お姫様の護衛になった男の話   作:飛騨三位

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あと一話で終わりです


日記②

 あんな事があってから、姫様の顔に少し差していた影が消えた気がする。もちろん、悩みが無くなったわけではないだろうが、少しは心の支えに成れたと思いたい。

 

 最近は料理にも興味を持ったらしく、近所のおばさんや病院の同僚に教わっているようだ。

 味は、まあ、美味しいと思えば問題無い。食べられる。

 成果はともかく、趣味を見つけるのは良い事だ。

 

 それに、もし、彼女が結婚相手を見つけた時に、何も出来ない元お姫様では困るだろう。出来る事は多い方がいい。

 

 まあ、彼女が誰かと結婚する姿なんて想像も出来ないが。

 

 俺もいずれは結婚相手を見つけなければな。

 

─── 

 

 今日は久しぶりに娼館に行った。いつも一つ屋根の下で姫様のような美しい少女と暮らしているのだ、偶には処理しないと爆発してしまう。

 そんな感じで、昼飯代の余りを貯めた金を持って、仕事の帰りに安い女を抱いてきた。

 そういえば、姫様に会う前はこんな生活を送っていたな。

 思えば、あの頃が最も幸せだった。 

 

 何も気負うことなく、毎日を気ままに生きる自由は簡単なようで得難い。

 今の生活に不満がある訳ではないが、少しだけあの生活に未練はあるかもしれない。

 隊長達は無事だろうか。

 

───

 

 今日は姫様に怒られた。誰かに俺が娼館に行ったことを聞いたらしい。

 そういう事に金を使うべきではない、と言われたので、俺は娼館の金が節約して貯めたものである事を説明した。

 しかし、姫様は「そういう問題じゃありません!」と泣いて部屋に篭ってしまった。

 あの魔術師が潔癖気味だったし、お姫様もそういう事は苦手なのかもしれない。

 

 その後、晩飯の時間になってようやく部屋から出てきた姫様は、席に着くなり「娼館ではなく、私ではいけませんか」とか言ってきた。

 良いわけないだろう。そんな事したら、姫様を守って死んだ人達に申し訳が立たない。

 

 流石に「そんなに娼館が嫌ならもう二度と行かないので、そんな自分を捨てるような事を言わないで下さい」と謝まると、姫様は「はい……」と少し悲しそうに頷いてくれた。

 

 もともと頻繁にいける訳ではなかったが、これからは他の発散方法を考えるとしよう。

 

───

 

 最近は姫様が自分のことをよく話すようになった。これまでは大抵、俺が話し手で姫様が聞き手だったのだが、最近は逆になる事が多い。

 

 王族だった頃はずっと王宮の中でつまらなかっただの、魔術師には姉のように接してもらっていただの、近衛騎士は幼い頃から守ってもらっていただの、話し方は要領を得ないが、興味深い話が多い。

 

 そして、姫様は話が終わると、決まって「私の事、分かりましたか?」と聞いてくる。

 

 そこで、俺はいつも「はい」と答えるのだが、何故か毎回「いいえ、まだ足りません」と言われてしまう。

 

 まあ、まだ出会って二年だ、焦って理解する必要は無いのかもしれない。

 

───

 

 勇者と呼ばれる人間の精鋭達が魔族達の王を討伐したらしいが、戦争のせいで住処を追われた魔物達が人里に降りてくるせいで最近は忙しい。

 鍛錬の成果もあってか、流石に苦戦することはないが疲労というのは貯まるものだ。

 油断していた仲間を守ろうとして怪我を負ってしまった。

 

 結構深い怪我で、病院に行くと姫様が手当をしてくれた。姫様は怪我をした俺を見るなり泣きそうな顔になったが、命に別条は無いと知ると酷く安心していた。

 回復魔法でぱぱっと治して欲しかったが、昨日使ったばかりで当分使えないらしい。

 まあ、魔物も一段落してきたし、問題ないだろう。

 

 そういえば、制服姿の姫様は美しかった。

 姫様ももう十八、そろそろ見合いでも持ってくるべきだろうか。隊長に相談しよう。

 

───

 

 見舞いに来てくれた隊長に姫様の事を相談すると、隊長は何か考え込むような表情を見せた後、お前はどうなんだ、と聞いてきた。

 確かに俺もいい歳だが、姫様が伴侶を見つけるまでは誰とも結婚するつもりは無い。そう答えると、隊長は更に難しそうな顔をして「そうか、分かった」と言って帰っていってしまった。

 人の心の機微に聡い隊長の事だ、いい相手を探してくれるだろう。

 もし変な奴だったら俺が

 

 

───

 

 隊長が姫様に話を聞いてきたらしい。

 珍しいこともあるようで、隊長が勧めようとしていた男と姫様が好きな男は一緒なんだという。

 

 姫様に好きな男がいるとは知らなかったが、彼女だってそういう年頃だ、ない方がおかしい。

 その男は隊長からしても信用できる奴で、姫様にとってもこれ以上無いほど申し分ない相手らしい。

 

 詳細は教えてくれないが、隊長がそこまでいうなら、と賛成しておく。

 

 後は相手次第だが、「うちの姫様を断るような奴は俺が叩き切ってやる」と言うと、隊長は難しそうな顔で「そうか」と呟いていた。

 

 冗談ですよ?

 

 

───

 

 相手側が結婚を了承した。もともと姫様と親交があったようで、すんなりと決まったそうだ。

 姫様から男の話なんて聞いたこともなかったが、まあ、そういうことなのだ。

 式は来週になるらしい。奇しくも俺の退院日と一緒だ。

 

 それにしても姫様の結婚式か、そう考えると少しだけ感慨深いものがある。

 

 俺の元を離れて誰かと共に生きていくというのは少し不安だが、別に俺は親でも何でもない、姫様を守る護衛なのだ。本人が結婚したいというなら、それを応援するのが普通なのだ。

 

 いい加減、相手の名前くらい教えて欲しいが、隊長曰く「言ったら、そいつは逃げ出すだろう」とのこと。大丈夫なのかそいつ。

 

───

 

 ここ最近、姫様を見ていない。結婚の話が出てからか。結婚が決まったら、俺は必要無いということだろうか。少し悲しい。

 

───

 

 日記というものは、書きたいことがあれば書く。書きたくなければ書かない、そういうものだ。

 

───

 

 退院まであと五日、姫様の結婚まであと五日。

 今日も誰も見舞いにこない。姫様の顔が少しだけ見たいが、結婚式の準備があるのだろう。

 

───

 

 (空白のページが続いている。)

 

───

 

 いよいよ、明日が姫様の結婚式だ。俺の脚もほぼ完治したと言っていい。

 

 護衛として最後の仕事だ。

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