戦いは数だよ、というお話。
デュノア社との電話を終えた次の日の放課後。
我らが1組の教室にデュノア夫妻がやって来た。親父さんだけかと思いきや、奥さんも普通に来てるからビックリである。
まさに今、白い机を挟んで俺たちと対峙している訳だが。親父さんは此処にいる面々を見渡し、明らかに難しい顔をしている。分かるぅ↑↑(超分かるの意)
奥さんは……何で俺をチラチラ見てるんでしょうか。メンドくさい予感がプンプンなので言わんけど。
「まずは、そうだな……自己紹介でもしていこうか」
沈黙を破ったのは我らが千冬さんである。
千冬さんがいると俺がアレコレ展開考えなくていいからありがたし。そう言った千冬さんは目線でデュノア夫妻を促す。まぁ少ない陣営からがベターだろう。
「多く語る必要もないだろう。私はシャルロットの父親。アルベール・デュノアだ」
「私はこの人の妻で、この娘の義母にあたるロゼンタ・デュノアよ」
親父さんは貫禄あるしダンディーである。
要はイケメンである!……うらやますぃ。
奥さんは普通に美人である。
フランス人には詳しくないが、普通に美人である!……うらやますぃ。
「デュノアはいいとして、次はそれ以外の者だな。よし、主車から順に言っていけ」
「はい。主車旋焚玖です、今日はよろしくお願いいたします」
こっちの方が人数多いからね。
パパッと終わらせんとイカンよ。座ってる場所的に順番でいくなら次は一夏だな。お前も分かるだろ、パパッと終わらせろよ。
「えっと、俺は織斑一夏です。シャルとはルームメイトとして仲良くさせてもらっています」
まぁ自然な流れでの一言だな。
それを狙ってデュノア社もシャルに男装させてたろうし。しかも良い一言だ。聞こえようによっては口撃にもなりうる。
「何だとクルァァァァッ!!」
「「「!!?」」」
うわビックリした!?
落ち着いた佇まいから急転!?
「男女が同じ部屋とかフザけてるのか! それが! お前達の! やり方かァッ!!」
「落ち着いてあなた! その時のシャルロットは男の子だったから! 女の子じゃないから!」
「あ、そっかぁ」
なんだこのおっさん!?
くそっ、みんな呆気に取られてるじゃないか。正直、俺もビックリしてる。表情には絶対出さんけど。シャルですら「ふぇぇ…?」とか言ってるし。可愛い。だが元ホモだ(幻影)
一夏の口撃で先手を打つどころか、逆に出鼻を挫かれてしまった感がハンパない。流石は大企業の社長様って訳かよ、これは一筋縄ではいかなそうだな。
「ンンッ……では続きを」
だが、まだ俺たちのターンは終わってない。
シャルの男装事件にメインで巻き込まれたのは俺と一夏だが、ある意味今日の俺たちはメインでなく前菜的ポジションよ。
まずは(強制的に)デュノア夫妻の対抗馬として呼ばれたこの夫妻でジャブといこうか! 居るだけでジャブになってるから、変な事とか言わんでいいからね!
「いつも息子の旋焚玖がお世話になっております。主車優作です」
周りを見渡しペコリな父さん。
いやホント急に来てもらってごめんよ。俺が関わってる時点で、全くの無関係って訳でもないんだが、別に父さんも母さんもシャルの件に直接的には関わってないからな。
それに言葉のチョイスもいい。
特にツっこみどころもなく、滞りない言葉がとてもいい。隣りの母さんもパパッと言っちゃってくれよな!
「主車霞です。旧姓は石戸です」
何で旧姓言った?
別にいいけど。それくらいは許容範囲さ。
「久しぶりね、箒ちゃん。とっても大きくなったわぁ」
「は、はい! お久しぶりですお義母さん!」(い、言ってやった! 私は言ってやったぞぉ! 大胆な呼び方は恋する女の特権なのだ! 旋焚玖が気付く必要はまだ無し! ご両親へのアピールも大事な積み重ねの一つなのだ!)
箒の心の声の通り、旋焚玖は違いに気付かなかった。言葉は見えないし、箒は千冬ではないので、残念ながら当然である。しかし彼女の放った言葉のニュアンスの違いに気付いた者も在り。
(くぅぅぅ~…! 何と大胆な発言をするのですか箒さんは! 大胆な呼び方は恋する乙女の特権という訳ですか箒さんンンンン! 自然かつ未来を見据えた勇気ある言動…! こういうところは、わたくしも見習わねばなりませんわね。ですがわたくしはまだ本日が初対面ですし、ここは大人しく控えておきましょう)
(な、中々やるじゃない箒…! 大胆な呼び方は恋する女の特権だもんね。こういう積み重ねが後々効いてくる……流石によく分かってるわ…! でもあたしも旋焚玖のご両親とは家族ぐるみで仲良しなんだから! きっとあたしのターンも来る筈! 自分から出しゃばるのは我慢よ、あたし!)
(フッ……15の小娘にしてはよくやったと褒めてやりたいが。キサマらの居る場所は既に! 私が去年通過した場所だッッッ!!)
旋焚玖に恋する乙女たち(うち1人は24歳)は三者三様、箒の言動に心を打つのであった。
「……今日は保護者懇談と聞いていたのだが?」
あらやだ、シャルパパ不機嫌そう。
分かるぅ↑↑(超分かるの意)
「ウチの両親は俺は勿論、ある意味で一夏の保護者でもありますから。デュノア社とシャルのゴタゴタに巻き込まれた俺たちの保護者も、この場に呼ばれてもおかしくはないでしょう?」
「……ふむ」
「一理あるわね」
割といい感じの返しが出来たぜ(自画自賛)
強引ではあるが、まぁ筋は通ってるもんよ。
「主車くんのご両親がこの場に居るのは分かった。しかし、他の面子は何だ?」
鋭い眼光で箒たちを見やる親父さん。
その瞳が大いに語っている。「お前らは流石に関係ないだろ」と。
ああ、関係ないね。
だから何じゃい!
俺が呼んだんだよ!
アホの【選択肢】がウチの親も呼ぼう的なモン出してきた時点で、もう無茶苦茶になるのは目に見えてんだよ! あとはその流れに乗るか抗うか、だ。
ここで下手に抗ったら、余計トンデモな状況を巻き起こさせられるに決まってる。経験上、決まってんだよ…! ならば乗るしかねぇ、この意味不明なウェーブに…!
どういう経緯でこうなったのか。
それを今から思い出してやるぜ!
◇
「ウチの両親も呼ぼうと思う」
「なんで!?」
知るか!
俺の意味不明な提案に、オッタマゲーションなリアクションをしたのはシャル。そらそうよ、だって全くもって関係ないもん。全くもって意味不明だもん。
「……ふむ。もしかしたら妙策かもしれんな」
何をもってして妙策と捉えるのか。
毎度の事ながら千冬さんの思考回路が分からん。まぁ変にツっこまれるより100倍良いし、とりあえず納得してくれりゃあ俺も展開が作りやすい。アドリブは任せろー。
「これはな、お前の親父さんへのアピールになる」
「アピール?」
「デュノア社とシャルの一件を、俺らは小さく扱うつもりはないってな。大人を巻き込んでもシャルを守るつもりだっていう、ある種の覚悟を示す事になるのさ」
「な、なるほど…!」
千冬さんの『妙策』というワードから自然に『っぽい』言葉を紡げたぜ。サンキューチッフ。そんな風に呼んだらお尻ペンペンされるから言わんけど。
そして俺はコレだけに留まる気はない。
アホの【選択肢】のせいで投げられちまった賽。
この際だ、俺がゾロ目にしてやんよ。
賽だけに(激ウマギャグ)
「しかしアレだな。覚悟を示すってんなら、ウチの両親だけじゃ弱いな」
多少ビックリはするだろうが、多分それ以上のモンは得られんだろう…ってのが俺の予想だ。下手したら単なる出オチになるかもしれんし。シャルの親父さんを驚かせるのが目的じゃないし。
「ならどうする? 俺と千冬姉じゃ呼べる親居ないし……」
「一夏と千冬さんは家族みたいなもんやし。俺の親が2人の親でいいだろ」
「そ、そうだな! へへっ、だってよ千冬姉!」
「フッ……」(旋焚玖の何気ない一言は、いつも私達姉弟の心を温めてくれる。まさに使い捨てられぬホッカイロだな)
覚悟を示すのに『親』を限定する必要は無し。
俺たちには他に誰が居る?
発言力のある者ならなお良し。
そんなモンお前アイツらしかいねぇだろ!
「俺たちのダチに、明らかに一般生とは一線を画してる奴らがいる」
「あ、分かったぜ! セシリア達の事だな!?」
いぐざくとりー。
専用機を持つセシリア、鈴、ヴィシュヌ。
この3人が同席してくれたら、母さんと父さんに面食らったシャルパパへ、さらにプレッシャーも与えられるだろう。事を優位に進めるには下準備をしっかりってな。
「俺はセシリアと鈴とヴィシュヌにも助力を求めた方がいいと思う。シャルさえ良ければ、だが」
「僕?」
そらそうよ。
「俺ら以外はまだシャルを男だと思ってるからな。力を借りるって事は、さっき千冬さんに話したみたいに、シャルの事情を明かさないとダメって事でもある」
まぁアレだ。
スパイ云々もそうだし、必然的に経緯を説明するなら、自分は愛人の娘だってのも明かす事になるだろう。それをシャルが言えるかどうかって訳だな。
「……事情は話さない、でも助けてほしい。なんて筋が通らないよね」
「まぁそうだな」
「っていうか思ったんだけどさ。どうせさ、シャルが男子から女子になった時点で、皆ふつうに不審がるんじゃないか? 何も説明もなかったら余計に」
いいアシストだ一夏。
デュノア社から解放されたとして、その後『シャルロット・デュノア』として学園に平穏よろしく通い続けるのであれば、皆への説明は避けては通れんだろうよ。
「要は時間の問題だ。今夜明かしてしまうか、後で明かすか。お前の未来だ、お前が決めろデュノア」
いいアシストだ千冬さん。
2人して俺が言いたかった事を言ってくれたぜ。
「僕、話します。ちゃんと全部、話します!」
やったぜ。
「いいんだな?」
「うん。僕は女手一つで育ててくれたお母さんを誇りに思ってる。後ろめたい気持ちなんてないよ!」
「よし。ならさっそくセシリア達を此処に呼ぼう」
「……箒は呼ばんのか? お前も分かっている筈だ。デュノア社を相手に『篠ノ之』の名は脅威になる。ある意味、私以上にな」
「あー、まぁそうなんですけど」
正直、箒の存在はずっと頭の中にあった。
俺も千冬さんも『使えるモンは何でも使う』が信条の流派だし。しかしソレを易々と箒に強制できるほど俺の肝は太くない。
姉の威厳を借りる的な行為は、箒のプライドが許さんだろうってのが一つ。何より、アイツは束さんの事嫌ってるっぽいし。
「フッ……アイツはお前が思っているほど弱くない。忘れたか? 無人機が襲来した時のアイツの言動を」(※ 第85話参照)
「そうだぜ旋焚玖! むしろ、いつも一緒に居るメンバーの中で箒だけ呼ばなかったら、仲間外れにされたって箒は悲しむんじゃないか?」
それはいけない。
美人すぎる箒を無駄に悲しませる訳にはいかんでしょ!
その後、旋焚玖たちによって部屋に呼ばれた少女達。
シャルロットは男装をヤメており、一目で女である事がバレた訳だが、旋焚玖の予想とは違い、眉を顰めたのはヴィシュヌだけであった。何故か箒とセシリアと鈴はホットしていた。
((( 旋焚玖(さん)はホモじゃなかった…! )))
シャルロットは自身の事、スパイになるまでの経緯、これから自分たちが何をしようとしているか、それを踏まえた上で箒たちにも力を貸してほしい事、全てを一人で話した。旋焚玖と一夏と千冬は、あえて何も言わなかったのである。
「話は分かりました。私はデュノアさんに手を貸します」
シャルの話を聞き終えて、まず口を開いたのはヴィシュヌだった。
「い、いいの?」
「はい。私も幼い頃に父を亡くし、これまで母に育てられましたから。デュノアさんの気持ちは理解しているつもりです」
なるほど。
ヴィシュヌの心を響かせたのは、自身の境遇と重ねたからか。何にせよ、違うクラスにもかかわらず、それでも頷いてくれたヴィシュヌには感謝だぜ!
あとは鈴とセシリアと箒だな。
「この際だからハッキリ言っちゃうけど。あたしはね、知り合ってまだ一週間やそこらの奴を、ましてや事情はあってもスパイだった奴を助ける気なんて、さらさら無いわよ? あたしンとこはまだ両親も健在だしね」
「(´・ω・`)」
そらそうよ。
この件に関しては、俺たちの方が異端だろう。
元々俺だって、別に正義感に燃えてシャルを助けようとしてた訳じゃないし。世界にホモニュースを流させないためっていう善意もクソもない理由だったもんよ。
セシリアも箒も鈴の言葉に頷いている…って事は、鈴と同じ考えなんだろう。
しかし困ったな。この3人を説得するには、中々骨が折れそうだぞ。現に上手い感じの言葉が出てこないもんよ。
「でも、ね」
む?
「旋焚玖と一夏、アンタ達はデュノアを助けるつもりなんでしょ? 千冬さんまで呼んでるし」
「おう!」
「ああ」
「……そ。なら、ソレがあたしが手を貸す理由になるわね」
むむ?
どゆこと?
「無条件で手を貸す程、私も鈴も、おそらくセシリアもデュノアとの間に絆は芽生えていない。だが、旋焚玖たちがこの件に一枚噛んでいるなら話は別だ」
「デュノアさんは旋焚玖さん達が助けたいと思える人物なのでしょう? なら、わたくし達も手を貸さないわけにはいきませんわ」
どゆこと?(読解力不足)
とりあえずアレか?
『デュノアなんか知らんわい! でも助けたるわい!』的な感じの事を言ってるっぽいよな。
つまり鈴も箒もセシリアもツンデレだったんだよ可愛い!(結論)
「やったぜ! みんなが手を貸してくれるなら鬼に金棒だぜ!」
「あ、ありがとう…! ホントに、ぼく、何て言ったら…」
何か一夏とシャルが喜んでるし、俺の推理は正しかったらしいな! なら俺も嬉しそうな顔をしておくぜ!
「……決まりだな」(フッ……旋焚玖め、初めからこうなると分かっていたって顔だな。既に結んだ信頼に言葉は要らず、か。可愛い)
これで俺たちのタクティクスパーティーは更に豪華になったんだぜ。俺と一夏とシャル。そこにまずは千冬さん。そして箒、鈴、セシリア、ヴィシュヌの4人だ。
オイオイ勝てるわ俺たち。
一人も汎用キャラがいねぇんだぜ? 全員が固有キャラとか、現段階で考えられる最強メンバーやんけ! 矢でも鉄砲でもデュノア社でも持って来いやァ!
◇
思い出してやったぜ!
そして今に戻るぜ!
「他国とはいえ、このような大事なお話ですもの。同じ専用機持ちであり、代表候補生のわたくし達が同席してもおかしくはないでしょう?」
イギリス人のセシリアが言うと謎の説得力がダンチよな。シャルの親父さんも険しい顔ではあるが、納得もしてそうな感じだし。
「私はセシリア達のように専用機は持ってないし、候補生でもない身分だが……篠ノ之束の妹だ」(ニヤリ……と口角を上げてやる。旋焚玖がハッタる時によくする笑みだ。いつまでも弱い私と思うな、思う事なかれだ!)
「「!?」」
ビクッとなったなデュノア夫妻!
いい自己紹介の仕方してんねぇ! 千冬さんの言ってた通り道理でねぇ!
「私も色々と姉に報告せねばならんからな。お二方はそのつもりでいてほしい」
強い(確信)
この状況下においてはマジである意味、千冬さんよりも強い存在と化してんじゃないか?
「……うむ」
「百理あるわね」
効いてる感マシマシじゃないか!
親父さんは「くぅぅ~」みたいな顔してるし、奥さんは何か意味不明だし! これは完全に流れがこっちに傾きまくってるぜ。
「と、とにかくだ。篠ノ之博士の親族が同席するのは理解できた。他国の代表候補生に関しても百歩譲って頷こう」
頷く時点で俺たちの術中にハマってると知りな。平静だったら確実に頷かんよ、確実に。だってどう考えてもセシリアたちカンケーねーもん。
それはそれとして、シャルの親父さんは周りをぐるっと見渡した。
「私達を囲んで座っている女子学生たちは何だ?」
否、見渡したのではない。
睨みつけたって表現の方が正しいな。
世界でも有名なデュノア社を、確固たる地位を築き上げてきた男の威圧感アリアリな睨みである。そんなモン喰らったら、フツーのメンタルしてる女子高生ならビビッて目を背けるか、俯いてしまうかの二択だろう。
で、仮にフツーじゃなかったら?
先陣は俺が斬ってやる。
「シャルの被害者ですね」
「なに?」
「もちろん、正確に言えば、シャルに男装をさせたアナタ方になるんでしょうけど」
俺の言葉に続く形で少女達が立ち上がった。
ケツは持ってやる。千冬さんが持ってやる!
存分に思いの丈ブチまけな!
「よくもだましたアアアア!! だましてくれたなアアアアア!!」
「な、何だね急に!? 君は誰だ!」
「出席番号一番! 相川清香! 恋する乙女の純情な感情を返セ!」
「「「「 返セ! 」」」」
この交渉、絶対に負けられないんでな。少数精鋭なんて生温い事すると思うなよ、思う事なかれ!
一組全員で大交渉だオラァッ!!
残念だったな、御両人…!
ウチのクラスに汎用キャラはいねェ!
オラオラ、ガンガン言っちまえガンガン!
本音:シャルルくんが女とかうせやろ?
清香:こんなイケメンで女て、ぼったくりやろこれ!
静寐:ハァ~~……あほくさ。
癒子:おっぱい入ってるやん!どうしてくれんのこれ
神楽:どうしてくれんねんお前?
ナギ:イケメン貴公子や思たから恋したの!
理子:分かる?この罪の重さ
デュノア夫妻:(´・ω・`)