とある銀河級スペース蛮族帝国のあれやそれ 作:社畜だったきなこ餅
本当はこの話で、皇太子一家が地球へ遊びに行くヨ!する予定だったのですが、思った以上に文章が膨らんだので、旅行は次回へ持ち越す事となりました‥・。
実プレイだと、ゴキ型異星人が闊歩する死の惑星になってた地球ですが、今回は書きたいネタ優先で、地球人類存命にしました。
ついでに、宇宙暦は2600年代ですが。地球の西暦は2020年とかそのぐらいの現代です。
この銀河には幾つもの種族、そして文明が存在している。
愉快な銀河級スペース蛮族こと銀河ドラグーン帝国に、気付いてないのは自分達だけな狂信者集団こと神聖稲荷騎士団。
そして、存在自体が発禁処分モノと一部界隈で評判となっている淫魔管理会。更にこれらの文明以外に幾つもの文明と銀河帝国がある。
これらの文明を銀河帝国たらしめているモノは何か。
それは広大かつ有機生命体の生存を許さない、宇宙空間を不自由なく航行し星の光を超える術こと通称『FTL技術』と呼ばれるモノを獲得しているか、否かである。
では、その技術の獲得に至っていない……『PreFTL文明』と総称される、知的生命体文明の扱いはどういう扱いか?
分かりやすい回答例として、まずは銀河ドラグーン帝国から見たPreFTL文明から見てみよう。
「PreFTL文明? まぁ技術レベルにもよるけど戦士として見込みあるなら見守ってもいいんじゃない?」
「たまーに内乱で自滅しとるけど、まぁそれも自分らで選んだ闘争の果てだしの」
「んだんだ、もう少し分別守って殺し合えとは思うが。愚かとは思わねぇな」
問いかけるドラゴンによって若干回答にブレこそ出るものの、凡その回答はこうなる。
彼らの根底にあるものは、権威と闘争なのだ。故にこそ戦争に対する決定権を持つ権威者が選んだ闘争は尊重するし、その結果も彼らは嘲笑わないのである。
ちなみにPreFTL文明が美少女、美女ばかりの場合。
「「「そりゃお前、自滅する前に大切に保護して育てて懐かせるに決まってるだろ。常識的に考えて」」」
こうなる。故にこそ銀河級スペース蛮族なのだ。
では視点を変え、神聖稲荷騎士団の回答を見てみよう。
「惑星間航行前文明ですか? そうですねぇ……まずは陽光様の教えを広め、導いてあげるべきだと思います」
「そうじゃのう、無知である事は罪にあらず。なればこそ妾らが教えを説き、誤った道へ進む前に正道を諭すのじゃ」
「違う神を信仰していたら? それもまた彼らの選択でしょう、そうする理由もあるでしょうしね。 陽光様の偉大さを教える事に違いはありませんが」
稲荷によって口ぶりスタンスこそ異なるが、どこぞの銀河ドラグーン帝国に嫁入りし現皇太子妃含め、割と自文明の宗教を広めることに疑問を感じていない。
なお、陽光様というのは稲荷達にとっての主神であり信仰対象である恒星の尊称である。
ちなみに、PreFTL文明側が教稲荷達の教義や信仰を愚弄したり、信仰自体を真っ向から否定した場合どうなるかと言うと。
「? 不思議な事仰りますわね、そんな人なんて『居るわけない』じゃないですか」
「然り然り、そのような輩なぞ『居るわけない』。陽光様は全ての恵みの源であり、偉大な存在なのじゃからな」
「そうそう、そんな人種『居るわけない』ですとも。ええ」
「「「うふふふふふふふふふふ」」」
こうなる、だからこそ彼女らが狂信者と言われているが無自覚だからタチが悪い。 こいつらは常識人だと思った? 残念、長年銀河ドラグーン帝国と付き合ってる程度にはこいつらも変人だ。
余談だが、銀河ドラグーン帝国内でも恒星信仰は特に拒む理由もないのでそのまま受け入れられており、熱心なドラゴンの信者も居たりする。
そのうち信仰を拗らせた、蛮族と狂信を混ぜ込んだ究極蛮族が産まれるかもしれないが、今すぐじゃないから特に危惧はされていない。
なんだかもう酷い回答例ばかりになってきたので、最後に淫魔管理会の回答はどうなるか。
「FTL前文明にどう接するか? そんなの、すぐに啓蒙して皆一緒に仲良く気持ちよくなるのが一番じゃない」
「そーそー! 戦争で滅んじゃったりしたら可哀想だし、そうなる前に楽しい事教えないとね!」
「うんうん、人型も爬虫類型も鳥型も、みんな仲良くが一番だよー」
前二つの文明が割と酷い回答事例だった為、一見平和な回答に見える淫魔管理会である。
実際彼女達はPreFTL文明への啓蒙活動に銀河の中でも一際熱心であり、彼女達の助力によって銀河へ飛び出した文明も少なくはないのだ。
問題が一つあるとしたら、彼女らに啓蒙された文明は総じて性的に奔放な文化を得る傾向が強いが。直ちに実害はない為放置されている。
ならば、FTL技術を自力で獲得し立ての……巣立ったばかりの雛鳥のような文明にはどう接するか。
関係ないとばかりに、自分達のエゴを押し通してくる。かと思いきや。
「自分らの足でしっかり立てるようになったのなら、まぁ相手の国是尊重するよ。戦争吹っ掛けてきたら思い知らせる形になるけどね」
「自らの信仰、信念を掲げて飛び立ったでしょうし……無理矢理教えを広めたりはしませんわ。布教はしますけどね」
「うんうん、自分達で宇宙へ飛び出せたのなら立派だよー。直ぐにお友達になりましょう、大丈夫痛くしないから!」
割と、宇宙に飛び出したばかりの新参者を尊重する傾向が強いという、驚きの回答が出てくる。隠しきれてないエゴが透けて見えるのは内緒である。
ともあれ、こんな具合にPreFTL文明と。FTL獲得したての文明では彼らに限らず、銀河全体でも大きく扱いが異なってくるのが、銀河共通の認識なのだ。
ちなみに、代表回答例として抽出した三国から見て……銀河中央を挟んだ反対側にある。割と銀河の辺境に位置する地球はどういう立ち位置かと言うと。
後一年銀河に飛び出すのが遅かったらどこぞの狂信者、ないし性的奔放文明が嬉々として啓蒙に乗り出す程度には崖っぷちギリギリセーフだったらしい。
【とある地球の未知遭遇】
そんな今時、特撮作品や映画ですらやらないような地味な危機を気づかぬ間に乗り越えていた地球さん。
銀河帝国としての彼らは、惑星内国家の指導者らを代表とした民主制で国家を運営する、科学技術を信奉し……人民と平等と、安定した平和を尊ぶごく一般的な国家である。
地球に住む人民らは、いやそんなことねぇよ。とたまに声を大にして突っ込む事はあれども、とりあえずそういう事になっている。
そんな地球の国家体制だが、銀河の反対側に住まう愉快なナマモノらとは国家の性質上あまり相性が良くない方向性にある。
平和と平等さを美徳とする彼らにとって、銀河ドラグーン帝国は理解の及ばぬ蛮族で。
更に、彼らの盟友である神聖稲荷騎士団は目に見えぬ神を至高と掲げる国家的狂信者と来たもんだから大変だ。
淫魔管理会? 彼女らが仲良くできない文明をこの銀河で探す方が難しいから除外する。
銀河全体が仲良く戦争を繰り広げていた時代なら、即日敵対宣言待ったなしな程度の相性の悪さ。だが今の銀河は全体的に安定している以上そこまで性急に事が運ぶ事はなく。
それでも、互いの不幸にならないよう距離を置いて互いに無関心を貫く、そうなるのが本来ならば必然であった。
そう、『本来ならば必然であった』。
それは、ある晴れた昼下がり。
かつて形骸化していた地球の国家連合をまとめあげ、かつて国連と呼ばれた組織の施設を流用した統治施設は、今日もようやく迎えた宇宙時代への希望を胸に抱えた職員らが明るい明日を信じながら働いていた。
そしてそれは、数ある銀河帝国の一員となった地球……改め、地球国際連合の首相もまた同じで。
「漸く、木星と金星の資源採掘施設稼働の目処が立ったか」
「はい首相。当初は議会でも採算が取れるかどうかで紛糾したもんですが……予想をはるかに上回る資源採掘量に、議会は態度をコロリと変える有様ですよ」
「何時の時代も連中は変わらんなぁ」
「ええ、全くです」
優雅に紅茶を啜りながら、朗らかに笑いあう白髪の目立つ壮年の地球人男性と同年齢程度の頭髪の薄い地球人男性。
首相と呼ばれた男性はかつて、地球国際連合内のアメリカ合衆国にて前大統領を務めた辣腕政治家で、そして頭髪の薄い方は彼が最も信を置く側近であると共に親友であった。
彼らは互いに大して面白くもないジョークを交え会話しながら、書類の決裁と今後のスケジュールについて話し合っていく。
その仕事は勤め上げた大統領以上に多忙であるも、その日は幸いにして溜まった仕事に本腰を入れて取り組める程度には平穏であった。
だが、平穏という物は得てして予期せぬタイミングで最悪の形で粉砕されると相場が決まっているものである。
「しゅ、首相!!」
「なんだね騒々しい!」
「まぁまぁ、余りカッカすると残り少ない毛髪も死滅するぞ? ……で、どうしたのかね?
「は、はい! 銀河ドラグーン帝国から通信が……!」
「……え? あの、銀河の反対側にあるあの軍事大国?」
「はい!!」
慌ただしく駆ける足音、そして乱暴に開かれる執務室の扉。
あまりにも突然すぎるその行為に、側近の頭髪が薄い首相の親友は額に青筋を浮かべて職員を厳しく叱責するも……緊急事態かもしれない、と気を引き締めた首相は側近を宥め。
そんなに薄くないはず……と自らの頭髪を自覚してなかった側近が、自らの頭に手を当てているのを尻目に、職員へ優しく問いかける。
そして飛び出た予想外の大国の名前に、首相思わず思考が停止。
気を取り直し、同じ名前の新たなご近所さんかな?と一抹の願いを込めて確認するが、ダメ。
首相、思わず白目を剥きそうになりつつ、大きく深呼吸。
「まぁ落ち着こう、そう落ち着こう。こういう時は紅茶を飲むのが一番だ……通信の内容は?」
「そ、それが内密な話だということで私共にも話してもらえず……」
「……待て、その口ぶりだと一方的な通信ではなく、相手は今も……?」
職員と自身に言い聞かせながら、地味に小心者な首相は手を震わせながらカップを手に取り気持ち優雅に紅茶を啜る。
嫌な予感を感じたらしい側近が、頭髪に手を当てたまま職員へ問いかけその質問に職員が頷いた瞬間。首相の小心者センサーはアラームを発し始め、
「……ぎ、銀河ドラグーン帝国の皇帝が。今も首相が通信に出るのを、向こうで待ってます」
「ぶっふぅぅぅぅぅ!?」
「うわっ、きたな?!」
予想の斜め上どころか真上をすっ飛び成層圏を飛び越えていった回答に、首相思わず口に含んだ紅茶を噴き出す。かかりそうになった側近が失礼なことを言いながらとっさに回避。
「す、すぐ通信室へ向かおう!」
慌てて口元を拭いつつ椅子を蹴倒すように首相は立ち上がり、職員とともに執務室を飛び出していき。
回避運動のせいで、一拍遅れた側近もまた大急ぎでその後を追っていく。
そして到着するは、様々な電子機器や観測機器が所狭しと配置された地球国際連盟の技術の粋が詰まった部屋の一つである通信室。
その部屋の中央にある、大きな映像通信用モニタの前に首相は佇まいを直すと……通信室職員へ目線で合図を送り、通信を開く。
モニタに映り出されたモノ、それは……地球人類を凌駕する巨躯を持つ、豪華絢爛な衣装と装飾に身を包んだドラゴンであった。
地球人から見たら、余りにも衝撃的すぎるその姿に首相一瞬白目を向きかけるが、ド根性で踏み止まる。
通信モニタ越しとはいえ、相手は資料で見た皇帝そのもの。隔絶した国力差がある相手に、無様な姿は見せられないという首相の意地が彼を奮い立たせていた。
『いやー急な通信すまんのう、執務中だったかの?』
だがしかし、そんな首相の想いと裏腹に銀河ドラグーン帝国の皇帝めっちゃフランクでした。
なお、皇帝の口の動きはあってないのに彼は地球の言語の一つである英語を流暢に喋っている。
コレは地球国際連盟驚異の技術力……ということでは、残念ながらない。
銀河ドラグーン帝国側が、地球国際連盟の言語を解読翻訳し、自動でリアルタイムで翻訳しているのだ。
なお……言語を解読し翻訳したドラゴンの社会研究者は、宇宙に出たんなら言語ぐらい一つに統一しろよバカヤロー! と叫んで不貞寝したのは内緒である。
「い、いえ丁度休憩中でした」
『そっかー、なら良かった。宇宙に出たてで苦労しておるみたいじゃが、なんぞ困ってはおらんかの?』
隠しきれない冷や汗を流しながらも、社交辞令を返した首相の言葉に皇帝は強面な顔に笑みを浮かべて頷き……。
まるで、遠くからやってきた若者に手助けを申し出る親切な老人がごとき言葉を、首相へ投げかける。
困惑するのは首相、ついでに相手から見えないところで聞いている側近と通信職員である。
近場にある巣立ちたての文明ならまだ理解できるが、決して近くない銀河の反対側にある大国の皇帝が言うにはあまりにも無責任すぎる言葉だからだ。
(皇帝の狙いはなんだ? 資源……はありえない、領地としても地球は遠すぎる……もしかして、地球人そのものか?!)
『? 随分と顔色が悪いが大丈夫かの? 代表たるもの体調管理は大事じゃぞー』
「は、ははは……お気遣いなく」
顔色悪いのはおめーのせいだよ!!と全力で叫びたい首相だったが必死にこらえる。
自分の癇癪一発で地球人類滅亡なんてなった日には、死んでも死にきれないしそんな事で重すぎる十字架なんぞ首相は背負いたくない。誰だって背負いたくない。
『まぁ挨拶はこれぐらいにしてじゃな……少々頼みたい事があるんじゃよ』
(っ! そらきた!)
「……なんでありましょうか?」
お前らが欲しがるものなんてねーよ!というか用意できねーよ! という内心で叫ぶ気持ちを必死に抑えつつ、生唾を飲み込みながら皇帝へ首相は問う。
既にスーツの背中は冷や汗でぐっしょりと濡れ、不快な感触を首相へ伝えている上に気のせいか胃痛までもが首相を襲い始めている。
『いやのぅ、国交結ぶついでに。余の息子一家をそちらで旅行させてやりたくてのぅ』
「…………は? りょ、旅行でありますか?」
(ま、まさかこの皇帝……飄々とした様子で言っているが、まさか……?!)
無理言ってすまんのー、などと朗らかにほざきつつ爆弾発言をぶち込んできた皇帝の言葉に目を見開く首相。
首相の脳裏に閃くは……かつて地球であった第二次世界大戦、その引き金になったと言われる欧州のとある国で……某国の王族が暗殺された事件。
『そちらも宇宙に出たてで忙しい中、こんな事頼むのも心苦しいんじゃがのー』
「も、申し訳ありません。 私一人の一存では、そのような大事すぐに返答できかねます」
『む? お主が代表なんじゃろ? ならパパっと決めればよいじゃろ』
「わ、私共は民主主義の下政治を行っておる所存が故……!」
辺境の地球に旅行に出かけた皇太子一家の暗殺、そして暗殺を止めれなかったことを理由にした干渉と侵略。
一度悪い方向へ転がった首相の思考は、加速する胃痛共に最悪の方向を想定していく。
それでも、必死に声を絞り出し時間稼ぎになんとか成功。
一々意見募らんと決められないとか、やっぱ不便じゃのー。などとモニタの向こうでほざいてる皇帝に首相は半ば殺意すら感じつつ。
皇帝の、色好い返事期待しておるでのー。という呑気な言葉と共に通信は終わった。
なお、皇帝はそんな大層な事欠片も考えていない。仮にあったとしてもやる時は真正面から殴りに行く宣言と共に宣戦布告するだけである。
「……首相、とんでもないことになりましたな」
「……そうだな……急ぎ、議員を招集してくれ。今進めてる事案を止めてでもだ!」
「了解でありますよ、と」
お通夜のような空気が広がる通信室に、側近は驚きと衝撃を超越した他人事のように呟く。
その口ぶりを咎める、否。咎められる人物は通信室には一人としていなかった。
皆、今の通信を夢だと結論付け。ふかふかのベッドに飛び込んで忘れたい衝動に駆られていたのだから。
だがそれでも、首相にはそれすらも許されることはなく。
首相は死んだ鯖のような目をしながら、疲れ果てた声で側近へ指示を出し、側近もまた応答するとともに通信室を出て行った。
ここで一つ、疑問が残る。
何故、銀河に飛び出したばかりの地球が大国とはいえ……銀河の反対側にある銀河ドラグーン帝国の存在を知っているか、である。
地球国際連盟の諜報機関の努力? ありえない、彼らは確かに地球では最高峰の諜報員であるが、既に銀河を往く先達には及ばない。
宇宙時代到来により進化した技術によってその情報を得た? それこそ不可能だ、彼らの技術力では今だ太陽系に隣接した星系をおぼろげにしか察知できない。
では、どうして知っているか。それは……。
「この度は難儀な事になったようで、心中お察しします」
「こちらこそ、我が国の問題なのに駐在大使にまでご足労頂いて本当に申し訳ない」
「気になさらないで下さい、我々はこのような事態の為に貴国に駐屯させて頂いているのですから」
「その言葉だけでも、我々は救われますとも」
地球国際連盟内の大国代表である議員、人類が集まる中強い存在感を放つ直立するハエトリソウのような異星人。
彼か彼女か定かでないが、ともかく彼らはシルドールと呼ばれる狂的なまでに科学技術を信奉し他者を受容する国是を持つ種族で……。
銀河へ飛び出し宇宙帝国の一員となった地球を、PreFTL文明時代から観測所を建てて見守り続けた先達である。
そして……。
「貴方方から頂いた銀河危険文明リストのトップ5の文明から、まさか通信が入るとは思っていなくて……」
「でしょうなぁ、正直私も通信ログを見るまでは信じ切れなかったですとも」
現代銀河の作法もタブーも知らない地球へ、先輩からのささやかなプレゼントとして彼らが把握している銀河帝国の情報を進呈した文明だ。
ちなみに、地球の衛星軌道上へ地球国際連盟が宇宙基地を建造し終えた瞬間、シルドール達は地球へ真っ先に大使を送ったりしている。
無論、その地球人類から見たら奇怪としか映らないシルドール達であるが、何のかんの言って地球が銀河に飛び出して数年が過ぎた今。
地球の一部地域を除き、シルドールは宇宙の先輩としてそれなりに敬意を持たれている。
「しかしまぁ、あのログ内容からそう警戒する必要もないでしょう。 あの帝国は攻めると決めたら、もっと簡潔に通信を送った上で艦隊を向けるでしょうから」
「そ、そうなのですか?」
人間の頭を丸のみ出来そうなほどに大きい、ハエトリソウ的頭部を開いたり閉じたりしながら安心させるような口調で述べるシルドールに。
悲壮な決意と覚悟を半ばキメていた首相は、まるで肩の荷が降りたかのように大きく安堵のため息を零す。
「ですが…………問題がないわけでも、ないですな」
「ど、どのような問題でしょうか?」
え?あるの問題? と言わんばかりの首相の表情、彼らの会話を見守っていた議員らもシルドールの言葉に生唾を大きく飲み込む。
「銀河ドラグーン帝国というのは数えるのが馬鹿らしいくらい、非合理的な変わった風習を持つ銀河級蛮族なのですが……」
「あ、やっぱり。蛮族って認識なんだ……」
「しっ、黙ってろ」
蔓のような腕部をうねうねと動かしつつ呟いたシルドールの言葉に、議員が思わず呟きそんな議員を隣に座っていたフランス代表議員が止める。
「ドラゴンの子、彼らにとっての男子が産まれて半年経ったら生誕した惑星とは異なる環境へ,共に短期間の旅行へ出るというのがあるんですな」
「半年? また随分と……その程度では、ろくに体も出来ておらず危険なのでは?」
「ああ、彼らと地球人類の成長は大きく差異があります。半年も経てば地球人類でいう5歳程度の扱いになりますな」
生後半年の赤子を連れて、違う星への旅行に行くという不条理極まりない風習に、理解できないとばかりに議員が恐る恐る挙手しながらシルドールへ質問し。
彼の言葉に、シルドールは発言を遮られたことを気にする事なく、疑問に応える。 ついでに疑問に応えられたドイツ代表議員は、宇宙って広いと白目を向いて呟いた。
「しかし、何故そのような風習があるのでしょうか……?」
「我々もそこまで詳しくは……ただ、あえて違う環境へ免疫が整ってきた子を連れて行くことで強靭な子へと育てる目的があるのでは、と我らの社会研究部は推測しております」
「……そして、そうやって強靭な体を持ち育ったドラゴンはやがて、銀河に名を轟かせる戦士となるですか……ゾっとしませんな」
シルドールの言葉にひそひそと話し合う地球国際連盟の議員達。
なお真実は、割と種族本能的に親バカになり易い父親ドラゴンが数少ない娯楽である他星へ家族旅行に出かけるというのが、慣習レベルで染みついた習性で。
その結果違う環境に晒された幼いドラゴンが、適応し強靭になっているというだけである。
「と、少し話が逸れましたな」
「逸れてたのか」
「大使殿、割と話好きだからよく話が横道に逸れるんだよな……」
「何か?」
「「いえ何も」」
ヒソヒソと話し合う議員達。
そんな彼らへシルドールはくるりと振り返り、慌てて二人の議員は異口同音に首を横に振る。
紳士的だし襲われることはないとわかっていても、シルドールのインパクトがありすぎる外見は彼らにとって若干恐怖であった。
「ともあれ、問題は今回来るという皇太子の奥方が稲荷神聖騎士団の姫君だったってところでありますな」
「神聖稲荷騎士団というと、あの狐耳尻尾の美少女ばかりの文明の?」
「ですな、彼女ら……男性もいますが便宜上こう言いますね。彼女らは狂信的な信仰を持っておりましてな……」
直近で結婚し子供が出来た皇太子とその一家と言うとそれしかないですしな、と呟くシルドール。
そんな彼の発言に食いつくは、去年日本代表議員として就任した若き議員だ。 ちなみに彼の前任者は、俺は淫魔と懇ろになるぞぉぉぉ! と叫んだ後宇宙のどこかへ旅立ったらしい。
「まぁその、彼女らの国とは300年ほど前でしょうか。 我が国と大戦争を繰り広げた事がありましてな」
「スケールが大きい話ですな……」
「その時の記録によると、その大戦争の切っ掛けは当時の我が国の代表者が神聖稲荷騎士団の宗教を、徹底的にこき下ろしたからだそうです」
「何故、そんな事を……」
余りにもスケールが大きい年月の話に議員らは思わず遠い目になりつつ、呟く。
ちなみに先ほどから静かな首相は、激しい胃痛を感じ側近から差し出された胃薬を飲み始めていた。
「あの頃の我が国は恥ずかしながら、今以上に科学信奉を拗らせてたそうでしてな。 存在しない神を信仰する者に未来はないとか、侮辱の通信を送ったみたいで」
「そ、それでどうなったのですか?」
「まぁ、その相手にもそれなりの痛手は与えたそうですが。最終的に我々が敗北したとのことです、当時の我が国と神聖稲荷騎士団の国力差は我が国が圧倒的に優勢だったそうですけどね」
「やべぇ、狂信者やべぇ……」
「で、でもほら。 嫁入りしたわけですし、そこまで狂的な信仰はないのでは……?」
地球人類と接するシルドール達の紳士的態度からは想像もできない、過去のシルドールらのやらかしにどよめく会議室。
さらに、単独で優勢と思われていたシルドールを叩きのめした、神聖稲荷騎士団の危険性を多少理解し戦々恐々と議員らは背筋に冷や汗を垂らしつつ。
一抹の望みをかけ、一人の議員がシルドールへ問う。が。
「逆に聞きましょう、信仰の中枢である祭司長の一族の娘が。簡単に信仰を捨てると思えますか?」
「……思えませんなぁ」
ハエトリソウなシルドールは、地球人類にもわかりやすいぐらいに溜息を吐くジェスチャーと共にその問いに答え。
知ってた、とばかりに質問を投げかけた議員は乾いた笑い声を上げながら白目を剥いた。
「まぁ、そういうワケで……我々の主観的なものの見方になってしまいますが、神聖稲荷騎士団出身である皇太子の奥方への注意は最大限に払うべきかと」
「……なんとか理由付けて、旅行訪問断れないかなぁ」
警戒すべきだと思っていた銀河ドラグーン帝国以外に出てきた、思わぬ伏兵に遠い目をした首相を誰が責めれようか。
「それはオススメできかねますなぁ、なので。政治的な問題や信仰的問題を誘発しない国の旅行のみに、留めるのがまぁ次善策として有力ではないでしょうか」
「それしかないか……」
「しかし、そうなるとどの国に絞る? ここはやはり、首相の祖国でもある合衆国が最適では?」
「い、いやソレよりもドイツの方がよろしいかと。銀河ドラグーン帝国は質実剛健な武力を尊ぶと聞きます、前大戦の史跡や博物館等を見てもらえば……」
「いやいやいや、それよりもロシアとかどうでしょう? 国も広いですし巨躯のドラゴンでも不自由なく観光できるのでは?」
それなりの見返りも期待できるでしょうしね、と続けるシルドールの言葉に議員は互いに視線を交わす。
その視線の意味は、出し抜いて自らの国へ誘致し祖国の利益を少しでも他者より多く受容しようとぎらついていた……なんてことはなく。
むしろ、必死に互いに着火済み導火線のついた爆弾を投げ合うかのように、他国へ文字通りぶん投げようとする悪足掻きを示していた。
そして、火のついた爆弾を投げ合うチキンレース式ボール投げは。
「こ、ここは日本とかどうでしょうか!? かの国は包括的な信仰を持ちつつ先進的な技術や文化、おもてなしの精神を持っております!」
「おお!それもそうだな!」
「うんうん、日本なら安心だ!」
「なぁぁぁぁ?!」
このままでは皇太子一家をおもてなしする羽目になりそうになっていた、中国代表議員がとっさにボールを投げた先。
ソレは、この宇宙時代にも地味に小足を繰り出し合うような牽制を互いにしあっている、日本であった。
投げられたボールは、ひっそりと息を潜め気配をニンジャのように隠そうとしていた日本代表議員に直撃。
とっさに日本代表議員が返そうとするも、時すでに遅く。
日本がホストとして、皇太子一家を責任をもっておもてなしするという事で、会議の流れは終結した。
思わず首相へ視線で助ける日本代表議員。
助けを求められた首相、その懇願するかのような視線を真正面から受け止めると。
「今回の歓待で必要な予算、及び資材は地球国際連盟名義で全て負担する。 すまないが……地球の未来を、頼む」
とてもたのもしい死刑宣告を告げるのであった。
一方そのころ銀河ドラグーン帝国宮殿の一室にて。
「ちちうえーちちうえー! ちきゅーって、どんなところー?」
「うーんそうだねぇ、とても楽しい本や映像作品が一杯ある星だよー」
「あらあら、貴方ったら」
皇帝から、新型機開発達成の褒美として与えられる、地球への旅行へ和気藹々と放す皇太子一家が居た。
皇太子の長男は、父親である皇太子よりはるかに小さく。小柄な母親が両手で抱えられる程度の大きさであるも……たどたどしくはあるが、しっかりと受け答えをしており。
そんな親子を、母親である皇太子妃はとても微笑ましそうにニコニコと笑みを浮かべて見守っている。
銀河の反対側にある地球では現在進行形で大惨事というか紛糾中であるものの。
銀河ドラグーン帝国の皇太子一家は今日も平和です。
皇太子妃「なんか酷く失礼ですわねぇ。敵対してない文明の信仰まで目くじら立てませんのに」
だけど、真正面から信仰否定されたり侮辱されたら、幼竜な長男がなく程度に怖い貌をする皇太子妃であった。
そんなわけで、第4話お送りさせて頂きました。
多分今回の話で一番被害被ったのは、前任が雲隠れした上に無茶ぶりされた日本代表議員さん。
彼はきっと、どこぞの淫魔管理会の宇宙基地で淫魔とニャンニャンしてる前任者探し出してぶん殴っても許される。