お姫様の護衛になった男の話   作:飛騨三位

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加筆、修正しました。20181221


日記①

 今日から日記という物を書いてみることにする。

 俺はしがない国の一兵士だ。元々は農村の生まれだったが、三男だった俺は家を継げない為、仕方なく街に出て兵士になった。

 兵士とは戦う仕事だ。戦争で人を殺したり、危険な魔物を討伐したりする。

 俺はそのどちらも好きじゃないし、得意ではないが、食う為には我慢してやらなくてはならない。

 どうにか死なないように、訓練は真面目に、仕事は程々に頑張るとしよう。

 

 とはいえ、戦争なんて永らく起きてないし、魔物は冒険者達がいる。そう心配することもないだろう。

 

 

───

 

 そういえば、今日で俺が兵士になってから三年が経った。毎日の訓練は辛いが、最近は自分の実力が上昇していると感じられて、兵士も中々悪くないとも思えるようになってきた。

 街を見回り、訓練をして、夜は仲間と酒を飲み、たまに歓楽街へと躍り出る。そんな日々がどうしようもなく楽しい。

 

 そういえば、どうも最近魔物が活性化しているらしい。俺達兵士に出番が回ってくる前に、何とか冒険者達に頑張ってもらいたいものだ。

 

───

 

 明日はどうやら、城のお姫様が城下にお忍びで遊びに来るらしい。陰ながら護衛するように上から命令が来た。

 城の中にはありとあらゆる娯楽があると聞いていたが、何でわざわざ遊びに来るのかね?貴族サマ方の考えることはよく分からない。

 

 まあ、程々にやるとしよう。

 

───

 

空白のページ。

 

───

 

 今日は色々あったが、取り敢えず昨日の日記の続きというか、昨日あったことを書こうと思う。

 誰に見せる訳でもないが、こういうのはしっかり書いた方がいいだろう、多分。

 昨日、お姫様のお忍びショッピングを一般人に紛れて遠目から警護していた俺は、屋根の上にいる怪しげな人影に気が付いた。黒いローブを纏った、見るからに怪しいヤツだ。

 一瞬護衛の魔術師か何かかと思ったが、それならば俺達に知らされているハズ。

 なのにそいつは、部外者が知る由もないお忍び中のお姫様をじっと見つめていたのだ。

 人の注意は上に向きにくい。近くでお姫様の家族を演じている近衛達も気が付いていないようだった。

 

 どうしようかと考えていると、そいつがお姫様に向かって人差し指を向け魔法の詠唱を唱え始めたのが見え、焦った俺は、咄嗟に「屈め」と大声を出しながら、姫様の前に駆け寄り、立ち塞がって剣を抜いた。

 

 その時、やつは既に魔法を発射しており、細く鋭い風の槍が俺の目の前に迫っていた。

 

 剣で魔法は防げない。うちの隊長は出来たが、少なくともひよっこの俺にはそんなことは出来ない。

 

 しかし、その時の俺は剣の腹をそこに合わせ、さらに自分の腹を肉壁にすることによって防ぎ切り、屋根上の魔術師に向かって剣を投げつけて殺したのだという。

 

 正直、自分にそんな芸当が出来たのかは疑問だ。 

 そもそも、これは居合わせた同僚から聞いた話で、その時の事はいまいち覚えていない。

 目の前で自分より小さな少女が(と言っても4歳差だが)死ぬかもしれないと思って必死だったし、俺自身結構な傷を受けて、気絶してしまったからだ。 

 

 因みに、その時の怪我はお姫様がその場で回復魔法とやらで治してくれたらしい。聞くところによると、王家の血筋の中でも一部の才能ある人間しか使えないモノだそうだ。

 お伽噺なんかに出てくる奇跡のようなモノ、隊長は言っていたが、それを俺なんかに使って良かったのだろうか。

 

 まあ、そのせいで今日は忙しかった。

 

 普通に目を覚ましたと思ったら城の中の救護室で、その後すぐに謁見の間に通された時の緊張といったらなかった。

 記憶が曖昧だったのもあって、酔っ払って何かやらかしたのかと考えたくらいだ。

 

 その後、お姫様に御礼を言われたり、近衛にお礼を言われたり、王様に褒められたりして、酷く恐縮したものだ。

 

 そして、あの時の状況についても色々聞かれた。

 どうにもあの場であの魔術師を認識していたのは俺だけだったらしく、その原因が分からないらしい(実力者になれば魔力の隆起で魔術師の位置は感知できるし、上を警戒している人間もいた)。

 

 俺としては、何故感知できたかと言われても困ってしまう。本当に目に入っただけだからだ。

 

 一応、分かる事は全て話したが、参考になるとは思えない。

 

 ああ、そういえばその内褒賞がもらえるらしい。隊長に希望を聞かれたので、金、と答えると、「お前は本当に現金な奴だな」と苦笑された。

 

 金の為に兵士をやってるんだから、別に普通じゃないのだろうか。

 

 

───

 

 とんでもない事が起きた。俺がお姫様付きの護衛に抜擢されたのだ。朝、隊長に王宮へ向かえと言われたらこれだ。どうなってるんだ。意味が分からない。

 

───

 

 説明を聞いてきた。どうやらあの時、敵の魔術師は新たに開発された幻惑という魔法で周囲の認識を欺いていたらしく、現状対抗策が乏しい魔法だが、俺の眼はそれに影響されずに物を見ることが出来るらしい。

 どういう意味かはよく分からないが、俺の眼が特別ということらしい?

 まあ、とにかく、俺はお姫様を護衛するのに無くてはならない存在なんだとか。

 早速明日から王宮へと来るように言われ、住居も王宮内の兵舎に移動だという。

 

 何もかもが、あまりに唐突だ。俺はこれからどうなるんだ。

 

───

 

 やっと荷物が運び終わり、取り敢えず日記を書くことにする。それにしても近衛の騎士が手伝ってくれて助かった。今日から同僚になると言っていたが、いい奴そうでなによりだ。

 もう一人の同僚の魔術師の女は俺を見て露骨に嫌そうな顔をされた、俺は何かしたのだろうか。

 

 今日からの俺の仕事は、護衛、ではなく索敵。

 お姫様の周りや王宮内で怪しい人間を見かけたら、同僚の二人に伝えるのが俺の役割だ。

 

 近衛とかいうエリート集団に混じって戦うのだと考えていたので、何だか拍子抜けだが、割と重要な仕事らしいので、程々に頑張ろうと思う。

 

───

 

おい!歓楽街に行けないなんて聞いてないぞ!給料が上がって金があっても使いどころが無いじゃないか!

 

 せめて王宮の外で遊ばせてくれ!

 

───

 

 性欲は運動欲へ。訓練をすれば少しは気が紛れる。お姫様が庭で日向ぼっこしている間に剣を振っていると、近衛騎士が途中から混ざってきた。

 

 数回試合を行ったが、流石近衛騎士。圧倒的なレベルの違いを感じさせられた。何度斬りかかっても俺の剣は防がれ、何度も致命打のチャンスを見逃された。

 

 そんな感じで良いようにあしらわれ、嫌がらせかと恨みを込めて近衛騎士を睨んでみたが、何を勘違いしたのか奴は爽やかに笑い返してきた。

 悪意の無いその笑顔に、酷く惨めな気持ちになった。

 

 お姫様はずっと俺達の様子を見ていたが、終わった後「兵士さんの方が近衛さんより強そうですね」と無邪気に笑っていた。

 

 俺の方が筋肉があるし、ずっと攻撃をしていたからそう見えるのもムリは無いかもしれない。

 近衛騎士が「精進します」と真面目そうな顔で一礼したので、俺も一応「ありがとうございます」と返しておいた。

 それを見ていた女魔術師は鼻で笑っていた。嫌な女だ。 

 

───

 

 ここに来てから、仕事中に言葉を発する事がかなり減った。

 

 お姫様の前で失言したら首が(本当に)飛ぶし、俺以外の二人は立派な出自の優秀な人間達で、俺みたいな農村の三男と話が通じると思えないからだ。

 

 話さなくても、必要な事さえやれば仕事は出来るのだ。

 適正距離の人間関係があれば、近付く必要は無い。

 

 まあ、それでも何故かお姫様だけは頻繁に俺に話しかけて来るが。

 

───

 

 我慢には限界というものがある。俺は近衛騎士に直談判して、明日、半日だけ外出の許可を貰った。半日もあれば俺の魔法の杖で魔法の壺の中に水魔法を放ってくるには十分。

 自慢じゃないが、俺は詠唱速度が早い方なのだ。

 

 護衛という名の監視が付いているのは想定外だったが、逃げる気は無いので問題ない。

 

 溜め込んでいた金も用意したし散財の用意は完璧である。

 

───

 

 落ち着け、状況を整理しよう。

 

 始まりは、そう、俺が歓楽街で魅惑の双丘に顔を埋めていた時の事だ。突然、外の方から爆発音が鳴り響いた。

 

 ただ事ではないのはすぐに分かった。俺は腐っても兵士だ。すぐに服を着替えて道へと出た。

 そこは惨状だった。

 通りは逃げ惑う人々と炎に覆われ、俺の監視役に就いていた筈の護衛は、王城へ向かったのか既に居なくなっていた。

 

 夕焼けに染まる王城からは、黒い煙がいくつも上がっていた。俺は急いで向かおうとしたが、群衆に紛れて逃げている、一人の少女が目に入った。

 見間違えるはずも無い、姫様だ。

 

 姫様に声を掛けると、彼女は一瞬驚いたような顔をしたが、俺だとわかるとすぐに安心した様な表情をした。どうやら幻惑魔法とやらを使っていたらしく、正体がバレたのかと焦ったらしかった。

 

 近くには女魔術師の姿もあり、王城が何者かに襲われ訳も分からず逃げてきたのだと言う。更に最も戦闘力の高い近衛騎士は敵を足止めするためにいまも王城の中におり、合流出来るか怪しいらしい。

 

 つまり今は王の安否も分からない、誰が敵かも分からない、そんな状況だ。

 

 何とか近くの村までは逃げて来られたが、ここは避難してきた人々でごった返している。その全員分の食事など無いし、寝る場所も無い。魔術師はお姫様の身分を明かして助けを求めようとしたが、こんな状況では危険を増やすだけなので止めさせた。

 

 しかし、温室育ちの二人にこの状況は耐えられまい。まあ、魔術師はともかく姫様は長く続かないだろう。

 

 毎日風呂に入るような彼女を、こんな血と汗にまみれた、俺でも気分が悪くなるような場所に置く訳にはいかない。

 

 ここからもう少し北へ森林街道を抜ければ城壁都市と名高い副都がある。王都には戻れないかもしれないし、あそこならば同様の攻撃を受けたとしてもそう簡単に落ちてはいないだろう。

 ただし、馬ならば辿り着くまでに五日程の旅路になるだろうが、それでも、ここにいるよりは遥かにマシだ。

 幸い、俺には狩りの心得もあるし、野営訓練も積んでいる。マジックポーチにもある程度の道具も入れてあるから、姫様だけならどうにかなるだろう。

 

 魔術師は……姫様と一緒にもう寝てしまったか。まあ、肉体的にも精神的にも疲れただろうし、仕方ない。相談は明日することにする。俺も一応仮眠を取っておくとしよう。

 

 明日からは姫様の体調なども記録しておこう。俺は医者ではないが、何かの時役に立つはずだ。

 

───

 

 目を覚ました二人に北の城壁都市へ向かうことを相談すると、魔術師が躊躇ったものの姫様がOKを出したので早速出発することになった。

 

 と、ここで問題が発生した。馬が一頭しか手に入らなかったのだ。それも背が小さく馬力も無い馬だ。

 

 どうやら昨日避難民達が多くの馬を殺して食べてしまったらしく、村が売れる馬はこれ一頭のみになってしまったのだという。

 

 というかこの一頭を手に入れるのも相当渋られたので、本当に苦しいのだろう。

 

 馬は農業にも移動にも便利な生き物だし、仕方の無い事だ。

 

 取り敢えず姫様だけは馬に乗せたものの、徒歩で城壁都市へ向かうことになってしまった。

 

 徒歩となると三週間はかかるかもしれない。姫様だけならどうにかしてみせるが、魔術師もとなると、さすがに二人の面倒は見きれない。自分で何とかできる女であると期待しておく。

 

・姫様の体調だが、ぐっすり寝たせいかすこぶる良さそうだ。「馬が手に入らなかったので旅が長くなりそうです」というと、「兵士さんと旅出来るならどんなに長くても平気です」と笑顔で言われた、本当は不安で堪らないだろうに、健気なものだ。

 

 それを見て魔術師が憎々しげに睨み付けてきたが、別に俺が言わせた訳じゃないのだから、勘弁して欲しい。

 

───

 

 村を出て四日目。森林街道の旅は順調ではない。姫様は馬に乗りすぎて尻を痛めたし、魔術師は早くも弱音を上げ始めた。食事や水に関しては俺が調達しているので、問題無いのだが。

 取り敢えず姫様は俺がおんぶして、魔術師を馬に乗せ、進むことにした。

 姫様が思っていたより遥かに軽かったので、そこまで負担は無い。魔術師の目線が厳しいものになっているのがとても気になるが、身分差を気にしている状況では無いのだ。

 

 というか、魔術師は全くと言っていい程役に立っていない。彼女は炎の使い手だが、まさか木々の生い茂る森林街道でそれを使わせる訳にはいかないので(使おうとしていたが)、今の彼女は体力の無い一般人である。

 

・姫様は尻を痛めている。長時間不慣れな乗馬をさせた俺の責任だ。初心者が馬に乗ると尻の皮が剥けたりするから、結構痛い。

 ちなみに俺のおんぶは割と快適だったようで、「明日も、ぜひ!お願いします!」と言われた。おんぶもおんぶで付け根とか痛いと思うのだが。

 

 というか姫様は回復魔法があるから、尻の痛みなどすぐに治せるのではないのだろうか。

 

 そう言うと、姫様は回復魔法は何度も使えるものじゃないから本当に必要な時の為に節約すべき、と言っていた。もっともである。

 

───

 

 十日目。森林街道の景色はもう見飽きてきた。看板を信じるならば城壁都市まで後半分程、少しだけ気が滅入る。

 

 魔術師はもう疲労困憊で完全に馬にぶら下がる荷物と化しており、仕方が無いので俺が馬のたずなと姫様の手を引いて歩いている。

 

 魔術師は置いてくるのが正解だった。本当に役に立たない。ここ四日間の日記の記述もそんなことを書いてる気がする。姫様の方がしっかりしているのは、本当に護衛としてどうなのだろう。

 言っても仕方ないが、というか言ってはないが、それでも愚痴りたくもなる。

 

・数日前から書いているとおり、姫様は最近自分で歩くようになった。言い方が何かおかしいが、おんぶでもなく馬でもなく、自分の足で歩くようになった。

 しかし、俺の歩調と姫様の歩調は随分と違うらしく、気が付くと姫様を置いていきそうになるので、昨日からは手を繋いで歩いている。

 こうすれば、姫様の歩調に合わせて動きやすくなるし、剣を抜きにくいのは難点だが、姫様に注意を払わなくても良い分、辺りを警戒できる。

 もちろん平民と王族が手を繋ぐなどしていい事では無いが、俺にそう言った感情は全く無いし、まさか姫様にも無いだろうから、問題無いはないだろう。というかこれ、書かない方がいいのではないか。

 

───

 

 くそ。魔物に襲われた。姫様は無事、魔術師も無事だ。何とか洞窟に逃げ込めたが、馬を失った。

 

 姫様は無事と書いたが、受けた傷を回復魔法で治したから無傷と言うだけだ。俺にもっと実力があれば、そう、近衛の騎士のあいつなら守りきれたのかもしれない。

 

 魔物にやられた左腕が痛む、まともに剣も握れない。姫様の回復魔法は十日に一回しか使えないから、治してもらうことも出来ない。

 

 十日待って俺が回復してから進むか、明日にでも出立するか。こんな森の中ではどちらが安全かもわからない。

 

 ああ、眠い。眠ってしまいたい。血が足りていないのか。

 

・姫様に怪我も異常もない。ただ、自分のせいで俺を怪我させたと酷く落ち込んでいるようだ。

 姫様が自分に回復魔法を使用するまで怪我を隠しておいて良かった、隠しておかなければきっと俺に使っていただろう。

 

(乱れて力の無い筆跡で書かれている)

 

───

 

 インクも少なくなってきたので端的に書くことにする。

 

 姫様は無事だが、魔術師が死んだ。俺も無事とは言い難い。

 

 あと少しで城壁都市だ。

 

───

 

 城壁都市に到着した。と言っても昨日のことだが

。聞いたところによると王都を襲ったのは魔族らしい。あのお伽噺に出てくる魔族だ。奴らは二十日前程に人間に宣戦布告してきて、各国は協力して魔族に対抗するようだ。

 

 この城壁都市も熾烈な魔族の攻勢に晒されたようで、兵士達もかなり疲弊しているように見受けられる。王都と違い、落ちなかっただけ十分だと思うが。

 

 そういえば王族は姫様を残して死に絶えたらしい。恐らく城に残った近衛騎士も無事ではないだろう。姫様もまだ十六歳だろうに両親と近しい者達いっぺんにを失うとはな。

今、姫様を護れるのは俺だけだ。頑張らねば。

 

───

 

 領主達と色々話し合いがあった。よく分からんが、この城壁都市は隣国の領地になるらしい。そして姫様には王族としての地位を捨てて貰い、一般人になって欲しいのだという。

 

 なんだか無礼な話なような気がしたが、姫様はそれを了承した。こうすることが、人々の為になるんだそうだ。

 

 何かの契約書のような物にサインが終わったあと、姫様、と呼ぶと、「私はもう姫ではありません」と言われた。

 平民になっても姫様は姫様だと思うのだが、姫様的には名前で呼ぶべきと考えているらしい。試しに本名で呼んでみると、姫様は嬉しそうに笑って「初めてあなたに名前で呼ばれました!」と言っていた。名前を呼んだのの何が嬉しいんだろうか。

 

 

───

 

 

 平民になるということは金を自分で稼ぐ必要があるという事だ。領主の紹介で俺は兵士の仕事に就き、姫様は病院で働き始めた。

 病院へと向かう姫様はどこか活き活きとしている。毎日が新鮮で発見に溢れているらしい。

 強いお方だ。

 

 

───

 

 今日、姫様に泣きつかれた。仕事が終わって、姫様と暮らしている家に帰ってくると、いつもなら寝ている姫様が起きて待っていたのだ。

 姫様は俺が部屋に入るなり、抱きついてきて、俺の胸に顔をうずめて泣き出した。俺は混乱したし、姫様から訳を聞きだそうとしたが、姫様は泣いたまま俺から離れなかった。

 

 俺はどうすることも出来ずにそのままお嬢様を受け止めていたが、少ししてから顔をうずめたまま姫様が「あなたは、私の何ですか?」と聞いてきた。

  

 俺は素直に「あなたの護衛です」と答えたが、お嬢様は「今の私は姫ではないですし、あなたを雇っている訳でもありません。どうして私を助けてくれるのですか?」等と言い出した。

 

 俺はそう言われて少しムッとした。俺が金と身分の為に、ここまで姫様を護ってきたと思っているのだろうか。

 

 「俺はあなたが姫だから護っているんじゃありません。あなたという少女をあの二人に託され、何よりも俺があなたを護りたいから護っているんです」

俺は少し声を荒らげてそう言った。

 

 姫様が俺の事を信頼しきれていなかったことが悲しくて、悔しくて、彼女の体を強く抱きながら、そう言った。

 

 思い直せば彼女は思い詰めていたのかもしれない。周りの人々が死に、頼れるのは俺一人。しかし、その俺だって『護衛』だから自分について来てくれるだけで、今の自分は『姫』ではなく、俺に報酬を払うことも出来ない。

 いつかは置いていかれるのではないか、いつかは捨てられるのではないか、そんな不安と恐怖が少しずつ溜まっていたのだろう。

 

 姫様はその後、何も言わずに俺に抱きしめられていた。

 そして、少ししてから姫様はゆっくり俺の腕から離れ、「ありがとう」と言い残して自分の部屋に戻っていった。

 

 強いといっても、元王族だと言っても、姫様だって一人の人間なのだ。なぜ忘れていたのだろう。

 

 「支える」という言葉の意味を理解しきれていなかったということか。

 まあ、でも、これで伝わったろう。

 抱きしめる必要はなかったが。

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