。

―でも、だからこそきっと、もっと強くなれる。

―いや、強くなってみせる。

―だから見ててね。戒斗さん。

 

「...よし。」

 

思い出に後押しされ、私はある1つの決断をした。

あとで姉様に話しておかないと。

 

「ちょっと理亞!どういうことかこのヨハネに説明しなさい!」

「はいはい。」

 

でもまずは、今を楽しもうかな。

私の大事な仲間達と、姉様と、弱くて強い男爵様へ。

 

「...メリークリスマス。」

 

私の小さな呟きは、クリスマスの空気へと溶けていった...。

 




いかがだったでしょうか。
今回、仮面ライダーバロンこと駆紋戒斗を理亞ちゃんと出会わせた理由は、単純に僕が、2人が似てる気がしたからです。深い理由はありません。
この短編で、この2人のキャラクターに少しでも魅力を感じてもらえたなら、嬉しい限りです。
それでは。


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