選択肢に抗えない   作:さいしん

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奇策はあくまで奇策、というお話。




第111話 かねてから隠しておいた正攻法

 

 

 うひゃひゃひゃひゃ!!

 電話の向こうから『?』がハッキリ見えたぜ!

 

 自信を持って言える!

 我、奇襲、成功せり――ッ!!

 

「何言ってるの旋焚玖!? ちょ、ちょっと貸してよもう!」

 

 む?

 シャルに携帯を奪われたでござる。

 

 しかし、ちと遅かったな。

 

「も、もしもし!? あ、あれ…?」

 

 電話は既に…ッ!

 切ってあるんだぜ!

 

 あ、シャルがこっち向いた。

 やだ、すっごいジト目。

 

「何かもう、頭が混乱しちゃってて……でも、それでも一言だけは言えるよ」

 

「聞こう」(泰然自若)

 

「意味不明だよ旋焚玖ぅ!」

 

 うわはははは!

 ごもっとも!

 あひゃひゃひゃひゃ!!(ご満悦)

 

「フッ……」

 

「何でしたり顔なのさー!? そうだ、一夏からも何か言ってあげてよ!」(どうしてそんなに落ち着いていられるの!? どうしてアタフタしてる僕の方がおかしいみたいな空気になってるのー!?)

 

「え? ああ、うん。俺も言葉の意味は分からんかったけどさ。でも、あの行動には何か意図があるんだろ?」

 

 流石は幼馴染。

 伊達にガキの頃から俺を見てねぇな。

 

 ならば説明しよう。

 

「確かに俺は『交渉する』とは言ったが、相手はそこらへんの弱小か? 高校一年生の男子が『まとも』にブツかって勝てる相手かよ?」

 

「えっ、それは……」

 

 オラオラ、はっきりくっきり言っちゃえよ。

 まずは認める事だぜ? 現実ってヤツをな。

 

「やっぱ……難しいよな」

 

 まだ弱い。

 お前らが言葉を濁すなら俺が向き合わせてやる。

 

「不可能だろ。常識的に考えてよ。というか『まとも』にやったら相手にもされんわ。ちょっと考えたら分かるだろが」

 

「(´・ω・`)」「(´・▵・`)」

 

 そんな顔してもダメなものはダメなの!

 おもちゃ買ってもらえない駄々っ子かお前ら!

 

「俺たちはそんな強敵を打ち負かさねぇといけないんだぜ? 火蓋が切られた今、負けたらその時点でシャルは終わりだ。当然、俺と一夏もな」

 

 分かるか?

 俺たちは絶対に負けられないんだよ。

 

 オラ、一夏。

 昔に話しただろ、こういう時はどうすんだ? カッコいいセリフだったし、俺はいまだに覚えてるぜ?

 

 ヒントくらいはくれてやる。

 

「電車にマトモに当たったら…?」

 

「!!!」

 

 おっ、ピンときたって顔したな。

 なら後にツヅケー。

 

「死んじまうんだよ…!」

 

 分かってんじゃねぇか。

 なら最後は一緒にイウゾー。

 

 

「「 線路に小細工すんのがスジだろーが! 」」

 

 

「ヒューッ!!」

 

「イエーッ!!」

 

 ナイスな共同作業だったな。

 柄にもなくテンション上がっちまったぜ。

 

「完全に思い出したぜ。今がその時なんだな、旋焚玖?」

 

「ああ。今がその時だ」

 

 これで一夏は大丈夫だろう。

 あとはシャルだな。

 

「さっきの変な電話が小細工になってるの?」

 

「小細工とも言うし、奇襲、奇策とも言えるな」

 

「う~……よく分かんないよぅ」

 

 可愛い子ぶってんじゃないよぅ。

 

「世界的な地位を得ているデュノア社と対等に渡り合おうと思ったら、まずは先生パンチをカマしてやらねぇとな。逆に受けに回っちまうのは悪手も悪手。俺たちは絶対に受け身になってはいけない。常に先手をとらなきゃならない」

 

 これはマジ。

 マジのガチ。

 

「シャルの親父さんに『コイツはちょっと違うぞ』と思わせる事が狙いだ。その積み重ねが今後の成功の鍵と言ってもいいだろう」

 

 安西先生も言ってたしな。

 

「た、確かにさっきの意味不明な電話でお父さんも『?』ってなったと思う」

 

「だろう? ならそれは、奇襲が成ったという事だ。そして、ここからが大事になってくる。俺たちが次にすべき事は……」

 

「分かったぜ! またすぐに電話して畳み掛けるんだな!?」

 

 元気モリモリ一夏くん。

 いいテンションだ。

 手を挙げて意見を述べてくれたな!

 

 だが。

 

「不正解」

 

「(´・ω・`)」

 

「!?……(´・▵・`)」

 

 えぇい、ツッこまんぞ!

 

「即二の矢を放つって点では全然ありなんだがな。しかし相手は何度も言うが強大だ。そして俺たちは一介の高校生に過ぎん。奇襲で先制した後は、相手が混乱している間に戦力を増やすのが先決だ」

 

「戦力!?」

 

「ちょ、ちょっと待って! それって他の人も呼ぶって事なの!?」

 

 シャルが焦るのは当然だろう。

 

 他者の助けを請うって事は、つまりシャルがスパイだって事も経緯も全て明かさなくてならないのと同義である。

 一歩間違えれば、助力を得るどころか普通に容疑者として捕らえられる可能性すらある。いや、その可能性の方が高いだろう。

 

 しかし、シャルを助けるにはここは避けては通れない道だ。そしてその前に、この2人を納得させるのが俺の仕事だな。

 

「……ちなみに誰を呼ぶつもりなんだ?」

 

「その顔だと薄々は気付いてるんだろう?」

 

 こんな時に呼べる人なんて1人しかいない。というか、シャルから事情を聞いた時点で真っ先に思い浮かんだわ。

 

 さっきの電話も含めて、今までのはただの前座に過ぎない。俺の本命の策は元々こっちだ。 

 

「千冬さんに助けを求めようと思う」

 

「……やっぱりか」

 

「え、織斑先生!?」

 

 世界で最も頼りになる人は誰か。

 そう問われたら、俺は間違いなく千冬さんの名前を出すだろう。それくらい心身ともに信頼できる人だ。

 

 だが、一夏は浮かなそうな表情してるな。

 

「一夏は反対か?」

 

「反対って言うか……その、千冬姉には今までいっぱい迷惑掛けてきたのに、また……って思ったら、な」

 

 そりゃそうだ。

 引け目を感じて当然だろう。

 躊躇う気持ちも余裕で分かる。

 

 しかしお前はまだまだ千冬さんを理解できてねぇ。

 あの人のブラコンっぷりを理解ってねぇから、そんな弱気なコメントになるんだよ。

 

「姉は弟に甘えられてナンボさ。それは千冬さんだって例外じゃない」

 

「……そうかな?」

 

 そうだよ。

 だが、この件に関しては流石に俺が口で言っても「あっ、そっかぁ」とはならんだろう。それくらいナイーブな内容である。

 

 だがしかし。

 我に策あり。

 

 要は証明すれば良いんだろう?

 物的証拠で示せば良いんだろう?

 

 フッ……我に秘策あり!(念押し)

 

 俺だから出来る事があるのだ。

 俺にしか出来ない事があるのだ。

 

 オラ、見とけよ見とけよ~。

 

「『一夏に甘えられたら嬉しいですか?』……ほい、送信」

 

 あえてメールの文面を声に出して送る、旋焚玖さんの隠れた好プレーだ(魚住)

 

「さて、一夏。これで白黒ハッキリさせようぜ」

 

「……なるほど。千冬姉がメールで否定すればアウト。肯定すれば俺は千冬姉を頼っていいんだな?」

 

 いぐざくとりー。

 

 簡単な話だろう?

 下手にややこしくするより、こういうのはシンプルに攻めるのが一番の近道だったりするのさ。

 

 

『YE━━━━━━ d(≧∇≦)b ━━━━━━S!!』

 

 

 思った以上にYESだったでござる。

 勢いも抜群だ。

 

「オラ見ろ。こんなにも物的証拠が出てんだぜ?」

 

「千冬姉…!」

 

 効果も抜群だ。

 一夏の奴、感極まってお目目ウルウルさせてんぜ?

 

「へへっ、やっぱ俺は世界で最高の姉さんを持ったよ」

 

「フッ……」

 

 これで一夏の説得完了。

 お次はシャルだ。

 

「シャルは浮かない顔のままだな?」

 

「う、うん。だって織斑先生ってすごく厳格なイメージがあるし、何より元ブリュンヒルデだもん。そんな人がだよ? いくら一夏にお願いされても、犯罪行為を見逃すなんて思えないよ」

 

「う……確かに千冬姉なら、逆に俺たちに怒るまであるかも」

 

 純度100%なド正論なんだよなぁ。

 自分で策を提案しておいてなんだが、シャルの言う通りだったりする。

 

 こっちサイドに一夏が居るとは言え、相手はあの千冬さんだ。弟想いだからこそ、幇助犯にさせないために、有無を言わさずシャルを連行する恐れすらある。というか現実的に考えたらソレ一択だな、うん。

 

「だからどうした」

 

 そんなモン最初から分かっとるわ!

 そういう常識的な次元の話をしてるんじゃないの! 何が何でも千冬さんを仲間にしないとダメなの! 

 

 そうしないと、お前みたいなホモのフリしたスパイなんざ、ソッコーで本国連れ戻されて、ひどい事されるぞ! エロ同人みたいに!

 

「千冬さんの助けが無いと俺たちはデュノア社に負ける。なら説得するしかないだろう…! なぁ、シャル?」

 

「……できるのかな?」

 

「出来る出来ないの問題じゃない。やるかやらないか、だ」

 

「やるか……やらないか……」

 

 

【や・ら・な・い・か?】

【バ・ラ・ラ・イ・カ?】

 

 

 さっきまでの静寂は何だったんだお前コラァッ!! 急に変なトコで掘り下げようとするなよぉ! お前の出現ポイントが分かんねぇよぉ!

 

 

「や・ら・な・い・か?」

 

「どうしてリズムに乗ってるの?」

 

「気にするな。で、お前はどうしたい、シャル?」

 

「僕は……」

 

 まだ踏ん切りついてなさそうだ。

 まぁ俺や一夏と違ってシャルは当人だからな。そんな簡単に踏み出せるなら苦労しないわ。

 

「確かに千冬さんを説得するのは困難を極めるだろう。だがな、よく聞けシャル」

 

 オラ、耳かっぽじって聞けオラ。

 

「数ある不自由と戦わずして、自由は手にできねぇんだぜ?」(米崎)

 

 カッコいいセリフを言うのは気持ちがいい(恍惚)

 

「ヒューッ! 旋焚玖ヒューッ!!」

 

「イエーッ! 俺イエーッ!!」

 

 どうだオラァッ!!

 一夏も思わずヒューッちまうくらいの! 信頼と実績ありありなイイ言葉なんだぜ! だからさっさと発奮しろお前このヤロウ!

 

「……不自由と戦わずして、自由は手に入らない…か。うん、いい言葉だね」(それに今の僕にぴったりじゃないか…!)

 

 やったぜ。

 見るからにキリッとなったぜ。

 

「……覚悟を決めたようだな?」

 

「うん…!」(もう冷静なフリして逃げ場を探すのはヤメよう。僕が立ち上がらなきゃダメなんだ!)

 

 魂の籠ったいい返事だ。

 これで俺も千冬さんに送れるぜ。

 

 

『シャルロット・デュノアの件で相談があります(σ`・д・)σYO!! 一夏の部屋に居るから来てほしいです(σ`・д・)σYO!!』

 

 

 ほい、送信。

 さて、鬼が出るか蛇が出るか。

 

 

『分かった(>ω<σ)σYO!! 40秒で行く(>ω<σ)σYO!!』

 

 

 あらやだ可愛いらしいお返事ですね。

 なお本人は鬼の形相で来る模様(予見)

 

「ゴクリ……いよいよ賽は投げられたな。千冬姉が……来るぜ…!」

 

 気持ちはめちゃくちゃ分かるが、明らかに緊張した雰囲気醸し出すのヤメろ。俺までソレが移っちまうだろが。

 

「やべぇ……な、なんか緊張して喉渇いた。喉渇かない?」

 

 そう言って台所へ消える一夏。

 アイツいつも喉渇かせてんな。

 

 シャルは……ん? 

 

「どうした?」

 

「えっ、あ、うん……あのね、旋焚玖。一つだけ聞いていいかな?」

 

「ああ」

 

「その『勝訴』って紙は何なの? どうして前と背中に張ってるの?」(正直ずっと気になって仕方なかったんだけどね。でも聞けるタイミングなかったし、雰囲気的に。きっと織斑先生が着いたらまた聞けなくなる。なら今聞いちゃうしかないよね!)

 

「ああ、これか。話せば長くなるんだが――」

 

 

【うるせぇ殺すぞ】

【コロンビア(ポーズ付き)】

 

 

 (説明が)もう始まってる!

 出すの遅いよぉ! 遅れたらちょっとは文脈も考慮してくれよ! 『話せば長くなるんだがうるせぇ殺すぞ』とか意味分かんねぇよ! キチガイかコラァッ!!

 

「コロンビア」

 

「は? え、なにそのポーズ」

 

「コロンビア」

 

 コロンビア。

 






Q.中央アメリカのパナマと陸上で国境を接している南アメリカの国はどこでしょう?

A.コロンビア


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