選択肢に抗えない   作:さいしん

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親父はツライよ、というお話。



第117話 懇談-中編-

 

 

 

「で、俺と旋焚玖は恐る恐る聞いたんだよ。『どうしてそんな赤い洗面器なんか頭に乗せて歩いているんですか?』って。すると男はこう言ったんだ。『それは君の――」

 

「そこらへんで止めとけ一夏」

 

 ノンストップマシンガンで俺との思い出話を語る一夏だったが、10分くらいして千冬さんが止めた。それでも遅いくらいである。

 

「え? まだ全然進んでないぞ?」

 

 当たり前だよなぁ?

 

 誰がお前俺と出会ってからの日々を1日単位で綴れツったんだよ。10分間ひたすら話し続けて、俺の事をメインに話し続けて、まだ篠ノ之道場にすら通ってないじゃないか。

 

「時と場合を考えろバカ者。お前の話を最後まで聞いてたら年が明ける」

 

 日が暮れる~とかじゃなく、年が明けちまうレベルなのか。長編大作物語の気配ビンビンだなオイ。

 

「HAHAHA! 何言ってんだよ千冬姉、今まだ5月だぜ? そんなに掛かる訳ねぇよHAHAHAイテッ!?」

 

 千冬さんにドツかれる一夏くん。

 まぁでも今のは一夏が悪い。

 

 しかし何だな。

 俺は別にいいとして、他の面子からもアレだけ全くこの場に関係ない話をされて不平不満が出なかったってのも驚きだな。

 それだけ一夏の語り方が上手かったって事か。お前一夏中々いい語り部してるじゃねぇか。俺もオカマの鎌足と闘い合った事を思い出したぜ。語り部的な意味で。 

 

「おい」

 

 っとと、流石にシャルの親父さんは不機嫌そうだ。当たり前すぎて申し開きもないわ。俺から親父さんに話すように振っておいてからの、一夏に俺の事を話させるとか意味不明にも程があるわ。

 

 むしろ今までダンマリで聞いていてくれた事に感謝である。ここは変に誤魔化さず、頭を下げて侘びるべきだろ。

 

 しかしさっきまでこっちにあった流れが、また向こうに傾いちまう事になるのか。アホの【選択肢】のせいでな。アホの【選択肢】のせいでな。だが背に腹は代えられん、さっさと謝って溜飲を下げていただこう。

 

「すいま――」

 

「それで男は君たちに何と言ったのかね…!?」

 

 は?

 

「そうだよおりむ~! 続きが気になる木さんだよぉ~!」

 

「そうだそうだ! そこで止めるなんて殺生すぎるよ織斑くん!」

 

「せめてオチだけでも教えてよ!」

 

 おお?

 

 これは……むっ、千冬さんと目が合った。あ、なんかウインクしてきた。歳不相応で可愛い。絶対に本人には言わんけど。

 

 しかしこれで確定したな。

 千冬さんは、一夏の言葉をわざとアソコで止めたんだ。この状況を作るために…! 

 

 いやはや、流石は千冬さん。

 駆け引きで俺の上をいくかよ。

 

 「しょうがねぇなぁ」とか言って普通に続きを話そうとした一夏を、更に千冬さんは口を押さえてモゴモゴ状態にさせている。好プレーすぎるぜ千冬さん。

 

 なら、ここからは俺に任せろー。

 

「続きならその場に居た俺も当然知っている……が」

 

「「「 が? 」」」

 

「こんなおいしいモンをタダで教える訳ないだろ」

 

 当たり前だよなぁ?

 もう頭を下げる必要もなくなった。隙を見せちまったな親父さん。

 

「は?」(威圧)

 

「ふざけんな!」(迫真)

 

「なんてことを…」(憤怒)

 

 いやお前らが食いついてどうする。

 

「何が目的だ? モノか? 金か?」

 

 そうそう、親父さんに食いついてほしかったの。

 

「簡単な事ですよ。先ほどアナタが話そうとしていた、デュノア社についてやシャルについての話。それを嘘偽りなく話すのが条件です」

 

「……なるほどな。それが狙いでわざわざ織斑君に話させたのか」

 

「フッ……」

 

 そんな訳ないじゃん。

 間違いなく怪我の功名的なヤツだよ。そこに千冬さんが機転を利かせてくれたおかげさ。

 

「あなた」

 

「ああ、分かっている。初めから正直に話すつもりだったし何も問題はない。まずは……そうだな、核心から言ってしまえば、私とロゼンタがシャルロットをIS学園に送り込んだのは、保護してもらうためだった」

 

「な、なにを…!」

 

「まぁ待て、最後まで聞こう」

 

 親父さんの言葉に声を上げようとしたシャルを宥める。まぁシャルがプリプリするのも無理はない。シャル曰く、2年前にデュノア家に引き取られた自分の居場所はなかったって言ってたしな。辛くあたられていたのは想像に難くない。

 

 しかしここまで長かった。

 いやホントに。

 やっと本題に入ったんだ。

 

 昨日シャルのスッポンポンを見てからの、今日懇談っていう怒涛のスピーディー展開な筈なのに、体感だとスゲェ時間掛かってる気がするんだよ。精神と時の部屋かな?

 

 さぁ、存分に話してくれ!

 続きを聞いてやるぞ!

 

 

【お前浮気してたらしいなコラ】

【奥さんに浮気がバレた時の話を聞かせてよ!】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 

「奥さんに浮気がバレた時の話を聞かせてよ!」

 

「……それはこの場で言う必要はないな。故に却下する」

 

 そらそうよ。

 話が進みかけた直後に脱線させたらイカンでしょ。俺はこんなにもマトモな感性してるのに、そんな俺が脱線させた張本人だと思われるのが癪すぎるわ。

 

 いやホント親父さんにも悪い気持ちでいっぱい……いやちょっと待てよ? 何で俺だけが悪いんダァ…みたいな感じになってんの?

 

 

旋焚玖、真理に到達してしまう。

 

 

 そもそもこの人が浮気したからこんな面倒な事になってんちゃうんか! シャルにホモだと思われたんも、シャルにホモを流されそうになったんも! なんもかんもお前が原因やんけ! こんな美人な奥さん貰っといて何浮気しとんねん!

 

 ふざけんな!(迫真)

 顔も良くて地位もある奴が二股して良い訳ないだろ!(建前)

 

 許されるのは、顔も良くなくないのに地位もないのにIS起動させちまったのに適正【E】で当然の如く専用機も貰えないのに周りからは『色んな意味でやべェ奴(確信)』とか勘違われている俺だけなんだよ!(本音)

 

 

【追撃する】

【追撃しない】

 

 

 俺は【上】を選ぶぞオイ!

 俺を敵に回した事を後悔するがいい!

 

「奥さんに打ち明かしたんですか? それとも何かの拍子でバレたんですか?」

 

「オイ、いい加減に――」

 

「打ち明かされたわ」

 

 む……奥さんが割り込んできたでござる。

 まぁこの件に関しては、奥さんも十分に関わっているっていうか、奥さん側からしたら完全に被害者的なノリだしな。

 

 しかし自分から打ち明かしたのか。

 バレてからアタフタしたり、必死に誤魔化したりするより、よっぽど男らしいですねぇ! 俺の中で親父さんの好感度が上がったぜ!

 

「どんな感じで話したの?」

 

「お前まで何を言い出すのだシャルロット」

 

 おいおいおい、本妻と愛人の娘による禁断のタッグが解禁されちまったぞオイ! よりにもよって今かよ的すぎる状況で共演されちまったぞオイ!

 

 同じ男として親父さんには同情せざるを得ない。……とか一瞬思ったけど、別にそうでもないわ。一度で二度オイシイ思いしたんだから(浮気的な意味で)、これくらいは当たり前だよなぁ?

 

 しかし唐突なシャルの参戦により、俺も熱くなっていた事に気付かされたぜ。熱くなっちゃって本分を忘れたらイカンよ。こんな話よりシャルについての話を進めにゃイカンでしょ。

 

 

【ねぇねぇ、今どんな気持ち? どんな気持ちなの?】

【上の内容を真面目な感じで言う。言い方は任せるぅ】

 

 

 煽る方向で話進めんなよぉ!

 お前俺をどういう立ち位置にさせたいんだコラァッ!!

 

 煽り文句でしかない【上】なんか選べるか! ただの性格悪いガキやんけ! 俺は【下】を選ぶぞオイ! 

 

 台詞は思い付いてんだよ既にな…!

 

「どんな気分がするものなんだ? 俺には彼女がいないから分からないんだ」

 

 サンキューイッチ。

 悩む事なく言えたのはお前のおかげだ(前話的な意味で)

 

 自分で言ってて少し悲しい気はするが、明らかに煽るよりはマシなんだ。オラ、どんな気分なんだ言えよオラ。

 

「……前門の虎後門の狼に挟まれている、といったところだな」

 

 例えが絶妙すぎるぅ。

 まだ余裕あるっぽいのかな?

 

「で、どんな感じで話したの、父さん」

 

 Oh……ここにきてシャルが一皮どころか二皮くらいむけた気がするぜ。だって何か妙な威圧感があるもん。

 

「普通に言っただけだ」

 

「普通ってどんな?」

 

「む……」

 

 強い(確信)

 断固として引く気はないって気持ちが、シャルからガンガンに伝わってくるぜ。ここはもう、そうだな、シャルに任せた方が良いだろう、うん。

 

 まぁなんだ、この2年間、親父さんとは全然話らしい話をしてなかったんだろう? なら良かったじゃないか。これを機に存分に話すがいいさ。親父さんの顔は引き攣ってるけどな。

 

(おい……おい、ロゼンタ)

(なによ)

(娘との念願の対話な筈なのに、思っていたのと全然違うぞ)

(親娘らしい日常的な会話がしたいなら、これくらいの障害乗り越えなさいよ)

(いやいや、しかしだな。私達3人だけならまだしも、他の連中も居るんだぞ。想定してた50倍くらい居るんだぞ? しかもほとんどが15,6の多感な時期を迎える女子高生たちだぞ?……キツいって)

(そもそもの発端はアナタが浮気したからじゃないの?)

(ぐぬぬ)

 

「まぁ……なんだ。自分には愛人が居て、どうやら身籠ったらしい……と言ったな」

 

 すごく……生々しいです。

 何かドロドロした昼ドラ観てる気分だ。

 

 しかし、周りを囲む女子連中の目は死んでいない。むしろ続きが気になって仕方ないってな感じだ。……やっぱり昼ドラじゃないか!

 

「そうなんですか、奥様?」

 

「此処はアナタを縛っていたデュノア家でもデュノア社でも無いわ。奥様なんて畏まった呼び方はしなくていいわ」

 

「えっ……えっと、それじゃあ何てお呼びすれば……」

 

 

【変態糞おばさん】

【ロゼンタ・デュノア】

【シュトルテハイム・ラインバッハ3世】

【シャルル・デュノア】

【うんこたれぞう】

 

 

 俺には聞いてないよぉ!

 チャチャ入れさせんなよぉ!

 

「シュトルテハイム・ラインバ「旋焚玖は黙ってて!」……ぁぃ」

 

「(´・ω・`)」

 

 お前がしょんぼりするのか(困惑)

 しかしホントに強くなったな、シャルよ。連れションに誘っただけでアタフタしていたあの頃のお前を知ってるだけに、その堂々っぷりが何だか俺を嬉しい気持ちにさせるぜ。

 

「そうねぇ……お義母さん、と呼ぶのは流石にシャルロットちゃんも抵抗あるでしょうし。周りの目を欺く為とはいえ、私もアナタには随分キツくあたったものね」

 

「周りの目を、欺く……ですか…?」

 

 これは…!

 話が進む…! 進む予感しかしねぇ!

 

 そうだよ、俺はこういう展開を待ってたんだよ! まさにこういう話を聞くが為に、わざわざこんな舞台を整えたんだろがい!

 

 親父さんが浮気告白した時の言葉の真偽とかどうでもかいいわ! 奥さんへの呼び方とかもどうでもいいわ! 

 

 いいぜご両人、そのまま三段飛ばしくらいなノリでサクサクいっちゃってくれYO!!

 

 

【親父さんが浮気告白した時の言葉の真偽を聞かせてくださいYO!!】

【奥さんへの呼び方は『愛人に負けた本妻(笑)』でいきましょうYO!!】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 






(旋`◯´*)「話が全く進まないんだ!」

(旋`◯´*)「皆には僕のせいだって思われてるんだ!」

(旋`◯´*)「今度という今度はもう怒ったんだ!」

選択肢:もうジャマしないヨ

(旋`◯´*)「そんなの嘘に決まってるんだ!」

選択肢:女神はウソつけないんだヨ

(*^◯^*)「ならもう安心なんだ!」


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